

国内の銀行口座で米国債を買っても、国外財産調書への記載が必要になります。
国外財産調書を正しく書くためには、まず「誰が」「何を」書かなければならないかを把握することが先決です。対象者の条件を間違えると、書く必要がないのに提出してしまったり、逆に書くべきなのに見落としてしまったりする事態が起こります。
提出義務があるのは、毎年12月31日時点で国外財産の合計額が5,000万円を超える「居住者」(非永住者を除く)です。ここでいう居住者とは、国内に住所を持ち、または1年以上居所を持つ個人のことを指します。日本国籍のない外国籍の方であっても、日本に5年超住んでいれば対象になるため、国籍だけで判断しないよう注意が必要です。
一方、非永住者(日本国籍がなく、過去10年以内に国内住所・居所があった期間が5年以下の方)は対象外です。つまり、4年前にフランスから来日した方は、たとえ海外に数億円の資産があったとしても国外財産調書の提出義務はありません。
重要なのは「財産がどこにあるか」の判定基準です。財産の種類ごとに所在の判定方法が異なります。以下に主要な財産の所在判定をまとめます。
| 財産の種類 | 所在の判定基準 |
|---|---|
| 不動産・動産 | 不動産・動産の所在地 |
| 預貯金 | 金融機関の営業所・事業所の所在地 |
| 有価証券(金融機関に預けている場合) | 口座を開設している金融機関の営業所等の所在地 |
| 貸付金 | 債務者の住所・本店所在地 |
| 暗号資産(仮想通貨) | 保有者の住所(取引所の所在地ではない) |
| 保険金 | 保険会社の本店または主たる事務所の所在地 |
この判定基準の中で、特に混乱しやすいのが「暗号資産」と「有価証券」です。暗号資産は保有者の住所で判定するため、海外の暗号資産取引所に預けていても「国外財産」には該当しません。国外財産調書ではなく、財産債務調書の対象になります。
また、「国内の証券会社で管理されている米国債は国外財産に含まれない」と思い込んでいる方もいます。しかし金融機関の口座で管理されている有価証券は、口座のある金融機関の所在地で判定します。国内証券会社で管理している場合は国外財産には含まれませんが、国外の証券会社の口座で管理している場合は国外財産として記載が必要です。対象範囲が意外と広いということです。
さらに、借入金で海外不動産を購入した場合も注意が必要です。1億円の海外不動産を取得する際、7,000万円のローンを組んでいたとしても、国外財産調書に記載する価額は1億円(ローン控除不可)です。借入金を差し引いた3,000万円にはなりません。ローン控除が原則です。
国外財産の合計が5,000万円を超えているかどうかは、12月31日時点の「時価」または「見積価額」で判断します。この「5,000万円超」という金額は、すべての国外財産を合計した額で判定するため、一つの財産が5,000万円以下でも、複数の財産を合計して5,000万円を超えれば提出義務が生じます。
参考情報として、国税庁の公式サイトも必ず確認してください。
提出義務があることを確認したら、いよいよ書き方の本題に入ります。国外財産調書への記載は「種類別」「用途別」「所在別」の3つの軸で整理するのが基本です。
まず、記載すべき財産を「事業用」と「一般用」に分類します。事業用とは、不動産所得・事業所得・山林所得を生ずる業務に供するものを指します。それ以外はすべて一般用です。兼用の場合は「一般用、事業用」と記載し、価額は按分せずにそのまま記入して構いません。
各財産の書き方で注意すべき点を以下にまとめます。
🏠 土地・建物の書き方
「数量」欄には、土地は地所数と面積、建物は戸数と床面積を記入します。土地付きの建物(コンドミニアムなど)で、土地と建物を分けて価額を算出できない場合は、建物として一括記入し、「備考」欄に「価額には土地を含む」などと書けばOKです。
🏦 預貯金の書き方
「種類」欄に預貯金の種類(当座・普通・定期など)を記入します。「所在」欄には、その預貯金が預け入れられている金融機関の所在地(国名及び住所)と名称・支店名を書きます。
📈 有価証券の書き方
株式・公社債・投資信託・特定受益証券発行信託・貸付信託などを「種類」と「銘柄」の別に区分して記入します。「所在」欄は有価証券を管理している金融機関の所在地(国名及び住所)と名称・支店名を記入します。なお、国内の金融機関の営業所等で管理されている有価証券は、記入不要です。
💰 価額の書き方(外貨→円換算)
