

子会社に寄付すると、節税どころか1円も損金にならず逆に税負担が増えます。
法人が寄付金を支出したとき、その全額を経費(損金)として認めてしまうと、企業が意図的に課税所得を操作できてしまいます。そこで法人税法第37条では、寄付金のうち一定額を超える部分は損金に算入できないというルールを定めています。これが「損金不算入制度」の基本的な考え方です。
損金算入が認められる金額の上限を「損金算入限度額」と呼びます。限度額が設けられている目的は主に2つあり、「課税の公平性の確保」と「法人間での利益移転の防止」です。
この2つが柱です。
限度額はすべての寄付金に一律に適用されるわけではありません。寄付先の性格によって、全額算入できるもの・別枠で算入できるもの・ほぼ認められないものに分かれます。ここを混同すると実務で大きなミスにつながります。
損金算入限度額の計算は「資本基準額」と「所得基準額」という2つの要素を組み合わせて行います。どちらも法人の規模や業績に応じて変動するため、毎事業年度ごとに計算し直す必要があります。
国税庁タックスアンサー No.5281「寄附金の範囲と損金不算入額の計算」(令和7年4月1日改正反映版)
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令和4年(2022年)4月1日以後に開始する事業年度から、損金算入限度額の計算における「資本基準額」の計算方法が変更されました。
これが直近で最も重要な改正点です。
改正前は「税務上の資本金等の額」が資本基準額の計算に使われていました。この「資本金等の額」は、税務上の各種調整(自己株式取得・組織再編・資本の払戻しなど)によって、実際の資本金とは大きくかけ離れることがあります。たとえば、上場企業が自己株式を市場で大量購入した場合、税務上の資本金等の額が大幅に減少し、損金算入限度額も縮小するという問題が生じていました。
改正後は「会計上の資本金の額+資本準備金の額の合計額」へと変更されました。これにより、減資・自己株取得などの財務操作による税務上の資本金等の額の変動が、損金算入限度額に直接影響しにくくなりました。
計算の安定性が増した改正といえます。
ただし、注意が必要なのは改正前と改正後の計算式が混在しやすい点です。令和4年4月1日前に開始した事業年度は旧ルール、それ以後は新ルールという切り替えが起きています。過去の申告書を参照しながら計算する際は、どちらのルールが適用されるかを必ず確認してください。
| 適用時期 | 資本基準額の計算方法 |
|---|---|
| 令和4年4月1日前開始事業年度 | 期末の税務上の資本金等の額 |
| 令和4年4月1日以後開始事業年度 | 期末の資本金の額+資本準備金の額 |
改正の影響を受けやすいのは、自己株取得や減資・組織再編を積極的に行ってきた法人です。そうした法人では、税務上の資本金等の額が会計上の資本金より大きく乖離しているケースがあります。改正後のルールに切り替わることで、損金算入限度額が増加する法人も、減少する法人もあり得ます。
EY Japan「資本金等の額と資本金の額の適用関係」(Info Sensor 2021年12月号)
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寄付先によって損金算入の扱いは6つのパターンに分かれます。どのパターンに当てはまるかが、節税効果を左右する最大のポイントです。
まず「全額損金算入」が認められるのは、①国・地方公共団体への寄付と、②財務大臣が指定した指定寄附金(日本赤十字社やユニセフ協会など)への寄付です。これらは金額の上限なしに損金に算入できます。
次に「別枠で損金算入限度額が設けられる」のが、③特定公益増進法人等(学校法人・社会福祉法人・認定NPO法人など)への寄付です。一般の寄付金とは別枠で、以下の計算式による限度額の範囲内で算入できます。
④一般の寄付金(上記以外の寄付)は最も制限が多い区分です。
損金算入限度額の計算式は以下のとおりです。
最後に「全額損金不算入」となるのが、⑤完全支配関係にある他の内国法人への寄付と、⑥国外関連者への寄付です。
これらは1円も損金に算入できません。
この2つが最も見落とされやすく、税務調査での指摘案件になりやすいパターンです。
| 寄付先の種類 | 損金算入の扱い |
|---|---|
| 国・地方公共団体 | 全額算入 |
| 財務大臣指定の指定寄附金 | 全額算入 |
