

廃業届は「提出しなくても罰則がない」と知ると、かえって税務調査のリスクが上がることがあります。
廃業届の正式名称は「個人事業の開業・廃業等届出書」といい、開業届と同じ様式を使います。事業を始めるときに提出した書類と同じフォーマットで、「廃業」の区分にチェックを入れて提出するだけで手続きが完了します。シンプルな書類です。
しかし重要なのは、なぜ提出しなければいけないのかという点です。税務署は廃業届が提出されるまで「事業が継続中」と判断します。実態のない事業に対して確定申告の案内が毎年届き続け、申告をしないままにすると無申告状態と見なされるリスクが生まれます。最悪の場合、税務調査の対象になる可能性があります。
廃業届を提出しないことに対して直接的な罰則はありません。ただし、放置すると実体のない事業所得に対して所得税や住民税、個人事業税の申告義務が残り続けます。収入がないのに税務関係の書類が届き、対応に余計な時間とコストがかかることになります。提出するだけで防げるリスクです。
また、廃業届は事業の「けじめ」という側面もあります。金融機関や取引先に事業の終了を正式に示す根拠になるため、後々のトラブル防止にも役立ちます。
参考:廃業届の様式・提出期限は国税庁の公式ページで確認できます。
廃業届の用紙は国税庁のウェブサイトからダウンロードできるほか、最寄りの税務署でも無料で入手できます。以下の項目を順番に埋めていきましょう。
| 記入欄 | 記入内容 |
|---|---|
| 提出先・提出日 | 管轄税務署名と記入日 |
| 納税地・氏名・生年月日 | 住民票と一致した正確な情報 |
| 個人番号(マイナンバー) | 12桁の番号を記入 |
| 届出の区分 | 「廃業」に○、事由欄に理由を記載 |
| 所得の種類 | 事業所得・不動産所得など該当するものを選択 |
| 開業・廃業等日 | 廃業日を正確に記入 |
| 事業の概要 | 廃業する事業内容を具体的に記載 |
| 開廃業に伴う届出書の提出有無 | 青色申告取りやめ届など同時提出の有無を選択 |
| 給与等の支払の状況 | 従業員がいた場合のみ記入 |
「届出の区分」の事由欄は、自由記載です。「業績不振により事業継続が困難になったため」「会社員に転職するため」「法人化するため」といった一文で十分です。長々と書く必要はありません。
「開業・廃業等日」は特に重要です。この日付が所得の計算期間の最終日になるため、確定申告の際の売上・経費の集計範囲に直結します。曖昧にせず、実際に事業活動を終えた日を記入してください。
複数の事業を同時に営んでいた場合は、「所得の種類」欄でどの事業を廃止するかを明確に記入します。全部廃止なら「全部」、一部廃止なら「一部」を選び、廃止する事業名を括弧内に記入します。これが基本です。
なお、2025年1月から税務署での収受日付印の押なつが廃止されています。控えが必要な場合は自身で写しを作成して保管しておきましょう。
廃業届の提出期限は、廃業した年分の所得税の確定申告期限(翌年3月15日)までと定められています。しかし実務上は、忘れを防ぐために廃業日からなるべく早く出すことが推奨されています。
提出方法は3通りあります。
- 窓口持参:管轄税務署の開庁時間内に直接提出。時間外は庁舎外の収受箱への投函も可能
- 郵送:返信用封筒を同封すれば「受領日付入りリーフレット」を返送してもらえる
- e-Tax:マイナンバーカードとe-Taxソフトがあれば自宅から提出可能。24時間受け付け
多くの人が見落とすのが、都道府県税事務所への届出です。個人事業税の対象事業を営んでいた方は、税務署への廃業届とは別に、都道府県税事務所へも廃業の届出を行わなければなりません。
注意が必要なのは、この都道府県税事務所への提出期限が都道府県によって異なる点です。東京都は廃業日から10日以内と定められています。大阪府は「遅滞なく」という表現にとどまっているため、実質的にはできる限り早期の提出が求められます。