価額欄は必ず日本円で記入します。外貨建ての財産を円換算する場合、取引金融機関が公表する「12月31日のTTB(対顧客直物電信買相場)」を使います。TTBとは、金融機関が顧客から外貨を買い取るときのレートです。12月31日が休業日の場合は、直前の最も近い営業日のTTBを使います。TTBが原則です。
💎 書画骨董・貴金属類の書き方
書画骨董は「書画」「骨董」「美術工芸品」の別に区分し、数量欄に点数を記入します。貴金属は「金」「白金」「ダイヤモンド」などの種類別に分類し、数量欄に点数または重量を記入します。
不動産の価額評価が難しい場合は、「見積価額」を使うことが認められています。その場合、固定資産税に相当する課税標準額、取得価額に価格変動率を乗じた価額、翌年1月1日から提出期限までに譲渡した場合の価額などが参考になります。また、相続税の評価で使われる「財産評価基本通達」の方法で評価しても差し支えありません。これは使えそうです。
なお、夫婦共有名義の国外財産については、共有持分の割合で按分した価額をそれぞれの調書に記入します。持分が明らかでない場合は、各共有者の持分が等しいと推定して算定します。
参考となる記載例は国税庁の公式PDFで確認できます。
国外財産調書を作成したら、必ず「国外財産調書合計表」も作成し添付して提出します。合計表なしで調書だけを出しても、書類不備として扱われる可能性があります。合計表は必須です。
国外財産調書合計表に記入する主な項目は以下のとおりです。
- 提出先税務署名:所得税の納税地を所轄する税務署名
- 提出年月日
- 住所・氏名・フリガナ・個人番号(マイナンバー)
- 性別・職業・電話番号・生年月日
- 財産の区分①〜㉔:国外財産調書に記載した財産の価額を区分ごとに合計して記入
- 合計額㉕:国外財産調書の「合計額」欄の金額と一致させる
有価証券については、「特定有価証券」とそれ以外に分けて記入します。特定有価証券以外はさらに「上場株式」「非上場株式」「株式以外の有価証券」に分類します。少し細かいですね。
2枚以上の調書を作成・提出する場合でも、「合計額」欄は必ず1枚目の調書にのみ記入してください。2枚目以降には記入しません。
財産債務調書を提出する方で、国外財産の合計が5,000万円を超える場合は、財産債務調書と国外財産調書の両方を提出しなければなりません。ただし財産債務調書側には国外財産の合計額のみを記入し、詳細は省略して構いません。両方出すのが条件です。
また、先に提出した合計表の内容に誤りがあったことに後から気づいた場合は、再提出によって訂正できます。その際は、当初提出した調書に記載されているすべての財産を含めて、全件書き直して再提出します。
職業欄は個人事業者の場合「〇〇小売業」「△△卸売業」のように具体的に記入します。単に「自営業」とだけ書かないように注意しましょう。
国外財産調書の提出期限は、その年の翌年6月30日です。令和4年以前は翌年3月15日でしたが、令和5年分以後から6月30日に延長されました。確定申告のタイミングとは別物なので、確定申告後も余裕があります。
令和7年12月31日時点分の提出期限は令和8年6月30日(火)となっています。今年分の締め切りも必ず確認してください。
提出方法は以下の3つから選べます。
- 📮 郵送:「国外財産調書」と「国外財産調書合計表」を居住地所轄の税務署に郵送
- 🏛️ 持参:最寄りの税務署の窓口に直接持参
- 💻 e-Tax(電子申告):パソコンにe-Taxソフトをダウンロードして作成・送信
特にe-Tax利用を国税庁は推奨しています。マイナンバーカードを使ってe-Taxソフトで利用者ファイルを作成し、「国外財産調書」と「国外財産調書合計表」の画面イメージに従って入力します。電子署名を付与したうえで、所轄税務署宛に送信します。
e-Taxのメリットは、送付漏れや書類不備を防ぎやすい点です。窓口が混雑する時期でも自宅から手続きできるため、時間的なロスも最小化できます。
提出先は、所得税の納税義務がある方は「所得税の納税地を所轄する税務署」です。それ以外の方は「住所地または居所地を所轄する税務署」になります。住所以外の事業所等を納税地にしている場合は、その事業所等を所轄する税務署に提出することもできます。
なお、提出期限後に国外財産調書を提出した場合でも、令和6年(2024年)1月1日以後は「税務調査の通知がある前に提出した場合に限り」、期限内に提出したものとみなされます。調査の通知後に慌てて出しても手遅れです。気づいた時点でなるべく早く行動するのが正解です。
