

グループ通算制度を適用している法人でも、加入前に生じた欠損金は自社の所得からしか控除できず、他社の黒字には使えません。
特定欠損金とは、グループ通算制度において、その欠損金が生じた法人自身の所得の金額を限度としてしか控除が認められない繰越欠損金のことをいいます。法人税法第64条の7第2項に根拠規定があります。
具体的に該当するのは次のようなケースです。
- 通算親法人がグループ通算制度を開始する前の事業年度に生じた欠損金
- 通算子法人がグループ通算制度に加入する前の事業年度に生じた欠損金
- 通算法人に該当する事業年度において生じた欠損金のうち、損益通算の対象とならないもの
- 適格合併等によって通算法人に引き継がれた欠損金で一定の要件を満たすもの
なぜこのような制限が設けられているのでしょうか? それは、租税回避を防ぐためです。もし開始・加入前の欠損金を他の通算法人の所得から自由に控除できれば、「赤字会社をグループに取り込んで節税する」という行為を誰でも行えることになります。特定欠損金の制限は、こうした租税回避的な行動を防止するための重要な仕組みです。
自社の所得が限度です。 特定欠損金を控除できる上限は、損益通算後・欠損金控除前のその法人の所得金額となります。
たとえば、B社が1,200万円の特定欠損金を持っていても、その期の損益通算後所得が900万円であれば、当期に控除できるのは900万円が上限となり、残りの300万円は翌期以降に繰り越されます。
国税庁「No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除」(繰越欠損金の控除期間・限度額の基本ルール)
非特定欠損金とは、グループ通算制度の開始・加入後に通算グループ内で生じた欠損金のうち、特定欠損金以外のものをいいます(法人税法第64条の7第1項3号ロ)。
特定欠損金との最大の違いは、「控除できる法人の範囲」です。 非特定欠損金は、その欠損金を持っている法人だけでなく、グループ全体の通算法人で共有して使用できます。具体的には、A社が保有する非特定欠損金を、所得が出ているP社(親会社)やC社の損金算入に活用できるのです。
この「グループ共有」の仕組みは、次のように機能します。
- グループ全体の非特定欠損金の合計額を、各通算法人の損金算入限度額の残額の比率で配賦(按分)する
- 配賦された非特定欠損金配賦額が、その法人での損金算入限度額を超える場合は、欠損金の調整(組み替え)処理を行う
- グループ全体として損金算入限度額を最大限に活用する形で欠損金を控除する
これはグループ共有が原則です。 欠損金を保有している法人と、実際に欠損金を使用した法人が必ずしも一致しないため、計算は複雑になりますが、グループ全体での節税効果を最大化する仕組みとなっています。
また、非特定欠損金の特徴として、特定欠損金のように損金算入限度額(大企業は所得金額の50%)を超えて欠損金を控除することはできません。一方、特定欠損金は、グループ内で損金算入限度額の調整を行うことにより、その法人単体での限度額(50%)を超えて控除が認められる場合があります。
旭タックス「グループ通算制度の個別項目(欠損金)」(特定・非特定欠損金の分類と控除計算の概要)
2つの欠損金の性質は、以下の表で整理するとわかりやすくなります。
| 項目 | 特定欠損金 | 非特定欠損金 |
|---|---|---|
| 主な発生タイミング | 通算制度の開始・加入前 | 通算制度の開始・加入後 |
| 控除できる法人の範囲 | 欠損金が生じた法人のみ | グループ全体で共有 |
| 控除の上限 | その法人の損益通算後所得金額 | 損金算入限度額の範囲内 |
| 限度額超えの控除 | 調整計算により可能なケースあり | 不可 |
| 控除の順序 | 先に控除(優先) | 特定欠損金控除後に控除 |
| 設けられた目的 | 租税回避の防止 | グループ全体の税負担軽減 |
控除の順序が重要です。 同一の発生事業年度に特定欠損金と非特定欠損金の両方がある場合は、特定欠損金から先に控除する計算を行うことが法定されています(実務上の計算は法令上の順序ではなく、非特定欠損金の計算に特定欠損金の控除額が必要なため、この順序が必然的に導かれます)。
この順序を誤った処理をすると、繰越欠損金の翌期繰越額の計算に影響が出るため、実務では細心の注意が必要です。
アルファ総合会計事務所「実務家のための法人税塾:繰越欠損金の通算」(控除計算の設例と手順の詳細解説)
加入前の欠損金が原則として特定欠損金になるという点は多くの方が理解されています。しかし、実は一定の要件を満たすと、加入前に生じた欠損金でも「非特定欠損金」として扱われ、グループで共有できるケースがあります。
