

40代・50代の現役世代は、毎月の給与から「介護保険料」が天引きされています。しかし、いざ自分が使う場面になったとき、どんなルールが適用されるかを正確に知っている人は少ないのが実情です。
40代でも毎月約5,000円近く払っているのに、交通事故では1円も介護保険が使えません。
介護保険には「被保険者」が2種類存在します。65歳以上が「第1号被保険者」、40歳以上65歳未満の医療保険加入者が「第2号被保険者」です。
第2号被保険者の場合、介護保険サービスを利用したときの自己負担割合は、所得の高さにかかわらず一律1割と定められています。これは法律(介護保険法)で明記されたルールです。
一方、第1号被保険者(65歳以上)は、前年の合計所得金額によって1割・2割・3割のいずれかに振り分けられます。たとえば、一人暮らしで年間合計所得が280万円以上340万円未満なら2割、340万円以上なら3割です。
つまり原則です。
第2号被保険者は「高収入・高資産であっても1割」という保護がかかっているわけです。これが第1号被保険者との大きな違いの一つです。
なお、第2号被保険者が実際に介護保険サービスを使える場面は限られています。単なるケガや一般的な病気が原因の要介護状態では、介護保険サービスを利用できません。次のH3で詳しく解説します。
介護保険制度の負担割合について詳しく解説した公式資料(厚生労働省)を参考にすると、制度の全体像を把握しやすくなります。
第2号被保険者の介護保険利用条件と負担割合の公式根拠はこちらに掲載されています。
厚生労働省「介護保険制度について(第2号被保険者向けリーフレット)」
第2号被保険者がサービスを受けるには、要介護・要支援状態になった原因が「特定疾病」でなければなりません。これが原則です。
特定疾病とは、加齢に伴って発症リスクが高まる16種類の疾病のことで、国が厚生労働省令で定めています。具体的には以下の疾病が該当します。
| 番号 | 特定疾病名 |
|---|---|
| ① | がん(末期) |
| ② | 関節リウマチ |
| ③ | 筋萎縮性側索硬化症(ALS) |
| ④ | 後縦靭帯骨化症 |
| ⑤ | 骨折を伴う骨粗しょう症 |
| ⑥ | 初老期における認知症 |
| ⑦ | 進行性核上性麻痺・大脳皮質基底核変性症・パーキンソン病 |
| ⑧ | 脊髄小脳変性症 |
| ⑨ | 脊柱管狭窄症 |
| ⑩ | 早老症 |
| ⑪ | 多系統萎縮症 |
| ⑫ | 糖尿病性神経障害・糖尿病性腎症・糖尿病性網膜症 |
| ⑬ | 脳血管疾患 |
| ⑭ | 閉塞性動脈硬化症 |
| ⑮ | 慢性閉塞性肺疾患(COPD) |
| ⑯ | 両側の膝関節または股関節に著しい変形を伴う変形性関節症 |
金融に関心の高い現役世代にとって特に注目すべきは「がん(末期)」の存在です。40代・50代でもがんが進行して末期状態になれば、介護保険サービスを1割負担で受けられます。
知っておきたい点は一つあります。
交通事故によるケガや、特定疾病に該当しない病気で要介護状態になっても、第2号被保険者は介護保険サービスを利用できません。この場合は、医療保険や障害福祉サービスを検討することになります。年間で約5,000〜6,000円の保険料を払っているにもかかわらず、使える場面が限られているという点は、リスク管理を考える上で見落とせない事実です。
特定疾病の詳細と判断基準については、みんなの介護の解説ページが参考になります。
みんなの介護「【介護保険】特定疾病とは?16種類一覧と診断基準」
第2号被保険者の保険料は、勤務先の健康保険の種類によって計算方法が異なります。協会けんぽ(全国健康保険協会)に加入している会社員であれば、介護保険料率は2025年度において1.59%(全国一律)です。
計算の基本式は以下のとおりです。
たとえば標準報酬月額が30万円の場合、月々の介護保険料は次のようになります。
会社が同額を負担するため、合計で月4,770円が介護保険に充てられています。年間にすると本人負担だけで約28,620円です。毎月の給与明細には「介護保険料」の行があるはずなので、一度確認してみてください。
意外ですね。
ここで知っておきたいのが、誕生日が月の1日の方は徴収開始・終了がそれ以外の人より1ヶ月早まるという点です。
法律上、「満40歳に達したとき」とは「40歳の誕生日の前日」を指します。4月1日生まれの人の場合、法律上の40歳到達日は3月31日(前日)となります。そのため3月分から介護保険料の徴収が始まり、4月2日生まれの人より1ヶ月分多く支払う計算になるのです。65歳でも同じ現象が起き、1日生まれは徴収終了も1ヶ月早くなります。
誕生日が月初の方は、給与明細をチェックして徴収タイミングが正しいかを確認することをおすすめします。
第2号被保険者として介護サービスを利用している方が65歳を迎えると、自動的に「第1号被保険者」へ切り替わります。重要なのは、切り替えと同時に負担割合が変わる可能性があるという点です。
