

グループ通算制度を適用している企業では、繰越欠損金の処理に「非特定欠損金」という概念が登場します。しかし、この非特定欠損金を「自社の赤字さえあればグループ内でいつでも自由に使える」と思い込んでいると、損金算入できる金額がグループ全体の所得の50%上限に縛られ、期待していた節税効果が半減する事態になります。
グループ通算制度では、繰越欠損金を「特定欠損金」と「非特定欠損金」の2種類に分類します。この区分は、控除できる所得の範囲を決定する非常に重要な区分です。
特定欠損金とは、通算親法人の制度開始前または通算子法人の開始・加入前に生じた欠損金を指します。これはその法人自身の所得の金額を上限にしか控除できません。「自分が作った赤字は自分の黒字でしか埋められない」というイメージです。
一方、非特定欠損金は、グループ通算制度の適用開始後または加入後に通算グループ内で生じた欠損金が該当します。
つまり原則です。
この非特定欠損金は、グループ全体で共有して控除することができます。
重要なのはその適用優先順位です。同一事業年度に特定欠損金と非特定欠損金の両方がある場合、特定欠損金を先に控除します。これはグループ通算制度の法人税法64条の7第1項に定められた原則で、実務上の計算順序を必ず守る必要があります。
また、繰越欠損金の控除は古い年度のものから順に行うという単体納税と同じルールも維持されています。この2つのルールが重なることで、計算が複雑になる点に注意が必要です。
国税庁 No.5900 グループ通算制度の概要(欠損金の通算に関する公式解説)
実務上、この2つの区分がどう異なるかを整理しておくことは非常に重要です。
| 区分 | 対象となる欠損金 | 控除できる範囲 |
|------|----------------|----------------|
| 特定欠損金 | 開始・加入前に生じた欠損金等 | その法人自身の所得金額を上限に控除 |
| 非特定欠損金 | 制度適用後にグループ内で生じた欠損金 | グループ全体で控除(限度額あり) |
特定欠損金の扱いで特に注意が必要なのは、連結納税制度との比較です。連結納税制度では、親法人の制度開始前の繰越欠損金(非特定連結欠損金)は、グループ全体の所得から控除できました。ところが、グループ通算制度に移行すると、同じ親法人の開始前欠損金は「特定欠損金」として扱われ、親法人自身の所得の範囲内でしか控除できなくなります。
親法人の欠損金が「グループ全体で使えなくなる」というのは見落としがちです。連結納税制度からグループ通算制度に移行した企業グループでは、この変更を事前に把握していないと、節税効果の試算に大きな誤差が生じます。なお、経過措置として、連結納税制度下で非特定連結欠損金として取り扱われていたものは、グループ通算制度においても引き続き非特定欠損金として扱われます(令和2年改正法附則28条3項)。
非特定欠損金は、グループ内の黒字法人の所得に充てるため「按分」されます。赤字法人が欠損金を抱えつつ、黒字法人がその恩恵を受けるかたちで損金算入が行われます。欠損金を保有している法人と実際に控除を使う法人が異なるという点が、単体納税との最大の違いです。
旭タクスパートナーズ「グループ通算制度の個別項目(欠損金)」特定欠損金・非特定欠損金の計算解説
非特定欠損金の損金算入額は、単純に赤字法人の欠損金をそのまま使うわけではありません。
以下の手順で計算されます。
【STEP1】損金算入限度額の確認
まず、グループ全体の損金算入限度額を計算します。各通算法人の繰越控除前所得金額の50%相当額を合計したものがグループ全体の損金算入限度額です。中小法人等に該当する場合は100%まで認められますが、グループ内の1社でも大法人(資本金1億円超)が含まれると、グループ全体が50%上限の適用を受けます。
【STEP2】特定欠損金を先に控除
特定欠損金は、その法人の欠損控除前所得金額を上限として先に控除します。特定欠損金の控除が終わった後、残った損金算入限度額の枠が非特定欠損金の控除に使える「残額」となります。
【STEP3】非特定欠損金の配賦
グループ全体の非特定欠損金の合計額を、各通算法人の損金算入限度額の残額の比率で按分します。この按分された金額が「非特定欠損金配賦額」です。
【STEP4】損金算入額の確定