これが重要なポイントです。
支配関係が5年以上継続している場合などは、加入前の欠損金でも「非特定欠損金」となり、限度額の範囲内でグループ共有が可能です(法人税法57条等)。具体的には、支配関係発生日から通算制度加入前の期間を通じて継続して支配関係が続いており、かつその期間が5年を超えているようなケースが典型例として挙げられます。
逆に、5年以上の支配関係継続要件や共同事業要件を満たさない場合には、次のような制限が加わります。
- 含み損資産の実現損を損益通算に使えない制限(法人税法64条の6第1項)
- 多額の償却費が生じる事業年度の損益通算の制限(法人税法64条の6第3項)
- 新たな事業を開始した場合の欠損金の切捨て(法人税法57条第8項)
M&A直後の加入には注意が必要です。 企業買収によって新たに100%子会社になったばかりの法人は、支配関係5年継続要件を満たしていないため、加入前の欠損金は特定欠損金として厳しく制限されます。M&Aを検討する際は、この点を事前にシミュレーションしておくことが不可欠です。
AGSコンサルティング「グループ通算制度のメリットやデメリット、繰越欠損金の扱いを解説」(支配関係5年継続要件と欠損金区分への影響)
繰越欠損金の控除には「損金算入限度額」という上限があります。 大企業(中小法人等に該当しない法人)は、繰越控除前の所得金額の50%相当額が損金算入限度額です(平成30年4月1日以後開始事業年度)。
グループ通算制度では、この50%ルールはグループ全体に対して次のように機能します。
- 通算グループ全体の損金算入限度額は、各通算法人の欠損金控除前所得の50%の合計額として計算する
- 中小通算法人(グループ内に資本金1億円超の大法人が1社もいない場合)は100%(所得全額)が限度額
注意が必要なのは、グループ内に1社でも大法人(資本金1億円超等)が存在すると、グループ内のすべての法人が中小企業特例の対象外となり、全社一律で50%の限度額が適用される点です。
これは単体納税では考えられない仕組みです。
| 区分 | 損金算入限度額 |
|---|---|
| 中小通算法人(グループ全社が資本金1億円以下) | 所得金額の100%(全額) |
| 大通算法人(グループ内に1社でも大法人が存在) | 所得金額の50% |
| 更生法人等 | 所得金額の100%(全額) |
たとえば、親会社P社(大法人)と子会社A社(資本金5,000万円)がグループを組む場合、A社も中小法人特例の適用外となり、50%の限度額が課せられます。これを知らずに試算すると、節税効果を過大評価してしまうリスクがあります。
あいわ税理士法人「グループ通算制度における申告上及び会計上の留意点」(中小法人判定と損金算入限度額の実務解説)
特定欠損金の損金算入額は、以下の算式で計算します(法人税法64条の7第1項3号イ)。
特定欠損金の損金算入限度額 = その法人の特定欠損金額(欠損控除前所得金額を限度)× グループ全体の損金算入限度額の合計額 ÷ グループ全体の特定欠損金額(欠損控除前所得を限度にした金額)の合計額
具体例で確認します。P社、A社、B社の3社がグループ通算制度を適用しており、それぞれ次の状況とします。
- P社:損益通算後所得4,000万円、特定欠損金なし
- A社:損益通算後所得2,000万円、特定欠損金2,800万円(控除前所得2,000万円が上限)
- B社:損益通算後所得900万円、特定欠損金1,200万円(控除前所得900万円が上限)
この場合、グループ全体の損金算入限度額は(4,000+2,000+900)×50%=3,450万円となります。
そして特定欠損金額の合計(所得上限後)は2,000+900=2,900万円となるため、比率が1を超えない(3,450÷2,900>1)ため、特定欠損金2,900万円は全額控除の対象となります。
計算順序が原則です。 ただし、各法人別に損金算入限度額の「調整計算」が必要になり、超過額と不足額を法人間で配分する作業が伴います。これがグループ通算制度の実務を難しくしている要因の一つです。
非特定欠損金の計算で独特なのが「配賦(按分)計算」です。 非特定欠損金はグループ全体で共有されるため、単純に「持っている法人が使う」のではなく、算式によってグループ内の各法人に配り直す計算を行います。
非特定欠損金配賦額 = グループ全体の非特定欠損金合計額 × その法人の損金算入限度額(特定欠損金控除後の残額) ÷ グループ全体の損金算入限度額(特定欠損金控除後)の合計額
この計算により、「所得がある法人には多く、所得がない法人には少なく」配賦されます。たとえばC社が1,000万円の非特定欠損金を持っていても、その期の損益通算後所得がゼロで損金算入限度額がない場合、C社での損金算入額は0となります。代わりにP社などの所得がある法人に配賦され、グループ全体として欠損金控除のメリットを享受できる仕組みです。
