

給与支払報告書をうっかり出し忘れると、50万円以下の罰金または懲役1年が個人事業主にも科されます。
給与支払報告書とは、事業者が前年1月1日から12月31日までの間に従業員へ支払った給与の総額などを、従業員が居住する市区町村に報告するための書類です。市区町村はこの報告書をもとに、従業員の個人住民税の金額を計算します。
重要なのは、提出義務は法人だけでなく個人事業主にも同様に課せられているという点です。従業員を1人でも雇っている個人事業主であれば、給与支払報告書の作成と提出は必須の手続きとなります。
給与支払報告書は「個人別明細書」と「総括表」の2種類で構成されています。それぞれの役割と目的が異なるため、違いを理解することが書き方の第一歩です。
| 書類の種類 | 内容 | 作成枚数 |
|---|---|---|
| 個人別明細書 | 従業員ごとの氏名・住所・給与額・各種控除額などを記載 | 従業員1人につき1枚 |
| 総括表 | 個人別明細書をまとめる表紙的な役割。提出人数などを記載 | 提出先の市区町村ごとに1枚 |
なお、給与支払報告書は源泉徴収票と記載内容はほぼ同じですが、提出先と目的が異なります。源泉徴収票は「従業員への通知」と「税務署への報告」が目的なのに対し、給与支払報告書は「市区町村への住民税算定のための報告」が目的です。この違いを押さえておくと、作業全体の流れが把握しやすくなります。
参考:地方税法第317条の6に基づく提出義務の詳細
e-Gov法令検索「地方税法 第三百十七条の六」
個人別明細書は、源泉徴収票と同じ書式で作成します。手書きの場合は4枚複写の用紙を使うと効率的ですが、様式は各市区町村のホームページからダウンロードすることもできます。
以下の主要項目を、年末調整の申告書類を参照しながら記入していきましょう。
① 支払いを受ける者の情報
従業員の氏名・生年月日・住所を正確に記載します。住所は、翌年1月1日時点(例:令和7年分なら令和8年1月1日時点)のものを記入します。役職名は空欄でも問題ありません。また、個人事業主が総括表に記載する「給与支払者の個人番号又は法人番号」欄には、個人事業主自身のマイナンバー(個人番号) を記入する必要があります。これは法人番号ではないので間違えないよう注意が必要です。
② 支払金額
対象年に支払った基本給・手当・賞与などすべての合計額を記入します。月15万円を超える通勤手当や住居手当は課税対象となるため、その金額を加算して記載します。通勤手当の課税・非課税ラインはうっかり見落としがちな点です。
③ 給与所得控除後の金額
国税庁の控除額早見表を参照して計算します。年末調整を行っていない従業員の欄は空欄のままにします。
④ 所得控除の額の合計額
社会保険料控除・生命保険料控除・地震保険料控除・配偶者控除・扶養控除・基礎控除などの合計金額を記入します。年末調整を行っていない従業員は空欄になります。
⑤ 源泉徴収税額
年末調整後に確定した年調年税額を記入します。年末調整を実施していない従業員については、実際に徴収した所得税と復興特別所得税の合計額を記入してください。
⑥ 摘要欄
前職分を含めて年末調整した場合は、前職の社名・退職年月日・給与額・源泉徴収税額・社会保険料の金額を記入します。住民税を普通徴収で納める場合はその理由も記載します。この欄の記入漏れが修正依頼につながるケースも多いので丁寧に確認しましょう。
参考:国税庁が公開する給与支払報告書の記載要領(PDF)
国税庁「第2 給与所得の源泉徴収票(給与支払報告書)」
総括表は市区町村ごとに様式が異なりますが、記載する基本項目はほぼ共通です。総務省のウェブサイトからも様式をダウンロードできます。以下のポイントを押さえながら記入してください。
個人事業主が特に注意すべき記入箇所は次の3点です。
🔴 給与支払者の番号欄:法人が記入する「法人番号」ではなく、個人事業主は自分自身の「マイナンバー(個人番号)」を右詰めで記入します。総括表を窓口に直接提出する場合は、マイナンバーの確認と本人確認書類の提示が求められる市区町村もあります。
🔴 給与支払者の氏名又は名称:会社名ではなく、屋号と個人事業主本人の氏名を記入します。屋号がない場合は氏名のみで問題ありません。
🔴 報告人員の内訳:「特別徴収対象者」「普通徴収対象者(退職者)」「普通徴収対象者(退職者以外)」の3種類に分けて人数を記入し、合計を「報告人員の合計」欄に記入します。添付する個人別明細書の枚数とこの合計数が一致していることを必ず確認してください。不一致は修正依頼の原因になります。
総括表の「給与支払の方法及び期日」欄には「月給・毎月25日払い」のように具体的に記入します。また、住民税の納入書送付希望についても、電子納付の場合は「不要」に〇をつける必要があります。提出前に各欄が埋まっているか、ひと項目ずつ確認するのが基本です。
参考:総務省が公開している総括表の様式および記入上の注意
総務省「地方税分野の主な申告手続等における様式【税目別】」
給与支払報告書の提出先は、給与を受け取った従業員が翌年1月1日時点に居住している市区町村です。従業員が複数の市区町村に住んでいる場合は、それぞれの市区町村に対して個別に提出が必要となります。
提出期限は翌年1月31日(土日祝日の場合は翌平日) です。年末調整が終わった直後から書類作成に着手することで、提出期限に余裕をもって対応できます。
