年金受給資格期間10年短縮制度で変わる受給条件

年金受給資格期間10年短縮制度で変わる受給条件

年金受給資格期間10年制度の基本情報

年金受給資格期間10年制度のポイント
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制度開始時期

2017年8月1日から25年→10年に短縮開始

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対象者数

新たに約64万人が受給権を獲得

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受給金額

10年加入で月額約1万6千円(国民年金)

年金受給資格期間10年短縮の背景と制度概要

年金受給資格期間の短縮は、無年金者の削減を目的とした重要な制度改正です。従来は25年以上の加入期間が必要でしたが、2017年8月1日から10年以上の資格期間があれば老齢年金を受給できるようになりました。

 

この改正により、新たに受給権が発生した約64万人の内訳は以下の通りです。

  • 65歳以上で初めて老齢基礎年金の受給権が発生:約40万人
  • 65歳未満で特別支給の老齢厚生年金の受給権が発生:約24万人

制度改正の背景には、「納付した保険料に応じた給付を行い、将来の無年金者を抑えていく」という政策方針があります。24年間保険料を納付していても、わずか1年足りないために年金を受給できなかった方々が、この改正により救済されることになりました。

 

対象となる年金は幅広く、老齢基礎年金だけでなく、老齢厚生年金、退職共済年金、寡婦年金、さらには旧法の老齢・通算老齢年金も含まれています。

 

年金受給資格期間に含まれる期間の詳細解説

年金受給資格期間の計算は、単純に保険料を納付した期間だけではありません。以下の期間をすべて合計して判定されます。
保険料納付済期間

  • 国民年金の保険料納付済期間
  • 厚生年金保険の加入期間
  • 共済組合への加入期間

国民年金の保険料免除期間

  • 全額免除期間
  • 一部免除期間(1/4免除、半額免除、3/4免除)
  • 学生納付特例期間
  • 納付猶予期間

合算対象期間(カラ期間)
合算対象期間は、受給資格期間には算入されるものの、年金額には反映されない期間です。具体的には。

  • サラリーマンの妻が国民年金に任意加入だった昭和61年3月以前の20歳~60歳の期間
  • 国民年金制度の変遷の中で被保険者の対象となっていなかった期間
  • 国民年金に任意加入しなかった期間

この合算対象期間は意外と知られていない制度で、多くの方が受給資格期間の計算で見落としがちな部分です。特に昭和61年以前にサラリーマンの配偶者だった方は、この期間が受給資格期間に含まれる可能性があります。

 

年金受給資格期間10年での受給金額シミュレーション

年金受給資格期間が10年の場合の受給金額は、加入していた年金制度や納付実績によって大きく異なります。

 

国民年金(老齢基礎年金)の場合
10年間すべて保険料を納付した場合の受給金額。

  • 年額:約19万5千円
  • 月額:約1万6千円

これは満額受給(40年加入)の場合の月額65,008円と比較すると、約4分の1の金額となります。

 

厚生年金の場合
厚生年金は受給資格期間が10年以上あれば、厚生年金保険の加入期間が1ヶ月でも受給可能です。ただし、受給金額は現役時代の給与水準と加入期間に応じて計算されるため、個人差が大きくなります。

 

受給金額に影響する要因
以下の要因により実際の受給金額は変動します。

  • 免除期間の割合:免除期間がある場合は金額が減額
  • 厚生年金加入の有無:厚生年金に加入していれば老齢厚生年金も受給可能
  • カラ期間の存在:受給資格期間には含まれるが金額には反映されない

月額1万6千円という金額は、老後の生活費としては決して十分ではありません。そのため、可能な限り加入期間を延ばす工夫が重要となります。

 

年金受給資格期間が足りない場合の対策方法

受給資格期間が10年に満たない場合でも、諦める必要はありません。以下の制度を活用することで、受給資格を満たすことが可能です。

 

任意加入制度の活用
60歳以降でも国民年金に任意加入することで、受給資格期間を延ばせます。

  • 対象年齢:60歳~65歳(特例として70歳まで可能)
  • 加入条件:受給資格期間が足りない方、または年金額を増やしたい方
  • 効果:受給資格期間の確保と年金額の増額

後納制度の利用
平成30年9月まで実施されていた後納制度では、過去5年以内の未納保険料を納付することが可能でした。現在は終了していますが、将来的に類似の制度が実施される可能性があります。

 

保険料免除制度の適切な利用
未納期間を作らないことが最も重要です。収入が少ない場合は。

  • 保険料免除制度を積極的に活用
  • 学生納付特例制度(学生の場合)
  • 納付猶予制度(50歳未満の場合)

これらの制度を利用することで、未納期間ではなく免除期間として受給資格期間にカウントされます。

 

期間の見直しと確認
意外と多いのが、自分の加入期間を正確に把握していないケースです。

  • ねんきん定期便での期間確認
  • 年金事務所での相談
  • 合算対象期間の見落としがないかチェック

特に転職が多い方や、結婚により姓が変わった方は、加入記録の漏れがないか注意深く確認することが重要です。

 

年金受給資格期間10年制度の将来への影響と注意点

年金受給資格期間の短縮は、年金制度全体に長期的な影響を与える重要な改正です。この制度変更がもたらす影響と今後の注意点について詳しく解説します。

 

制度改正の社会的インパクト
10年制度の導入により、以下のような社会的変化が生じています。

  • 無年金者の大幅削減:約64万人が新たに年金受給権を獲得
  • 年金制度への信頼回復:「払っても受け取れない」という不安の軽減
  • 保険料納付率の向上:将来の受給可能性が高まることによる納付意欲の向上

財政面での影響
一方で、制度改正には財政的な課題も伴います。

  • 年金給付費の増加:新規受給者増による支出拡大
  • 低年金受給者の増加:社会保障制度全体での対応が必要
  • 制度の持続可能性:長期的な財政バランスへの影響

個人が注意すべき点
この制度を最大限活用するために、個人が注意すべき点があります。
早期の受給手続き
対象者には黄色の封筒で年金請求書が送付されますが、手続きを放置すると受給開始が遅れる可能性があります。年金は請求主義のため、自動的には支給されません。

 

年金額の現実的な理解
月額1万6千円という金額は、老後の生活を支えるには不十分です。以下の対策を検討する必要があります。

  • 追加の老後資金準備:個人年金保険やiDeCoの活用
  • 就労継続:年金受給後も可能な範囲での就労
  • 生活費の見直し:年金額に応じた生活設計

制度変更への対応
年金制度は社会情勢に応じて変更される可能性があります。

  • 支給開始年齢の変更:将来的な引き上げの可能性
  • 受給要件の見直し:さらなる制度改正の可能性
  • 年金額の調整:マクロ経済スライドによる実質的な減額

次世代への影響
現在の制度改正は、将来世代にも影響を与えます。若年層ほど以下の点に注意が必要です。

  • 長期加入の重要性:10年で満足せず、できるだけ長期間の加入を心がける
  • 厚生年金の活用:可能な限り厚生年金に加入し、2階建て部分を確保
  • 制度理解の深化:複雑な年金制度への理解を深め、適切な選択を行う

年金受給資格期間10年制度は、無年金者救済という点で画期的な改正でした。しかし、受給できる年金額は決して潤沢ではないため、この制度を最低ラインと考え、より充実した老後資金の準備を進めることが重要です。また、制度の詳細や自分の加入状況については、年金事務所などの専門機関で定期的に確認し、最新の情報に基づいた対応を心がけましょう。

 

日本年金機構の公式サイトでは、受給資格期間の短縮に関する詳細な情報が提供されています。

 

https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2017/20170801.html