遺産分割協議書ひな形を国税庁から入手し作成する方法

遺産分割協議書ひな形を国税庁から入手し作成する方法

遺産分割協議書のひな形を国税庁から入手して正しく作成する方法

国税庁のひな形をそのまま使うと、1億6,000万円の配偶者控除が丸ごと消える可能性があります。


この記事の3つのポイント
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国税庁のひな形は「相続税申告専用」

国税庁が公開している遺産分割協議書のひな形はPDF形式で無料入手できますが、あくまで相続税申告を目的として設計されており、銀行手続きや不動産登記には記載が不足するケースがあります。

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未分割のまま申告すると特例が使えない

遺産分割協議が相続税申告期限(死亡翌日から10か月以内)までに成立しないと、「小規模宅地等の特例(最大80%減額)」や「配偶者の税額軽減(1億6,000万円まで非課税)」が適用できなくなります。

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2024年4月から相続登記が義務化

不動産を相続した場合、取得を知った日から3年以内に相続登記をしないと、10万円以下の過料が科される可能性があります。遺産分割協議書の作成とあわせて早期対応が必要です。


遺産分割協議書とは何か・国税庁のひな形の入手方法


遺産分割協議書とは、亡くなった方の遺産を相続人全員で話し合い、「誰が何を受け取るか」を確定させるための法律文書です。相続が発生したとき、遺言書がない場合は原則としてこの書類が必要になります。


国税庁は、毎年「相続税の申告のしかた」という冊子をPDFで公式ホームページに公開しており、その中に「(参考)遺産分割協議書の記載例」というひな形が掲載されています。無料で、個人情報の入力も不要でダウンロードできます。これが、いわゆる「国税庁の遺産分割協議書ひな形」です。


遺産分割協議書の書式は、法律上とくに決まっていません。手書きでもパソコン作成でも、横書きでも縦書きでも問題ありません。ただし、有効な書類とするための必須記載事項は存在します。


必須記載事項は次のとおりです。


- 被相続人の情報:氏名・死亡日・最後の住所(または本籍地)
- 遺産分割の内容:誰がどの財産を取得するか(不動産・預貯金・株式などそれぞれ具体的に)
- 協議成立日:相続人全員が署名押印した日付
- 相続人全員の署名と実印での押印:1人でも欠けると書類として無効


実印が必須です。認印では銀行や法務局の手続きに使えません。


国税庁のひな形は縦書きで漢数字が使われており、若干古いデザインです。PDFのためそのままでは編集しにくいという点も知っておきましょう。弁護士・司法書士事務所の中には、国税庁のひな形をWord形式に変換して無料公開しているところもあるため、活用すると便利です。


国税庁の相続税申告案内(最新版)は以下から確認できます。


相続税申告に必要な書類・提出先・手続き方法が詳しく解説されています。


No.4202 相続税の申告のために必要な準備|国税庁


遺産分割協議書の書き方と国税庁ひな形の条項別ポイント

国税庁のひな形には、大きく「冒頭文」「各相続人が取得する財産の列挙」「署名押印欄」という構成があります。それぞれに書き方のコツと注意点があります。


まず冒頭文では、被相続人の氏名・死亡日・住所を明記します。国税庁の記載例では住所のみの記載ですが、銀行や法務局の手続きをスムーズに進めるために、「最後の本籍地」も追記しておくことが推奨されています。最後の本籍地は、市区町村役場で「住民票(除票)」を取得すれば確認できます。


財産の記載は、種類ごとに正確に行います。


不動産の場合は、法務局で取得した「登記事項証明書(全部事項証明書)」の記載と完全一致させることが大原則です。所在・地番・地目・面積(土地)、家屋番号・種類・構造・床面積(建物)をすべて書きます。誤字が1文字でもあると法務局で受理されないケースがあります。


預貯金の場合、国税庁のひな形では「○○銀行○○支店の定期預金 800万円」のように残高を書いた例が掲載されています。しかし、残高を記載すると後でトラブルになるリスクがあります。相続手続きをするまでの間に利息が加算されるなどして残高が変動することがあり、記載金額と実際の残高が一致しないと、銀行側が手続きを受け付けない可能性があるからです。口座番号・口座種別・口座名義のみを記載する方が安全です。


株式の場合は、証券会社名・発行会社名・株式の種別・株数を記載します。株式分割などで株数が変わっている場合があるため、最新の残高報告書で確認してから書くようにしましょう。


署名押印について、国税庁のひな形では未成年の相続人がいる場合の「特別代理人」の欄があります。たとえば父が亡くなり、母と未成年の子が共同相続人になった場合、母と子は利益が相反する関係になります。この場合、母は子の法定代理人になれないため、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てる必要があります。これを怠ると遺産分割協議書が無効になります。意外ですね。


以下のリンクでは、国税庁が公開している遺産分割協議書の記載例そのものを確認できます。


令和6年分 相続税の申告のしかた(国税庁・PDF)|遺産分割協議書記載例掲載


国税庁ひな形で遺産分割協議書を作成する際の相続税申告との関係

遺産分割協議書が必要になる相続税申告のケースと、そうでないケースをまず整理します。


相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。法定相続人が2人であれば4,200万円、3人であれば4,800万円が控除の上限となります。遺産の総額がこの金額を超えなければ、相続税の申告は原則不要です。ただし、申告が不要な場合でも、不動産の相続登記や銀行口座の解約のために遺産分割協議書が必要になるケースがほとんどです。


相続税の申告が必要な場合、申告期限は「被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内」です。10か月は長いように感じますが、相続財産の調査・遺産分割協議・書類収集・申告書作成と、やることは多く、決して余裕のある期間ではありません。


