

「106万円の壁を超えなければ社会保険料はかからない」——実は、2025年の法改正でその前提がすでに崩れ始めています。
そもそも「106万円の壁」とは、パートやアルバイトが会社の社会保険(健康保険・厚生年金)に加入しなければならなくなる年収ラインのことです。正確には年収ではなく「月収88,000円以上」という基準で判定されます。106万円÷12か月≒88,333円という計算から「106万円の壁」という呼び方が定着しました。
2025年時点(改正前)では、この壁を超えて社会保険に強制加入となるためには、以下の5つの条件をすべて満たす必要がありました。
この条件は段階的に厳しくなってきた経緯があります。もともと従業員501人以上という高いハードルでしたが、2022年10月に101人以上、2024年10月に51人以上と、対象企業の範囲が着実に広がってきました。つまり、従業員数の要件は「縮小→廃止」という方向で制度改正が進んでいます。
この流れの延長に位置するのが「106万円の壁の撤廃」です。改正の方向性は「すべての短時間労働者を社会保険に組み込む」というものであり、企業規模にかかわらず対象となる制度への移行が議論されています。
現行制度でも「51人以上」という従業員数要件があるため、小規模な飲食店や個人経営の店舗で働くパートは対象外でした。そこが大きく変わるポイントです。
厚生労働省:短時間労働者への社会保険適用拡大についての公式情報ページ
撤廃の時期が気になる方は多いでしょう。政府が示している方針では、2026年10月を目処に従業員数要件(51人以上)を撤廃する方向で法整備が進められています。
2025年に閣議決定された「社会保険の適用拡大に関する法案」では、企業規模要件の完全撤廃が盛り込まれました。これにより、個人経営の小さな飲食店や美容室でパートとして働く人も、月収88,000円・週20時間以上という要件を満たせば社会保険に加入することになります。
改正のスケジュールを整理するとこうなります。
ただし「月収88,000円以上・週20時間以上」という加入条件そのものは残る見通しです。つまり「壁が消える」のではなく、「壁の適用範囲が全パート・アルバイトに広がる」というのが正確な表現です。
これが条件です。「年収106万円以下に抑えれば安心」というのは、2026年以降も維持されますが、対象になる職場の範囲が格段に広くなります。
ちなみに、同時に130万円の壁(国民健康保険・国民年金の扶養から外れるライン)についても見直し議論が続いており、将来的には「106万円」と「130万円」の2つの壁を一体的に整理する方向性も示されています。現時点では130万円の壁の撤廃時期は未定ですが、金融に関心のある方はセットで把握しておくことが重要です。
内閣府・政府税制調査会:年収の壁に関する審議資料(106万円・130万円の壁の一体的見直し議論)
「106万円の壁が撤廃されると、具体的にいくら手取りが減るのか?」という点は、最も気になるところです。
社会保険料の自己負担は、健康保険料と厚生年金保険料の合計で決まります。標準報酬月額が88,000円(月収88,000円)の場合、おおよその計算は以下の通りです。
月に約1.2万円、年間で約15万円が手取りから消える計算です。これは手取り年収が約88万円から約73万円に減少することを意味します。「106万円ギリギリに抑えていた」という方にとっては、非常に大きな影響ですね。
痛いですね。ただし、見方を変えると受け取れるメリットもあります。
厚生年金に加入することで、将来受け取れる年金額が増加します。国民年金(基礎年金)だけの場合と比較して、厚生年金加入期間が10年あれば、老後の年金受取額は試算で年間約10万円以上増えるケースもあります。また、健康保険の傷病手当金(病気・ケガで働けない期間の補償)や出産手当金なども受け取れるようになります。
これは使えそうです。社会保険加入を「コスト」ではなく「リターンのある投資」として考える視点は、金融リテラシーが高い人ほど重要になります。
なお、扶養に入っている配偶者がいる場合は話が変わります。配偶者が勤め先の社会保険に加入することで、扶養者側の「第3号被保険者」という資格を失います。第3号被保険者は保険料なしで国民年金に加入できる制度のため、この資格喪失は家計にとって複雑な影響を与えます。
