
特別支給の老齢厚生年金は、厚生年金の受給開始年齢が60歳から65歳に引き上げられた際の経過措置として設けられた制度です。63歳から受給できる対象者は、以下の条件をすべて満たす必要があります。
生年月日による対象者
その他の受給要件
注目すべき点は、男性と女性で対象となる生年月日が異なることです。これは法改正のタイミングが男女で5年のずれがあったためです。昭和37年4月生まれの女性の場合、2025年4月から受給対象となります。
また、厚生年金保険の被保険者期間が44年以上ある場合や、障害の状態にある場合など、特例的に早期受給が可能なケースもあります。
特別支給の老齢厚生年金は、受給権があっても自動的には支給されません。必ず申請手続きが必要です。
手続きの流れ
受給開始年齢に到達する3ヶ月前に、日本年金機構から「年金請求書(国民年金・厚生年金保険老齢給付)」が送付されます。この請求書には、氏名、生年月日、基礎年金番号などが事前に印字されています。
請求書と併せて、以下の書類が必要になる場合があります。
63歳の誕生日以降に、必要書類を添えて年金事務所または各実施機関に提出します。提出後、審査を経て年金証書が送付されます。
実際に昭和37年4月生まれの女性の事例では、2025年1月に年金請求書が届き、4月の誕生日以降に手続きを行うスケジュールとなっています。
注意すべき手続きのポイント
加給年金は、厚生年金受給者に65歳未満の配偶者がいる場合に加算される「年金上の配偶者手当」のような制度です。年額約39万円が支給されますが、63歳からの特別支給の老齢厚生年金受給と密接な関係があります。
加給年金の受給条件
特別支給の老齢厚生年金が与える影響
実際の相談事例では、66歳の夫が老齢厚生年金に加給年金を受給している状況で、60歳の妻(昭和38年生まれ)が63歳になって特別支給の老齢厚生年金の受給権が発生すると、夫の加給年金は停止されることが明らかになっています。
重要なのは、実際に年金を請求しなくても、受給する権利が発生した時点で加給年金は消失するということです。これは多くの人が見落としがちな点で、家計への影響を事前に検討する必要があります。
また、65歳以降の老齢厚生年金を繰り下げ受給する場合、加給年金は増額の対象外となり、繰り下げ期間中は加給年金を単独で受給することもできません。そのため、加給年金の受給対象者は、老齢基礎年金のみを繰り下げするケースが多くなっています。
特別支給の老齢厚生年金には、一般的な年金制度とは異なる重要な注意点があります。
繰り下げ受給は適用されない
65歳以降の老齢厚生年金とは異なり、特別支給の老齢厚生年金は繰り下げ受給の対象外です。請求を遅らせても年金額が増額されることはありません。
昭和36年3月生まれの男性の事例では、64歳から1年間受給できる特別支給の老齢厚生年金について、請求を2~3年遅らせることを検討していましたが、遡って受給権発生時から支給されるものの、増額はないことが確認されています。
5年の時効による消滅リスク
年金を受ける権利は、受給権が発生してから5年を経過すると時効によって消滅します。これは特別支給の老齢厚生年金においても例外ではありません。
例えば、63歳から受給権が発生した場合。
在職老齢年金による支給調整
63歳で厚生年金に加入しながら働いている場合、報酬と年金額の合計が一定額以上になると、年金の一部または全部が支給停止となる可能性があります。2025年時点では、総報酬月額相当額と基本月額の合計が48万円を超える場合に調整されます。
また、63歳以降に支払った厚生年金保険料は、特別支給の老齢厚生年金額には反映されず、65歳以降の老齢厚生年金額に反映されることも重要なポイントです。
63歳から特別支給の老齢厚生年金を受給した後、65歳からの年金戦略について考察することは、老後の生活設計において極めて重要です。
65歳以降の繰り下げ受給戦略
特別支給の老齢厚生年金を63歳から受給した場合でも、65歳からの老齢厚生年金と老齢基礎年金は繰り下げ受給が可能です。65歳になると、はがき形式の案内が送付され、繰り下げを希望する年金の種類を選択できます。
繰り下げ受給のメリット・デメリット
加給年金の受給対象者の場合、老齢厚生年金を繰り下げると約39万円の加給年金を受け取れない期間が発生するため、慎重な判断が必要です。
税務・社会保険料の観点
63歳からの年金受給開始により、以下の点にも注意が必要です。
ライフプランとの整合性
63歳からの年金受給は、以下の要素と総合的に検討すべきです。
現在、人生100年時代と言われる中で、63歳からの年金受給開始は老後の生活資金確保の第一歩となります。ただし、一度請求すると取り消しができないため、ファイナンシャルプランナーや社会保険労務士などの専門家と相談することも重要な選択肢の一つです。
特に、夫婦世帯においては、それぞれの年金受給タイミングと加給年金の関係を総合的に検討し、世帯全体での最適化を図ることが、豊かな老後生活の実現につながります。
年金制度の複雑さを理解し、早めの情報収集と準備が、安心できる老後への第一歩となるでしょう。