

働いて得た収入を申告しても、40%の加算金つきで全額返還を求められることがあります。
収入認定とは、生活保護の支給額を決めるために、受給者が得たお金や現物を「収入」として把握・計算するプロセスです。生活保護法は憲法第25条に基づく制度で、「健康で文化的な最低限度の生活」に必要な最低生活費と、本人の収入との差額を補填するという考え方が根本にあります。
計算の基本式はシンプルです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 最低生活費(基準額) | 国が地域・世帯構成をもとに算定した金額 |
| 収入認定額 | 受給者が得た収入から控除を差し引いた金額 |
| 支給額 | 最低生活費 − 収入認定額 = 支給される生活保護費 |
たとえば最低生活費が10万円、就労収入が3万円の場合、単純計算では7万円が支給されます。ただし後述する「勤労控除」が適用されるため、実際の手取り合計は10万円を上回ることがほとんどです。これが重要です。
収入認定の対象は現金だけではありません。現物給付(食料や衣類などの物品支援)も含まれます。さらに定期的なものだけでなく、臨時収入も原則として対象になります。つまり「一時的にもらったお金だから申告不要」という判断は、制度上は通用しません。
収入認定は月額単位で行われます。確実に見込める収入があればその額を、変動が大きい場合は直前3か月間の平均で計算されることが多いです。これが原則です。
収入認定の対象として代表的なものをまとめると、就労による給与・賞与・各種手当、農業や自営業の売上収入、老齢・障害・遺族年金、失業給付や各種社会保障手当、親族からの仕送りや食料などの現物援助、不動産収入や利息・配当金、保険の給付金・還付金、フリマアプリの売上なども含まれます。
📎 生活保護制度の基本的な枠組みと収入認定の構造については、厚生労働省の公式資料で確認できます。
就労収入があっても、稼いだ全額が生活保護費から差し引かれるわけではありません。これは意外に思う人も多いポイントです。働くことで発生するコスト(交通費・被服費・職場での交際費など)を考慮した「控除制度」があり、手元に残るお金が増える仕組みになっています。
控除には大きく「実費控除」と「勤労控除」の2種類があります。
実費控除(領収書が必要)
実際に支出した金額をそのまま差し引けるものです。主なものとして、社会保険料(健康保険・厚生年金・雇用保険)、所得税・住民税、労働組合費、通勤交通費の実費などが挙げられます。給与明細で天引きされた社会保険料や税金は、総支給額から差し引けます。
勤労控除(就労インセンティブ控除)
領収書不要で、収入額に応じて定められた金額を一括して差し引けるものです。主な種類は以下のとおりです。
| 控除の種類 | 金額・条件 |
|---|---|
| 基礎控除 | 上限33,190円(1級地)。月収8,000円までは全額控除。収入が増えるほど段階的に控除額が上がる仕組み。 |
| 特別控除 | 年間勤労収入の1割相当(上限年額150,900円・1級地)。年間を通じた臨時的な出費に対応。 |
| 新規就労控除 | 月額10,300円(全級地共通)。新たに継続的な仕事に就いた場合、最初の6か月間適用。 |
| 未成年者控除 | 月額11,600円(全級地共通)。20歳未満の就労者が対象。 |
具体的なイメージをつかむために計算例を示します。最低生活費が13万円、月収が5万円の場合を見てみましょう。5万円のときの基礎控除額は約15,220円です。
収入認定額 = 50,000円 − 15,220円 = 34,780円
支給額 = 130,000円 − 34,780円 = 95,220円
手元合計 = 95,220円 + 50,000円 = 145,220円
何も働かない場合の13万円と比べると、約1万5,000円多くなります。これは使えそうです。
基礎控除の金額は収入に応じて細かく段階が設定されており、月収15,200円未満の場合は収入と同額が控除されるため、収入認定額はゼロになります。この水準では生活保護費が1円も減らない計算になります。
📎 基礎控除の金額テーブルは広島県の公式資料で一覧表示されています。
すべての収入が認定の対象になるわけではありません。これが「収入認定除外」という制度です。一定の金銭・物品は、その性質や趣旨を考慮して収入として扱わない取り扱いが認められています。
ただし注意が必要です。収入認定除外であっても、収入があったこと自体はケースワーカーへ報告する義務があります。「認定外だから報告しなくていい」ではなく、報告した上で「認定しない」という判断が下される流れです。認定外かどうかは報告が条件です。
