

年収500万円のあなた、実際に税金の対象になる「所得」は約356万円しかないと知っていますか?
「給与所得」という言葉は、年末調整の書類や確定申告でよく目にしますが、「年収と同じでしょ?」と思っている方は少なくありません。実はこれ、大きな誤解です。
3つの用語の違いをまず整理しましょう。
まず「給与収入(年収)」とは、会社から受け取る給料・賞与・各種手当をすべて合計した額面の金額のことです。源泉徴収や社会保険料が引かれる前の総額で、いわゆる「額面」にあたります。
次に「給与所得」とは、この給与収入から「給与所得控除」を差し引いた後の金額です。税金の計算はこの給与所得を出発点として行われます。給与収入がそのまま課税されるわけではありません。
そして「手取り」は、給与収入から所得税・住民税・社会保険料をすべて天引きした後に実際に受け取る金額です。給与所得とも異なります。
つまり整理すると、給与収入(年収) > 給与所得 > 手取りという大小関係になります。
国税庁の定義によると、給与所得とは「使用人や役員等が支払いを受ける俸給・給料・賃金・歳費・賞与のほか、これらの性質を有する給与に係る所得」とされています。通常の給与だけでなく、会社から無償や低価額で商品を受け取った「現物給与」も、一部は給与所得に含まれる点も覚えておく必要があります。
給与収入との違いが重要です。確定申告や年末調整の書類で「給与収入」と「給与所得」の欄が分かれているのも、このためです。
参考:給与所得の定義と範囲について(国税庁)
国税庁「No.1400 給与所得」
給与所得の計算式はシンプルです。
> 給与所得 = 給与収入(年収) − 給与所得控除額
ポイントとなるのは「給与所得控除額」がいくらになるかです。これは自分で決めるものではなく、年収に応じて法律で定められた金額が自動的に適用されます。
令和7年(2025年)分以降の給与所得控除額は、以下のとおりです。
| 給与収入(年収) | 給与所得控除額 |
|---|---|
| 190万円以下 | 65万円 |
| 190万円超〜360万円以下 | 収入金額×30%+8万円 |
| 360万円超〜660万円以下 | 収入金額×20%+44万円 |
| 660万円超〜850万円以下 | 収入金額×10%+110万円 |
| 850万円超 | 195万円(上限) |
参考:給与所得控除の最新テーブル(国税庁)
国税庁「No.1410 給与所得控除」
具体例で確認してみましょう。
【例1】年収350万円の場合
- 給与所得控除額:350万円×30%+8万円=113万円
- 給与所得:350万円−113万円=237万円
【例2】年収500万円の場合
- 給与所得控除額:500万円×20%+44万円=144万円
- 給与所得:500万円−144万円=356万円
年収500万円でも、税金の計算に使われる「給与所得」は356万円ということです。つまり約144万円分は最初から非課税になっています。これが給与所得控除の役割です。
この控除は、個人事業主が事業収入から「必要経費」を差し引けるのと同じ意味合いで、サラリーマンにも"概算経費"として認められたものです。仕事に必要なスーツ代や通勤費の概算を、国が一括で控除してくれているイメージです。
給与所得が計算の出発点です。ここから各種所得控除(基礎控除・配偶者控除・生命保険料控除など)を引いた後の金額が「課税所得」となり、そこに税率をかけて所得税が決まります。
2025年(令和7年)の税制改正は、給与所得に関して非常に大きな変更をもたらしました。金融に興味のある方なら、ここは特に注目すべきポイントです。
最大の変更点は給与所得控除の最低保障額の引き上げです。
これまで(令和2年〜令和6年)は、年収が162.5万円以下の場合、給与所得控除額は一律55万円でした。令和7年分(2025年分)からは、この最低保障額が65万円に引き上げられ、適用される年収の上限も190万円まで広がっています。
この10万円の引き上げは、パートや低所得の給与所得者にとってダイレクトに税負担の軽減につながります。
また、同時に基礎控除も引き上げられました。合計所得金額が132万円以下の方は、基礎控除が最大95万円(従来48万円)まで拡大されています。