第1号被保険者になると、所得に応じて1〜3割の負担割合判定が行われます。収入が高い方はここで負担が増える場面があります。切り替えのタイミングは以下のルールに従います。
たとえば8月15日生まれの方は、8月14日が「65歳到達日」となり、新しい負担割合の適用は9月1日からになります。一方、8月2日生まれの方は8月1日が「65歳到達日」のため、8月から適用されます。
1割が原則です。
しかし、年収280万円以上の方は2割、340万円以上(一人暮らし)の方は3割となる可能性があります。たとえば要介護3の方が月間の区分支給限度額いっぱいにサービスを利用した場合、1割なら約2万7,048円の自己負担が、3割では約8万1,144円に膨らみます。約3倍の差です。
これは家計に直結する数字です。
65歳前後には「介護保険負担割合証」が毎年7月下旬に自動更新・郵送されます。この証書は8月1日〜翌年7月31日の1年間が有効期限です。切り替わり時期の前後に届く証書を必ず確認する習慣をつけましょう。ケアマネジャーや介護事業者への提示も忘れずに行う必要があります。
介護保険サービスを利用していると、月によっては自己負担額が大きくなることがあります。そこで設けられているのが「高額介護サービス費」という制度です。これは知っておくと大きなメリットにつながります。
高額介護サービス費とは、1ヶ月の自己負担額の合計が所得区分に応じた上限額を超えた場合に、超えた分が払い戻される制度です。上限額の目安は以下の通りです。
| 所得区分 | 月額の上限(目安) |
|---|---|
| 住民税非課税世帯(低所得) | 世帯で15,000円〜24,600円 |
| 一般世帯(住民税課税者など) | 世帯で44,400円 |
| 現役並み所得(課税所得380万円以上) | 世帯で93,000円〜140,100円 |
たとえば一般世帯で月に6万円分の介護サービスを1割負担で使った場合、自己負担は6,000円で上限以内ですが、要介護5で3割負担のケースでは18,000円近くになることもあります。さらに施設入所などで3割負担が複数のサービスに重なると、上限の44,400円を超えやすくなります。
痛いですね。
重要なのは、この制度は申請しないと払い戻しが受けられないという点です。多くの自治体では、初回だけ申請すれば以後は自動で計算・振り込まれる仕組みになっています。知らずに申請しないまま時効(2年間)が来てしまうと、返ってくるはずだったお金が消えてしまいます。
サービスを利用している方や、これから始める方は、まず市区町村の介護保険担当窓口に「高額介護サービス費の申請書を出したいです」と伝えるだけで手続きを始められます。これが条件です。
この制度の詳細と申請方法は公益財団法人生命保険文化センターのサイトに整理されています。
公益財団法人 生命保険文化センター「公的介護保険で自己負担額が高額になった場合の軽減措置とは?」
「毎月保険料を払っているのに、自分が使える可能性は低い」──そう感じている現役世代は少なくないでしょう。この不公平感の背景にある財源の仕組みを整理します。
介護保険の財源は、大きく「保険料50%」と「公費50%」に分かれています。保険料の内訳は第1号被保険者(65歳以上)が約23%、第2号被保険者(40〜64歳)が約27%で、合計50%を担います。残り50%は国・都道府県・市町村が税金から拠出する仕組みです。
つまりこういうことです。
現役世代の第2号被保険者は「介護サービスを利用しているかどうかに関係なく」、毎月保険料を支払うことで高齢者の介護を支えている構造になっています。日本全体で約1,700万人いる第2号被保険者が、介護保険制度の財源の約27%を担っているわけです。
この数字を別の角度から見ると、現在日本の介護費用は年間約14.2兆円(2024年度予算ベース)に上ります。このうち第2号被保険者が支えている分は約2兆〜2.5兆円規模です。財源の一翼を担う立場として、制度の全体像を把握しておくことは、将来の資産計画や保険選択にも役立ちます。
加えて、今後の制度改正にも注目が必要です。2025年12月に厚生労働省が、2割負担の対象を現行の年収280万円から引き下げる見直し案を発表しました。2026年度以降の施行が見込まれ、最大35万人が新たに2割負担の対象になる可能性があります。
これは使えそうです。
現役世代のうちに民間の介護保険・就労不能保険の見直しを検討することは、こうした制度改正リスクに備える上でも有効な選択肢の一つです。特に「特定疾病以外の疾病・事故」には公的介護保険が使えないというギャップを民間保険で埋める視点は、金融リテラシーの高い層ほど早めに意識しておくとよいでしょう。
介護保険制度の財源と現役世代の負担についての詳細は金融広報中央委員会の解説も参考になります。
金融広報中央委員会「知るぽると:介護保険制度のしくみ」