可視性の確保と電子帳簿保存法の要件と対応策

可視性の確保と電子帳簿保存法の要件と対応策

可視性の確保と電子帳簿保存法の要件・対応策

電子データを「とりあえず保存すればOK」と思っていると、税務調査で65万円の控除が吹き飛ぶことがあります。


この記事でわかること
📋
可視性の確保とは何か

電子帳簿保存法が求める「可視性の確保」の2本柱(見読性・検索機能)と、具体的に何を用意すればよいかを整理します。

⚠️
未対応時のリスク

可視性の要件を満たさないまま放置すると、青色申告の取消・最大45%の重加算税・100万円以下の過料という三重のリスクが発生します。

今すぐできる対応方法

専用システムを導入しなくても、Excelの索引簿や規則的なファイル名の命名ルールで検索要件をクリアする具体的な方法を紹介します。


電子帳簿保存法における可視性の確保とは何か


電子帳簿保存法(電帳法)では、電子データを保存する際に満たすべき要件が大きく「真実性の確保」と「可視性の確保」の2つに分けられています。このうち「真実性の確保」は改ざんや不正を防ぐためのルールですが、「可視性の確保」は別の目的で設けられています。


可視性の確保とは、保存した電子データを誰でも・いつでも・正しく確認できる状態に整えておくことです。具体的には、税務調査の際に税務職員がデータを円滑に閲覧・検索できるように環境を整えることが求められています。税務署側から見れば「帳簿があります」と言われても、開けなければ意味がない、という発想です。


これが義務として定められた背景には、2024年1月1日から電子取引データの電子保存が完全義務化されたことがあります。それ以降、メールで受信した請求書・Webサイトからダウンロードした領収書などは、紙に印刷せず電子データのままで保存しなければなりません。データの量が増えれば増えるほど、「見つけられる状態にする」仕組みが重要になります。


可視性の確保が基本です。


可視性の確保は、大きく次の2つの柱で構成されています。



  • 🔍 見読性(みどくせい)の確保:保存したデータを画面や紙に出力できる機器・環境を用意すること

  • 🗂️ 検索機能の確保:取引年月日・取引金額・取引先の3項目で検索できるようにすること


それぞれに具体的な要件がある点が、この法律の難しいところです。次のセクション以降で順に解説していきます。


国税庁が公開している電子帳簿保存法の基本要件(一問一答含む)は、以下で確認できます。


参考:電子取引データの保存方法の公式解説(国税庁)
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/07denshi/02.htm


可視性の確保①見読性(みどくせい)の具体的要件

見読性の確保とは、保存した電子データを「すぐに見られる状態にしておく」という要件です。税務調査で担当者が来たとき、「ちょっとデータが見つかりません」「パソコンが古くて開けません」では、法令上の要件を満たしていないとみなされるリスクがあります。


具体的には、以下のものを保存場所に備え付けておく必要があります。



  • 💻 パソコン・ディスプレイ・プリンター(またはコンビニ等の印刷環境)

  • 📄 システムの操作説明書・概要書(自社開発プログラムを使う場合)

  • 🖥️ データを整然とした形式・明瞭な状態で速やかに出力できる環境


ここで意外と知られていないのが、プリンターに関する要件です。備え付けのプリンターがなくても、税務調査の際にコンビニ等の有料プリンターを使ってデータを出力できる環境があれば問題ありません(国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】問17・18」)。これは実務上かなり重要な情報です。


つまり、大型プリンターを購入する必要はないということです。


また、改正前は「プリンター等を備え付ける」という表現で実質的に紙出力の環境が必須でしたが、2024年1月の改正以降は「画面で確認できれば十分」と明確化され、事業者の負担が軽減されました。ただし、税務職員から書面での提示・提出を求められた場合には対応できるようにしておく必要があります。


クラウドストレージやリモートアクセス環境でデータを保存している場合も、インターネット経由でデータにアクセスして出力できれば要件を満たします。海外サーバーを利用している場合も同様に、日本国内から即座にアクセスできる環境が必要です。これはクラウド会計サービスを使っている個人事業主・中小企業にとって特に押さえておきたいポイントです。


