

遺族補償年金は、もらえると思っていた家族が申請しても受給できないケースが実は約2割存在します。
「遺族補償給付」とは、業務中の災害(労働災害)によって労働者が死亡した場合に、その遺族に対して支給される労災保険の給付制度です。法律上の正式名称は「遺族(補償)等給付」といい、業務災害の場合は「遺族補償給付」、通勤中の事故など通勤災害の場合は「遺族給付」と呼ばれます。ただし、内容はほぼ共通のため、本記事ではまとめて「遺族補償給付」として説明します。
この制度は、労働者災害補償保険法(労災保険法)に基づき国が運営する公的な補償制度です。保険料は事業主(雇用主)が全額負担しているため、労働者本人の手取り額から引かれることはありません。正社員だけでなく、パートやアルバイトを含む賃金をもらって働くすべての労働者が適用対象です。
遺族補償給付には、大きく分けて「年金型」と「一時金型」の2種類があります。受給資格を満たす遺族がいる場合は「遺族補償年金」、いない場合や年金受給権者が全員失権した場合は「遺族補償一時金」が支給される仕組みです。つまり、状況に応じて支給形式が変わるということですね。
さらに、年金受給者には「遺族特別支給金(一律300万円)」と「遺族特別年金」、一時金受給者には「遺族特別支給金」と「遺族特別一時金」が上乗せで支給されます。いずれも非課税所得のため、受け取った金額に対して所得税はかかりません。確定申告にも含める必要はなく、社会保険料の算定対象にもならない点が特徴です。
参考:労災保険の遺族補償給付制度の詳細は厚生労働省の公式ページで確認できます。
遺族(補償)等給付・葬祭料等(葬祭給付)の請求手続 | 厚生労働省
遺族補償給付を受け取れる遺族は、「亡くなった労働者の収入によって生計を維持していた人」が大前提です。共働きの場合でも「生計の一部を維持していた」と認められれば対象になります。単に親族関係があるだけでは足りません。
受給資格者には、法律で定められた明確な順位があります。この順位のうち最も上位の者(受給権者)のみに年金が支給されます。
| 順位 | 遺族の続柄・条件 |
|---|---|
| ①(最優先) | 妻(年齢・障害要件なし)/60歳以上または障害等級5級以上の夫 |
| ② | 18歳年度末までの子、または障害等級5級以上の子(胎児も出生後に対象) |
| ③ | 60歳以上または障害等級5級以上の父母 |
| ④ | 18歳年度末まで、または障害等級5級以上の孫 |
| ⑤ | 60歳以上または障害等級5級以上の祖父母 |
| ⑥ | 18歳年度末まで、60歳以上、または障害等級5級以上の兄弟姉妹 |
| ⑦〜⑩ | 55歳以上60歳未満の夫・父母・祖父母・兄弟姉妹(60歳まで支給停止=若年停止) |
注意したいのが「若年停止」です。55歳以上60歳未満の夫や父母・祖父母・兄弟姉妹は受給権者になれても、60歳になるまで年金の支給が停止されます。これは意外と見落とされがちな制度です。
また、妻が第三者と再婚した場合、または養子縁組した場合(直系血族・姻族以外との縁組)は受給権が消滅します。こうした失権が発生すると、次順位の者に権利が移る「転給」が起きます。転給が行われると、翌月から支給額が改定されます。
さらに重要な点として、配偶者と子が同時に受給権者の場合、年金は等分されて支給されます。配偶者が全額もらえるわけではありません。受給権者が複数いる場合はそのなかの1人を代表者に選任し、請求と受領を行う手続きが必要です。
遺族補償年金の金額は、亡くなった労働者の「給付基礎日額」に、遺族の人数に応じた所定の日数を掛け合わせて計算します。給付基礎日額とは、労災が発生した日の直前3か月間に支払われた賃金総額を、その期間の暦日数(90〜92日程度)で割った1日あたりの金額です。ボーナスや臨時報酬は含みません。
| 遺族の人数 | 遺族補償年金(年額) | 遺族特別支給金 |
|---|---|---|
| 1人 | 給付基礎日額 × 153日分 (55歳以上の妻・障害がある妻は175日分) |
一律300万円 |
| 2人 | 給付基礎日額 × 201日分 | 一律300万円 |
| 3人 | 給付基礎日額 × 223日分 | 一律300万円 |
| 4人以上 | 給付基礎日額 × 245日分 | 一律300万円 |
以下、月収30万円・年間ボーナス70万円の方が10月に亡くなった場合の計算例です。
💡 計算例(月収30万円・ボーナス年70万円・遺族2人の場合)
- 給付基礎日額:30万円 × 3か月 ÷ 92日 ≒ 9,782円
- 算定基礎日額(賞与):70万円 ÷ 365日 ≒ 1,917円
- 遺族補償年金:9,782円 × 201日分 ≒ 約197万円/年
- 遺族特別年金:1,917円 × 201日分 ≒ 約39万円/年
- 年金合計:約236万円/年
- 遺族特別支給金(一時金):一律300万円(初回のみ)
合計の年金受取額は約236万円となり、これが毎年偶数月に2か月分ずつ支給されます。遺族が2人の場合は等分されて受け取ることになります。つまり、一人あたり年118万円程度が目安です。
金額が「思ったより多い」と感じる方も、「意外と少ない」と感じる方も、給付基礎日額の計算が全体の金額を左右すると覚えておけばOKです。月収が同じでも、直前3か月の賃金が少なかった場合(休職期間があった場合など)は、給付基礎日額も低くなる点に注意が必要です。
