

諭旨解雇でも退職金をもらえると思い込むと、実は3ヶ月も無収入になります。
「諭旨解雇(ゆしかいこ)」という言葉を初めて聞く方も多いかもしれません。漢字の「諭旨」とは、「趣旨や理由を説いて相手に理解させること」を意味します。つまり諭旨解雇とは、会社が従業員に解雇の理由をきちんと説明したうえで、退職届の提出を求め、合意のもとで雇用契約を終了させる懲戒処分のことです。
一方的に「明日から来なくていい」と告げる懲戒解雇とは、根本的に性質が異なります。諭旨解雇は従業員が退職届を提出して初めて成立するため、形式上は「本人の意思による退職」とみなされます。しかし実態は懲戒処分です。
懲戒処分には軽い順から、戒告・譴責・減給・出勤停止・降格・諭旨解雇・懲戒解雇という7段階があります。諭旨解雇はこの中の下から2番目、つまり最も重い懲戒解雇の一歩手前に位置します。厳しいところですね。
一般財団法人 労務行政研究所が2023年に実施した調査(225社対象)によれば、多くの企業において懲戒処分の実施パターンは「譴責→減給→出勤停止→降格・降職→諭旨解雇→懲戒解雇」の6段階設定が31.5%と最も多いことがわかっています。つまり諭旨解雇は、段階的な処分の「最終警告」に位置するケースが多いということです。
諭旨解雇が行われる代表的な理由としては、以下のようなものが挙げられます。
- セクシャルハラスメント・パワーハラスメントなどのハラスメント行為
- 正当な理由のない長期無断欠勤(2週間以上に及ぶケースなど)
- 業務上の不正行為(不正会計、取引先からのリベート受領など)
- 会社命令への継続的な違反
- 経歴詐称
懲戒解雇との最大の違いは「本人の反省・情状酌量の余地があるかどうか」です。本来なら懲戒解雇が相当な行為であっても、深い反省の態度が認められる場合には、企業の温情措置として諭旨解雇に留められることがあります。つまり、諭旨解雇は「懲戒解雇から一段階下げてもらえた処分」とも言えます。
なお、諭旨解雇には法律上の統一定義がありません。各社の就業規則に基づいて運用されるため、就業規則に諭旨解雇の規定がない会社では、この処分を行うことすらできない点も押さえておきましょう。
参考:諭旨解雇の懲戒処分における位置づけや統計データ(労務行政研究所「企業における懲戒制度の最新実態」2023年8月)
【PR TIMES】企業における懲戒制度の最新実態(労務行政研究所・2023年)
「諭旨解雇でも退職金はもらえる」。これは半分正しく、半分間違いです。重要なのは「会社の退職金規程による」という点です。
法律には「諭旨解雇の場合、退職金は◯%支給すること」などの規定は一切ありません。つまり、会社ごとの退職金規程・就業規則の内容によって、退職金が「全額もらえる」場合も「ゼロになる」場合も存在します。
労務行政研究所の2023年調査(225社対象)では、諭旨解雇の際の退職金の扱いについて次の結果が示されています。
| 退職金の支給区分 | 諭旨解雇 | 懲戒解雇 |
|---|---|---|
| 全額支給する | 30.5% | 0.4% |
| 全額または一部を支給する | 4.7% | 2.0% |
| 一部支給する | 20.0% | 1.8% |
| 全く支給しない | 14.5% | 63.2% |
| 退職金制度なし | 30.3% | 32.6% |
この数字が示すのは、諭旨解雇では「何らかの退職金が支払われるケースが半数を超える」という実態です。一方、懲戒解雇では6割以上が退職金ゼロとなっています。この差は非常に大きいですね。
ただし、30.5%が「全額支給」でも、残りの約70%は減額・不支給・規程なしという現実があります。諭旨解雇なら必ず退職金が出るというわけではないのです。