税務署への廃業届は確定申告期限まで余裕があるため後回しにしがちですが、都道府県への届出には短い期限が設けられているケースがあります。廃業を決めたらすぐに管轄の都道府県税事務所の公式ウェブサイトで提出期限と様式を確認するのが鉄則です。
参考:東京都における個人事業税の廃業申告について
東京都主税局|事業を始めたとき・廃止したとき
廃業届だけ出せば手続き完了、と思っているなら要注意です。状況によっては、廃業届に加えて最大4種類の書類が必要になります。
① 所得税の青色申告の取りやめ届出書
青色申告をしていた方に必須の書類です。提出期限は「青色申告を取りやめる年の翌年3月15日まで」ですが、廃業届と同時に提出するのが一般的です。これを忘れると、税務署側のシステム上は青色申告が継続中のままになります。
② 事業廃止届出書(消費税)
消費税の課税事業者(前々年の課税売上高が1,000万円超、またはインボイス登録事業者)は「事業廃止届出書」を速やかに提出します。インボイス登録をしていた場合、この書類1枚で登録の取り消し申請を兼ねることができます。別途の取消申請は不要です。
前年の確定申告で申告した納税額が15万円以上だった方は、予定納税の義務があります。廃業により今年の所得が大きく減る場合、この申請書を提出することで予定納税額を減らせます。第1期・第2期の両方を申請する場合は7月1日〜15日が期限です。
④ 給与支払事務所等の廃止届出書
従業員に給与を支払っていた場合に必要です。廃業届とは別に提出します。廃業ではなく従業員を全員解雇しただけの場合でも、給与支払がなくなった時点でこの届出が必要です。
| 書類名 | 対象者 | 提出先 |
|---|---|---|
| 個人事業の開業・廃業等届出書 | 全員 | 所轄税務署 |
| 青色申告の取りやめ届出書 | 青色申告者 | 所轄税務署 |
| 事業廃止届出書 | 消費税課税事業者 | 所轄税務署 |
| 予定納税額の減額申請書 | 予定納税義務がある方 | 所轄税務署 |
| 給与支払事務所等の廃止届出書 | 従業員を雇っていた方 | 所轄税務署 |
| 個人事業税の廃業届 | 個人事業税の対象者 | 都道府県税事務所 |
書類の抜けを防ぐために、廃業前に国税庁の一覧ページで自分の状況に合った書類を確認するのが確実です。提出漏れは後から追加対応が必要になるため、一度で終わらせましょう。
廃業したからといって確定申告が不要になるわけではありません。廃業した年の1月1日から廃業日までに生じた所得は、翌年2月16日〜3月15日の通常の確定申告期間中に申告します。廃業後に就職した場合、廃業前の事業所得と給与所得を合算して申告する必要があります。
廃業した年の事業所得が20万円以下であれば、就職先の年末調整のみで手続きが完了することもあります。金額次第では申告不要です。
多くの方が見落とすのが「純損失の繰越控除」です。青色申告をしていた方は、廃業した年に赤字が出た場合、その損失を翌年以降最長3年間繰り越して所得から差し引くことができます。廃業後に会社員として給与所得が発生していれば、廃業年の赤字を給与所得と相殺して所得税を軽減できます。
例えば、廃業した年に事業で200万円の赤字が出た場合、翌年の給与所得と相殺すれば課税所得が最大200万円分圧縮されます。税率20%の方なら40万円ほどの節税効果が生まれる計算です。これは使えそうです。
さらに「純損失の繰戻還付」という制度もあります。前年が黒字で所得税を納めていた場合、廃業年の損失を前年に繰り戻して、すでに納めた所得税の還付を受けることができます。こちらは廃業した年の確定申告書に還付請求をあわせて記載する必要があり、申告後に後から選択することはできません。廃業年の申告時点で繰越と繰戻しのどちらを活用するかを事前に検討しておくことが重要です。
これらの節税制度は、廃業年の確定申告書を期限内に提出し、翌年以降も連続して確定申告書を出し続けることが条件です。廃業届を出したからといって、確定申告を怠ると繰越控除の権利を失います。申告の継続が条件です。
参考:純損失の繰越控除制度の詳細は国税庁の公式ページで確認できます。
国税庁|No.2070 青色申告制度(純損失の繰越控除について)