グループ通算制度を図解で理解するメリットと申告の注意点

グループ通算制度を図解で理解するメリットと申告の注意点

グループ通算制度を図解で理解する仕組みとメリット・デメリット

グループ通算制度を書面申告で提出すると、資本金規模に関わらず無申告加算税の対象になります。


📊 この記事の3つのポイント
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グループ通算制度とは?

2022年4月に連結納税制度が廃止されて生まれた制度。完全支配関係(株式100%保有)にある企業グループ内で、各法人が個別に申告しながら損益通算できる仕組みです。

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最大のメリット:損益通算と繰越欠損金の共有

黒字法人と赤字法人の損益を相殺して法人税を節税できます。繰越欠損金のグループ共有も可能ですが、加入前の欠損金には制限があります。

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見落としがちなデメリット

グループ内に資本金1億円超の法人が1社でもあると、全グループ法人の中小企業特例が使えなくなります。一度適用すると原則として任意にやめられません。


グループ通算制度とは何か:連結納税制度との違いを図解で確認


グループ通算制度とは、完全支配関係(株式の100%保有関係)にある企業グループ内の各法人を個別の納税単位としながら、グループ全体で損益通算などの調整を行う制度です。2022年4月1日以後に開始する事業年度から適用されており、それ以前の「連結納税制度」に代わって導入されました。


連結納税制度との最大の違いは「申告・納税の主体」にあります。以下の表で2つの制度を比較してみましょう。


































比較項目 連結納税制度(旧) グループ通算制度(現行)
申告・納税の主体 親会社がまとめて申告・納税 各法人が個別に申告・納税
修正申告の影響範囲 1社の修正でグループ全社が再計算 原則、その法人のみで完結(遮断措置あり)
中小法人の判定 親会社の資本金で全社を判定 グループ内に1社でも大法人があれば全社対象外
電子申告 親会社の資本金1億円超なら義務 資本金規模に関わらず全法人が義務
親法人の繰越欠損金 子法人の所得から控除可能 親法人自身の所得からのみ控除可能(SRLYルール適用)


連結納税制度のもとでは、子会社1社に税務調査による修正が入ると、グループ全社が申告書を作り直す必要がありました。これが経理部門にとって非常に重い負担でした。グループ通算制度ではこの問題が解消され、誤りがあった法人のみが修正申告を行えば済みます。つまり事務負担の大幅な軽減が原則です。


また、連結納税制度では「親会社のIDで電子申告を完結できた」のに対し、グループ通算制度では各法人がそれぞれの電子申告IDを持ち、個別に申告する必要があります。子会社の数が多いグループほど、e-Tax環境の整備が急務となります。


なお、グループ通算制度と混同されやすい「グループ法人税制」は全く別の制度です。グループ法人税制は、完全支配関係にあるグループ会社間の資産譲渡や寄附金について税務上の損益を繰り延べるルールで、企業の意思に関わらず強制適用されます。一方のグループ通算制度は申請が必要な任意適用です。両者は選択関係にあるのではなく、グループ通算制度を適用する企業には、グループ法人税制も同時に適用される関係にあります。


参考リンク(国税庁によるグループ通算制度の概要・パンフレット)。
国税庁:グループ通算制度とは(パンフレット等)


グループ通算制度の図解でわかる損益通算の仕組みと節税効果

グループ通算制度の核心は「損益通算」にあります。グループ内の黒字法人と赤字法人の所得を相殺し、グループ全体の課税所得を圧縮できる仕組みです。これは大きな節税効果につながります。


具体的な計算例で見てみましょう。


























法人 当期所得 単体納税の課税所得 通算後の課税所得
親会社 +100億円(黒字) 100億円 80億円(グループ合計)
子会社A +20億円(黒字) 20億円
子会社B ▲40億円(赤字) 0円(欠損は単体で持越し)


単体納税では、子会社Bの赤字40億円はグループ全体の課税には影響せず、親会社・子会社Aあわせて120億円に対して課税されます。しかしグループ通算制度を使えば、グループ全体の課税所得は80億円に圧縮されます。法人税率23.2%で試算すると、その差額(40億円)に対する税額は約9.28億円になり、これがそのまま節税額の目安となります。これは使えそうです。