退職金規程で諭旨解雇を「自己都合退職と同等」として扱う会社では、勤続年数に応じた退職金が満額支給されます。一方、「諭旨解雇の場合は退職金を◯%減額する」と明記している会社では、たとえば通常なら300万円もらえるはずの退職金が、規程に基づき150万円や50万円になることも十分あり得ます。
退職金規程を確認する際のポイントは以下の通りです。
- 就業規則や退職金規程に「諭旨解雇の場合」の記載があるか
- 「全部または一部を支給しないことがある」という曖昧な表現になっていないか
- 会社が退職金を減額する場合、その計算根拠が明示されているか
万が一、退職金の減額や不支給について納得できない場合は、弁護士や社会保険労務士に相談するのが安全です。就業規則の定めがないのに退職金を不支給にしようとすれば、会社側が違法とみなされる可能性もあります。退職金規程の確認が条件です。
参考:退職金の支給状況に関する統計データと諭旨解雇における退職金の考え方
諭旨解雇になった場合でも、失業保険(雇用保険の基本手当)を受け取ることはできます。しかし「解雇だからすぐにお金が出る」と思っていると、思わぬ落とし穴にはまります。
まず前提として、失業保険の扱いは「離職理由」によって大きく異なります。
- 会社都合退職(普通解雇・整理解雇など):7日間の待機期間後、すぐに受給開始
- 自己都合退職(通常):7日間の待機期間+原則1ヶ月の給付制限(2025年4月改正後)
- 諭旨解雇:7日間の待機期間+最大3ヶ月の給付制限
諭旨解雇は「自己の責めに帰すべき重大な理由による退職」として分類されるため、通常の自己都合退職よりも給付制限が長くなります。これは痛いですね。
具体的に数字で考えてみましょう。仮に月収30万円の人が諭旨解雇になった場合、最大3ヶ月の給付制限中は失業保険が一切出ません。その間の生活費として単純計算で90万円分の収入が失われることになります(東京都内での一人暮らしの生活費3〜4ヶ月分に相当します)。
さらに見逃しがちな点があります。諭旨解雇では離職票の「離職コード」が「自己都合」として処理されることが多いのですが、このコードが実態と異なる場合、後から訂正を求めることが可能です。ハローワークに申告して離職理由を争うことで、給付制限がなくなるケースも存在します。
つまり「諭旨解雇なのに会社が勝手に自己都合にした」という状況は、必ずしも受け入れなくていいということです。ハローワークへの申告が原則です。
失業保険の手続きを進める際には、以下の書類を準備しましょう。
- 離職票(離職理由の記載内容を必ず確認する)
- 雇用保険被保険者証
- 本人確認書類(マイナンバーカードなど)
- 写真2枚
給付制限中の3ヶ月間の生活費として、緊急小口資金貸付(厚生労働省管轄)や、生活福祉資金貸付制度の活用も選択肢の一つです。また、給付制限期間中でも職業訓練(ハロートレーニング)受講を申し込めば、受講手当として日額500円の支給を受けながらスキルアップできる場合もあります。
参考:失業保険の給付制限と離職理由コードの扱いに関する厚生労働省の解説
「諭旨解雇でも転職できるの?」という不安を持つ方は少なくありません。結論から言えば、可能です。ただし、いくつかの注意点を把握していないと、内定取り消しというリスクもゼロではありません。
転職活動において最初に確認すべきは、離職票に記載される退職理由です。諭旨解雇の場合は多くのケースで「自己都合退職」扱いになるため、離職票上は一般的な自己都合退職と区別がつきません。つまり、転職先が離職票だけを見た場合、諭旨解雇だと知られることはほぼありません。
では、履歴書にはどう書けばいいのでしょうか。諭旨解雇の場合、履歴書には「一身上の都合により退職」と記載することが一般的です。これは虚偽記載にはあたりません。なぜなら、形式的には本人が退職届を提出しているからです。
