
法人税の計算は、基本的に「課税所得×法人税率-税額控除」という式で行います。この計算プロセスを正確に理解することが、適切な税務申告の第一歩となります。
まず、課税所得は「益金-損金」で算出します。益金とは、商品・製品の販売による売上収入や土地・建物の売却収入などの収益を指します。一方、損金は売上原価や販売費、災害による損失など、費用や損失に該当するものです。
ただし、注意すべき点として、会計上の収益や費用と税法上の益金や損金は必ずしも一致しません。例えば、交際費や寄付金などは、税法上の制限により全額が損金として認められないケースがあります。このような会計と税務の差異を調整するプロセスを「税務調整」と呼びます。
法人税の計算フローを整理すると、以下のようになります。
この一連の流れを正確に実行することで、適正な法人税額を算出することができます。
課税所得の算出は法人税計算の基礎となる重要なステップです。課税所得は、会計上の利益をベースに税務調整を行って算出します。
具体的な計算式は以下の通りです。
課税所得 = 会計上の利益(税引前当期純利益)+ 加算項目 - 減算項目
加算項目とは、会計上は費用として計上されているが税務上は損金として認められないものです。主な加算項目には以下のようなものがあります。
一方、減算項目とは、会計上は収益として計上されているが税務上は益金として計上されないもの、または会計上は計上されていないが税務上は損金として認められるものです。主な減算項目には以下のようなものがあります。
税務調整を正確に行うためには、税法の規定を熟知し、会計処理と税務上の取扱いの違いを把握することが重要です。特に、毎年のように変更される税制改正に注意を払い、最新の税法に基づいた調整を行うことが求められます。
また、税務調整に関する書類(別表)を適切に作成・保管することも、税務調査への対応を考える上で重要です。特に別表四と別表五は、会計と税務の差異を明確に示す重要な書類となります。
法人税の税率は、法人の種類や資本金の額、所得金額によって異なります。2025年4月現在の法人税率は以下のように設定されています。
普通法人の法人税率
ただし、中小法人であっても、大法人(資本金5億円以上の法人等)の子会社など一定の要件に該当する場合は、軽減税率の適用対象外となりますので注意が必要です。
公益法人等・協同組合等の法人税率
特定の医療法人の法人税率
これらの税率は税制改正により変更される可能性があるため、常に最新の情報を確認することが重要です。
また、中小企業向けには様々な税制優遇措置が設けられています。例えば、中小企業投資促進税制や賃上げ促進税制などがあり、一定の要件を満たすことで税額控除を受けることができます。これらの制度を活用することで、法人税の負担を軽減することが可能です。
特に注目すべきは、2023年度税制改正で導入された「賃上げ促進税制」です。この制度は、中小企業が前年度より給与支給額を増加させた場合に、増加額の一部を税額控除できる仕組みとなっています。人材確保が困難な現在の経済環境において、この制度を活用することは企業の競争力強化にもつながります。
法人税の計算方法を具体的に理解するため、いくつかのケースでシミュレーションを行ってみましょう。
ケース1:資本金5,000万円、年間所得700万円の普通法人
この場合、資本金が1億円以下で所得も800万円以下なので、軽減税率の15%が適用されます。
法人税額 = 700万円 × 15% = 105万円
ケース2:資本金5,000万円、年間所得1,500万円の普通法人
この場合、所得のうち800万円までは軽減税率の15%、800万円を超える700万円には23.2%が適用されます。
法人税額 = (800万円 × 15%) + (700万円 × 23.2%)
= 120万円 + 162.4万円
= 282.4万円
ケース3:資本金1億1,000万円、年間所得3,000万円の普通法人
この場合、資本金が1億円を超えているため、所得全体に23.2%の税率が適用されます。
法人税額 = 3,000万円 × 23.2% = 696万円
これらの計算例から分かるように、資本金の額や所得金額によって適用される税率が異なるため、法人税額も大きく変わってきます。特に、資本金1億円以下の中小法人にとっては、所得800万円以下の部分に対する軽減税率の適用が大きなメリットとなります。
また、実際の法人税計算では、税額控除も考慮する必要があります。例えば、研究開発税制や賃上げ促進税制などの税額控除を適用することで、納税額をさらに減らすことができます。
