

弁護士費用を50万円払っても、相手の会社には1円も請求できません。
労働審判にかかる費用は、大きく分けて「裁判所に支払う費用(実費)」と「弁護士に支払う費用」の2種類です。
裁判所への費用は収入印紙代と予納郵便切手代が主体で、収入印紙代は請求する金額(申立価額)によって変わります。たとえば300万円を請求する場合の印紙代は1万円、1,000万円の請求では2万5,000円が目安です。これは裁判所の手数料に相当するもので、申し立てをする側(通常は労働者側)が負担します。
印紙代が低いということですね。
予納郵便切手代は、裁判所が書面を郵送する際に使う費用で、東京地裁の場合は500円程度で済むことが多いです。そのほかに印刷代(1,800〜7,000円)、交通費(1,000〜3,000円)、郵送費(1,000〜2,000円)なども実費として発生します。これらをすべて合計しても、弁護士を立てない場合の実費合計はおよそ5,000円〜3万円程度に収まります。
費用負担の原則について重要な点があります。 労働審判法29条・非訟事件手続法26条1項によって、労働審判の手続費用は「各自負担」とされています。つまり、相手の会社にこれらの費用を支払わせることはできないのが原則です。これは訴訟とは異なるルールで、訴訟では民事訴訟法61条により敗訴者が費用を負担するケースがありますが、労働審判にはこの仕組みが適用されません。
各自負担が原則です。
ただし、弁護士費用(着手金・報酬金)はまったく別の話です。裁判所への費用とは独立して、依頼した弁護士に対して本人が直接支払います。弁護士費用を相手の会社に請求することは原則としてできません。この点を誤解している方が非常に多く、「裁判に勝てば弁護士費用も取り戻せる」と思い込んでいると、後で痛い目を見ることがあります。
弁護士費用は自己負担が基本です。
参考:労働審判の手続費用負担の根拠となる非訟事件手続法の詳細はこちらで確認できます。
弁護士費用の相場は、事務所や案件の規模によってかなり幅がありますが、労働者側(申立人)で依頼した場合、着手金15万〜30万円・報酬金は獲得金額の15〜30%・日当1期日あたり2万〜3万円が一般的です。トータルで30万〜100万円程度を見込んでおく必要があります。
以下に弁護士費用の主な内訳をまとめます。
| 費用の種類 | 相場 | 概要 |
|---|---|---|
| 相談料 | 無料〜1万円/時間 | 初回無料の事務所も多い |
| 着手金 | 15万〜30万円 | 依頼時に支払う。結果に関わらず返金なし |
| 報酬金(成功報酬) | 獲得金額の15〜30% | 成功した場合のみ発生 |
| 日当 | 2万〜3万円/期日 | 裁判所出頭ごとに発生 |
| 実費 | 数万円 | 交通費・コピー代など |
旧弁護士報酬基準という目安があります。 現在、弁護士費用は自由化されており法律で金額が決まっているわけではありませんが、かつて日本弁護士連合会が設けていた「旧報酬基準」を参考にしている事務所も多く、相場の目安として活用できます。たとえば300万円の未払い残業代を請求する場合、着手金は24万円(300万×8%)、成功報酬は最大48万円(獲得額×16%)という計算になります。
これはあくまで目安です。
会社側(被申立人)が弁護士を立てる場合は費用がさらに高額になりやすく、着手金30〜80万円・成功報酬10〜20%で、トータル60〜120万円程度の費用がかかるとされています。これは会社側が弁護士費用を確保した上で審判に臨んでいることを意味しており、労働者側は弁護士なしで挑むと非常に不利な状況になります。
厳しいところですね。
なお、「着手金0円・完全成功報酬制」を掲げる事務所も増えています。着手金なしは初期費用の負担を減らせるメリットがある反面、成功時の報酬割合が高めに設定されていることが多く、最終的な支払い総額は着手金ありの事務所より高くなるケースもあります。どちらが有利かは案件の内容や見通しによって変わるため、複数の事務所で見積もりを取ることをおすすめします。
参考:旧弁護士報酬基準に基づく費用シミュレーションが確認できます。
労働審判の費用とは?弁護士・裁判所・解決金等の相場を徹底解説! | 顧問弁護士の窓口