配賦後の非特定欠損金を、損金算入限度額の残額の範囲内で各法人に損金算入します。これがその事業年度における非特定欠損金の実際の損金算入額です。
つまり計算フローが4段階あるということです。単体納税に慣れた経理担当者が初めてこの計算に向き合うと、想定以上に複雑に感じる場合が多いです。実務では、グループ通算制度に対応した申告ソフトの導入が不可欠といえます。
EY Japan「グループ通算制度における繰越欠損金の実務~税効果会計の処理を含めて~」非特定欠損金配賦額の算式と設例の解説
損金算入限度額が所得金額の50%か100%かは、実際の節税効果に直接影響するため、慎重に確認する必要があります。
グループ通算制度の原則は、各通算法人の繰越控除前所得金額の50%相当額の合計が損金算入限度額です。これはグループ全体で一つの上限として計算されます。
100%まで控除が認められるのは、以下のケースに限られます。
- 🔹 中小法人等:通算グループ内のすべての法人が「大法人に該当しない」かつ「中小法人等の要件を満たす」場合
- 🔹 更生法人等:民事再生手続中や更正手続開始決定を受けた法人(ただし個社ごとに判定)
- 🔹 新設法人:設立から一定期間内の法人(ただしグループ内に1社でも非該当があれば全法人が50%上限)
注意が必要なのは、中小法人等と新設法人の判定はグループ連帯判定であるという点です。グループ内の1社でも資本金1億円を超える大法人が含まれると、他の子会社がいかに小さな法人であっても100%上限は使えません。
これは単体納税と大きく異なるルールです。
たとえば、親会社が資本金2億円、子会社A・Bがそれぞれ資本金5,000万円のグループの場合、子会社A・Bだけを見れば中小法人ですが、グループ通算制度ではグループ全体で50%上限が適用されます。子会社が中小法人特例を享受しながらグループ通算制度に参加することはできません。
非特定欠損金を持っているにもかかわらず、実際には控除ができないケースが存在します。
知っておかないと損をします。
パターン1:損金算入限度額の残額がゼロになるケース
特定欠損金の控除によって損金算入限度額(グループ全体の所得の50%)が全額消化されてしまうと、非特定欠損金の配賦を受けても損金算入できる枠がありません。このとき、非特定欠損金は損金算入されず、翌期以降に繰り越されます。
パターン2:グループ全体が赤字のケース
損益通算後にグループ全体が欠損になると、そもそも所得がないため繰越欠損金の控除自体が行えません。これは当然のことですが、単体では黒字の法人が損益通算後に赤字法人の損失を吸収しきれない場合も含みます。
パターン3:支配関係5年未満かつ共同事業性なしのケース
制度開始・加入前の欠損金であっても、支配関係が5年超または共同事業性があれば「特定欠損金」として持ち込めます。しかし、支配関係が5年未満で共同事業性もなく、さらに支配関係発生後に新たな事業を開始した場合、支配関係発生前の欠損金は切り捨てとなります。
欠損金を丸ごと失うリスクです。
M&A後すぐにグループ通算制度へ加入させようとする場合、このパターン3に注意が必要です。欠損金が切り捨てられないよう、5年の待機期間の設定や、事業規模・役員継続要件のチェックが不可欠になります。
デロイトトーマツ「グループ通算制度の重要ポイント(第2回)開始・加入の取扱い」欠損金切捨て・時価評価の詳細解説
グループ通算制度の大きな特徴の一つが「遮断措置」です。これは、税務調査などによってある法人の所得金額や欠損金額が事後的に変動しても、原則として他の通算法人の計算に影響を及ぼさない仕組みです。
単体申告の感覚では「1社で修正申告があっても他社は関係ない」のが当然に思えます。しかし、旧来の連結納税制度では、1社でも修正があるとグループ全社の申告書を作り直す必要がありました。グループ通算制度では、この非効率を解消するため遮断措置が導入されています。
非特定欠損金との関係では次の点が重要です。修更正事由が生じた場合、当初申告時に使用した非特定欠損金の配賦計算の数値が固定されます。これにより、欠損金の授受が生じた通算法人間で、修正内容が他社に波及しない仕組みが維持されます。
