

国民年金保険料を480ヶ月納めた瞬間、あなたのiDeCoは強制停止されます。
「任意加入被保険者」という言葉を聞いて、ぴんと来ない方も多いかもしれません。これは、60歳以降も国民年金に自分の意思で加入し続けている人のことを指します。具体的には、60歳の時点で老齢基礎年金の受給資格を満たしていない場合や、国民年金の納付済期間が40年(480ヶ月)に達しておらず満額受給できない場合などが該当します。
つまり「老後の年金を少しでも増やしたい」と考えて、自主的に60歳以降も保険料を払い続けている方たちです。こうした任意加入被保険者は、iDeCoの加入対象者としても認められています。これが基本の出発点です。
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、国民年金の被保険者であれば原則として加入できる私的年金制度です。2022年5月の制度改正以降、第1号〜第3号被保険者に加えて任意加入被保険者も対象に加わりました。会社員(第2号被保険者)であれば60歳を過ぎて厚生年金に加入したまま65歳まで積み立てられますし、任意加入被保険者もそれと並ぶ形でiDeCoを活用できます。
また、2026年12月には加入可能年齢がさらに70歳未満へ引き上げられる制度改正も予定されています(2026年2月現在)。これにより、今後は任意加入被保険者の方にとっても積立期間が大幅に延びる可能性があります。つまり、老後資産形成の「チャンス」が広がるということですね。
ただし、任意加入被保険者であればだれでもiDeCoに加入できるわけではありません。いくつかの除外条件があります。農業者年金の被保険者、国民年金保険料の免除を受けている方(障害基礎年金の受給者等を除く)、iDeCoの老齢給付金を既に受給している方などは加入できません。加入を検討する際は、自分がこれらに該当しないかを事前に確認することが条件です。
| 区分 | 具体例 | iDeCo加入可否 |
|---|---|---|
| 第1号被保険者 | 自営業者・個人事業主等 | ✅ 可(20〜65歳未満) |
| 第2号被保険者 | 会社員・公務員等 | ✅ 可(65歳未満) |
| 第3号被保険者 | 専業主婦(夫)等 | ✅ 可(60歳未満) |
| 任意加入被保険者 | 60歳以降に国民年金を任意継続している方 | ✅ 可(65歳未満) |
| 農業者年金被保険者 | 農業従事者で農業者年金加入中 | ❌ 不可 |
| 国民年金保険料免除者 | 所得が低く免除を受けている方など | ❌ 不可(一部例外あり) |
参考:厚生労働省「iDeCoの概要」でiDeCoの加入対象者の定義と除外条件を確認できます。
任意加入被保険者がiDeCoに加入した場合の掛金上限は、月額6.8万円(年額81.6万円)です。これは自営業者など第1号被保険者と同水準の上限額です。会社員(企業年金なし)の月額2.3万円や、公務員の月額2.0万円と比べると、実に3倍以上の差があります。
この数字をもう少し実感しやすくすると、1年間フルで拠出した場合の合計は81万6,000円。毎月の食費に換算すれば、一般的な単身世帯(月4〜5万円)の1年半分以上に相当する金額を老後資産として積み立てられる計算です。これは使えそうです。
ただし、この月額6.8万円という上限は、国民年金基金の掛金や国民年金の付加保険料との合算枠になっています。したがって、国民年金基金や付加保険料に加入している場合は、その分がiDeCoの掛金上限から差し引かれます。たとえば国民年金基金に月2万円加入していれば、iDeCoに拠出できるのは月最大4.8万円までとなります。合算で6.8万円が上限です。
なお、2027年1月以降(2026年12月適用開始の改正)には、第1号被保険者の拠出限度額が月額7.5万円へ引き上げられる見通しです。任意加入被保険者についても同様の上限改正が適用されるかどうか、最新情報を随時チェックするようにしましょう。掛金の変更は年1回まで手続き可能です。
| 加入区分 | iDeCo掛金上限(月額) | 年間上限 |
|---|---|---|
| 第1号被保険者(自営業者等) | 6.8万円(国民年金基金等との合算) | 81.6万円 |
| 任意加入被保険者 | 6.8万円(国民年金基金等との合算) | 81.6万円 |
| 企業年金なし会社員 | 2.3万円 | 27.6万円 |
| 公務員 | 2.0万円 | 24.0万円 |
| 第3号被保険者(専業主婦・夫等) | 2.3万円 | 27.6万円 |
参考:りそな銀行のコラムでiDeCo掛金上限の職業別一覧と合算ルールを詳しく確認できます。
りそな銀行|iDeCoの掛金の上限額はいくら?拠出額を決めるときの注意点とは
iDeCoの最大の魅力は、掛金の全額が「小規模企業共済等掛金控除」として所得控除の対象になることです。つまり、支払った掛金と同額の分だけ、その年の課税所得が減ります。
たとえば、年間で48万円(月4万円)のiDeCo掛金を拠出したとします。課税所得が300万円前後(所得税率10%)であれば、所得税と住民税(10%)を合わせた計20%分が節税できる計算になり、年間約9万6,000円の税負担軽減になります。20年間継続すれば、その累計節税額は約192万円に達します。痛いですね、逆に言えばiDeCoを活用しないとそれだけ余計に税金を払い続けることになります。
