秘密証書遺言の検認で知っておくべき手続きと注意点

秘密証書遺言の検認で知っておくべき手続きと注意点

秘密証書遺言の検認で知っておくべき手続きと注意点

検認を受けずに秘密証書遺言を開封すると、あなたは5万円の過料を科される可能性があります。


この記事の3つのポイント
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秘密証書遺言には必ず検認が必要

公正証書遺言と異なり、秘密証書遺言は相続発生後に家庭裁判所での検認手続きが法律で義務付けられています。検認なしには不動産登記や銀行手続きが一切できません。

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勝手に開封すると5万円の過料リスク

封印のある遺言書を家庭裁判所外で開封すると、民法1005条により5万円以下の過料に処せられる可能性があります。遺言の効力自体は失われませんが、ペナルティは避けられません。

検認には申立てから約1〜2ヶ月かかる

家庭裁判所への申立てから検認完了まで通常1ヶ月以上、繁忙期は2ヶ月以上かかるケースも。その間、遺産分割はストップします。スムーズに進めるためには事前準備が欠かせません。


秘密証書遺言とは何か|検認が必要になる理由


秘密証書遺言とは、民法970条で定められた遺言書の形式の一つで、内容を誰にも知られないまま「存在だけを公証役場で証明してもらう」という特殊な遺言書です。本文はパソコンで作成しても代筆でも構いませんが、署名と押印は必ず遺言者本人が行わなければなりません。封をしたうえで公証人1名・証人2名の前に提出し、封紙に公証人・遺言者・証人が署名押印することで効力を生じます。


気になる数字として、公正証書遺言の年間作成件数が約11万件以上あるのに対し、秘密証書遺言は年間わずか100件前後と言われています。つまり、秘密証書遺言は遺言書全体の0.1%にも満たない希少な方式です。


それにもかかわらず、この形式を選んだ場合に必ず発生するのが「検認(けんにん)」という手続きです。検認が必要になる理由は大きく2つあります。まず、遺言書の偽造・変造を防ぐためです。封がされているため、相続人全員の目の前で初めて開封することで、内容の改ざんが行われていないことを公式に確認します。次に、相続人全員に遺言の存在と内容を知らせるためです。知らないうちに財産が動いてしまうトラブルを防ぐ、重要な公的手続きといえます。


つまり検認は「遺言書の内容を審査するもの」ではないということですね。内容の正しさではなく、状態の確認と周知が目的です。この点を誤解している方が多く、「検認を受けたら遺言が有効になる」と思い込んでしまうケースがあります。検認はあくまで証拠保全の手続きであり、遺言の有効・無効を判断するものではありません。


なお、検認が不要な遺言は「公正証書遺言」と「法務局で保管した自筆証書遺言(2020年7月開始の遺言書保管制度利用分)」の2種類だけです。秘密証書遺言はどちらにも該当しないため、検認が必須になります。


裁判所公式:遺言書の検認|申立て費用・必要書類の詳細はこちら


秘密証書遺言の検認手続きの流れ|申立てから完了まで

秘密証書遺言の検認手続きは、大きく5つのステップで進みます。焦って動くと準備不足になりやすいので、全体の流れを先に把握しておくことが大切です。


① 必要書類を収集する


まず用意するものは以下のとおりです。


- 遺言書(封がある場合は封筒ごと)
- 検認の申立書(800円分の収入印紙を貼付)
- 遺言者の出生から死亡までのすべての戸籍謄本除籍謄本・改製原戸籍謄本を含む)
- 相続人全員の戸籍謄本
- 連絡用の郵便切手(裁判所によって異なるが110円切手×相続人の人数+数枚が目安)


この中で最も手間がかかるのが、遺言者の「出生から死亡まで」の戸籍謄本の収集です。転籍や改製があると複数の市区町村をたどる必要があり、数週間かかることもあります。戸籍謄本1通あたり450円、除籍謄本は750円程度の取得費用がかかります。


家庭裁判所に申立てをする


申立先は、遺言者(被相続人)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。申立てができるのは、遺言書の保管者または遺言書を発見した相続人です。申立て費用は遺言書1通につき収入印紙800円のみで、手続き自体は比較的安価です。