提出方法は3種類あります。
- 各市区町村の担当窓口への直接持参
- 郵送による提出
- 地方税ポータルシステム「eLTAX(エルタックス)」を使った電子申告
eLTAXを使うと、複数の市区町村への提出を一度の操作でまとめて行えます。これは使えそうです。
提出が不要になる例外的なケースについては、地方税法に一つだけ規定があります。「前年中に退職した従業員」で、その年の給与支払総額が30万円以下の場合は、給与支払報告書の提出が省略できます。ただし、これはあくまで退職者限定の特例であり、在職中の従業員には適用されません。
しかも注意が必要です。市区町村によっては30万円以下であっても提出を求めるケースがあります。事前に該当の市区町村に提出要否を確認してから判断するのが安全です。
| ケース | 提出の要否 |
|---|---|
| 在職中の従業員(給与額にかかわらず) | ✅ 提出必要 |
| 退職者で年間給与が30万円超 | ✅ 提出必要 |
| 退職者で年間給与が30万円以下 | ⚠️ 原則不要(市区町村によって異なる) |
| 短期雇用・アルバイトなど | ✅ 提出必要(雇用形態を問わない) |
給与支払報告書を提出しなかった場合、または虚偽の内容で提出した場合、地方税法第317条の7により「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」が科される可能性があります。50万円という金額は、中小の個人事業主にとって決して軽くない負担です。法人だけでなく個人事業主本人が処罰対象になる点も、忘れてはならないポイントです。
また、提出が遅れると従業員にとっても実害が生じます。住民税の通知が遅れることで、通常12か月で分割する住民税をより少ない月数で一気に納付しなければならない状況が生じることがあります。これは従業員の家計にとって痛い負担になります。
さらに、2027年からは電子申告の義務化基準が大きく引き下げられます。
現在は、前々年に税務署へ提出した源泉徴収票の枚数が「100枚以上」の事業者に電子申告(eLTAXまたは光ディスク)が義務付けられています。ところが、令和6年度の税制改正により、2027年(令和9年)1月1日以降の提出分からは、この基準が「30枚以上」へ大幅に引き下げられます。
これは、従業員を30人以上雇っている個人事業主であれば、2025年分(令和7年分)の源泉徴収票の提出枚数を確認しておく必要があるということです。30枚以上に該当した場合、2027年1月の提出からはeLTAXや光ディスク等による電子提出が必須となります。紙による提出は認められなくなるため、早めに準備しておくと安心です。
eLTAXのID取得や操作方法については、地方税共同機構の公式サイトで詳しく案内されています。マイナンバーカードを使った電子証明書でログインする手順になるため、個人事業主はカードの有効期限も事前に確認しておきましょう。
参考:電子提出義務化の詳細と最新情報
eLTAX(地方税共同機構)「給与支払報告書等の提出に係る特設ページ」
参考:地方税法第317条の7の罰則規定の原文
地方税法 第317条の7 給与支払報告書等の提出義務違反に関する罪
一般的な解説記事ではあまり触れられていませんが、個人事業主が家族(配偶者や子など)を青色事業専従者として雇っているケースでは、その専従者に支払った給与についても給与支払報告書の提出が必要です。これを見落とすケースが少なくありません。
青色事業専従者への給与は、青色申告決算書の「給料賃金」欄に経費として計上できるものです。ところが、専従者は「従業員」ではないという思い込みから、給与支払報告書の提出対象から外してしまう個人事業主が一定数います。これは誤りです。
税務上、専従者給与を支払っている場合は必ず給与支払報告書を提出する必要があります。専従者の住所地の市区町村への提出が必要であり、配偶者などが別の市区町村に住民票を置いている場合は、その市区町村への提出になる点も確認してください。
加えて、個人事業主自身は「給与」を受け取る立場ではないため、事業主本人の給与支払報告書は作成不要です。自分自身への報酬は「事業主貸」として処理するもので、給与として経費計上することはできません。つまり、個人事業主本人の分を除いた、雇用している従業員や専従者の分だけが対象となります。
書き間違えた場合の対処法についても押さえておきましょう。
- 提出前に気づいた場合:該当箇所に二重線を引き、正しい内容を上に書き、訂正印を押します。可能であれば新しい用紙で書き直す方が確実です。
- 提出後に気づいた場合:新しい個人別明細書と総括表を作成し、総括表の「訂正」欄に○をつけて再提出します。
源泉徴収票と給与支払報告書の内容は必ず一致させる必要があります。一方を訂正した場合は、もう一方も同様に確認・修正するのが原則です。これが基本です。
給与支払報告書の提出は年に1度の作業であるため、手順を忘れがちです。給与計算ソフトを活用すると、個人別明細書の多くの項目が自動で入力される上、提出期限のアラート機能を持つものもあり、提出漏れのリスクを大きく減らすことができます。弥生給与 Nextやfreeeといったクラウド型の給与ソフトは、eLTAXへの電子申告にも対応しており、個人事業主の事務負担を大幅に軽減できる選択肢として検討する価値があります。