これは使えそうです。 この配賦の仕組みは、欠損金を保有している法人と使用した法人が異なっても成立するため、グループ通算制度特有の「欠損金の実質的なグループ共有」を実現しています。
ただし注意点として、配賦後の非特定欠損金配賦額が、その法人が実際に保有する非特定欠損金を上回る場合、その超過額は欠損金に加算(組み替え)される処理が必要になります(法人税法64条の7第1項2号ハ)。逆に不足する場合は欠損金から控除する調整が行われます。
TKCグループ「第3回:損益通算と欠損金の通算」(非特定欠損金の配賦計算の仕組みと連結納税制度との違い)
グループ通算制度では、すべての繰越欠損金がグループに持ち込めるわけではありません。一定の要件を満たさない法人の欠損金は、制度開始・加入時に「切捨て」となります。
痛いですね。
切捨ての対象になる代表的なケースは以下の通りです。
- 支配関係が生じた後5年以内の通算加入法人で、①事業の同一性がなく、②共同事業要件も満たさない場合
- 時価評価法人(開始・加入時に保有資産を時価評価する必要がある法人)に該当する場合
時価評価の対象となる法人は、保有資産の含み益に対して課税が生じるだけでなく、保有する繰越欠損金も切り捨てられる可能性があります。M&A直後に子会社をグループ通算制度に加入させると、資産の時価評価課税と欠損金の切捨てが同時に生じるリスクがある点は、特に見落としがちです。
一方、「時価評価除外法人」に該当すると時価評価は免除されます。時価評価除外法人とは、支配関係が5年以上継続しており、かつ事業継続が確保されているなどの要件を満たす法人を指します。こうした法人は開始・加入前の欠損金をグループに持ち込むことができ、特定欠損金として活用できます。
欠損金の切捨てを事前に回避するためには、M&A後に5年以上待ってから通算グループに加入させるか、共同事業要件を満たす組織再編の形をとるかなど、戦略的な対応が必要です。税理士や公認会計士との事前相談が不可欠な場面といえます。
2022年4月1日以後に開始する事業年度から、連結納税制度はグループ通算制度に移行しました。この移行に伴い、欠損金の扱いも引き継ぎルールが設けられています。
連結納税制度からグループ通算制度に移行した場合の欠損金の引継ぎは以下の通りです。
- 特定連結欠損金個別帰属額 → 移行後は「特定欠損金」として引き継がれる
- 非特定連結欠損金個別帰属額 → 移行後は「非特定欠損金」として引き継がれる
つまり移行前後でも区分は維持されます。
これが原則です。
移行によって欠損金の性質が変わるわけではなく、制度変更に伴う混乱を最小化するための措置です(令和2年3月改正法附則20条第1項・第7項、28条第3項)。
ただし、連結納税制度の計算ロジックとグループ通算制度の計算ロジックは異なるため、移行後に欠損金の控除額が変わることがあります。特に非特定欠損金の按分計算の方式が変わったことで、旧制度の試算をそのまま流用すると実際の控除額と乖離が生じる可能性がある点には注意が必要です。
旧制度(連結納税)では非特定欠損金を使うにあたってグループ全体の所得から直接控除できましたが、グループ通算制度では各法人の損金算入限度額の比で按分してから控除するという手順が加わっています。
PwC Japan「グループ通算制度の税効果に関連する税務の取扱い」(連結納税制度からの移行と欠損金区分の引継ぎ)
グループ通算制度を適用している上場企業や監査対象企業では、繰延税金資産の計上に際して「回収可能性の判定」が必要です。これが実務において非常に難しい論点となっています。
税効果会計において、繰越欠損金に係る繰延税金資産を計上できるかどうかは、将来の課税所得の見込みによって判定します。グループ通算制度では、この判定をグループ全体で行う点が特徴です。
特定欠損金と非特定欠損金では、回収可能性の評価が異なります。
- 特定欠損金(特定繰越欠損金):その法人自身の将来課税所得でしか回収できないため、自社の収益見通しを基に回収可能性を判断する
- 非特定欠損金:グループ全体の将来課税所得を基に回収可能性を判断できるため、自社が赤字でもグループ全体が黒字なら繰延税金資産を計上できる可能性がある
これは大きなメリットですね。 単体納税では自社の将来所得がなければ繰延税金資産を計上できませんが、グループ通算制度では非特定欠損金について「グループ全体の稼ぎ」を根拠にできます。
ただし、特定欠損金に係る繰延税金資産は、自社単独での回収可能性判定が必要なため、自社の業績が悪いと計上できないリスクがあります。財務諸表上で繰延税金資産が過大計上にならないよう、監査法人との入念な協議が求められます。