損益通算の仕組みをさらに整理すると、次のような手順で計算が進みます。



  1. 各通算法人が当期の所得金額または欠損金額を個別に計算する

  2. 黒字法人は「通算対象欠損金額」を損金算入し、赤字法人は「通算対象所得金額」を益金算入する

  3. 通算後の所得に対して、各法人が個別に法人税額を計算・申告する


ただし、重要な注意点があります。黒字の子会社だけを選んで通算グループに入れ、赤字の子会社は除外するという「いいとこ取り」は認められません。完全支配関係があるすべての子会社は、原則として自動的に通算グループの一員となります。恣意的な選択は制度上許容されていない点を押さえておく必要があります。


損益通算が特に有効なのは、新規事業への先行投資で赤字が続く子会社を抱えている場合や、持株会社・研究開発専門の子会社など、構造的に赤字になりやすい法人が存在するグループです。黒字体質の法人と赤字体質の法人が共存するグループ構造であれば、グループ通算制度の効果は非常に大きくなります。


参考リンク(国税庁:損益通算の計算方法の解説ページ)。
国税庁:通算制度の当初申告における損益通算の計算


グループ通算制度の繰越欠損金:特定欠損金と非特定欠損金の違い

グループ通算制度では、当期の損益通算だけでなく、過去に生じた赤字(繰越欠損金)もグループ内で活用できます。ただし、すべての繰越欠損金が自由に使えるわけではありません。これが大きなポイントです。


繰越欠損金は「特定欠損金」と「非特定欠損金」の2種類に分類されます。



  • 🔒 特定欠損金:グループ通算制度の適用開始前や加入前に生じた欠損金。原則として、その法人自身の所得を限度にしか控除できない。グループ全体で共有はできない。

  • 🔓 非特定欠損金:グループ通算制度の適用中に生じた欠損金。通算グループ全体の所得の50%を上限として、グループ内で共有・活用できる。


特定欠損金と非特定欠損金の分類基準で重要なのが「支配関係5年継続要件」です。グループ通算制度の適用開始時、または子会社の加入時点において、その法人との支配関係が5年以上継続している場合は、開始・加入前の欠損金も非特定欠損金として扱われ、グループ共有が可能になります。


5年未満の場合は特定欠損金扱いとなり、自社の所得からしか控除できません。M&Aで新たに子会社化した法人を通算グループに加えるケースでは、取得から5年は欠損金の活用に制限がかかることになります。これは痛いですね。


さらに、グループ全体で繰越欠損金を使う際の控除限度額にも注意が必要です。通算グループ全体の繰越欠損金の控除限度額は、通算グループ内各法人の欠損金控除前の所得金額の50%相当額を合計した金額が上限となります。個々の法人ごとに50%キャップが設けられるのではなく、グループ全体でのキャップである点が重要です。


例えば、親会社の所得が10億円、子会社が5億円とすると、グループ全体の控除限度額は(10億円+5億円)×50%=7.5億円となります。グループ全体の繰越欠損金が10億円あっても、この年に使えるのは7.5億円が上限ということです。


なお、グループ通算制度では、親法人が単体納税時代に抱えていた繰越欠損金は、従来の連結納税制度と異なり、子法人の所得とは相殺できません。親法人自身の所得の範囲内でしか使えないSRLYルールが適用されるため、制度移行前に大きな繰越欠損金を抱えている親法人にとっては不利な面があります。


参考リンク(EYによるグループ通算制度の繰越欠損金の実務解説)。
EY:グループ通算制度における繰越欠損金の実務~税効果会計の処理を含む


グループ通算制度の中小法人特例と電子申告義務:見落とせないデメリット

グループ通算制度には節税メリットがある一方、見落とすと大きな損失につながるデメリットも存在します。特に重要なのが「中小法人特例の喪失」と「電子申告の完全義務化」です。


まず中小法人特例について整理します。法人税法上、資本金1億円以下の中小法人には以下のような優遇措置があります。



  • 💰 年800万円以下の所得に対する軽減税率(通常23.2%が15%に軽減)

  • 📋 交際費の損金算入限度額の拡大(年800万円まで全額損金算入可)

  • 📉 欠損金の繰越控除の100%控除(中小法人は所得の100%まで控除可)

  • 🔄 欠損金の繰戻し還付(黒字だった前事業年度の税金を還付請求できる)