参考:電子帳簿保存法「電子取引」の保存要件と見読性に関する公式解説(NTTファイナンス)
http://www.ntt-finance.co.jp/billing/biz/column/20230427_11


可視性の確保②検索機能の確保と売上5,000万円以下の特例

可視性の確保の中でも、最も多くの事業者が悩む部分が「検索機能の確保」です。原則として、保存した電子取引データは次の3項目で検索できるように管理しなければなりません。




















検索項目 必要な機能
取引年月日 日付・期間を指定して検索できること
取引金額 金額・金額範囲を指定して検索できること
取引先 取引先名で絞り込めること


さらに、「日付×金額」「日付×取引先」など、2項目以上を組み合わせて検索できることも原則要件です。


ただし、ここに重要な特例があります。前々年(前々事業年度)の売上高が5,000万円以下の事業者は、これらの検索機能の確保が不要とされています(ただし、税務調査時にデータをダウンロードして提示・提出できる状態にしておくことが条件)。


これは使えそうです。


売上高5,000万円以下の判定は「税抜き金額」で行われます。個人事業主・小規模事業者の多くがこの特例に該当するため、高価なシステムを導入しなくても対応できるケースが多いのです。


ただし「検索機能が不要」というのは、「何もしなくていい」という意味ではありません。検索機能は免除されても、データを電子保存すること・見読性を確保すること・税務調査時に提示できる状態にしておくことは引き続き必要です。この点で誤解が多いため注意が必要です。


参考:売上高5,000万円以下の電子帳簿保存法対応のポイント(マネーフォワード クラウド)
https://biz.moneyforward.com/accounting/basic/77587/


可視性の確保をシステムなしで実現するファイル管理の実務

「電子帳簿保存法に対応するには専用システムが必要」というイメージを持っている方も多いですが、実はExcelと命名ルールだけでも一定の対応が可能です。これは独自視点ですが、実務担当者が最初につまずく部分でもあります。


具体的には、次の2つの方法が国税庁も認める方法として機能します。



  • 📁 規則性のあるファイル名で保存する:「YYYYMMDD_取引先名_金額.pdf」の形式で保存することで、ファイル名自体が検索キーになります。例えば「20241101_A株式会社_1000000_請求書.pdf」のような命名です。

  • 📊 Excelで索引簿(インデックス)を作成する:取引日・金額・取引先・ファイル名をExcelに記録し、フィルター機能で検索できるようにする方法です。ファイルのパスも記載しておくとなお確実です。


ただし、Excelの索引簿運用には注意点があります。Excel自体が改ざん防止機能を持っていないため、真実性の確保の観点では別途「事務処理規程」の策定・運用が必要になります。事務処理規程とは、正当な理由なくデータを訂正・削除しないことを定めた社内ルール文書のことです。国税庁のサイトにサンプル書式が公開されており、無料でダウンロードできます。


これは無料で対応できます。


事務処理規程を策定した場合でも、実際にその規程に沿って運用していることが求められます。「書いただけで運用していない」という状態では、税務調査の際に真実性の確保が認められないリスクがあります。日付管理・担当者記録・承認フローの実際の運用記録を残しておくことが大切です。


専用システムへの移行を検討する段階になったら、「JIIMA(公益社団法人日本文書情報マネジメント協会)認証」を取得したソフトウェアを選ぶと、法令対応の確認がしやすくなります。弥生・freee・マネーフォワードなど主要な会計ソフトはJIIMA認証を取得しており、検索機能・改ざん防止機能が標準搭載されています。まずはJIIMA認証ソフトの無料トライアルで試してみることをおすすめします。


参考:電子帳簿保存法とExcel索引簿での対応方法(弥生)
https://www.yayoi-kk.co.jp/seikyusho/oyakudachi/excel/


可視性の確保の未対応が招く3つの深刻リスク

「まだ税務調査が来ていないから大丈夫」という感覚でいると、気づかないうちに大きなリスクを抱えることになります。可視性の確保を含む電子帳簿保存法の要件を満たしていない場合、具体的に次の3つのリスクが発生します。