年金を受け取れる遺族がいない場合や、受給権者が全員失権した場合には「遺族補償一時金」が支給されます。支給額は給付基礎日額の1,000日分が上限です。これは大きな金額ですね。
| 支給条件 | 支給額 |
|---|---|
| 年金受給資格者が一人もいないとき | 給付基礎日額の1,000日分 |
| 年金受給権者が全員失権し、支払い済み年金が1,000日分未満のとき | 1,000日分 − 支払い済み年金の合計額 |
先ほどの月収30万円の例だと、給付基礎日額9,782円 × 1,000日分 ≒ 約980万円 が遺族補償一時金となります。さらにボーナス分の遺族特別一時金(約190万円)と遺族特別支給金(300万円)を合わせると、合計約1,470万円のまとまった支給が見込めます。
一方、葬祭料(通勤災害の場合は葬祭給付)は、葬儀を実施した遺族が受け取れる補償です。支給金額は以下の2つのうち、高い方が適用されます。
- ① 315,000円+給付基礎日額30日分
- ② 給付基礎日額60日分
給付基礎日額が9,782円の場合、①は315,000円+293,460円=608,460円、②は586,920円となり、①の約60.8万円が支給されます。葬祭料の請求期限は死亡翌日から2年以内と短いため、葬儀後も早めに手続きを進めることが原則です。
参考:遺族補償一時金・葬祭料の詳細は下記のソリューション行政書士法人の解説ページが参考になります。
遺族(補償)年金の年金額の詳細解説 | ソリューション行政書士法人
労働中の事故で亡くなった方が会社員だった場合、遺族は労災保険から「遺族補償年金」を、厚生年金から「遺族厚生年金」を、それぞれ別々に受け取れます。この2つは同一の事由でも「併給」が可能です。これは使えそうです。
ただし、金額がそのまま上乗せされるわけではありません。
| 厚生年金・国民年金の種類 | 労災遺族年金への調整率 |
|---|---|
| 遺族厚生年金+遺族基礎年金(両方) | 0.80(つまり労災年金が2割減額) |
| 遺族厚生年金のみ | 0.84(労災年金が1.6割減額) |
| 遺族基礎年金のみ | 0.88(労災年金が1.2割減額) |
遺族厚生年金・遺族基礎年金の両方を受け取る場合、労災の遺族補償年金は0.80倍に調整(2割減額)されます。厚生年金は満額受け取れますが、労災年金の側が削られる仕組みです。
例えば、遺族補償年金が年間197万円だった場合、遺族厚生年金と遺族基礎年金の両方を受け取ると、実際に支給される労災年金は197万円 × 0.80 = 約157.6万円になります。差額は約39万円。これを知らずに満額を期待していると、実際の受取額を大きく見誤ることになります。
また、調整後の合計額(労災年金+厚生年金)が、調整前の労災年金額を下回らないよう配慮されていることは、一定の救済策と言えます。いずれにしても、併給を受ける場合は請求書の所定欄に厚生年金受給状況を記載し、労働基準監督署に申告することが必要です。
参考:労災保険と厚生年金の併給調整に関する公式情報はこちらで確認できます。
7-1 労災保険給付と厚生年金の両方を受け取ることはできるのでしょうか | 厚生労働省
遺族補償給付を受け取るには、所定の請求書を記入し、必要書類を添えて「勤務先の事業所を管轄する労働基準監督署」に提出します。自宅の近くの監督署ではなく、亡くなった方の勤務先が管轄される監督署が提出先です。この点は特に注意が必要です。
主な必要書類は以下のとおりです。
- 📄 遺族補償年金支給請求書(業務災害:様式第12号)または遺族年金支給請求書(通勤災害:様式第16号の8)
- 📄 死亡診断書または死体検案書
- 📄 受給権者・故人の戸籍謄本
- 📄 世帯全員の住民票の写し
- 📄 生計維持関係を証明する書類(所得証明書等)
- 📄 障害のある遺族が請求する場合は障害状態を証明する診断書
⏰ 時効に関する重要まとめ
| 給付の種類 | 時効(請求期限) |
|-----------|----------------|
| 遺族補償年金 | 死亡日の翌日から5年 |
| 遺族補償一時金 | 死亡日の翌日から5年 |
| 遺族補償年金前払一時金 | 死亡日の翌日から2年 |
| 葬祭料(葬祭給付) | 葬祭が行われた日の翌日から2年 |
葬祭料の時効は「2年」と短い点に注意が必要です。年金の5年と比べ、葬祭料は時効が短いため請求を忘れがちになります。葬儀を終えた直後から2年以内に手続きしなければ権利が消滅します。
また、同順位の受給権者が複数いる場合は、全員で1人の代表者を選んで「遺族(補償)年金代表者選任(解任)届(様式第7号)」を提出する必要があります。支給決定後は偶数月に2か月分ずつ振り込まれ、労働者が死亡した月の翌月分から発生します。手続きが遅れても、さかのぼって支給を受けることが可能です。
万が一に備えて、就業規則の「災害補償規定」も事前に確認しておくと安心できます。会社独自の補償と労災保険の給付を組み合わせることで、遺族の生活基盤をより厚くすることができます。いざというときに動けるよう、手続きの流れを頭に入れておくことが大切です。
参考:厚生労働省のQ&Aで、遺族補償給付の受給資格者や申請手続きの詳細が確認できます。
6-2 遺族(補償)等給付は誰が受給できますか | 厚生労働省