

住所を書けば不動産を特定できると思っていたら、相続登記を法務局に却下されます。
遺産分割協議書に不動産を記載するとき、多くの人が「住所を書けばいい」と思いがちです。しかし、これが大きな落とし穴です。
法務局(登記所)は不動産を「地番」と「家屋番号」で管理しており、一般の郵便物で使う住所(住居表示)とは別物です。たとえば「東京都品川区西五反田1丁目1番1号」という住居表示で書いても、登記所では「1丁目1番地1」のような地番で管理されているため、両者が一致しないことが多々あります。
遺産分割協議書の不動産記載は、必ず登記事項証明書(登記簿謄本)のとおりに転記することが原則です。土地なら「所在・地番・地目・地積」、建物なら「所在・家屋番号・種類・構造・床面積」を正確に書きます。
| 不動産の種類 | 記載が必須の項目 | 省略できる項目 |
|---|---|---|
| 🏡 土地 | 所在・地番 | 地目・地積 |
| 🏠 建物(一戸建て) | 所在・家屋番号 | 種類・構造・床面積 |
| 🏢 マンション(区分所有) | 一棟の所在・専有部分の家屋番号・敷地権 | 不動産番号のみでも可 |
地目・地積・床面積などは省略しても不動産は特定されますが、書いておくとより明確です。特に登記上の地積と課税地積(固定資産税の課税明細書に記載の面積)が異なる場合は、両方を併記しておくと法務局でのトラブルを避けられます。この「面積の差」は古い土地でよく起きる問題で、見落としが相続登記の妨げになるため要注意です。
登記事項証明書は、最寄りの法務局の窓口またはオンライン(登記・供託オンライン申請システム)で取得できます。費用は1通600円(窓口)または500円(オンライン)です。これが基本です。
参考:法務局の登記事項証明書取得方法(法務省)
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00026.html
遺産分割協議書には相続人全員が署名押印しなければなりません。1人でも欠けると、その協議書は無効になります。
法律上は実印が必須とは書かれていませんが、実務では法務局も金融機関も実印の押印と印鑑証明書の添付を求めています。つまり現実的には「実印+印鑑証明書のセット」が必須と理解してください。これが条件です。
印鑑証明書には有効期限はないのですが、相続手続きで金融機関や法務局に提出する際は「発行後3ヶ月以内」を指定されるケースがほとんどです。相続人が多い場合や遠方に住んでいる場合は、全員の印鑑証明書を有効期間内に揃えるスケジュール管理が重要になります。
また、相続人の中に海外在住者がいると話が複雑になります。日本国内の印鑑登録ができないため、現地の在外公館(日本大使館・領事館)でサイン証明書と在留証明書を取得する必要があり、書類の収集だけで数週間かかることがあります。早めに確認しておく必要があります。
協議書の内容に訂正が生じた場合は、誤記部分を二重線で消し、その近くに正しい内容を記載して、訂正した相続人の実印を押します。捨印を事前に押しておく方法もありますが、万能ではないため、できるだけ正確に作成することが先決です。
参考:遺産分割協議書の印鑑証明書について(朝日新聞「相続会議」)
遺産分割協議書は、すべての相続財産をひとつの書類にまとめる必要はありません。不動産の相続人だけ先に決まっている場合は、不動産のみを記載した協議書を作成して相続登記を先行させることが可能です。
相続登記は2024年4月1日に義務化され、不動産の相続を知った日から3年以内に登記しなければ、10万円以下の過料が科される可能性があります。しかも、2024年以前の古い相続分についても遡及適用されており、過去の未登記不動産を持つ相続人は2027年3月31日が猶予期限です。意外ですね。
不動産のみ記載した協議書を作成するときの実務的なポイントは以下のとおりです。
また、不動産のみの協議書でも、預貯金の払い戻し手続きで金融機関から提出を求められることがあります。銀行によっては独自の「相続手続き依頼書」を別途要求することもあるため、不動産以外の手続きが完全に終わるまで協議書の原本は複数部手元に保管しておく方が安全です。これは使えそうです。
参考:不動産のみ記載した遺産分割協議書(ベンナビ相続)
https://souzoku-pro.info/columns/isanbunkatsu/755/
2024年4月1日から不動産の相続登記が義務化されました。相続を知った日から3年以内に登記を完了しないと、10万円以下の過料が科される可能性があります。
この義務化は「過去の相続分」にも遡及適用されており、たとえば20年前に亡くなった親の不動産がまだ名義変更されていない場合でも、2027年3月31日までに登記しなければペナルティの対象です。全国には所有者不明の土地が約410万ヘクタール(九州全体の面積とほぼ同じ)にのぼるとされており、この問題を解消するために義務化が実現しました。
「遺産分割協議がまとまっていないから登記できない」という場合に備えて、「相続人申告登記」という簡易な制度も創設されています。この制度を使えば、「自分が相続人である」ことだけを法務局に申し出ることで、過料を回避できます。登記申請と違って遺産分割協議書がなくても手続き可能です。遺産分割協議に時間がかかりそうな場合はまず相続人申告登記を活用するのが賢い選択肢です。
| 種類 | 必要書類 | 期限 | メリット |
|---|---|---|---|
| 🏷️ 相続登記(通常) | 遺産分割協議書・戸籍一式・印鑑証明書など | 相続を知った日から3年以内 | 名義変更が完了し不動産の売却・活用が可能になる |
| 📝 相続人申告登記 | 申出書・戸籍(相続人であることを証明する分) | 同上(過料回避のための簡易手続き) | 遺産分割協議前でも提出可能・費用が安い |
相続登記の申請自体にかかる登録免許税は「固定資産税評価額×0.4%」です。たとえば評価額3,000万円の不動産なら12万円の税額になります。司法書士への依頼費用は不動産1件あたり5万〜10万円程度が相場ですが、複数物件になると増額します。費用感をあらかじめ把握しておけば、資金の段取りがしやすくなります。
参考:相続登記の義務化に関するQ&A(法務省)
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00565.html
遺産分割協議書の完成を「後回し」にしていると、不動産の相続税が最大80%も増えてしまう局面があります。これが「小規模宅地等の特例」との関係です。
小規模宅地等の特例とは、亡くなった人が自宅として使っていた土地の評価額を最大80%減額できる制度です(330㎡まで)。たとえば路線価ベースで4,000万円の自宅の土地があれば、特例を使えば評価額が800万円まで下がり、相続税の計算基礎が劇的に変わります。これは使えます。
しかし、この特例を使うためには「相続開始から10ヶ月以内(申告期限内)に遺産分割が完了していること」が必須条件です。遺産分割協議がもめて10ヶ月を過ぎると、原則として小規模宅地等の特例は適用できません。期限内に間に合わない場合は「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出してひとまず法定相続分で申告し、後日分割が確定したら更正の請求で特例の適用を受ける方法が認められていますが、手続きが複雑で余分な手間と費用が発生します。
金融に詳しい方ほど「相続税の基礎控除を超えないから関係ない」と思い込みやすいですが、都市部では土地の評価額が高いため、意外と課税ラインを超えるケースがあります。相続財産の総額を早い段階で把握し、課税の可能性があれば税理士と相談しながら遺産分割の内容を決める、という順番が肝心です。
参考:小規模宅地等の特例(国税庁)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm

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