| 特定公益増進法人等(認定NPO法人含む) | 別枠で特別限度額まで算入 |
| 一般の寄付金 | 限度額の範囲内で算入 |
| 完全支配関係にある内国法人 | 全額不算入 |
| 国外関連者 | 全額不算入 |
文部科学省「法人が寄附した場合の税制上の優遇措置」(最新版)
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計算式を見ただけでは実感が湧きにくいため、具体的な数字で確認しましょう。
【設例】資本金2億円(資本準備金なし)、当期別表4仮計(所得金額に近い値)が8,900万円の法人が、一般寄付金を100万円支出した場合を考えます。
まず資本基準額を計算します。
2億円×0.25%=50万円です。
次に所得基準額は、(8,900万円+100万円)×2.5%=225万円です。この2つを足した275万円に1/4をかけると、損金算入限度額は68万7,500円となります。
つまり、100万円支出したうちの68万7,500円だけが損金算入でき、残り約31万2,500円は損金不算入となります。端数処理後の損金不算入額は約31万3,000円です。これが法人税申告書の別表4で加算調整される金額になります。
次に、同じ法人が認定NPO法人(特定公益増進法人に該当)に50万円寄付した場合の特別損金算入限度額を計算します。(2億円×3.75/1,000+9,000万円×6.25/100)×1/2=(75万円+562.5万円)×0.5=318.75万円です。つまり、この50万円はまるまま別枠で損金算入できます。
一般寄付金と特定公益増進法人への寄付を両方している場合、それぞれの限度額を合算して使えます。節税の観点では、寄付先が認定NPO法人や特定公益増進法人であるかどうかを事前に確認することが非常に重要です。
公益財団法人公益法人協会「寄附金控除について」(損金算入限度額の計算事例付き)
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親会社が子会社に資金支援をしたとき、その支出が税務上「寄付金」と認定された瞬間、1円も損金に算入できなくなります。これがグループ法人税制における最大の落とし穴です。
完全支配関係(発行済株式の100%を直接・間接に保有する関係)にある法人間の寄付金は、法人税法上の規定により全額損金不算入とされています。同時に、受け取った側の法人では受贈益の全額が益金不算入となります。つまり課税は起きませんが、支出側の損金算入は一切認められません。
注意が必要なのは「寄付金」の範囲です。金銭を贈与するだけでなく、無利息での資金貸付や、通常より低い対価での資産譲渡なども「実質的な寄付」と認定されることがあります。
グループ間取引では書類の整備が不可欠です。
個人が法人を支配している「個人による完全支配関係」の場合は、このグループ法人税制の適用範囲外となります。適用されるのは法人が法人を完全支配している場合に限られます。
対策として有効なのは、資金提供の目的と内容を明確にした契約書・業務委託書を作成し、「寄付金」ではなく「業務委託費」「貸付金」「出資」など、実態に即した名目で処理することです。契約書類の整備が、税務調査での否認リスクを大幅に下げます。
大阪府中小企業診断士協会「グループ法人税制(3)100%グループ内の法人間の寄附等」
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損金算入限度額の計算式をよく見ると、所得金額が大きな比重を占めています。赤字法人(課税所得がゼロまたはマイナス)の場合、所得基準額もゼロとなるため、限度額は資本基準額の分しか計算されません。
さらに、資本基準額だけで計算された合計額に1/4をかけるため、最終的な限度額は非常に小さくなります。たとえば資本金1,000万円(資本準備金なし)の法人が赤字の場合、資本基準額は1,000万円×0.25%=2万5,000円で、これの1/4は6,250円にしかなりません。つまり、その事業年度に100万円の一般寄付をしても、6,250円しか損金に算入できないことになります。
赤字法人が寄付をするタイミングは要注意です。善意で寄付をしたつもりが、ほぼ全額が損金不算入になってしまうリスクがあります。
節税効果を最大化したいなら、業績が黒字で所得が十分に計上されているタイミングで寄付を行うことが基本です。年度末の直前に業績を確認し、限度額を試算した上で寄付金額を決定する流れが合理的です。