全国健康保険協会(協会けんぽ):標準報酬月額と保険料の計算方法
社会保険料の負担が増える中で、金融に関心のある方が取るべき合理的な対応策があります。
まず前提として、社会保険への加入は「手取りが減る一方的な損」ではありません。厚生年金・健康保険の給付面でのリターンを踏まえると、長期的には加入が有利なケースも多いです。重要なのは、この制度変更をきっかけに家計全体を見直すことです。
具体的に活用できる制度はiDeCo(個人型確定拠出年金)です。iDeCoは掛け金が全額所得控除となるため、所得税・住民税の節税効果があります。年収106万円の方でも、iDeCoへの掛け金(最大月額23,000円まで)で所得税・住民税の節税が可能です。社会保険料が増えた分の一部を税負担の軽減で取り戻すというアプローチは、金融に興味のある方には馴染みやすい考え方でしょう。
積立NISAも組み合わせることで、資産形成の基盤が整います。社会保険加入により将来の年金受取額が増えることを踏まえると、iDeCoで老後資金の節税・積立を行いつつ、積立NISAで中期的な資産形成をするという二刀流の戦略が有効です。
一方で、勤務時間を調整して月収88,000円未満に抑えるという選択も依然として有効です。2026年以降も「月収88,000円・週20時間」という加入条件は残るため、この基準を下回るように働き方を調整することで、社会保険加入を回避することは可能です。ただし、長期的なキャリアや収入増加の機会を犠牲にするリスクもあるため、単純に「抑えれば良い」とは言えません。
選択の基準が条件です。働き方・家族構成・年齢・将来の収入見通しによって最適解は異なります。家計全体への影響をシミュレーションするためには、FP(ファイナンシャルプランナー)への相談や、社会保険料シミュレーターの活用が有効です。
社会保険労務士・FPへの無料相談窓口として、全国社会保険労務士会連合会の「街角の年金相談センター」や、各市区町村の無料FP相談などを活用することもできます。
多くのニュースが「手取りが減る」という視点で報道していますが、金融リテラシーの高い目線でこの改正を捉えると、本質は「日本の社会保障財政の持続可能性を確保するための構造改革」です。これは意外ですね。
日本の厚生年金は、現役世代が納める保険料で高齢者の年金を賄う「賦課方式」を採用しています。少子高齢化が進む中で、保険料を納める現役世代を一人でも増やすことが制度の安定に直結します。106万円の壁の撤廃は、この文脈で理解すると「制度の存続戦略」という側面が見えてきます。
また、税制との連動という視点も重要です。所得税の「配偶者控除」「配偶者特別控除」は2018年にすでに見直されており、年収150万円まで満額控除を受けられるように拡充されました。さらに政府は「年収の壁」を一体的に見直す方針を示しており、106万円・130万円・150万円という複数の壁が将来的に整理・統合される可能性があります。
つまり「106万円の壁の撤廃」は単独の出来事ではなく、日本の社会保障・税制全体の大きな再設計の一コマです。
金融に興味のある方にとって重要なのは、「今年いくら損するか」だけでなく、「この制度変更が10年・20年後の資産形成にどう影響するか」という長期的な視点です。厚生年金の受給額増・健康保険の充実という給付面のメリットを最大化しながら、iDeCoやNISAで自己防衛の資産を積み上げる戦略が、2026年以降の「賢い働き方」の核心になります。
自営業・フリーランスの方も、この改正とは無縁ではありません。法人化・業務委託といった働き方の選択肢が、社会保険コストの観点から再評価されるケースが増えることが予想されます。「自分の働き方が最もコスト効率が良いか」を定期的に見直すことが、収入防衛の第一歩です。
結論は「長期視点で制度を味方にすること」です。壁の撤廃に戸惑うのではなく、老後の年金基盤を厚くするチャンスとして積極的に捉え直すことで、家計の安定を築く選択肢が広がります。
厚生労働省:社会保険適用拡大特設サイト(2024年10月改正の詳細と今後の方向性)

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