③ 検認期日の通知が届く


申立てが受理されると、裁判所から相続人全員に対して「検認期日(実施日)」の通知が郵送されます。ここまでに数週間〜1ヶ月程度かかります。これが費用のかかるポイントで、郵便切手(予納切手)は相続人の人数が多いほど多くなります。


検認期日には出席が義務づけられているのは申立人のみで、他の相続人の出席は任意です。全員がそろわなくても手続きは進みます。これは知らない方も多い点ですね。


④ 当日、裁判所で検認を受ける


申立人と出席した相続人の前で、裁判官が遺言書を開封して内容を確認します。かかる時間は5〜10分程度と短いです。当日は遺言書・申立人の印鑑・その他担当者から指示された書類を持参します。


⑤ 検認済証明書の受領


検認終了後、家庭裁判所に「検認済証明書」の発行を申請します。発行手数料は遺言書1通につき収入印紙150円です。この証明書が不動産の相続登記や銀行での預貯金解約手続きに必要となります。


申立てから検認完了まで、通常で1ヶ月、裁判所が混雑する時期には2ヶ月以上かかる場合もあります。その間、遺産分割はストップするので、早めの行動が原則です。


相続プロ:遺言書の検認とは?手続きの流れや必要書類・費用を徹底解説


検認を怠るとどうなるか|秘密証書遺言の開封リスクと過料

秘密証書遺言を発見したとき、「早く内容を確認したい」という気持ちから封を開けてしまう方がいます。しかしこれは、法律上明確なペナルティの対象になります。


民法1005条には次のように定められています。「遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、5万円以下の過料に処する」。これは刑事罰ではなく行政上の制裁ですが、金銭的な負担であることに変わりはありません。


誤解されやすい点として、「勝手に開封しても遺言書は無効にならない」という事実があります。開封行為そのものが遺言の効力を失わせるわけではないのです。しかし、過料リスクに加えて、他の相続人から「偽造・改ざんをしたのではないか」という疑いをかけられ、相続トラブルに発展するリスクが高まります。相続はただでさえ感情的になりやすい場面です。余計なトラブルの火種を作らないためにも、発見したらその場で開けずにすぐ家庭裁判所へ持参することが鉄則です。


また、検認を経ずに相続手続きを進めようとしても、実務上は壁にぶつかります。具体的には次のような手続きが一切できません。


- 不動産の相続登記(法務局が検認済証明書を要求する)
- 銀行・証券会社の預貯金・有価証券の解約・名義変更
- その他の相続手続き全般


結局、検認をスキップしようとすると相続手続きが完全にストップします。「5万円の過料だけ」では済まず、手続き全体が止まるデメリットのほうがはるかに大きいといえます。


さらに見落とされがちな点として、「封がない遺言書でも検認は必要」ということです。秘密証書遺言の場合、封がしてあることが前提ですが、仮に封がない状態で見つかっても、検認手続き自体は必須です。「封がないから検認不要」は誤りなので注意が必要です。


福地事務所:過料に注意!遺言書の検認とは|開封リスクを詳しく解説


秘密証書遺言の検認で見落とされやすい独自の落とし穴

一般的な解説記事ではほとんど触れられていない、秘密証書遺言ならではの検認の落とし穴が3点あります。金融や相続に関心のある方こそ、知っておくと後で大きな差がつく情報です。


落とし穴①:検認後に遺言が「無効」と判明するケースが少なくない


秘密証書遺言は封をしたまま公証役場に提出するため、公証人が内容をチェックしません。そのため、用語の誤り(たとえば法定相続人への財産贈与に「遺贈する」と書くべきところを「あげる」と書く)、財産の特定不足(「預金は全部妻に」と書いても口座番号の記載がないと特定できない)といった不備があっても、公証人には発見できないのです。


検認手続きを経て封を開けた時点で初めて内容の不備が判明し、「検認は完了したが遺言書としては無効」という残酷な結果になることがあります。これは検認が「内容の有効性を保証しない」という性質上、どうしても避けられないリスクです。