国外財産調書の提出は任意ではありません。要件を満たしているにもかかわらず未提出の場合は、重大なペナルティが課されます。厳しいところですね。
提出のある・なしで加算税の扱いがまったく変わります。
| 状況 | 加算税への影響 |
|---|---|
| 📗 期限内に提出あり・対象財産の記載あり | 所得税・相続税の申告漏れがあっても加算税が5%軽減 |
| 📕 未提出、または記載漏れ・記載不十分 | 所得税・相続税の申告漏れがある場合に加算税が5%加重 |
つまり、同じ「申告漏れ」でも、調書を出しているかどうかで加算税の負担が10ポイント分変わります。仮に追加納付が500万円になった場合、加算税の差は50万円です。これは痛いですね。
さらに刑事罰もあります。虚偽記載をした場合や、正当な理由なく期限内に提出しなかった場合は、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されることがあります(平成27年1月1日以降に提出すべき調書が対象)。令和元年(2019年)には、国外財産調書制度に基づく刑事告発が初めて行われました。もはや他人事ではない水準の話です。
令和2年の税制改正では、加重措置の対象に「相続税の申告漏れ」も追加されました。また、令和2年以後の所得税または令和2年4月1日以後に相続・遺贈で取得する国外財産に係る相続税が対象です。相続でも無関係ではありません。
一方で、令和2年分以後は「相続があったその年の相続財産は記載しなくてよい」という例外規定も設けられています。相続で突然5,000万円超の国外財産を取得した年は、提出義務の判定からその相続財産を除外できます。ただしこの取り扱いは「相続があったその年限り」です。翌年以降は相続財産を含めて判定し、記載しなければなりません。
国外財産に係る申告漏れがあったとして税務調査の対象になった場合、調査によって指定された取引記録などを提出しない場合は加重割合がさらに10%に引き上げられます(令和2年税制改正後)。調査時の対応も重要です。
参考として、国税庁の公式資料も確認しておきましょう。
「海外財産が5,000万円未満だから、国外財産調書は関係ない」と思っている方も、実は安心できないケースがあります。これは意外な盲点です。
財産債務調書との違いを整理することで、提出義務の全体像が見えてきます。
| 比較項目 | 国外財産調書 | 財産債務調書 |
|---|---|---|
| 提出義務の条件 | 国外財産の合計が5,000万円超 | 所得2,000万円超+財産3億円以上または有価証券等1億円以上(または財産10億円以上) |
| 対象財産 | 国外財産のみ | 国内外すべての財産・債務 |
| 罰則 | あり(懲役・罰金) | なし |
| 加算税への影響 | 提出で5%軽減・未提出で5%加重 | 提出で5%軽減・未提出で5%加重 |
| 提出期限 | 翌年6月30日 | 翌年6月30日 |
財産債務調書は、所得が2,000万円を超えかつ財産が3億円以上(または有価証券等が1億円以上)の場合に提出義務が生じます。令和5年分以後は、所得にかかわらず財産合計が10億円以上の場合も提出義務があります。
ここで重要なのは、「財産債務調書を提出する義務がある方でも、国外財産が5,000万円を超えれば国外財産調書も別途必要」という点です。財産債務調書を出しているからといって、国外財産調書が免除されるわけではありません。両方が条件です。
また、財産債務調書にも国外財産の情報を記載しますが、その場合は「合計額のみ記入・詳細は国外財産調書に任せる」という形で二重記載を省けます。
海外資産が5,000万円以下であれば国外財産調書の提出義務はありませんが、財産債務調書の提出条件を満たしている方は財産債務調書に国外財産の合計額を記載する必要があります。5,000万円以下だから何も書かなくていい、というわけではないのです。
この2つの調書の関係は複雑に見えますが、「国外財産が5,000万円超かどうか」というシンプルな分岐点を軸にして考えると整理しやすいです。まず5,000万円超かどうかを確認し、超えていれば必ず国外財産調書を提出する、と覚えておけばOKです。
どちらの調書を作成すべきか悩む場合や、複数の国にまたがって財産がある場合などは、国際税務を専門とする税理士に相談することで漏れなく申告できます。特に初めて提出する方、相続で突然海外資産を承継した方にとっては、専門家のサポートが安心への近道です。
国外財産調書を提出しなければならない方(国税庁公式リーフレット・PDF)