  • 🔴 青色申告の承認取消:最大65万円の特別控除を失う

    要件未対応が原因で帳簿管理が不適切とみなされると、青色申告の承認が取り消されるリスクがあります。取り消された場合、個人事業主では最大65万円の青色申告特別控除が受けられなくなります。65万円というのは、ちょうどスマートフォンを10台以上まとめて購入できる金額に相当します。それが毎年失われ続けると考えると、無視できない損失です。

  • 🔴 重加算税の加重:通常35%に電帳法違反で+10%、合計最大45%

    データの改ざんや隠ぺいが発覚した場合、通常の重加算税35%に加え、電子帳簿保存法違反として10%が上乗せされ、合計で最大45%の重加算税が課せられる可能性があります。仮に500万円の申告漏れがあれば、重加算税だけで225万円に達します。これは純粋な追徴税額に加算されるため、総支払額は非常に大きくなります。

  • 🔴 会社法違反による過料:100万円以下の罰金

    適切な帳簿・書類の保管義務を怠った場合、会社法第976条(過料に処すべき行為)に抵触し、100万円以下の過料が科せられる可能性があります。これは法人のみならず、個人事業主にも関係する可能性があります。


これが最大のリスクです。


なお、国税庁が公表している一問一答(問66)では、「特段の事由がなければ直ちに青色申告の取消には至らない」と記載されています。しかし「直ちに取り消されない」と「リスクがない」は別の話です。税務調査での指摘が重なった場合や、改ざんが疑われる状況では、取消の可能性は十分に存在します。


さらに、2024年1月以降は「猶予期間」が終了しており、「まだ準備中」という言い訳が通りにくい状況になっています。以前は一定の条件で紙保存が許容されていましたが、現在は電子取引データの電子保存が原則義務であり、未対応のまま税務調査を迎えることは大きなリスクとなります。


参考:電子帳簿保存法の罰則と青色申告取消リスクの詳細解説(マネーフォワード クラウド)
https://biz.moneyforward.com/accounting/basic/74873/


可視性の確保を高めて「優良な電子帳簿」で過少申告加算税を5%軽減する方法

ここまでは「要件を満たさないとどうなるか」というリスク面を解説してきました。しかし視点を変えると、可視性の確保をしっかり整備することで、むしろ税務上のメリットを得られる仕組みが存在します。それが「優良な電子帳簿」制度です。


優良な電子帳簿とは、通常の電子帳簿よりも厳格な要件を満たして保存された帳簿のことです。具体的には以下の3要件を追加で満たす必要があります。



  • 📌 訂正・削除の履歴が記録として残ること(変更したらログが残る)

  • 📌 複数の帳簿間で相互に関連性が確認できること(仕訳帳と総勘定元帳が紐づいているなど)

  • 📌 取引日付・金額・取引先の3項目による検索機能が備わっていること


これらを満たしたうえで、事前に「国税関係帳簿の電磁的記録等による保存等に係る過少申告加算税の特例の適用を受ける旨の届出書」を所轄の税務署に提出しておくと、もし申告漏れがあって修正申告を行った際の過少申告加算税(通常10〜15%)が5%軽減されます。


意外ですね。


見過ごされがちな点として、この「優良な電子帳簿」制度は事前届出が必要という点があります。調査が入ってから「実は優良帳簿で保存していました」と言っても認められません。将来の税務調査に備えて先手を打っておくことが、財務リスクの軽減につながります。


また、個人事業主で青色申告をしている方にとっては、優良な電子帳簿で保存していることが、65万円の青色申告特別控除を受けるための要件の一つにもなっています。これはe-Taxを利用した申告と組み合わせることで適用されます。つまり可視性を含む電子帳簿の要件を整備することが、直接的に節税効果につながるのです。


優良な電子帳簿の要件確認・届出書の様式については、国税庁の以下のページが参考になります。


参考:優良な電子帳簿の要件と過少申告加算税軽減措置(国税庁)
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/05.htm




第3版 電子帳簿保存法の制度と実務