顧問税理士に事前の試算を依頼することが最善です。freeeやマネーフォワードなどのクラウド会計ソフトは寄付金の税務調整を自動処理してくれないため、補助資料の作成が別途必要になります。
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日本法人が海外の子会社や取引関係のある外国法人(国外関連者)に対して行った寄付は、全額損金不算入となります。この規定は移転価格税制とも密接に関連しており、税務調査で特に厳しく調査される項目のひとつです。
国外関連者とは、日本法人との間に50%以上の持株関係や実質的支配関係がある外国法人を指します。この定義は広く、意図せず「国外関連者への寄付」と認定されるケースも実務上少なくありません。
海外子会社への資金援助や技術無償提供などが問題になりやすいパターンです。これらが「寄付」と認定された場合、損金算入が永久に認められないという重大なリスクが生じます。
国税庁の見解では、税務調査において「国外関連者への寄附金に該当する取引がないか」は必ずチェックされる項目とされています。グローバル展開している企業では、グループ内取引の価格設定(移転価格)と合わせて、寄付金の認定リスクを常に意識する必要があります。
移転価格税制の専門知識を持つ税理士・税務コンサルタントへの相談を早めに行うことが、このリスクを回避する唯一の対策です。海外子会社との取引は、すべて適正な対価で行われているという証跡の整備が求められます。
押方移転価格会計事務所「国外関連者への寄附金は全額損金不算入」
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損金不算入額が発生した場合、法人税申告書での処理が正確でないと税務調査で指摘を受けます。
実務で対応が必要な書類は主に2つです。
別表4(所得の金額の計算に関する明細書)では、会計上は費用として計上されているが税務上は損金不算入となる寄付金の金額を「加算(社外流出)」欄に記載します。この加算処理を忘れると課税所得が過少申告になります。
別表14(2)(寄附金の損金算入に関する明細書)では、寄付金の種類ごとの金額、損金算入限度額の計算結果、損金算入できる金額と損金不算入となる金額の内訳を記載します。この書類の記載ミスは、後から税務調査で発見されやすいポイントです。
特定公益増進法人への寄付がある場合は、一般寄付金と特別損金算入限度額の両方を別表14に記載します。また、特別損金算入限度額を超えた部分の金額は、一般寄付金の損金算入限度額に加算して計算する仕組みになっています。この二段階の計算構造は複雑で、ミスが生じやすいです。
クラウド会計ソフトを使っている場合でも、この別表処理は基本的に手動での対応が必要です。年度末の決算・申告時期に向けて、早めに顧問税理士と確認・レビューのスケジュールを組んでおくことをおすすめします。
マネーフォワード クラウド「法人税申告書の別表14とは?見方や書き方、注意点まで解説」
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全額損金算入できる「指定寄附金」を賢く活用することが、法人の寄付戦略において最も効果的な選択肢のひとつです。
指定寄附金とは、財務大臣が公益上必要と認めて指定した法人・団体への寄付のことで、日本赤十字社への義援金・ユニセフ協会への国際援助・国立大学への寄付などが代表例です。これらは金額の上限なく全額が損金算入できます。
ただし指定寄附金として認められるためには、寄付先が「指定寄附金リスト」に掲載されている必要があります。リストは国税庁の財務省告示として公開されており、随時更新されます。寄付を行う前に必ずリストで確認することが条件です。
見落とされがちなのが「学校法人設立準備法人への寄付」です。こちらは令和の税制改正において全額損金算入が認められるよう整備されており、教育分野への投資と節税効果を兼ね備えた選択肢になり得ます。
指定寄附金と特定公益増進法人への寄付は制度上別物であり、混同しないようにしてください。前者は全額算入、後者は別枠の特別限度額まで算入という違いが明確にあります。
これが基本です。
財務省「法令・告示(法人税関係)」(指定寄附金の最新指定リスト)