ただし、遮断措置が適用されない例外もあります。たとえば、欠損金の繰越制限を逃れるためにあえて誤った当初申告を行うなど、法人税の負担を不当に減少させる行為が認められた場合には、税務署長の職権更正によってグループ全体で再計算が行われます(法法64条の7第8項)。
遮断措置は便利な仕組みですが、租税回避を意図した操作に対するセーフガードも厳格に設けられています。適切な当初申告が前提であることを認識しておく必要があります。
繰越欠損金の控除には、生じた事業年度から10年以内という期限があります。この期限はグループ通算制度でも同様に適用されます。
非特定欠損金が翌期以降に繰り越される場合、その金額の計算方法に注意が必要です。翌期に繰り越す金額は単純に「当期に控除しなかった残額」ではありません。
具体的には、特定欠損金の損金算入額と、非特定欠損金に「非特定欠損金損金算入割合」を乗じた金額の合計が、各法人の損金算入額として計算されます。非特定欠損金は按分配賦の仕組みにより、欠損金を保有している法人と実際に控除を使った法人が一致しないケースが生じます。このため、実際の損金算入額とは別に、欠損金の繰越残高の管理が必要になります。
繰越残高の管理は煩雑です。とくに欠損金の発生年度ごとに残高を追跡し、10年の期限管理まで行う必要があるため、申告ソフト上でのシステム管理が現実的な対応策となります。手作業での管理は転記ミスや計算漏れのリスクが高まるため、グループ通算対応ソフトの活用を検討することが望ましいです。
財務諸表を作成している上場企業や監査対象法人にとって、非特定欠損金の税効果会計への影響は見逃せない実務論点です。
繰越欠損金は、将来の法人税負担を軽減する効果があるため、税効果会計の対象として繰延税金資産に計上することができます。ただし、「本当に将来使えるのか」という「回収可能性」の判断が必要です。
グループ通算制度における非特定欠損金の回収可能性の判断は、個社単位ではなくグループ全体の将来の課税所得に基づいて行います。
つまり、自社の将来計画だけでは判断できません。
グループ各社の事業計画を集約し、通算グループ全体として将来いくらの課税所得が見込まれるかを検討した上で、繰延税金資産の計上額を決定します。
企業会計基準委員会が令和3年8月に公表した「実務対応報告第42号:グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」では、非特定欠損金(特定繰越欠損金以外)の回収可能性の判断は通算グループ全体の分類に応じて行うと定められています。グループ全体が分類1〜5のどの段階にあるかによって、繰延税金資産の計上可否が決まります。
監査対応の難易度が上がるのはこのためです。監査法人との協議のためにグループ各社の将来事業計画書や収益予測資料を揃える必要があり、単体申告時と比べて資料準備の負担が相当大きくなります。
企業会計基準委員会「実務対応報告第42号 グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」(税効果会計の公式基準)
非特定欠損金を最大限に活用するために、実務上押さえておくべきポイントをまとめます。
📋 制度開始・加入前の確認事項
- ✅ 支配関係が5年超かどうかの確認(5年未満の場合、欠損金切捨てリスクがある)
- ✅ 共同事業性要件の充足可否(事業関連性・規模要件・役員継続要件)
- ✅ 時価評価対象資産の含み損益の試算(加入時の課税リスクの把握)
- ✅ グループ内に大法人が含まれるかの確認(50%上限か100%上限かの判定)
📋 申告実務での確認事項
- ✅ 欠損金の発生年度・期限(10年以内)の管理
- ✅ 特定欠損金と非特定欠損金の区分の正確な記録
- ✅ グループ全体の損金算入限度額(所得の50%)の計算
- ✅ 非特定欠損金の配賦計算と損金算入額の確定
📋 税効果会計での確認事項
- ✅ 通算グループ全体の将来課税所得の見積もり
- ✅ 分類(1〜5)のグループ全体判定と個社判定の双方実施
- ✅ 監査法人への説明資料の早期準備
これらを見て「多い」と感じるのは自然です。グループ通算制度を一度適用すると原則として取りやめができないため、導入前の準備が極めて重要です。税理士や専門家との事前シミュレーションを複数回実施したうえで意思決定することが、後悔しない制度活用につながります。