この10か月の期限内に遺産分割協議がまとまらなかった場合、「未分割」のまま申告することになります。未分割申告の問題点は深刻です。


- 「小規模宅地等の特例」:被相続人の自宅の土地などに対して、相続税評価額を最大80%減額できる強力な特例ですが、未分割のままでは適用できません。


- 「配偶者の税額軽減」:配偶者が相続した財産が1億6,000万円以下、または法定相続分以下であれば、相続税が非課税になる制度です。こちらも未分割のままでは原則として使えません。


これらの特例が使えないということは、場合によっては数百万円〜数千万円単位で相続税の納税額が増えることを意味します。お金に直結する問題です。


なお、申告期限後3年以内に遺産分割が成立した場合は、更正の請求(払い過ぎた税金の還付申請)で特例を後から適用することが可能です。ただし、更正の請求は「分割のあったことを知った日の翌日から4か月以内」という別途の期限があります。期限を過ぎると還付を受ける機会を失うため、注意が必要です。


国税庁による「財産が分割されていないときの申告」の公式解説は以下から確認できます。


未分割申告と特例適用の条件・手続きについて詳しく書かれています。


No.4208 相続財産が分割されていないときの申告|国税庁


遺産分割協議書を自分で作成するリスクと国税庁ひな形の限界

国税庁のひな形を使えば自分で作成できると思いがちです。確かに作成は可能ですが、いくつか重大なリスクがあります。


まず、国税庁が公開しているひな形は「相続税申告」のために設計されたものです。銀行口座の解約や不動産の名義変更、証券会社での株式手続きといった場面では、銀行や法務局がそれぞれ独自に「必要な記載事項」を求めてくることがあります。国税庁の記載例のみに倣って作成した場合、金融機関から「記載が不十分」として手続きを断られるケースも実際に報告されています。再作成が必要になります。


次に、遺産分割協議書には「相続人全員の合意」が絶対条件です。相続人が1人でも欠けていると、その協議は法律上「無効」となります。相続人の確定には、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本をすべて収集する必要があります。再婚歴・養子縁組・認知した子など、知らなかった相続人が存在する可能性もあるため、戸籍調査は思った以上に手間がかかります。


さらに、2024年4月1日から相続登記が義務化されました。これは不動産を相続した場合に適用されるもので、相続による取得を知った日から3年以内に相続登記をしなければなりません。正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料が科される可能性があります。遺産分割協議書の作成と並行して、不動産登記の手続きも速やかに進めることが求められます。


遺産分割協議書を自分で作成することに法律上の制約はありませんが、相続財産が多い・相続人が多い・不動産が含まれる、といった場合は専門家への依頼を検討することが重要です。費用の目安は、司法書士への依頼で遺産分割協議書作成のみなら3〜5万円程度、相続登記と合わせると7〜15万円程度が相場です。相続税申告が必要な場合は税理士への依頼も必要で、遺産総額の0.5〜1%が報酬の目安となります(例:遺産が3,000万円なら15〜30万円程度)。


相続登記の義務化についての法務省の公式Q&Aは以下で確認できます。


過去の相続分への遡及適用や手続き方法についても解説されています。


相続登記の申請義務化に関するQ&A|法務省


金融資産相続での遺産分割協議書の独自活用術:「換価分割」と「代償分割」への対応

金融に興味がある方ならとくに知っておきたいのが、現金・預貯金・株式など金融資産が多い場合の遺産分割協議書の書き方です。一般的な国税庁のひな形には記載されていない、「換価分割」と「代償分割」という方法があります。


換価分割とは、相続財産(主に不動産)を売却し、その売却代金を相続人間で分ける方法です。例えば、親の自宅を売却して現金化し、兄弟3人で3分の1ずつ分けるような場合がこれにあたります。換価分割を行う場合、遺産分割協議書に「換価して分配する」旨を明記しなければなりません。この記載を忘れると、不動産を一度誰か1人が相続してから売却したとみなされ、その人に譲渡所得税が課税される可能性があります。税務上のリスクが生じるということです。


代償分割とは、相続人の1人が財産の大半(例えば自社株や不動産)を取得し、その代わりに他の相続人に対して自分の財産から代償金を支払う方法です。例えば、長男が1億円の不動産を単独で相続する代わりに、次男と長女に各2,000万円を現金で支払うケースなどが該当します。代償分割の場合も、遺産分割協議書に代償金の金額・支払相手・支払時期を明記しておく必要があります。記載が不十分だと、後から代償金が「贈与」とみなされ贈与税が課税されるリスクがあります。


金融資産が多い相続では、株式の評価額が相続開始日(死亡日)の終値によって決まります。上場株式を複数人で分割相続する場合、誰がどの銘柄を何株取得するかを協議書に明記することが必要です。株式は「被相続人が所有する○○株式会社の普通株式のうち相続人△△が引き継ぐ部分」という書き方では証券会社の手続きに対応できないことがあります。証券会社名・支店名・口座番号・銘柄・株数まで具体的に記載するのが原則です。


金融資産の相続税評価や分割手続きについては、相続専門の税理士に事前相談しておくと、協議書作成前に財産全体の把握と税負担の試算ができます。相談料は初回無料としている事務所も多いため、まず相談だけでもしてみることをおすすめします。


換価分割における遺産分割協議書の記載ミスと税務リスクについては以下が参考になります。


「換価分割の文言を入れ忘れた場合の税務上のリスク」が具体的に解説されています。


相続不動産の換価分割と遺産分割協議書の文言|相続窓口




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