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同じ「お金を出す行為」でも、それが「交際費」なのか「寄付金」なのかによって、損金算入の扱いが大きく異なります。この区別の誤りが、実務では最も多い申告ミスのひとつです。
交際費は、事業に関係のある者(顧客・取引先・仕入先など)との飲食・接待・贈答に使われた費用です。一方、寄付金は見返りを期待しない任意の支出で、事業との直接的な関連が薄いものとされています。
判断が難しくなるのが「地域のお祭りへの協賛金」「商工会議所への特別寄附」「地元スポーツチームへの支援金」などのケースです。これらは、その支出が事業との関連性を持つか・宣伝効果があるかによって、交際費・広告宣伝費・寄付金のどれかに分類されます。
寄付金に分類されてしまうと損金算入限度額の制約を受けますが、交際費や広告宣伝費に分類されれば、別のルールで処理できる場合があります。中小企業であれば交際費は年800万円まで全額損金算入できる特例があります。
こちらは使えそうです。
支出の内容・目的・効果を明確にした書類(企画書・案内文・契約書など)を整備しておくことが、この区別を正確に行うための実務的な対策です。領収書だけでなく、支出の目的を証明できる書類を必ずセットで保管しておきましょう。
国税庁タックスアンサー No.5262「交際費等と寄附金の区分」
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法人の損金算入限度額の話と、個人の寄付金控除の仕組みは全く別の話です。混同している方が意外に多いため、ここで整理します。
個人が寄付をした場合には「寄付金控除(所得控除)」または「税額控除」が適用されます。所得控除は「(寄付金の合計額-2,000円)」が所得から差し引かれる仕組みで、税額控除は「(寄付金の合計額-2,000円)×40%」が所得税額から直接差し引かれます。
税額控除の方が有利なケースが多いです。
個人の寄付金控除の上限は、所得の合計金額の40%です。
これを超えた部分の寄付は控除できません。
認定NPO法人・公益社団法人・公益財団法人などへの寄付が対象となります。
法人の損金算入限度額と個人の寄付金控除の最大の違いは、法人は「損金」として利益を減らす効果があるのに対し、個人は「控除」として所得や税額を減らす効果があるという点です。
効果の及ぶ場所が違います。
自社のオーナー社長が寄付をする場合、法人名義で行うか個人名義で行うかによって、適用されるルールと節税効果が変わります。どちらが有利かは業績・所得水準・寄付先によって異なるため、事前のシミュレーションが不可欠です。
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令和4年の改正が中小企業に与えた影響として、一般にはあまり語られていない論点があります。それは「設立時の資本構成」と「損金算入限度額」の関係です。
中小企業の多くは、設立時の資本金がそのまま維持されており、増資・減資・自己株取得などを行っていないケースが大半です。そうした法人では、改正前の「税務上の資本金等の額」と改正後の「会計上の資本金+資本準備金」がほぼ一致します。そのため、改正の実質的な影響をほとんど受けません。
逆に影響が大きいのは、事業承継・MBO・資本政策などで株式や資本構成を頻繁に変更している企業です。こうした法人では旧計算式との差異が生じやすく、申告書の計算方法を切り替えていないと誤計算のリスクがあります。
また見落とされがちなのが、新設法人の初年度です。月数按分の計算(当期の月数÷12)があるため、年途中に設立された法人は限度額が少なくなります。初年度に多額の寄付をすると、ほぼ全額が損金不算入になるケースもあります。
設立初年度の寄付は慎重にすべきです。
さらに、令和2年度改正で導入されたグループ通算制度(連結納税の見直し)においても、グループ内の寄付金処理が問題になるケースがあります。グループ通算制度を採用している法人は、各社単体での限度額計算と、グループ全体での整合性確認を怠らないことが求められます。
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ここまでの内容を実務に活かすための確認事項を整理します。
これを知っていると得します。
寄付金の損金算入限度額は、改正のたびに計算方法が変わる複雑な分野です。節税効果を正確に把握したいなら、税理士との事前確認が最も確実な対策といえます。