代表的な収入認定除外の例をまとめます。
一方、「これは大丈夫だろう」と誤解されやすいが認定対象になるものも多くあります。メルカリ等のフリマアプリの売上、ギャンブル(パチンコ・競馬)の勝ち金、借金(手元に現金が入る以上は収入とみなされる場合がある)、保険金・年末調整の還付金、株式や投資信託の配当・売却益なども含まれます。
株の配当や投資収益は収入認定の対象です。また生活保護受給中は、原則として株式や有価証券の保有そのものが禁止されています。金融に関心のある方ほど、この点は意識しておく必要があります。
収入認定の仕組みを理解したうえで最も重要なのが、申告義務の厳守です。収入が発生したら、速やかに担当のケースワーカーや福祉事務所に報告することが生活保護法上の義務として定められています。
申告が必要なタイミングは3つあります。保護開始・変更申請時、福祉事務所による定期または随時の認定時、そして世帯の収入に変動があったとき(変動が予測されるときも含む)です。
申告しなかった場合のリスク
「少し働いただけだから」「現金手渡しだからバレないだろう」という判断は通用しません。厳しいところです。福祉事務所は強力な調査権限を持っており、主な手段として以下を駆使します。
現金手渡しのアルバイトも、翌年の課税調査で発覚します。数か月後・数年後でも追跡が可能です。バレた場合のペナルティは非常に重く、不正に受け取った金額を全額返還する必要があります。悪質と認定された場合は、さらに40%の加算金が上乗せされます。保護の停止・廃止処分を受ける可能性もあります。手口が悪質な場合(虚偽書類の提出など)は、詐欺罪として刑事告発・逮捕のリスクもあります。
月3万円を半年間申告しなかったとすると、返還対象は18万円、加算金を含めると最大25.2万円になります。痛いですね。
申告することのメリット
収入を正直に申告すれば、前述の勤労控除が適用され、働いた分だけ手元のお金は実際に増えます。こっそり働いてリスクを抱えるより、正直に申告して控除の恩恵を受けた方が経済的に得です。つまり申告が最善策です。
📎 不正受給の判断基準と返還金の取り扱いについては、厚生労働省の実施要領で詳細が確認できます。
厚生労働省「生活保護費の費用返還及び費用徴収決定の取扱いについて」(PDF)
金融や資産形成に関心がある人にとって、生活保護の収入認定制度は特に注意が必要な領域です。一般的な節税・資産運用の感覚で動いてしまうと、制度のルールに抵触しやすい落とし穴が存在します。
「借金は収入ではない」という感覚が危険
日常の金融感覚では、借りたお金は収入ではなく「負債」です。しかし生活保護の収入認定においては、手元に現金が入った事実そのものが「収入」と扱われるケースがあります。友人からの借入金や消費者金融からの融資も申告対象になり得ます。借り入れをしたらすぐに相談が必要です。
株・投資信託・配当金の扱い
生活保護受給中は、原則として株式や投資信託などの有価証券を保有できません。資産運用による利益は「最低限の生活保障」という制度趣旨と矛盾するためです。受給申請時に保有している場合は申告し、処分・換金が求められます。この処分益も収入認定の対象です。NISA口座なども例外ではありません。
フリマアプリ・副業の見落とし
メルカリやヤフオクなどのプラットフォームで不用品を売った売上も、継続性があれば収入認定の対象となります。「不用品の処分だから大丈夫」という判断は危険です。また、ライターやデザインなどのクラウドソーシング収入も当然対象です。
収入認定と確定申告の「二重控除」はできない
確定申告では必要経費を計上して所得を圧縮できます。しかし生活保護の収入認定と確定申告は別の制度です。確定申告で経費として計上したものを、生活保護の実費控除でも重複して差し引くことは基本的にできません。金融知識があると「節税」の感覚で動きがちですが、仕組みが異なります。ここは別物として認識することが重要です。
収入認定の「翌月調整」の仕組み
収入認定に基づく保護費の調整は翌月以降に反映されます。15日以前に入った収入は当月分として、16日以降の収入は翌月分として計算されるのが一般的です。月末近くに収入が入った場合、保護費の調整タイミングがずれることがあるため、事前にケースワーカーへ確認しておくと安心です。
生活保護の収入認定制度に疑問が生じたときは、ケースワーカーへの相談が第一です。自己判断で申告を省略すると、後から深刻な返還問題に発展するリスクがあります。疑問はすぐ確認が鉄則です。
📎 生活保護受給中の収入申告の基本的な流れは、東京都福祉局の公式資料でもまとめられています。