令和4年4月1日以後に開始する事業年度からグループ通算制度が強制適用となりましたが、旧来の連結納税制度からの移行時に欠損金の区分が変化する点は特に重要です。
連結納税制度下での「非特定連結欠損金」(グループ全体で使えた欠損金)は、グループ通算制度への移行後も引き続き「非特定欠損金」として扱われる経過措置があります(令和2年改正法附則28条3項)。
連続性が保たれているということです。
一方、最大の変化は親法人の扱いです。連結納税制度では、親法人は納税義務者として特別扱いされており、開始前の繰越欠損金は「非特定連結欠損金」としてグループ全体の所得から控除できました。ところがグループ通算制度では、親法人も子法人と同列に扱われるため、開始前の欠損金は「特定欠損金」となり、親法人自身の所得の範囲内でしか控除できなくなります。
たとえば、親法人がグループ加入前に100億円の繰越欠損金を持っていたとします。連結納税制度なら子会社の黒字50億円にも充当できましたが、グループ通算制度では親法人自身の所得がゼロの年は一切使えません。グループ全体で見ると大きな節税機会の損失になるケースがあります。
移行前の段階で欠損金の残高と所有法人を正確に把握し、移行後の税負担シミュレーションを行うことが不可欠です。
達人シリーズ「グループ通算制度のポイント項目の解説」連結納税制度との比較表つきで解説
あまり語られていない視点として、非特定欠損金の「授受(じゅじゅ)」が通算グループ内の各法人の実質的な税負担に非対称性をもたらすという論点があります。
非特定欠損金は、欠損金を保有している法人とは別の黒字法人で損金算入される仕組みです。欠損金を保有するのはA社なのに、実際に節税メリットを享受するのはB社、というかたちになります。この場合、A社とB社の間での「通算税効果額」のやり取りが発生します。
通算税効果額とは、損益通算や欠損金通算の規定を適用することで減少する法人税の額に相当するものとして、通算法人相互間で授受される金額です。重要なのは、この通算税効果額はA社にとっても B社にとっても益金・損金に算入されないという点です。
つまり、A社は欠損金の節税効果をB社に渡す代わりに、B社からその相当額の金銭を受け取ります。
この金銭は課税されません。
見かけ上のキャッシュフローは発生しますが、税務上は中立的に扱われます。
グループ内の連結ベースでは中立ですが、非上場子会社が複数ある場合など、「どの会社がいくら受け取るべきか」の精算方法をグループ内で合理的に取り決めておく必要があります。精算ルールが曖昧なまま運用すると、子会社の少数株主への説明責任の問題や内部統制上の課題が生じるリスクがあります。
グループ通算制度については、国税庁がQ&A形式の詳細な解説文書を公表しており、実務での疑問点の多くがカバーされています。とくに非特定欠損金に関連して確認しておきたい項目があります。
📌 Q&Aで押さえるべき主要項目
- 🔸 当初申告における損金算入額の計算方法(FAQの54問目相当):特定欠損金と非特定欠損金の両方がある場合の手順と算式の設例が具体的に示されています。
- 🔸 遮断措置の適用条件と例外:修更正事由が生じた場合に「全体計算を要しない場合」と「要する場合」の判定基準が整理されています。
- 🔸 通算税効果額の計算と授受の方法:授受する金額の算定根拠と課税関係(益金・損金不算入)の確認事項。
- 🔸 子法人が期中加入した場合の欠損金の取扱い:完全支配関係発生日の前日で事業年度を区切る原則と、月次・会計期間末日特例の活用。
Q&Aは公開情報ですが、100問を超えるボリュームがあるため全体を読み込むのは大変です。実務上は、自社の状況に関連する項目を優先的に確認し、不明点を税理士に相談するというアプローチが現実的です。
グループ通算制度に対応した申告書作成の経験が豊富な税理士に依頼することで、非特定欠損金の計算ミスや申告漏れのリスクを大幅に低減できます。欠損金の管理は数年にわたる長期管理が必要で、担当者の異動や退職によって情報が断絶するリスクも考えておくべきです。
国税庁「グループ通算制度に関するQ&A 問54:過年度の欠損金額の当初申告における損金算入額の計算」(設例付きの公式解説)
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