

引っ越しをしても、不動産登記の住所変更を後回しにしていると、次の売却時に追加費用が数万円かかるだけでなく、2026年4月からは5万円以下の過料まで科される可能性があります。
不動産登記の住所変更をオンラインで行うには、法務局の窓口に出向く必要はありません。ただし、何も準備せずにすぐ申請できるわけではなく、3つの事前準備が必要です。
まず必要なのが、①マイナンバーカード(電子証明書付き)の取得です。オンライン申請では本人確認のため電子署名が必須で、マイナンバーカードの電子証明書機能を使います。次に、②ICカードリーダライタの用意が必要です。マイナンバーカードをパソコンで読み取るための機器で、家電量販店やネット通販で2,000円〜5,000円程度で購入できます。スマートフォンのNFC機能でも代用できる場合があります。そして③申請用総合ソフトのインストールです。法務省が提供する無料の専用ソフトで、法務省の登記・供託オンライン申請システムから無料でダウンロードできます。
これら3点が揃えばOKです。
ここで多くの人が見落とすのが、住民票コードをうまく使う方法です。住民票コードを申請情報に提供することで、住民票の写しなどの添付書類が不要になり、完全オンラインで手続きを完結させられます。ただし、転居を繰り返すなどして住民票コードだけでは住所の経緯を証明できない場合は、住民票の写しまたは戸籍の附票の取り付けが別途必要になります。この場合、書類をオンライン申請後に郵便で法務局へ送る対応が必要で、「完全オンライン」ではなくなる点に注意が必要です。
費用面も整理しておきましょう。登録免許税は不動産1個につき1,000円(土地と建物で2個あれば2,000円)が必ずかかります。これは自分で申請しても司法書士に依頼しても同額です。司法書士に依頼する場合は、これに加えて報酬として5,000〜15,000円程度が発生するため、合計で1万5,000〜2万円程度になります。つまり自分でオンライン申請すれば、司法書士報酬分の1万円前後を節約できるということですね。
法務局公式:所有者の住所変更登記をオンライン申請する手順(法務局)
準備が整ったら、実際の申請手順を確認しましょう。全体の流れを知っておくだけで、初めての方でも迷わず進めることができます。
ステップ1:申請者情報の登録(初回のみ)
法務省の「登記・供託オンライン申請システム」にアクセスし、申請者IDとパスワードを登録します。初回だけの作業です。
ステップ2:申請用総合ソフトで申請情報を作成
インストールした申請用総合ソフトを起動し、「登記名義人の表示変更(住所移転)」を選択して申請書を作成します。法務省が「1-8 申請情報作成例(7)【所有者の住所変更編】」という操作マニュアルを公開しているので参照すると便利です。
ステップ3:マイナンバーカードで電子署名を付与
ICカードリーダー経由でマイナンバーカードを読み込み、電子署名を申請情報に付与します。この操作によって、紙の印鑑を押した状態と同等の法的効力が生まれます。
ステップ4:申請情報の送信
電子署名が完了したら、申請用総合ソフトから申請データを法務局へ送信します。送信完了の時点で申請受付扱いになります。
ステップ5:登録免許税の電子納付
申請後、インターネットバンキングを使って登録免許税を電子納付します。主要金融機関のネットバンキングからe-Gov電子納付経由で支払いが可能です。収入印紙での納付も選択できますが、その場合は印紙を法務局へ郵送する必要があります。
電子納付が基本です。申請後に「処理状況」を確認し、不備がなければ数日で登記が完了します。ログイン後の画面から進捗をリアルタイムで確認できる点は、窓口申請にはない便利な点です。
ひとつ覚えておきたい注意点があります。書面による添付書類が必要な場合、その書類はオンライン申請受付日から2日以内(休日を除く)に法務局へ到達しなければなりません。時間的な余裕を持って郵送手配することが条件です。
法務省:住所等変更登記の義務化について(義務の内容・過料の解説)
2026年4月1日から、不動産の住所等変更登記が法的義務となります。これまでは任意手続きだったため放置される例が多く、全国各地で「所有者不明土地」が増加する社会問題につながっていました。国土交通省の推計では、所有者不明土地の面積は約410万ha(東北6県の合計面積に匹敵する規模)とも言われ、これが法改正の大きな動機となりました。
義務の内容は明確です。住所や氏名に変更があった日から2年以内に変更登記を申請しなければならず、正当な理由なくこれを怠った場合、不動産登記法第164条第2項に基づき、5万円以下の過料の適用対象となります。厳しいところですね。
金融に関心のある方にとって見逃せない点があります。投資用不動産を複数保有している場合、物件の数だけ変更登記の義務が発生します。例えば住所変更後に土地・建物を各1件ずつ保有していれば2件分の登録免許税(2,000円)がかかるだけでなく、未申請が発覚すれば物件の数に関係なく過料のリスクが生じます。