法人税の計算において、税額控除は最終的な納税額を直接減らすことができる重要な要素です。適切に活用することで、企業の税負担を効果的に軽減することができます。
主な税額控除制度には以下のようなものがあります。
1. 研究開発税制
研究開発活動に対する税額控除制度で、試験研究費の一定割合を法人税額から控除できます。中小企業の場合、控除率が優遇されており、最大で試験研究費の25%を控除することが可能です。
2. 賃上げ促進税制
従業員の給与等を一定割合以上増加させた場合に、その増加額の一部を税額控除できる制度です。2023年度改正では、中小企業向けに控除率が拡充されています。
3. DX(デジタルトランスフォーメーション)投資促進税制
デジタル技術を活用した業務変革に資する設備投資を行った場合に、取得価額の一定割合を税額控除できる制度です。
4. カーボンニュートラル投資促進税制
脱炭素化に資する設備投資を行った場合に、取得価額の一定割合を税額控除できる制度です。
5. 外国税額控除
海外で納付した外国法人税等について、国内の法人税額から控除できる制度です。国際的な二重課税を排除するための仕組みとなっています。
税額控除を活用する際の注意点としては、以下の点が挙げられます。
特に中小企業にとっては、これらの税額控除制度を活用することで、実質的な税負担を大きく軽減できる可能性があります。しかし、適用要件が複雑なケースもあるため、税理士等の専門家に相談しながら進めることをお勧めします。
また、税額控除の適用漏れは直接的な税負担増につながるため、決算・申告時には漏れがないよう慎重にチェックすることが重要です。特に、研究開発税制などは、適用対象となる活動や費用の範囲が広いため、見落としがちな部分も含めて検討することをお勧めします。
法人税の計算において、端数処理は小さなことのように思えますが、適切に行わなければ申告誤りとなる可能性があります。また、申告・納付の期限や手続きについても正確に把握しておく必要があります。
端数処理のルール
法人税の計算における端数処理は、以下のルールに従います。
例えば、課税所得が1,234,567円の場合、1,000円未満の567円を切り捨てて1,234,000円となります。この金額に税率を乗じて法人税額を計算します。
また、法人税額が123,456円となった場合、100円未満の56円を切り捨てて123,400円が最終的な納税額となります。
申告・納付の期限と手続き
法人税の申告・納付は、原則として事業年度終了日の翌日から2ヶ月以内に行う必要があります。例えば、3月31日が事業年度末の法人の場合、5月31日が申告・納付期限となります。
ただし、申告期限の延長申請を行うことで、1ヶ月間(特定の場合は最大4ヶ月間)申告期限を延長することができます。この場合でも、納付期限は延長されないため、概算で計算した法人税額を期限内に納付し、後日確定申告を行うという流れになります。
申告書の提出方法は、電子申告(e-Tax)または書面による提出が可能です。近年は電子申告が推奨されており、大法人については電子申告が義務化されています。
中間申告と納付
前事業年度の法人税額が20万円を超える法人は、原則として事業年度開始日から6ヶ月経過日の翌日から2ヶ月以内に中間申告・納付を行う必要があります。中間申告には、前事業年度の実績に基づく「予定申告」と、中間期間の実績に基づく「仮決算による中間申告」の2種類があります。
予定申告の場合、前事業年度の法人税額の2分の1に相当する金額を中間納付します。一方、仮決算による中間申告の場合は、中間期間の実績に基づいて計算した法人税額を納付します。業績の変動が大きい法人は、仮決算による中間申告を選択することで、納税資金の効率的な管理が可能となります。
申告・納付に関する注意点
法人税の申告・納付は、企業の税務コンプライアンスの基本となる重要な業務です。期限管理を徹底し、正確な申告・納付を心がけましょう。
国税庁「No.5759 法人税の税率」- 最新の法人税率について詳しく解説されています
法人税の計算・申告業務は、従来は紙の帳簿や申告書を使用して行われてきましたが、近年はデジタル化が急速に進んでいます。この動向は、業務効率化だけでなく、正確性の向上や税務リスクの低減にも寄与しています。
クラウド会計ソフトの活用
クラウド会計ソフトを活用することで、日々の経理処理から決算、税務申告までの一連のプロセスを効率化することができます。最新のクラウド会計ソフトには、以下のような機能が搭載されています。
これらの機能を活用することで、手作業による計算ミスを防ぎ、税理士や経理担当者の業務負担を大幅に軽減することができます。
電子帳簿保存法への対応
2022年1月から電子帳簿保存法