単純承認と限定承認の違い・選び方と手続き注意点

単純承認と限定承認の違い・選び方と手続き注意点

単純承認と限定承認の違い・選び方と注意点

親の預貯金を葬儀費用に使っただけで、借金を丸ごと相続してしまう場合があります。


この記事のポイント3つ
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単純承認と限定承認の基本的な違い

単純承認はプラス・マイナスの財産をすべて無条件で引き継ぐ。限定承認はプラスの財産の範囲内でのみマイナスの財産を負担する仕組み。

熟慮期間は3ヶ月、何もしないと自動的に単純承認に

相続開始を知った日から3ヶ月以内に手続きをしなければ、自動的に単純承認とみなされる(法定単純承認)。限定承認は全相続人の合意が必要。

⚠️
うっかり行動が単純承認とみなされるリスク

相続財産の預金を使う・形見分けで価値ある物を譲渡するなどの行為が「法定単純承認」に該当し、相続放棄や限定承認ができなくなる場合がある。


単純承認とは何か・限定承認との基本的な仕組みの違い


相続が発生したとき、相続人は大きく3つの方法から選ぶことになります。「単純承認」「限定承認」「相続放棄」の3択です。


まず単純承認とは、被相続人(亡くなった方)のプラスの財産もマイナスの財産も、すべてを無条件・無制限に引き継ぐ相続方法です。民法第920条では「相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する」と定められています。つまり、仮に後から多額の借金が発覚した場合でも、その返済義務を自分の財産で担わなければなりません。


一方、限定承認とは「プラスの財産の範囲内でのみマイナスの財産を負担する」方法です。







































項目 単純承認 限定承認 相続放棄
プラスの財産 ✅ 全て引き継ぐ ✅ 引き継げる ❌ 一切受け取れない
マイナスの財産 ❌ 全て引き継ぐ ⚠️ プラスの範囲内のみ ✅ 一切引き継がない
手続き 不要 家庭裁判所に申述(全員) 家庭裁判所に申述(個人)
期限 なし(3ヶ月何もしなければ自動成立) 3ヶ月以内
相続人の合意 不要 全員必要 不要(個人で申述)


わかりやすく言えば、遺産が1,000万円でプラスの財産が500万円、借金が700万円だった場合、単純承認なら差引き200万円の借金を自分の財産から返済しなければなりません。しかし限定承認なら500万円の資産を使って700万円のうち500万円分を弁済すれば、残りの200万円は支払い義務がなくなります。これが基本的な仕組みです。


単純承認が原則です。特に問題ありません。


相続財産にマイナスの財産が含まれている場合や、財産の全容が把握できていない場合に、どちらを選ぶかが重要な判断となります。


単純承認・限定承認それぞれのメリットとデメリット

単純承認の最大のメリットは、手続きが一切不要という点です。相続開始を知ってから3ヶ月以内に何もしなければ、自動的に成立するため、特別な申し立ては要りません。遺産がプラスの財産のみで借金がないことが明らかなケースや、財産調査が終わっていてマイナスの心配がない場合は、単純承認で何ら問題はありません。また、相続税の申告については、相続開始から10ヶ月以内に行えばよく、期間に余裕があります。


ただし、デメリットとして見逃せないのは、後から借金が発覚しても一切手を打てないという点です。被相続人の財産には、表に出ていない消費者金融への借入れや、連帯保証人としての責任などが隠れていることもあります。これらは相続開始後に発覚するケースが少なくなく、単純承認を選んでしまうと自己財産での弁済を余儀なくされます。


限定承認のメリットは、債務超過リスクをプラスの財産の範囲内に抑えられる点です。また「先買権」という特別な権利も付与されます。これは、被相続人の自宅など守りたい特定の不動産がある場合、鑑定人が評価した金額を支払うことで、競売にかけられる前に優先的に取得できる権利です。配偶者が被相続人と同居していた自宅を失わずに済む、といったケースでは非常に有効です。


これは使えそうです。


一方、限定承認のデメリットも相当に重く、主に3点あります。



  • 💼 相続人全員の合意が必須:相続人のうち1人でも単純承認を選んだ場合、他の全員が希望しても限定承認はできません。音信不通の相続人がいたり、意見が合わない相続人がいたりすると、実質的に不可能になります。

