

ボーナスが多い年ほど基本手当が少なくなる計算になっています。
雇用保険の基本手当(いわゆる「失業保険」)は、離職した労働者が安心して再就職活動を行えるよう支給される公的な給付金です。ただし「離職すれば誰でも受け取れる」というわけではなく、一定の条件を満たす必要があります。まずその条件を正確に把握しておくことが重要です。
受給の基本条件は、離職日以前2年間に雇用保険の被保険者期間が通算して12ヶ月以上あることです。ただし会社都合退職(特定受給資格者)や正当な理由のある離職(特定理由離職者)については、離職日以前1年間に被保険者期間が6ヶ月以上あれば受給できます。条件が違います。
もう一つ重要な受給条件が「求職意思があること」です。病気やケガで働けない状態、妊娠中や育児中でしばらく働けない場合は、受給期間の延長申請を行う必要があります。基本手当は「今すぐ働ける状態」にある方を対象とした給付であるためです。
受給要件の確認は、以下の厚生労働省「離職された皆様へ」のページで公式情報を確認できます。
厚生労働省「離職されたみなさまへ」PDF(受給条件・受給期間の公式資料)
基本手当の金額は3ステップで計算します。仕組みを理解しておくと、退職前に自分がどれくらい受け取れるか把握でき、生活設計が立てやすくなります。これは使えそうです。
ステップ1:賃金日額を出す
まず退職前6ヶ月間の「賃金総額」を180日で割り、「賃金日額」を算出します。ここで重要なのは、計算に含める賃金の範囲です。基本給のほか残業代・通勤手当・住宅手当は対象ですが、賞与・退職金・祝い金などは含まれません。つまり「ボーナスが多い人ほど賃金日額が低く計算される」という構造になっています。
$$\text{賃金日額} = \frac{\text{退職前6ヶ月の賃金総額(賞与除く)}}{180}$$
ステップ2:基本手当日額を出す
賃金日額に「給付率」をかけて、基本手当日額を算出します。給付率は年齢と賃金日額によって50〜80%の範囲で変動します。賃金が低いほど給付率が高く設定されており、高収入の方は給付率が低くなります。
$$\text{基本手当日額} = \text{賃金日額} \times \text{給付率(50〜80\%)}$$
ステップ3:総受給額を出す
基本手当日額に「所定給付日数」をかけると、受け取れる総額が分かります。
$$\text{給付総額} = \text{基本手当日額} \times \text{所定給付日数}$$
例として、月収30万円(賞与なし)で勤続8年の会社員が自己都合で退職した場合を考えてみましょう。退職前6ヶ月の賃金が180万円とすると、賃金日額は1万円。給付率が約60%であれば基本手当日額は約6,000円、所定給付日数は90日ですので、給付総額は約54万円になります。
| 年齢区分 | 基本手当日額の上限(2025年8月〜) |
|---|---|
| 30歳未満 | 7,255円 |
| 30歳以上45歳未満 | 8,055円 |
| 45歳以上60歳未満 | 8,870円 |
| 60歳以上65歳未満 | 7,623円 |
基本手当日額には上限があります。2025年8月1日以降の改定で最高額は45〜60歳未満の区分で1日8,870円です。高収入であっても、この上限を超えて受け取ることはできない点に注意が必要です。また最低額は年齢を問わず2,411円となっています。
最新の賃金日額の上限・下限は厚生労働省の公式ページで確認できます。
厚生労働省「雇用保険の基本手当日額の変更(2025年8月1日〜)」
基本手当は「いくらもらえるか」だけでなく「何日分もらえるか」も非常に重要です。給付日数は離職理由・年齢・被保険者期間の3つで決まります。
一般離職者(自己都合退職・定年退職など)の所定給付日数は、最短90日〜最長150日です。被保険者期間が10年以上20年未満なら120日、20年以上なら150日になります。勤続年数が長いほど多くもらえるということですね。