「年収の壁」も変わりました。
長年「103万円の壁」として知られていた所得税の非課税ラインは、給与所得控除65万円+基礎控除95万円の合計で、事実上160万円まで引き上げられました(2025年分の所得税から適用)。これによって、扶養範囲内での働き方の選択肢が広がっています。
意外ですね。ただし注意すべきは、「年収の壁」は税金面だけでなく、社会保険(106万円・130万円の壁)とは別物という点です。社会保険の壁は今回の改正対象外なので、混同しないようにしましょう。
参考:2025年度税制改正の概要(国税庁)
国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」
「サラリーマンは経費が使えない」と思っている方がほとんどですが、実はそうではありません。
特定支出控除という制度があります。
特定支出控除とは、給与所得者が仕事上で一定の支出をした場合に、その金額が給与所得控除額の2分の1を超えた部分を、さらに追加で控除できる制度です。確定申告によって申請します。
対象となる「特定支出」は以下の7種類です。
- 💼 通勤費(定期代など)
- ✈️ 職務上の旅費
- 🏠 転居費
- 📚 研修費
- 🎓 資格取得費(試験料・通学費など)
- 🚆 単身赴任者の帰宅旅費
- 📖 勤務必要経費(図書費・衣服費・交際費等、上限65万円)
たとえば、年収500万円の方の給与所得控除額は144万円なので、2分の1は72万円です。特定支出の合計が72万円を超えた場合、超えた分だけ追加控除できます。
具体的には、業務に必要な資格取得に30万円、専門書の購入に20万円、スーツ代に10万円など、合計60万円ほどの支出があっても、基準額(72万円)に届かなければ残念ながら適用できません。
この控除が活用されにくい理由は基準額の高さにあります。ただし、MBA取得や高額な資格の受験費用がある場合など、条件次第では十分に節税効果があります。
特定支出の適用には、勤務先の証明書と確定申告が必要です。申告する手間はかかりますが、条件に該当するなら見逃すのは明らかに損です。自分の支出をあらためて振り返ってみる価値はあります。
参考:特定支出控除の詳細(国税庁)
国税庁「No.1415 給与所得者の特定支出控除」
副業が広がりを見せる中で、給与所得者が最も誤解しやすいのが「副業の20万円ルール」と住民税の関係です。
20万円ルールとは何か?
会社員(給与所得者)の場合、本業の給与以外の所得(副業収入などの合計)が年間20万円以下であれば、所得税の確定申告は不要です。これが「20万円ルール」です。
ただし、この20万円は「収入」ではなく「所得(収入−必要経費)」の金額である点に注意が必要です。たとえば副業で月3万円(年36万円)の売上があっても、経費が20万円かかっていれば所得は16万円となり、確定申告は不要です。
ここが落とし穴です。
所得税の確定申告が不要な場合でも、住民税の申告は別途必要です。住民税には「20万円以下は申告不要」というルールが存在しないため、副業で1円でも利益があれば、市区町村への住民税申告が必要になります。
申告を怠ると、後日税務署から問い合わせが来たり、延滞税や加算税が発生することもあります。これは痛いですね。
さらにもう一つ注意点があります。給与所得者が副業所得を確定申告する際、本業の給与所得と副業の所得は合算して計算されます。合算した合計所得が増えることで、税率が上がる可能性もあります。年収500万円の方が副業で30万円稼いだ場合、所得税が約3万円・住民税が約3万円、合計6万円前後の追加税負担が発生するイメージです。
副業の種類によって所得の区分が変わるため、何の所得として申告するかの判断も重要です。単発のアルバイトは「給与所得」、ライター活動や物販などは「雑所得」または「事業所得」に分類され、それぞれ計算方法が異なります。
副業の税金申告に不安がある場合は、マネーフォワードクラウド確定申告などの申告ソフトを使うと、給与所得との合算計算もスムーズに対応できます。手続きの手間を大幅に減らせます。
参考:副業と給与所得の確定申告について(freee)
freee「副業所得20万円以下でも確定申告と住民税の申告は必要?」