
2023年4月から、労働基準法と年金制度の連携が大幅に強化されました。労働基準監督署において労働基準法上の労働者であると判断された事案について、日本年金機構年金事務所に情報提供し、被用者保険の更なる適用促進を図ることが決定されています。
この制度変更により、以下のような流れで労働者の社会保険適用が促進されています。
従来は各機関が独立して判断していましたが、現在は一体的な運用により「偽装請負」や「労働者性の曖昧な雇用形態」に対する監視が強化されています。企業側としては、労働者の雇用形態について、労働基準法と社会保険法の両面から適切な判断を行う必要性が高まっています。
特に注目すべきは、フリーランス等からの相談があった際の対応です。年金事務所は可能な限りリーフレット等を用いて説明し、法令を所管する部署を教示することが義務付けられており、労働者保護の観点が強化されています。
2025年6月13日に成立した年金制度改正法は、労働基準法の適用を受ける労働者の年金制度に大きな変化をもたらします。主要な改正項目として以下が挙げられます。
社会保険の106万円の壁撤廃
従来、年収106万円を超えると社会保険の加入義務が発生していましたが、この基準が段階的に見直されます。労働基準法上の労働者である限り、収入額に関わらず社会保険適用の対象となる方向性が示されています。
企業規模要件の段階的撤廃
現行では従業員501人以上の企業に限定されていた短時間労働者への社会保険適用が、段階的に拡大されます。
厚生年金保険料上限の引き上げ
標準報酬月額の上限が段階的に引き上げられます。
この改正により、高額報酬者の厚生年金保険料は月額で最大約9,000円(労使折半額)増加する見込みです。労働基準法上の管理監督者であっても、この保険料負担の変更は適用されます。
在職老齢年金制度は、労働基準法の適用を受けながら厚生年金を受給する高齢労働者にとって重要な制度です。2025年の改正では、この制度にも大きな変更が加えられています。
支給停止基準額の変遷
在職老齢年金の支給停止は、以下の計算式で決定されます。
(基本月額 + 総報酬月額相当額 - 50万円)× 1/2
労働基準法上の労働時間規制とも関連し、フルタイム勤務する高齢者ほど年金減額の影響を受けやすい構造となっています。このため、企業では以下のような対応が求められています。
この制度改正により、「働き損」の解消と高齢者の就労促進が期待されています。
労働基準法と社会保険適用の連携強化により、企業の実務対応が複雑化しています。特に以下の点で注意が必要です。
労働者性の判断基準統一
労働基準法上の労働者判定と社会保険上の被保険者判定が連動するため、企業は一貫した判断基準を持つ必要があります。以下の要素が重要な判断材料となります。
適用回避防止措置の強化
2025年の制度改正では、意図的な適用回避を防止する措置が強化されています。
合同調査の増加
労働基準監督署と年金事務所の連携により、合同調査が増加傾向にあります。企業は以下の準備が必要です。
厚生労働省の通達により、被用者保険の適用促進が政策的優先事項となっており、企業のコンプライアンス対応が一層重要になっています。
労働基準法と年金制度の連携は、今後さらに強化される見通しです。企業が注目すべき将来的な変化として、以下の点が挙げられます。
デジタル化による監視体制強化
2025年以降、労働基準監督署と年金事務所のデータ連携がデジタル化されることが予想されます。これにより。
働き方改革との連動
労働基準法の働き方改革関連法と年金制度改正が連動し、以下のような変化が期待されています。
企業の対応戦略
これらの変化に対応するため、企業は以下の戦略を検討する必要があります。
特に中小企業においては、2028年10月からの社会保険適用拡大により、大幅な負担増が予想されます。早期からの準備と段階的な制度整備が成功の鍵となるでしょう。
厚生労働省の政策方針を踏まえた年金制度改正の詳細については、以下の公式資料で確認できます。
年金制度改正法の成立について - 厚生労働省の最新情報と制度概要
労働基準法と年金制度の連携強化は、企業の人事労務管理に根本的な変化をもたらします。適切な対応により、法的リスクを回避しながら、従業員の安定した老後生活を支援する体制を構築することが、今後の企業経営において重要な課題となるでしょう。