

収益が年間3万円を超えると、あなたは最大50万円の罰金リスクを負います。
「信託の計算書」とは、家族信託(民事信託)の受託者が、1年間の信託財産にかかる収益・費用・資産残高の状況を税務署に報告するための法定調書です。所得税法第227条に基づく義務であり、報告を怠った場合は所得税法第242条により、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が課せられる可能性があります。これは法律上の義務です。
すべての家族信託に提出義務があるわけではありません。提出が必要かどうかは、信託財産から発生した1年間の収益合計額によって判断します。
| 収益の状況 | 提出の要否 |
|---|---|
| 年間の収益合計が 3万円を超える 場合 | ✅ 必要 |
| 年間の収益合計が 3万円以下 の場合 | ❌ 不要 |
| 計算期間が1年未満で 1万5千円以下 | ❌ 不要 |
| 収益が発生しない(自宅のみ・無利息の金銭) | ❌ 不要 |
3万円というのは、コーヒー1杯500円換算で60杯分ほどの金額です。賃貸アパートや貸駐車場を信託財産に含めている場合は、ほぼ確実にこの基準を超えます。収益不動産がある受託者は、原則として毎年提出が必要と考えておきましょう。
重要なのは、「受益者が確定申告をしているから自分は関係ない」という思い込みです。受益者の確定申告とは別に、受託者が独立して「信託の計算書」を提出する義務があります。この二重の提出義務を知らないまま放置すると、罰則リスクを抱えることになります。罰則規定があると認識しておくのが原則です。
提出期限は毎年1月31日です。前年1月1日〜12月31日の信託財産の収支を翌年1月31日までに提出します。確定申告の3月15日よりも早い締め切りであることに注意が必要です。
「信託の計算書」の様式は、国税庁のウェブサイトからPDFファイルをダウンロードして使用します。以下では、実際の記入欄①〜㉚について、具体的な記載例を交えて解説します。
【基本情報欄(①〜⑩)の記載例】
| 記入欄 | 記載内容・具体例 |
|---|---|
| ①欄 | 収益が発生した年。例:自 令和6年1月1日 至 令和6年12月31日 |
| ②欄 | 受益者の住所(例:東京都練馬区○○1-2-3) |
| ③欄 | 受益者の氏名(例:山田 花子) |
| ④欄 | 委託者の住所 |
| ⑤欄 | 委託者の氏名 |
| ⑥欄 | 該当者のマイナンバー(個人番号)。自益信託では②③と同じ人物が3回登場するため、受益者の住所・氏名を繰り返し記載することになります |
| ⑦欄 | 受託者の住所(この住所の管轄税務署が提出先になります) |
| ⑧欄 | 受託者の氏名(例:山田 太郎) |
| ⑨欄 | 書面を作成した日付(例:令和7年1月20日) |
| ⑩欄 | 受託者のマイナンバー |
自益信託(委託者=受益者)の場合は、収益を受け取る受益者・元本の受益者・委託者がすべて同一人物となります。そのため、同じ住所・氏名を3回書くことになりますが、これは間違いではありません。つまり同一人物の繰り返し記載で問題ありません。
【信託契約情報欄(⑪〜⑭)の記載例】
| 記入欄 | 記載内容・具体例 |
|---|---|
| ⑪欄 | 信託の開始・終了時期。終了が「受益者死亡まで」の場合は年月日の箇所を二重線で消し「受益者が死亡するまで」と記載 |
| ⑫欄 | 信託の目的。長い場合は「受益者の不動産の管理」など要約でもOK |
| ⑬欄 | 受益者変更があった場合の原因(相続・贈与・売買など) |
| ⑭欄 | ⑬の事情が発生した日付 |
【財産交付欄(⑮〜⑰)の記載例】
受託者から受益者へ交付した財産の種類と金額を記入します。家賃収入を受益者に渡した場合は「金銭」と記載し、その金額と時期を記入します。家電などの物品を購入して交付した場合は、この欄への記載は不要です。
【収益・費用欄(㉓〜㉖)の記載例】
| 記入欄 | 記載内容・具体例 |
|---|---|
| ㉓欄 | 収入の明細。賃貸料・礼金・更新料など。確定申告の収支内訳書と同様の内容ですが、信託財産のみを記載します |
| ㉔欄 | 収入の合計金額 |
| ㉕欄 | 費用の明細。固定資産税・修繕費・管理費・借入金利子・減価償却費など |