ただし、例外があります。諭旨解雇の理由が刑事罰(罰金刑以上)を受けたことに起因する場合、履歴書の「賞罰欄」に記載する義務があります。これを意図的に隠すと「告知義務違反」とみなされ、内定取り消しや懲戒処分のリスクが生じます。賞罰欄への記載が条件です。
転職先に諭旨解雇がバレる主なルートは以下の通りです。
- 前職に退職証明書を請求された場合(退職理由として「諭旨解雇」と明記されることがある)
- 業界内での口コミや人脈を通じた情報流出
- SNSへの投稿・書き込み等から発覚するケース
退職証明書は、労働基準法第22条に基づき従業員が請求した場合にのみ交付が義務付けられています。転職先が前職会社に直接問い合わせることは一般的ではありませんが、ゼロではないため、業界が狭い場合は注意が必要です。
転職活動をスムーズに進めるための実践的なアドバイスとしては、面接で「自己都合退職」の理由をどう答えるかを事前に準備しておくことが重要です。「一身上の都合」と答えることに問題はありませんが、具体的な理由を聞かれた場合には「会社の方向性と自分の方向性のすり合わせを行った結果」など、前向きな表現にまとめておくと好印象につながります。意外ですね。
なお、転職エージェントを活用する場合は、エージェントに対してある程度の実情を共有しておくと、マッチング精度が上がります。退職の経緯をすべて伝える必要はありませんが、職種・業界の方向性についてはしっかりと相談することをおすすめします。
参考:諭旨解雇と履歴書記載・転職への影響について弁護士による解説
【埼玉弁護士会】諭旨解雇されてしまったら…弁護士が解説(2025年)
諭旨解雇は「会社から退職を勧告され、本人が同意して退職届を出す」形をとります。ということは、本人が拒否することも法的には可能です。これは知らないと損する知識です。
諭旨解雇の勧告を拒否した場合、会社は通常「懲戒解雇」に移行します。このとき懲戒解雇になると、退職金が全額不支給になるリスクが高まり(先述の通り、63.2%の企業が全額不支給)、転職活動での影響も大きくなります。単純に「拒否すれば得をする」とは言えません。
一方で、会社が行った諭旨解雇の手続きに問題がある場合には、「解雇無効」を主張することで職場復帰や未払い賃金の請求が認められる場合があります。
諭旨解雇が無効と判断されるケースとして、以下が挙げられます。
- 就業規則に「諭旨解雇」の規定がなかった
- 弁明の機会を与えないまま処分が決定された
- 行為の重さに対して処分が「過重」と判断された(社会通念上不相当)
- 事実と異なる調査結果に基づいた処分だった
実際の裁判例として、「骨髄移植推進財団事件(東京地裁・2009年6月12日)」では、上司のパワハラを報告した社員が報復的に諭旨解雇され、処分は無効とされた事例があります。裁判所は「使用者が報告内容を誠実に調査せず、処分に至ったことには不法行為上の過失がある」と判断しました。
諭旨解雇が不当だと感じた場合の実際の対処手順は以下の通りです。
1. 就業規則の確認:諭旨解雇の定義・事由・手続き要件を確認する
2. 弁明の記録保存:弁明機会での発言内容・証拠をすべてメモ・録音する
3. 就労意思の表明:内容証明郵便で会社に就労意思を伝える(賃金請求権の保全に必要)
4. 弁護士への相談:不当解雇として争う場合は早期に弁護士に相談する
5. 労働審判・訴訟:交渉決裂の場合は労働審判(申立から40日以内に期日設定が多い)を活用する
弁護士費用が気になる場合は、法テラス(日本司法支援センター)の無料法律相談や、弁護士費用立替制度を活用できます。初回相談は多くの弁護士事務所で無料で受け付けています。これは使えそうです。
参考:諭旨解雇の有効性の争い方と弁護士への相談手順について
【ベリーベスト法律事務所】諭旨解雇とは?解雇された場合に確認すべきことと対処法