グループ通算制度を適用した場合、グループ内に資本金1億円超の大法人が1社でもあると、グループ全体がこれらの中小法人特例を受けられなくなります。資本金が5,000万円の子会社であっても、親会社が資本金5億円であれば、子会社の軽減税率が消えます。


軽減税率の差(23.2%-15%=8.2ポイント)は決して小さくありません。800万円の所得がある法人なら、毎年約65.6万円の税負担増加になります。グループ通算による損益通算メリットがこれを上回るかどうかの事前シミュレーションは必須です。


次に「電子申告の完全義務化」について確認しましょう。グループ通算制度を適用すると、資本金の規模に関わらず、グループ内のすべての法人が電子申告(e-Tax)でなければなりません。これは連結納税制度と大きく異なる点で、旧制度では親会社の資本金が1億円以下の場合は書面申告も認められていました。


問題は、書面申告をした場合の扱いです。グループ通算制度の下では、書面による申告書は「無効な申告」として取り扱われ、無申告加算税の賦課対象となります。無申告加算税の税率は納付すべき税額の15%(50万円超の部分は20%)です。うっかり書面で申告してしまうと、予想外の追加コストが発生します。


さらに実務面で見落とされがちなのが、グループ全社分の電子申告IDを揃える必要があるという点です。子会社が数十社あるグループでは、e-Tax環境の整備だけでも相当な準備コストと時間がかかります。グループ通算制度の導入を決めたら、電子申告インフラの整備を最優先課題として進めることが求められます。


参考リンク(国税庁が公表したグループ通算制度開始時の注意点パンフレット)。
国税庁:グループ通算制度が始まりました(PDF)


グループ通算制度の適用開始手続きと「一度始めると辞められない」リスク

グループ通算制度は、申請書を提出して国税庁長官の承認を受けることで適用開始となります。手続き自体はシンプルですが、「一度適用すると原則として任意に辞められない」という点は、金融・税務の専門家でも見落とされることがある重大なリスクです。


適用開始の手続きは以下のフローで進みます。



  1. 📅 申請書提出:適用を受けたい事業年度開始日の3か月前までに、親会社の納税地を管轄する税務署に「グループ通算制度の承認の申請書(兼)e-Taxによる申告の特例に係る届出書」を、親法人・全子法人の連名で提出する。

  2. みなし承認:申請後、適用開始事業年度の前日までに却下通知がなければ、自動的に承認とみなされる(承認通知書の到着を待つ必要はない)。

  3. 🏢 新規子会社の加入:M&Aや新設で期中に完全支配子会社が生じた場合、完全支配関係発生日から自動的に通算グループへ加入する(新たな申請不要)。


3月決算の企業グループが翌期4月1日から適用したい場合、申請書の提出期限は前年12月31日となります。1日でも遅れると適用は1年先送りになるため、スケジュール管理が重要です。


最も注意すべきは「取り止め」の困難さです。グループ通算制度を適用すると、「事務負担が予想以上に重かった」「節税効果がなくなった」という理由では離脱できません。制度は継続適用が原則であり、任意の取り止めは認められていません。


離脱が認められるのは、合併や破産など組織再編が生じた場合や、完全支配関係が解消された場合などに限られます。また、一度グループ通算制度を取り止めた法人(または連結納税制度から単体納税に戻った法人)は、原則として5年間、再加入できない制限もあります。


このように、グループ通算制度は「片道切符」の性質を持ちます。導入可否の検討には、複数のシナリオで税額シミュレーションを実施し、経理部門の事務負担増加や税理士報酬の上昇まで含めたコスト計算を行うことが不可欠です。特に、将来的なM&Aや子会社売却を計画しているグループは、離脱時の計算(投資簿価修正)が非常に複雑になるため、事前に税理士や専門家との協議を強くお勧めします。


グループ通算制度の判断は慎重に行うことが条件です。導入後に後悔しないために、まずは現行の単体納税での税額と、制度適用後の税額を比較する「有利・不利判定シミュレーション」から始めるのが実務の正攻法です。TKCグループが提供する「グループ通算(有利・不利)判定サービス」のような専門ツールを活用する方法も選択肢の一つとして検討してみてください。


参考リンク(AGSメディア:グループ通算制度の実務ポイントの詳細解説)。
AGSメディア:グループ通算制度とは?メリットやデメリット、繰越欠損金の注意点




ケーススタディでわかる グループ通算制度のM&A税務・組織再編税制・清算課税