| ㉖欄 | 費用の合計金額 |
ここで多くの人が間違えるのが「確定申告書と同じ内容を書けばいい」という思い込みです。確定申告では自己保有の不動産も含めてすべての不動産所得を記載しますが、信託の計算書には信託財産分のみを記載します。この点が確定申告書との決定的な違いです。確定申告との混同に注意が必要です。
【資産・負債欄(㉗〜㉚)の記載例】
| 記入欄 | 記載内容・具体例 |
|---|---|
| ㉗欄 | 信託財産の資産一覧。取得価額を基本に記載(減価償却資産は償却後の価額) |
| ㉘欄 | 資産合計額 |
| ㉙欄 | 借入金等の負債。借入先と金額を記入 |
| ㉚欄 | 資産合計−負債合計=純資産額 |
「信託の計算書合計表」は、信託の計算書とセットで提出する書類です。複数の信託契約を管理している場合に全体をまとめる役割を持ちますが、1件しか契約がない場合でも提出が必要です。これが合計表の原則です。
合計表の様式も国税庁のウェブサイトからダウンロードできます。記入欄は①〜㊱と多く見えますが、1契約のみの場合は転記作業が中心になります。
【合計表の主な記入欄】
| 記入欄 | 記載内容 |
|---|---|
| ①欄 | 収益が発生した年 |
| ②欄 | 書面を提出する日付 |
| ③〜⑥欄 | 受託者の住所・マイナンバー・氏名・代表者名(法人の場合のみ) |
| ⑦欄 | 調書の提出区分:「新規」「追加」「訂正」「無効」から選択 |
| ⑫欄 | 計算書の件数(受益者の人数) |
| ⑬〜⑯欄 | 収益・費用・資産・負債の合計額。計算書の㉔⑥⑧㉚の数値を転記 |
| ㉒〜㉖欄 | 不動産を信託している場合の件数・収益・費用・資産・負債 |
合計表⑦欄の提出区分は、初めて提出する場合は「新規」です。前年に提出済みで内容を修正する場合は「訂正」を選びます。提出区分の選択ミスは比較的よくあるミスなので、初回提出か再提出かを確認しておきましょう。
受益者が複数いる場合は、受益者の人数分の計算書を別々に作成し、合計表の⑫欄にその件数を記入します。たとえば受益者が2名いる場合は、計算書2枚+合計表1枚の計3枚を一緒に提出します。受益者ごとに1枚が基本です。
家族信託で税務署に提出する書類は「信託の計算書」と「信託の計算書合計表」だけではありません。実は全部で4種類の書類が存在します。
- 📋 信託の計算書(毎年提出:受託者の義務)
- 📋 信託の計算書合計表(毎年提出:上記とセット)
- 📋 信託に関する受益者別(委託者別)調書(開始・変更・終了時)
- 📋 信託に関する受益者別(委託者別)調書合計表(上記とセット)
「信託の計算書」が毎年1月31日に提出するのに対し、「受益者別調書」は信託の開始・変更・終了のイベントが起きた月の翌月末日までに提出します。これは発生した月の翌月末が条件です。
受益者別調書の提出が必要になる主な場面を整理しておきます。
| 場面 | 提出の要否 |
|---|---|
| 信託開始時(自益信託:委託者=受益者) | ❌ 原則不要 |
| 信託開始時(他益信託:委託者≠受益者かつ財産価額50万円超) | ✅ 必要 |
| 受益者が変更になった場合(財産価額50万円超) | ✅ 必要 |
| 受益者(親)が死亡し信託終了(財産価額50万円超) | ✅ 必要 |
| 受益者存命で財産が受益者に戻るケース | ❌ 不要 |
ここで多くの人が勘違いするポイントがあります。家族信託を開始したときに「何か税務署に届け出が必要なのでは?」と思う方は多いのですが、一般的な自益信託(委託者=受益者)の開始時は提出不要です。意外ですね。
ただし、親から子へ財産の利益が移る「他益信託」を組んだ場合は、その時点で贈与税の課税問題が発生する可能性があり、受益者別調書の提出も義務になります。信託契約の設計段階で税理士に確認しておくことが重要です。
受益者別調書には、信託財産の種類・所在場所・相続税評価額などを記載します。評価額が50万円以下の場合は提出免除になるため、自宅のみを信託した場合でも評価額によっては提出が不要です。50万円が基準であることは覚えておきましょう。
国税庁|F2-5 信託に関する受益者別(委託者別)調書(同合計表)の手続き案内
