

相続税の未成年者控除は、18歳未満の相続人が遺産を取得した場合に、算出された相続税額から一定額を直接差し引ける「税額控除」制度です(相続税法第19条の3)。
注意したいのは、「遺産額そのものを減らす」のではなく、「計算後の税額から引く」という点です。これが相続税の基礎控除とは根本的に異なるところです。基礎控除は課税価格から引き算しますが、未成年者控除は税額そのものから引き算します。つまり、控除の効果がより直接的で大きくなります。
なぜこの制度が設けられたのでしょうか? 未成年者はまだ働いておらず収入がほぼゼロです。さらに18歳になるまでには教育費や養育費など多額のお金が必要です。そうした現実を踏まえ、未成年者の経済的負担を軽くするために国が設けた制度です。
控除額の計算式は次のとおりです。
| 計算式 | 内容 |
|---|---|
| (18歳 - 相続時の年齢) × 10万円 | 相続時の年齢は満年齢で計算。1年未満の端数は切り捨て |
具体的な金額イメージを持つために、年齢別の控除額を確認してみましょう。
| 相続時の年齢 | 未成年者控除額 |
|---|---|
| 0歳(胎児) | 180万円 |
| 5歳 | 130万円 |
| 10歳 | 80万円 |
| 15歳 | 30万円 |
| 17歳 | 10万円 |
つまり、年齢が若ければ若いほど控除額は大きくなります。これが原則です。
なお、令和4(2022)年3月31日以前に相続が発生した場合は、上限年齢が「20歳」でした。民法の成年年齢引き下げにともない、令和4年4月1日以降の相続からは18歳に変更されています。これは知らない方も多いポイントです。
未成年者控除は要件を満たさない限り1円も適用できません。4つの要件をすべてクリアする必要があります。
要件①:相続または遺贈によって財産を取得していること
財産をまったく受け取らない場合は対象外です。これは当然のようで、実務上は見落としがちです。「未成年者だから自動的に適用される」と思い込んでいる方がいますが、財産の取得が前提です。
要件②:財産を取得した未成年者が法定相続人であること
ここが特に重要です。遺言によって法定相続人でない未成年の孫に財産を渡した場合、その孫は要件を満たさないため控除はゼロになります。養子縁組をしていれば法定相続人になれますが、縁組なしの遺贈では適用されません。
要件③:財産を取得したときに日本国内に住所があること
海外在住の未成年者は原則対象外です。ただし、日本国籍を持ち、相続開始前10年以内に日本国内に住所があった場合などは例外的に適用されます。
要件④:財産を取得したときに18歳未満であること
18歳の誕生日を迎えていない状態で相続が発生していれば対象です。誕生日の前日であれば適用されます。
この4つがすべて揃って、初めて未成年者控除を使えます。4つ全部が条件です。
参考リンク:国税庁「未成年者の税額控除(No.4164)」に、適用要件と計算例が公式に示されています。
ここは相続税の計算において非常に間違いやすいポイントです。意外ですね。
「相続時の年齢の端数は切り捨てる」という処理が年齢の計算で適用されます。一方、「18歳に達するまでの年数の端数は切り上げる」という処理が年数の計算で適用されます。つまり、計算の2つの段階で、処理の方向が逆になります。
具体的にみてみましょう。
| 状況 | 年齢のカウント | 控除額の計算 |
|---|---|---|
| 相続時15歳9か月 | 端数切り捨て → 15歳 | (18-15)×10万円=30万円 |
| 相続時16歳11か月 | 端数切り捨て → 16歳 | (18-16)×10万円=20万円 |
ここで一点、注意が必要です。
国税庁の公式ページには「年齢の1年未満は切り捨て」と書いてある一方、一部の税理士向け解説では「年数の端数は切り上げ」と記述されていることがあります。これは「年齢を先に切り捨てて整数にしてから引き算する」と「18歳までの年数の小数点以下を切り上げる」は同じ結果になるため、表現の違いです。いずれにせよ、最終的な控除額は同じになります。
実際に損しやすいのは、年齢計算を誤って「まだ1歳年上にカウント」してしまうケースです。例えば、相続時に17歳10か月の子どもを「18歳扱い」にすると控除額がゼロになってしまいます。これは月単位の誕生日管理を徹底することで防げます。
また、もう一つ見落とされがちなのが「相続放棄をした場合の未成年者控除」です。相続を放棄しても、遺言による遺贈や生命保険金などのみなし相続財産を取得した場合には、法定相続人の地位は保持されるため未成年者控除が適用できます。相続放棄=すべての控除を失う、ではない点を押さえておきましょう。