落とし穴②:民法971条の「救済規定」を知らずに損する


あまり知られていませんが、民法971条には「秘密証書遺言としての方式に欠けるものがあっても、自筆証書遺言の要件を備えているときは、自筆証書遺言としての効力を持つ」という救済規定があります。


つまり、もしパソコンではなく自筆で本文を書いていれば、秘密証書遺言として無効でも自筆証書遺言として有効になる可能性があるのです。これが「可能な限り自筆で作成すべき理由」です。パソコンで書いてしまうと、この救済を受けられません。秘密証書遺言を作成する際には必ず押さえておきたいポイントです。


落とし穴③:検認期日への欠席は認められるが、遅れは自分のデメリットになる


裁判所の公式説明でも「申立人以外の相続人の出席は任意」とされており、欠席しても直接のペナルティはありません。ただし、検認期日を欠席した相続人は、遺言の内容を知るタイミングが一歩遅れます。他の相続人が内容を先に把握したうえで動き始める中、自分だけが出遅れることになるのです。


遺産分割が始まってから不利な条件を提示されることもあります。なるべく出席し、自分の目で内容を確認することが、金銭的な損を防ぐうえでも重要です。


これら3つの落とし穴は、いずれも「お金・時間・法的リスク」に直結します。秘密証書遺言を残す側も受け取る側も、知っておくと選択肢が大きく変わります。


秘密証書遺言の検認後にすること|遺産分割への接続をスムーズに

検認が完了した後は、「検認済証明書」の取得から始まり、実際の遺産分割手続きへと進みます。ここで多くの方が戸惑うのが「検認=相続手続き完了」ではないという点です。検認はあくまでスタート地点です。


検認が終わったら最初にすることは、家庭裁判所で「検認済証明書」を申請・受領することです。費用は収入印紙150円のみです。この書類がなければ、その後のほぼすべての相続手続きが進みません。


次に、遺言書の内容に従って各種手続きを進めます。主な手続きと必要書類の概要は以下のとおりです。


| 手続き | 主な提出先 | 主なポイント |
|---|---|---|
| 不動産の相続登記 | 法務局 | 2024年から義務化。相続知った日から3年以内 |
| 銀行預貯金の解約・名義変更 | 各金融機関 | 検認済証明書+各金融機関所定の相続届が必要 |
| 株式投資信託の名義変更 | 各証券会社 | 証券口座ごとに手続きが異なる |
| 相続税の申告 | 税務署 | 相続発生を知った日から10ヶ月以内が期限 |


特に注意が必要なのが相続税の申告期限です。検認に1〜2ヶ月かかることを考えると、実質的に残りの準備期間は8〜9ヶ月になります。焦らないよう、検認申立と並行して相続財産の洗い出しも始めておくことをおすすめします。


遺言書の内容に「遺言執行者」が指定されている場合は、その人物が相続手続き全般を代行する権限を持ちます。遺言執行者がいれば、相続人全員の印鑑や書類を集める手間が大幅に省けます。遺言執行者として指名されていた人物が事前に知らされていない場合、急な連絡に驚いて辞退するケースもあるため、遺言作成の段階で当人と合意を取っておくことが理想的です。


また、検認後に遺言の内容に不満を持つ相続人がいる場合、「遺留分侵害額請求」という制度があります。これは法定相続人に最低限保証された取り分(遺留分)を侵害されたと感じた場合に、相続開始を知った日から1年以内に行使できる権利です。期限があるので注意が必要です。


秘密証書遺言の検認をスムーズに進めるうえで、戸籍謄本の収集や書類の作成が煩雑で不安な場合は、司法書士への依頼が現実的な選択肢です。司法書士への依頼費用の相場は5〜8万円程度(検認申立サポートのみの場合)で、書類収集から申立てまで一括して任せられます。弁護士に依頼する場合は10〜15万円程度が目安になります。検認後の遺産分割でトラブルが予想される場合は、弁護士に相談するほうがより適切です。


チェスター税理士法人:遺言書の検認は必要?欠席できる?流れ・費用を税理士が解説




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