また、義務化の対象は2026年4月1日以前の住所変更にも遡って適用されます。具体的には、施行前(2026年4月1日より前)に住所変更が生じていた方は、施行日から2年以内、つまり2028年3月31日までに変更登記を完了させる必要があります。「自分は昔引っ越ししたけど、登記は変えていない」という方も対象です。
不動産を売却したいとき、住所変更登記がされていないと売却手続きが複雑になります。売却時に登記済みの住所と現住所が一致しないと、所有者確認に追加書類が必要になり、手続きが遅延するリスクが生じます。投資不動産を持つ方は特に注意が必要です。
「引っ越しのたびに登記申請するのは面倒」と感じる方に朗報があります。それが2026年4月1日から運用開始の「スマート変更登記」です。ただし、2025年4月21日からすでに事前の「申出」ができます。これは使えそうです。
スマート変更登記とは、法務局の登記官が「住基ネット(住民基本台帳ネットワーク)」を定期的に照会し、所有者の住所変更を自動検知したうえで、職権(法務局側の判断)で登記を書き換える制度です。所有者自身が申請する手間が省けます。
利用するには、事前に「検索用情報の申出」という手続きを行うことが必要です。法務省の「かんたん登記申請」サイトから、氏名・フリガナ・生年月日・メールアドレスなどを登録するだけで完了します。マイナンバーカードや電子証明書は不要です。
| 比較項目 | 従来のオンライン申請 | スマート変更登記 |
|---|---|---|
| 手続きのタイミング | 住所変更ごとに自分で申請 | 一度の申出で以降は自動 |
| 必要なもの | マイナンバーカード+ICカードリーダー | 申出時はなし(マイナ不要) |
| 登録免許税 | 不動産1個につき1,000円 | 無料(法務局が負担) |
| 対象者 | 個人・法人どちらも可 | 原則として個人のみ |
重要な注意点が1つあります。2025年4月21日以前に購入・取得した不動産については、スマート変更登記の恩恵を受けるためにも「検索用情報の単独申出」が別途必要です。すでに不動産を保有している方は、できるだけ早めにこの申出を行っておくことが条件です。
スマート変更登記の登録免許税が無料である点は、特に複数物件を保有する不動産投資家にとって大きなメリットです。例えば5物件(土地・建物各1件ずつで10個)を保有していれば、通常の住所変更登記だと1回で1万円かかる計算になりますが、スマート変更登記なら0円で済みます。
法務省:スマート変更登記のご利用方法(検索用情報の申出の手順)
住所変更登記に関しては、投資家視点で特に注意すべき「見落としやすい盲点」がいくつか存在します。知っておくと得するポイントを整理します。
盲点①:複数回転居している場合は書類が増える
引っ越しの回数が多い場合、登記上の住所から現在の住所までの「つながり」を証明する書類が必要になります。住民票で確認できる期間は基本的に直近の住所のみのため、それ以前の住所については「戸籍の附票」を取得する必要があります。戸籍の附票は本籍地の市区町村で取得でき、取得費用は1通300円程度です。引っ越しが多い方は注意が必要です。
盲点②:住居表示の変更は登録免許税が非課税
自分が引っ越しをしたわけではなく、自治体による「住居表示の実施」によって住所の表示が変更になったケース(例:「○○町1丁目1番地」が「○○町1丁目1番1号」に変わるなど)は、登録免許税が非課税です。つまり費用は0円で手続きできます。意外ですね。
盲点③:売却時に住所変更が済んでいないと手続きが複雑化する
不動産売却時には、登記簿上の所有者住所と印鑑証明書の住所が一致していないと追加手続きが必要になります。売却前に登記住所を変更しておかないと、売買契約のスケジュールに影響し、場合によっては売却機会を逃すリスクもあります。投資物件の出口戦略を考える上でも、登記情報は常に最新の状態に保つことが重要です。
盲点④:法人名義の不動産はスマート変更登記の対象外
スマート変更登記は原則として個人名義の不動産のみ対象です。法人名義で投資物件を保有している場合、スマート変更登記が使えないため、本店所在地変更の際には自分で(または司法書士に依頼して)変更登記申請を行う必要があります。この点は法人投資家が見落としやすい点です。
これら4つの盲点を理解したうえで、保有物件の登記簿を今一度確認することをお勧めします。登記情報は、法務省が提供する「登記情報提供サービス」(https://www1.touki.or.jp/)から1件331円で確認できます。事前に現況把握しておくことで、対応漏れをゼロに近づけることができます。
田淵司法書士事務所:2026年4月から住所変更登記が義務化!放置すると5万円の過料