未成年者本人の相続税額より、未成年者控除の計算額のほうが大きい場合、差額がそのまま消えるわけではありません。これは使えそうです。
控除しきれなかった残額は、未成年者の「扶養義務者」の相続税額から差し引くことができます(相続税法第19条の3第2項)。
扶養義務者とは次のような方々です。
具体的な計算例で見てみましょう。
| 登場人物 | 相続税額(控除前) | 未成年者控除の適用 | 納税額 |
|---|---|---|---|
| Aさん(4歳・子) | 100万円 | 控除額140万円 → 100万円に適用後、40万円が残る | 0円 |
| Bさん(25歳・兄・扶養義務者) | 100万円 | Aさんの余り40万円を適用 | 60万円 |
このケースでは家族全体で40万円の税額軽減を追加で受けられます。扶養義務者が複数いる場合は、協議によって誰の相続税から控除するかを決めることができます。
また、過去に一度未成年者控除を受けている場合(たとえば兄弟が立て続けに亡くなったような場合)は、今回使える控除額は「最初の相続時の控除額の残り」が上限になります。これは損をしないためにきちんと確認が必要な計算です。2回以上の相続に関わる方は、税理士への確認を強くお勧めします。
参考リンク:扶養義務者への控除の移転、2回目の相続時の控除額制限など、実務的な詳細が詳しく解説されています。
税理士法人チェスター|相続税の未成年者控除とは?適用要件や控除額計算方法も解説
「孫を養子にして未成年者控除を活用すれば節税できる」という話を聞いたことがある方もいるでしょう。確かに孫を養子にすれば法定相続人となり、未成年者控除が適用されます。ただし、大きな落とし穴があります。
孫養子が相続した場合、「相続税の2割加算」が原則として適用されます。これは、被相続人の子の相続税を一世代分飛ばして節税することへの抑制措置として設けられた規定です(相続税法第18条)。
計算の順番も決まっており、「2割加算を先に適用 → その後で未成年者控除を差し引く」という順序で計算します。
たとえば、孫養子Bさん(10歳)の相続税が100万円だった場合を考えてみましょう。
2割加算と未成年者控除は同時に発生するため、節税効果を過大に期待すると手取り額が思ったより減ります。痛いですね。
なお、代襲相続人となる孫(被相続人の子がすでに亡くなっていた場合の孫)は2割加算の対象外です。このケースは孫養子とは区別して考える必要があります。
また、孫が未成年のうちに養子縁組する場合、遺産分割協議において「特別代理人」の選任が必要になる場合もあります。親権者が同じ相続人である場合は利益相反になるためです。手続きが複雑になる点も事前に把握しておきましょう。
参考リンク:孫養子の2割加算と未成年者控除の関係、計算順序について詳しく記載されています。
AP税理士法人|孫や兄弟、知人などに適用される相続税の「2割加算」について解説
未成年者控除とよく似た制度として「障害者控除」があります。両者の仕組みは似ていますが、内容に重要な違いがあります。意外ですね。
| 項目 | 未成年者控除 | 障害者控除 |
|---|---|---|
| 対象 | 18歳未満の法定相続人 | 85歳未満の障害者である法定相続人 |
| 基準年齢 | 18歳 | 85歳 |
| 控除額単価 | 年10万円 | 一般障害者:年10万円 特別障害者:年20万円 |
| 最大控除額の目安 | 180万円(0歳の場合) | 最大850万円(特別障害者・0歳など) |
| 申告要件 | なし(申告不要でも適用可) | なし(同様) |
| 扶養義務者への移転 | あり |
大きな違いは「基準となる年齢」と「控除額の単価」です。障害者控除は85歳を基準にするため、若い年齢で相続が発生するほど控除額が大きくなります。特別障害者(重度の障害を持つ方)で相続時40歳であれば、(85-40)×20万円=900万円もの控除が可能です。これは非常に大きな金額です。
さらに注目すべきは「両者の併用が可能」な点です。18歳未満かつ特別障害者という条件を満たす場合は、未成年者控除と障害者控除を同時に適用できます。例えば相続時10歳の特別障害者であれば、次のような組み合わせが可能です。
ここまでの控除額になれば、相当な規模の遺産でも相続税がゼロになるケースも出てきます。結論は、該当するかどうかを必ず確認する、ということです。
また、未成年者控除には「申告要件がない」という特徴があります。配偶者控除や小規模宅地等の特例とは異なり、相続税の申告をしなくても(相続税額が0円であれば申告不要)、控除は自動的に適用されます。これが基本です。ただし、他の相続人が申告する場合は、実務上は全員まとめて申告するのが一般的です。
参考リンク:未成年者控除と障害者控除の仕組みの比較、計算方法が丁寧にまとめられています。