
年金受給者が受け取る公的年金には、課税対象となるものと非課税となるものがあります。まず、課税対象となる主な公的年金等には以下のものがあります。
これらの年金は所得税法上「雑所得」として扱われ、課税の対象となります。特に老齢基礎年金と老齢厚生年金は、多くの年金受給者が受け取る基本的な年金です。老齢基礎年金は国民年金から支払われ、65歳以上の高齢者が一定の保険料納付期間を満たしていると受給できます。老齢厚生年金は会社員や公務員など厚生年金の加入期間がある人に支払われます。
一方、非課税となる年金には以下のものがあります。
これらの年金は、受給金額に関わらず所得税や住民税がかかりません。障害年金は一定の障害を持つ方に対して支払われる年金で、遺族年金は生計維持者を失った一定の遺族を対象に支払われる年金です。金額の多寡に関わらず非課税とされているため、税金の心配をする必要はありません。
年金受給者の税金計算で重要なのが「公的年金等控除」です。この控除により、年金収入の一部が課税対象から除外されます。控除額は年齢と年金収入額、そして年金以外の所得金額によって異なります。
【65歳以上の年金受給者の公的年金等控除額(年金以外の所得が1,000万円以下の場合)】
【65歳未満の年金受給者の公的年金等控除額(年金以外の所得が1,000万円以下の場合)】
年金以外の所得が1,000万円を超える場合は、控除額が減額されます。具体的には、年金以外の所得が1,000万円超2,000万円以下の場合は上記の控除額から10万円を引き、2,000万円超の場合は20万円を引いた金額が控除額となります。
実際の雑所得(課税対象)の計算式は以下の通りです。
雑所得 = 年金収入 - 公的年金等控除額
例えば、65歳以上の方が年金を年間300万円受け取った場合、公的年金等控除額は110万円となり、課税対象となる雑所得は190万円(300万円-110万円)となります。
年金受給者の住民税については、2009年10月から「特別徴収」という制度が導入されました。これは、公的年金から住民税を直接引き落とす仕組みです。特別徴収の対象となるのは、4月1日時点で65歳以上の公的年金受給者のうち、住民税を納税する義務がある人です。
住民税の特別徴収の流れは以下の通りです。
特別徴収される住民税額は、年間の住民税額を6回に分けて徴収されるのが基本です。ただし、年度の前半(4・6・8月分)は仮徴収として前年度の住民税額をベースに計算され、後半(10・12・2月分)は本徴収として、年税額から仮徴収額を差し引いた残りの金額が徴収されます。
なお、2025年度(令和7年度)の住民税については、令和6年3月28日に成立した税制改正法により、定額減税が実施されることになりました。これにより、納税者および配偶者を含めた扶養親族1人につき、個人住民税は令和6年10月以後最初に支払われる年金から特別徴収される額について1万円の特別控除が適用されます。
年金受給者の確定申告については、一定の条件を満たす場合、申告が不要となる特例があります。具体的には、以下の条件を両方満たす場合は確定申告が不要です。
ただし、この申告不要制度には注意点があります。例えば、外国の年金(アメリカのソーシャルセキュリティなど)を受給している場合は、日本での源泉徴収の対象となっていないため、基本的に確定申告が必要です。また、医療費控除や寄附金控除などの各種控除を受けたい場合も確定申告が必要となります。
確定申告をする際には、日本年金機構から毎年1月に送付される「公的年金等の源泉徴収票」が必要です。この源泉徴収票には、支払われた年金の合計額や、年金から源泉徴収された所得税額及び復興特別所得税の合計額、年金から徴収された社会保険料の合計額などが記載されています。
なお、確定申告をしないと、住民税の計算で各種控除が適用されないことがあるため、税額が高くなる可能性があります。特に、扶養控除や社会保険料控除などを受けたい場合は、確定申告をすることで税負担を軽減できることがあります。
2025年度(令和7年度)は年金受給者にとって重要な税制改正が実施されます。令和6年3月28日に成立した税制改正法により、令和6年分の所得税・令和6年度分の個人住民税について定額減税が実施されることになりました。
この定額減税では、納税者および配偶者を含めた扶養親族1人につき、以下の特別控除が適用されます。
この定額減税は、年金受給者の税負担を軽減する重要な措置です。特に、年金だけを収入源としている高齢者にとっては、実質的な手取り額の増加につながります。
定額減税の適用を受けるための特別な手続きは基本的に不要で、自動的に適用されます。ただし、確定申告をする場合には、定額減税の適用を受けるために必要な情報を記載することが重要です。記載しないと、必要以上に税金を納めることになる可能性があります。
夫婦ともに年金受給者の場合は、それぞれが定額減税の対象となります。つまり、夫婦2人で所得税6万円、住民税2万円の減税となります。これは家計にとって大きな助けとなるでしょう。
年金受給者の定額減税について詳しくは厚生労働省のページを参照
過去に海外で働いていた経験がある年金受給者は、日本の年金に加えて外国の年金(例:アメリカのソーシャルセキュリティベネフィット)を受け取ることがあります。この場合、日本に居住している「居住者」は、外国の公的年金も日本の確定申告が必要になります。
外国の公的年金も、日本の公的年金と同様に「雑所得」として扱われます。所得税法では、「外国の法令に基づく保険または共済に関する制度で国民年金法、厚生年金保険法などの規定による社会保険または共済制度に類するものに基づいて支給を受ける年金」も公的年金等に含まれると規定しています。
外国年金の確定申告における注意点。
特にアメリカのソーシャルセキュリティベネフィットを受給している場合、何も手続きをしないと30%の税金が米国内で天引きされることがあります。これを回避するためには、「W-8BEN」という書類を支払者に提出する必要があります。提出しないと、日本で外国税額控除が取れず、アメリカに申告して還付を受けるという面倒な手続きが必要になります。
また、外国の年金は日本での源泉徴収の対象となっていないため、年間の公的年金等の収入金額が400万円以下であり、かつ、その年に「公的年金等に係る雑所得以外」の所得金額が20万円以下という申告不要の条件を満たしていても、確定申告が必要になります。
アメリカの年金を日本で受け取る際の確定申告について詳しい情報
以上のように、年金受給者の税金は種類や条件によって複雑に変わります。特に外国年金を受給している場合は、専門家に相談することをお勧めします。正確な申告を行うことで、不必要な税負担を避け、適切な税金を納めることができます。