「信託の計算書」の提出方法は3つあります。税務署窓口への持参、郵送、そしてe-Taxによる電子送信です。近年はe-Taxを使う人が増えており、実際に家族信託の受託者として自分で申告した体験者の報告では、1時間もかからず完了したとされています。これは使えそうです。
ただし、e-Taxを使う場合には重要な注意点があります。確定申告で使うe-Tax「Web版」ではなく、「ソフト版」のインストールが必要です。法定調書の提出に対応しているのはソフト版のみのため、間違えて Web 版で作業しても信託の計算書を提出できません。
e-Taxによる提出手順(概要)
1. 🖥️ e-Taxソフト(ソフト版)をPCにインストール
2. 📝 「法定調書関係の信託の計算書」と「信託の計算書合計表」の2帳票を入力
3. 🔐 マイナンバーカードで電子署名(カードリーダーまたはスマートフォンが必要)
4. 📤 データを送信して完了
入力する数字は、収益・費用・資産・負債の各合計額です。日頃から通帳や領収書を整理して仕訳を管理していれば、転記作業が中心になり特別な計算は必要ありません。日々の記録管理が9割といえます。
三井住友信託銀行の「信託の蔵人」など、信託口口座を持つ人向けのサポートシステムを活用すると、仕訳データから計算書の数値が自動集計されるため、e-Tax への転記が格段に楽になります。信託口口座を持っていない場合でも、手書きの家計簿アプリやExcelで収支管理を習慣化しておくことが、1月の提出作業を楽にする最善策です。
紙で提出する場合は、作成した「信託の計算書」と「信託の計算書合計表」を、受託者の住所地を管轄する税務署へ持参または郵送します。受益者の住所地ではなく、受託者の住所地が基準になる点は非常に重要です。勘違いして受益者の管轄税務署に提出してしまうケースが見受けられますが、それは正しい提出先ではありません。受託者の住所地が原則です。
また、e-Taxでの送信も郵送も、提出期限は変わらず1月31日です。消印有効ではなく、税務署に届いた日が提出日とみなされる場合があるため、郵送の場合は余裕をもって発送しましょう。
家族信託の受託者が「信託の計算書」を提出することで、税務上の義務はすべて終わりではありません。信託財産から収益を受け取る受益者も、別途確定申告が必要です。受託者の提出義務と受益者の確定申告義務は、完全に独立した別々の義務です。
受益者が確定申告で提出する書類は、通常の確定申告書に加えて以下が必要になります。
- 📑 確定申告書(不動産所得がある場合)
- 📑 不動産所得に関する明細書(通常の収支内訳書 or 青色申告決算書)
- 📑 信託から生ずる不動産所得の金額の計算に関する明細書(信託不動産分の賃貸料・減価償却費・借入金利子等を記載)
受益者が自己保有の不動産と信託不動産の両方を持っている場合は、それぞれの明細書を別々に作成して提出します。混在する場合は損益を分けて計算する必要があります。混在している場合は要注意です。
さらに注意が必要なのは、信託財産から生じた損失は、信託外の所得と損益通算できないという点です。たとえば信託財産の賃貸アパートで赤字が出た場合、それを受益者の給与所得と相殺して節税することはできません。これは家族信託の制度上のルールであり、使い始めてから気付く人も少なくない落とし穴です。損益通算不可が条件です。
一方で、信託財産の確定申告には青色申告を適用することも可能です。青色申告特別控除(最大65万円)を活用できる可能性があるため、税理士に相談しながら進めることで節税効果が得られる場合があります。この点はあまり知られていない独自の視点ですが、信託財産を持つ受益者にとっては大きなメリットにつながります。青色申告の活用を一度検討することをおすすめします。
税務署への提出義務は受託者(子)が、確定申告の義務は受益者(親)が、それぞれ別々に果たす必要があります。どちらかが怠っても、それぞれにペナルティのリスクが生じます。つまり家族全体で役割を分担して管理することが大切です。
家族信託の税務に関しては、実務に精通した税理士のサポートを受けることで、記載例の確認から提出まで安心して進めることができます。国税庁が提供する「確定申告書等作成コーナー」も活用できますが、信託絡みの申告は専門性が高いため、初年度は専門家への相談を検討するとよいでしょう。
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