弁護士費用は依頼者本人の負担が原則ですが、例外があります。それが「不法行為に基づく損害賠償請求」のケースです。これは知っているかどうかで数十万円の差がつく重要な知識です。
不法行為に基づく請求とは、具体的には次のような事案が該当します。
- 🔴 パワハラ・セクハラなどハラスメントによる慰謝料請求
- 🔴 労働災害(労災)に関する損害賠償請求
- 🔴 不当解雇による損害賠償請求(解雇が不法行為と認定された場合)
これらのケースでは、裁判所が認定した損害額の約10%を弁護士費用相当額として上乗せ請求できるという裁判例の慣行があります。たとえば、パワハラによる慰謝料200万円が認められた場合、弁護士費用相当額として20万円を追加請求できる可能性があります。
これは使えそうです。
ただし、この10%の加算が認められるのは主に判決が出た場合です。労働審判のほとんどは調停(和解)によって終結するため、和解交渉の場ではこの弁護士費用加算分が含まれないケースが多いのが実情です。弁護士費用全体をカバーできるわけではありませんが、ハラスメント・労災案件の場合は弁護士と相談の上、損害賠償請求として組み立てることで費用回収の一部が見込めます。
あくまで部分的な回収が条件です。
また、実際に支払った弁護士費用が50万円であっても、加算が認められるのは損害額の10%(前述の例なら20万円)までで、実費全額が認められるわけではない点も把握しておきましょう。この点を誤解すると、「全部取り戻せると思っていたのに…」という失望につながります。
参考:不法行為に基づく弁護士費用の請求可否について詳しく解説されています。
労働審判を申し立てた場合、かかった弁護士費用も相手の会社に請求できますか? | あでぃーレ法律事務所
労働審判で請求する側が最終的に受け取る「解決金」の相場を理解しておくことは、費用対効果を考えるうえで非常に重要です。
厚生労働省が令和4年に実施した調査によると、労働審判事件における解決金の中央値は150万円で、最も件数が多い解決金の範囲は100万〜200万円とされています。一方、平均値は約285万円と中央値を大きく上回っており、高額案件が平均を引き上げている構造になっています。解決金の50万〜300万円の範囲に全体の約8割が集中しているとも報告されています。
解決金の幅は広いということですね。
この数字をもとに費用対効果を考えてみます。弁護士費用が合計50万円かかったとして、解決金が150万円(中央値)得られた場合、手元に残るのは実質100万円程度です。しかし、弁護士費用を差し引いても十分なメリットがあると言える水準です。問題は、解決金が非常に低額(たとえば20万〜30万円)になるケースで、弁護士費用の方が高くなる「費用倒れ」が発生します。
痛いですね。
費用倒れを防ぐためには、事前に弁護士と「どの程度の解決金が見込めるか」という見通しをきちんと共有することが大切です。労働問題に詳しい弁護士であれば、案件の事情をヒアリングしたうえでおおよその見通しと費用の見積もりを出してくれます。依頼前に複数の事務所で無料相談を活用し、見通しと費用の両方を比較することが費用倒れ回避の第一歩です。
見通しの確認が条件です。
また、解決金の水準は「月額賃金×勤続年数」のほか、ハラスメントの悪質性や会社側の対応、労働者の年齢・雇用形態など多くの要素が影響します。同じ不当解雇案件でも、勤続1年の若手と勤続15年の中堅社員では解決金の相場が大きく異なります。こうした事情を踏まえて戦略を立てることが、費用対効果を最大化する鍵となります。
参考:厚生労働省が実施した労働審判・裁判上の和解における解決金の統計調査データです。
労働審判事件等における解決金額等に関する調査に係る主な統計表(厚生労働省)
費用の節約を考えるとき、まず知っておきたいのが法テラス(日本司法支援センター)の存在です。法テラスには弁護士費用の立替制度があり、一定の収入・資産要件を満たせば、通常より大幅に低い費用で弁護士に依頼できます。
法テラス利用時の労働審判費用の目安は以下のとおりです。
| 費用の種類 | 法テラス利用時 | 通常相場 |
|---|---|---|