さらに、運用中の利益(運用益)も非課税で再投資されます。通常、株式や投資信託で利益が出ると約20.315%の税金がかかりますが、iDeCoの口座内であればこれがかかりません。長期間運用するほど、この複利効果と非課税メリットの差は大きく広がります。
受取時には「退職所得控除(一時金受取の場合)」や「公的年金等控除(年金方式の場合)」が適用されます。退職所得控除は、積立期間20年以内は1年あたり40万円、20年超は1年あたり70万円の控除枠があります。20年間積み立てた場合の退職所得控除額は800万円で、東京ドームのグラウンド面積に例えるなら、節税効果の"空間"がまるまる一棟分確保されるイメージです。もちろん他の退職金との合算に注意は必要ですが、受取額が控除枠内に収まれば税負担がほぼゼロになるケースもあります。
ただし、任意加入被保険者として60歳以降に加入した場合、積立期間が短くなるため退職所得控除の枠も相対的に小さくなります。受取時の税負担を試算してから拠出額を決めるのが堅実です。iDeCoの公式サイトには「かんたん税制優遇シミュレーション」が用意されており、年齢・年収・掛金を入力するだけで節税額を試算できます。一度確認するのが賢明です。
iDeCo公式サイト|かんたん税制優遇シミュレーション(掛金・年収から節税額を試算)
任意加入被保険者としてiDeCoを活用する際には、見落としやすいポイントがいくつかあります。知っておかないと、突然iDeCoが停止するという事態にもなりかねません。
最も重要な落とし穴が「480ヶ月(40年)到達による強制資格喪失」です。国民年金の任意加入は、保険料の納付済期間が480ヶ月に達した時点で終了します。つまり、任意加入被保険者の資格が消えた瞬間、iDeCoへの掛金拠出も自動的に停止されます。自分が何ヶ月分を納付済みか、事前に「ねんきんネット」や年金定期便で確認しておくことが原則です。
また、繰り上げ受給(老齢基礎年金の65歳前受給)をしてしまうと、iDeCoに加入する資格を失います。「早めに年金を受け取りたい」と繰り上げ請求を行った後にiDeCoへの加入を考えても、それはできません。この順序は逆にできないため、資産形成の順番を間違えると取り返しがつかなくなります。
さらに、iDeCoの老齢給付金を一度でも受け取り始めると、その後の掛金拠出は不可となります。「運用しながら少しだけ引き出す」という使い方は制度上認められていないため、受取開始のタイミングは慎重に判断することが大切です。
加えて、iDeCoには初回加入時の手数料として2,829円(国民年金基金連合会への納付)が発生し、以降も毎月最低171円(国民年金基金連合会分105円+事務委託先金融機関分66円)の口座管理手数料がかかります。掛金額が少ない場合はこの手数料が運用益を圧迫するリスクがあります。手数料が気になる方は、運営管理機関手数料を無料にしている金融機関(SBI証券・楽天証券など)を選ぶと、コストを最小限に抑えられます。確認するのは手数料無料の金融機関か否かという1点だけでOKです。
参考:SBI証券のコラムでiDeCoに加入できないケースをわかりやすく整理しています。
SBI証券|全員が加入できるわけではない?!iDeCoに加入できない人って?
一般的な解説記事では「任意加入被保険者もiDeCoに加入できる」という事実は触れられていても、その先の「どう活用するか」まで踏み込んでいるものは少ないです。ここでは、任意加入被保険者ならではの視点でiDeCoを最大活用する考え方を整理します。
まず、任意加入被保険者はほとんどが60歳以上であるため、積立期間が会社員時代から始める人より短くなります。仮に61歳から加入し、現行制度では65歳まで拠出できるとすると4年間の積立期間です。月4万円で積み立てた場合、元本だけで192万円。これを年利3%で複利運用できれば、4年後には約211万円になる計算です。短期間でも、掛金の全額所得控除という入口の節税効果が大きいため、高い拠出額を設定できる任意加入被保険者にとって税負担軽減の恩恵は絶大です。
次に、2026年12月施行予定(2027年1月効果適用)の制度改正で加入可能年齢が70歳未満に引き上げられる点は、大きなチャンスです。65歳を超えてからもiDeCoの積立を続けられるようになれば、任意加入被保険者の方が60歳代半ばから加入しても、70歳近くまで約5〜9年間の積立期間を確保できます。加入期間が延びれば退職所得控除の枠も広がり、受取時の税負担を抑えやすくなります。いいことですね。
もう一つ見落としがちな点として、NISAとの組み合わせがあります。iDeCoは60歳まで原則引き出せませんが、任意加入被保険者はすでに60歳以上なので、加入後5年経過(または通算加入者等期間10年以上)から受取が可能です。つまり、60歳台前半に加入して65〜70歳頃に受け取るという比較的短いサイクルで活用できます。NISAで中期的な資産を確保しながら、iDeCoで節税を最大化するという二刀流の資産形成が現実的な選択肢になります。
60歳以降に加入する場合に特に重要なのが、受取時の課税リスクの管理です。退職金と同じ年にiDeCoの一時金を受け取ると、退職所得控除が合算される形になり、控除枠を超えた部分に課税されます。退職から少なくとも1年以上ずらして受け取るタイミングを調整するか、年金方式(公的年金等控除を活用)を選ぶことで税負担を分散できます。これは受取方法を決める前に必ず確認したいポイントです。
参考:iDeCo公式サイトのFAQでは、受取方法や通算加入者等期間の計算方法など実務的な情報が豊富に掲載されています。
iDeCo公式サイト|よくあるご質問(受取・加入資格の詳細)