一方、会社都合退職(特定受給資格者)や有期雇用で契約更新されなかった方(特定理由離職者1号)は、年齢と被保険者期間の組み合わせで最大330日まで受け取れます。会社都合の場合は、自己都合より最大で倍近く給付日数が多くなるケースもあるため、退職理由の確認は重要です。
| 離職理由 | 待機期間 | 給付制限 | 所定給付日数 |
|---|---|---|---|
| 自己都合退職 | 7日 | 原則1ヶ月(※) | 90〜150日 |
| 会社都合退職(特定受給資格者) | 7日 | なし | 90〜330日 |
| 定年退職 | 7日 | なし | 90〜150日 |
※2025年4月1日以降に離職した場合、自己都合退職の給付制限期間は従来の2ヶ月から1ヶ月に短縮されています。ただし5年以内に2回以上の正当な理由のない自己都合退職がある場合は、3ヶ月に戻ります。厳しいところですね。
2025年4月改正の詳細については、社労士監修の以下のページでわかりやすく解説されています。
社労士解説「2025年4月から失業給付(基本手当)が1ヶ月で支給される改正内容」
金融や副業に関心の高い方にとって、「受給しながら収入を得ることはできるのか」は非常に気になるテーマです。結論は、アルバイト・副業・投資によって扱いが異なります。
まずアルバイト(労働による収入)は、申告義務があります。ハローワークに正直に申告した上で、一定の収入がある日は基本手当が支給停止または減額されます。収入が1日1,310円を超えた場合、その超えた分が基本手当から差し引かれる仕組みです。申告しなかった場合は不正受給となります。
アルバイト収入を申告しない「うっかり不正受給」は、税務署や年金事務所とのデータ照合でほぼ確実に発覚します。発覚すると受け取った金額の全額返還に加え、最大2倍の納付命令が課されるため、最終的に最大3倍の負担になります。痛いですね。
一方、株・投資信託・FX・NISAなどの投資収益は「労働による収入」ではなく資産運用の利益と見なされるため、基本手当の金額や受給資格には影響しません。申告も不要です。金融に興味のある方にとってはむしろプラスになる知識です。
投資収益と失業保険の関係についての詳細は、以下の記事が参考になります。
「失業保険をもらいながら株・NISA・iDeCoで利益が出たらどうなる?」(詳細解説記事)
基本手当は非課税です。所得税も住民税もかかりません。これは雇用保険法第12条に基づく規定であり、額面でもらった金額がそのまま手取りになるという点で、給与収入とは大きく異なります。
これを金融的な視点で見ると、無視できないメリットがあります。例えば月収30万円の方が退職して基本手当6,000円×90日=54万円を受け取る場合、同額を給与収入で得た場合は所得税・住民税・社会保険料が差し引かれ手取りは約40万円台になるのに対し、基本手当はフルで54万円手元に残ります。つまり実質的な価値は給与より高いということですね。
また、基本手当の受給期間中は求職活動を続けながら資産形成を並行することも可能です。前述のとおり投資収益は基本手当に影響しないため、受給期間中にNISAやiDeCoを活用して積立を続けることは合理的な行動といえます。
受給終了後の再就職に向けては、「再就職手当」についても知っておく価値があります。所定給付日数の3分の1以上を残して再就職した場合、残り日数×基本手当日額×70%(もしくは60%)が一括で支給されます。早期再就職は受給総額が減るように見えて、実は再就職手当を含めると受け取れるトータルの金額が増えるケースもあります。
$$\text{再就職手当(例)} = \text{5,000円} \times \text{80日(残日数)} \times 70\% = \text{280,000円}$$
上記の例では早期再就職によって28万円が一括で給付される計算になります。これはコンビニのアルバイトで1ヶ月半ほど働いた額に相当します。早めの就職活動がデメリットにならないという設計です。
再就職手当の詳細と計算方法は、以下のページで確認できます。
厚生労働省「Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)」公式ページ