この取扱いは、企業会計基準委員会の実務対応報告第42号「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」に基づいています。
EY Japan「グループ通算制度における繰越欠損金の実務〜税効果会計の処理を中心に〜」(回収可能性の判定ロジックと計算例)
欠損金の区分を誤ると、税務申告の誤りに直結し、修正申告や更正処分のリスクが生じます。これは単純なミスに見えても、グループ全体の税額計算に影響を与えます。
典型的な誤りのパターンとして、次のようなものがあります。
1. 加入前の欠損金を非特定欠損金と誤認:加入前の欠損金は原則として特定欠損金のため、他の通算法人の所得から控除しようとすると違法になります
2. 支配関係5年継続要件の確認漏れ:要件を満たすかどうかを確認しないまま欠損金をグループに持ち込もうとすると、切捨ての対象となる可能性があります
3. 控除順序の誤り:特定欠損金を先に控除する計算手順を誤ると、翌期繰越額の計算がズレます
グループ通算制度では、誤りがあった場合でも「遮断措置」により原則として修正対象法人のみで修正が完結します。しかし、当初申告における配賦計算の数値はグループ他社に影響を与えるため、当初申告の精度が非常に重要です。
数字のズレは連鎖します。 当初申告で欠損金配賦額が誤っていた場合、修正申告を行う際もその誤った配賦額は固定されたまま(他の通算法人には影響が遮断される)となり、後から修正できる範囲が限られます。初回の申告でミスをしないことが、実務上最も重要です。
専用の税務申告ソフトの活用や、グループ通算制度に精通した税理士・公認会計士によるレビューが、このリスクを低減するための有効な対応策です。
ここでは、教科書的な説明ではなく、実務で気づきにくい論点を取り上げます。
まず、損益通算との相互関係です。 特定欠損金の控除可能上限は「損益通算後」の所得金額です。つまり、特定欠損金を多く控除したい法人は、損益通算によって所得が減ってしまうと、上限が下がってしまうという逆説的な状況が生じます。損益通算は特定欠損金の控除前に行われるため、グループ全体最適を考えると、各法人の損益通算後所得と特定欠損金残高のバランスを意識した戦略設計が求められます。
次に、期をまたいだ繰り越しの問題があります。 特定欠損金は控除しきれなかった分が翌期以降に繰り越されますが、繰越欠損金全体の控除期間は欠損が発生した事業年度の翌期から10年間です。グループ通算制度への加入が遅れると、持ち込める欠損金がすでに時効(10年経過)を迎えているケースもあります。M&A後に通算グループへの加入時期を検討する際は、対象会社の繰越欠損金の残存期間の確認が欠かせません。
加えて、特定欠損金は「その法人の所得からしか控除できない」という制限があるため、その法人が将来的に十分な所得を上げられるかどうかが、節税効果の実現可否を左右します。収益力が低い子会社が持ち込んだ大量の特定欠損金は、実際にはほとんど使えないまま10年の期限を迎えてしまうこともあります。
| 注意ポイント | 内容 |
|---|---|
| 損益通算との関係 | 損益通算後の所得が特定欠損金の上限となるため、損益通算が多いほど上限が下がる |
| 10年の控除期限 | グループ加入が遅い場合、欠損金が期限切れになるリスクがある |
| 法人の収益力 | 自社の所得が小さい法人の特定欠損金は、実質的に使えない可能性がある |
| M&A後の加入タイミング | 支配関係5年未満で加入すると欠損金が切り捨てられる恐れがある |
これは知らないと損します。 グループ通算制度の導入効果をシミュレーションする際は、欠損金の種類(特定・非特定)、残存期間、将来の収益見込みを法人ごとに精緻に分析することが、節税効果の最大化につながります。
グループ通算制度における特定欠損金と非特定欠損金の最大の違いは「控除できる範囲」です。特定欠損金は自社の所得内でしか使えませんが、非特定欠損金はグループ全体で共有して活用できます。
正確な区分と計算が条件です。 この区分を正確に把握し、控除計算の順序・限度額・配賦処理を誤りなく行うことが、グループ全体での法人税負担の最適化に直結します。また、M&Aや組織再編の場面では、支配関係の継続期間や時価評価要件を事前に確認することで、欠損金の切捨てリスクを回避できます。
グループ通算制度は、節税の強力なツールである一方、一度適用したら原則として取りやめられない制度です。特定欠損金と非特定欠損金の違いを正確に理解した上で、専門家のアドバイスを受けながら戦略的に活用していきましょう。
国税庁「No.5900 グループ通算制度の概要」(制度全体の公式解説・最新情報の確認に)