| 着手金 | 8万8,000円〜13万2,000円 | 15万〜30万円 |
| 報酬金 | 獲得金額の10% | 獲得金額の15〜30% |
| 実費 | 約2万円 | 数万円 |
法テラスなら費用が大幅に下がります。
支払いは分割払いで対応しており、月々1万円程度から返済できる設計になっています。ただし、利用するには収入・資産が一定基準以下であること(例:単身世帯で月収約18万2,000円以下など)という条件があり、申請から利用開始まで審査に時間がかかる点はデメリットです。また、担当弁護士を自由に選べないため、労働問題が得意な弁護士に当たるとは限らない点にも注意が必要です。
使い勝手に限界はあります。
その他の費用節約方法を整理すると、次の4つが有効です。
- 💡 費用体系を事前に比較する:複数の事務所から見積もりを取り、着手金・成功報酬のバランスを確認する
- 💡 適正な請求金額を設定する:過大な請求は印紙代を増やすだけで意味がない。弁護士と相談して現実的な金額を設定する
- 💡 勤務地に近い裁判所に申立てる:労働者が勤務している場所を管轄する裁判所に申立てることができるため、交通費を抑えやすい
- 💡 証拠・主張を整理して弁護士の工数を減らす:タイムチャージ方式(時間単価×稼働時間)を採用する事務所では、準備が整っているほど費用が低くなる
費用節約は情報収集が基本です。
また、弁護士費用保険(リーガル保険)に加入していれば、労働問題の弁護士費用の一部が補填される場合があります。月額数千円程度の保険料で、1案件あたり数十万円の補填が受けられる商品もあるため、万が一に備えて検討する価値があります。ただし、トラブルが発生してからの加入では使えず、待機期間がある点に注意が必要です。
参考:法テラスの弁護士費用立替制度の詳細と利用条件はこちらで確認できます。
費用の目安(概要)| 無料法律相談・弁護士等費用の立替 | 法テラス公式サイト
金融に詳しい人ほど、労働審判を「投資対効果(ROI)」の観点から判断する傾向があります。これは合理的な考え方ですが、労働審判の費用構造には見落とされやすい特殊な要素があります。
まず注目すべきは、「弁護士費用は経費として損金算入できる可能性がある」という点です。個人事業主やフリーランスが労働問題(業務委託先とのトラブルなど)で弁護士費用を支払った場合、業務に直接関連するものとして一部を経費計上できるケースがあります。サラリーマンの場合でも、給与の未払い請求のための弁護士費用は「雑費」や「その他の費用」として確定申告の際に考慮できる場合があります。税務的な扱いはケースバイケースのため、税理士への確認が前提ですが、知っているかどうかで実質的な負担額が変わります。
節税効果が出る可能性があります。
次に、解決金に対する税金の扱いも重要な視点です。労働審判で受け取った解決金は、原則として「給与所得」または「雑所得」として課税対象となります。しかし、解雇に対する慰謝料的性格の強い解決金や、精神的苦痛に対する損害賠償金については、非課税になるケースもあります。これを知らずに確定申告を忘れたり、逆に全額課税されると思って請求額を下げたりするのは損です。
税務上の扱いの確認も必須です。
さらに、時間コストの観点も見逃せません。労働審判は通常の訴訟と比べて迅速で、原則として3回以内の期日で終了します。最高裁の統計では、労働審判事件の平均審理期間は約70日(約2.3か月)です。これに対して、通常の労働訴訟は1年以上かかることも珍しくありません。金融的な意思決定と同様に「機会コスト(その期間に別のことに集中できたか)」まで含めて評価すると、労働審判の費用は決して高いものではないと言えます。
スピードも重要な価値です。
最後に、労働審判で調停が成立した場合、その調停調書は確定判決と同じ効力を持ちます(労働審判法21条4項)。つまり、相手が解決金を支払わなかった場合、強制執行が可能です。この「権利の執行力」という観点からも、弁護士費用を払って正式な手続きを踏む価値は十分あります。
執行力を持てるのが強みです。
参考:労働審判の手続きの流れや法的効力について詳しく解説されています。
労働審判とは?手続きの流れや費用、解決金の相場をわかりやすく解説 | 企業法務弁護士ナビ