  • 🏛️ 手続きが複雑で1年以上かかることも:家庭裁判所への申述から始まり、財産管理人の選任・官報公告・債権者への弁済など、相続放棄が1ヶ月程度で完了するのとは対照的に、限定承認は1年以上を要することも珍しくありません。

  • 💰 みなし譲渡所得税が発生する:限定承認をした場合、税法上は被相続人から相続人へ財産が「売却」されたとみなされます。そのため、被相続人が取得した時点から値上がりした不動産があると、その含み益に対して譲渡所得税が課税されます(所得税法第59条1項)。一方、単純承認には同様の課税は発生しません。


たとえば被相続人が2,000万円で購入した不動産が、相続時点で3,000万円に値上がりしていた場合、限定承認では差額の1,000万円に対して所得税が課されます。さらに相続開始から4ヶ月以内に準確定申告も必要となるため、かなりの時間的プレッシャーがあります。


税金は条件次第です。


単純承認とみなされる「法定単純承認」の具体的なNG行為

多くの人が見落としやすいのが「法定単純承認(みなし単純承認)」という制度です。民法第921条に定められており、特定の行為をした場合に「相続放棄や限定承認をする意思がなくても、単純承認をしたとみなされる」という仕組みです。


痛いですね。


具体的には、以下の行為が法定単純承認に該当します。



  • 相続財産を処分した場合:預貯金の解約・引き出し、不動産の売却、被相続人宛の債権を取り立てる行為など。被相続人の預金口座を相続人が解約して現金を使ってしまった場合などが典型例です。

  • 3ヶ月の熟慮期間内に何もしなかった場合:相続開始を知った日から3ヶ月以内に相続放棄または限定承認の申述をしなかった場合は、自動的に単純承認とみなされます。

  • 相続放棄・限定承認後に財産を隠匿・消費した場合:一度放棄の申述が受理されたとしても、その後に相続財産を隠したり私的に消費したりすると、単純承認扱いに転落します。


ここで注目したいのが「入院費の支払い」と「葬儀費用の支払い」の違いです。裁判例では、葬儀費用を相続財産から出しても、一般的に相当な範囲であれば法定単純承認にはあたらないと判断されています(大阪高裁昭和54年3月22日決定)。しかし被相続人の入院費を相続財産から支払うと、これは「財産の処分行為」とみなされ、単純承認となってしまう可能性があります。


同様に、遺品整理も要注意です。着古した衣類や写真など金銭的価値のないものはよいのですが、骨董品や貴金属など価値のあるものを整理・形見分けすると処分行為に該当する可能性があります。遺品整理は専門家の確認後に行うのが原則です。


また、相続放棄や限定承認の手続きを検討している段階で、被相続人の賃貸住宅の契約解約を急ぐ必要が出てくることもあります。この賃貸の解約は判断が分かれるグレーゾーンです。保存行為として単純承認に当たらないと判断されることもある一方で、賃借権の処分として扱われるケースもあるため、手続きが完了するまでは急いで解約しないほうが安全です。


3ヶ月以内に行動するが条件です。


被相続人が死亡後、相続人が身辺整理を始める前に弁護士や司法書士などの専門家に相談することで、法定単純承認のリスクを回避しやすくなります。


参考:法定単純承認の事由や相続放棄ができなくなる行為について詳しく解説されています。


相続放棄できなくなる「相続財産の処分」とは|松谷司法書士事務所


限定承認が有効な3つのケースと手続きの流れ

限定承認は非常に利用件数が少ない制度です。令和5年の司法統計によれば、相続放棄の受理件数が28万件を超えているのに対し、限定承認の申述件数は年間わずか600〜800件程度にとどまっています。相続放棄と比べると約400分の1の利用率という計算になります。


それでも限定承認が有効に機能するケースは確かに存在します。


まず1つ目は、財産の全容が把握できないケースです。被相続人の財産状況が不明で、後からマイナスが出てくる可能性が拭えない場合、単純承認では大きなリスクを抱えます。かといって相続放棄をすると、実はプラスが大きかったときに損をします。こうした不確実性が高い状況で限定承認はもっとも機能を発揮します。


2つ目は、被相続人の自宅など守りたい特定の財産がある場合です。配偶者が被相続人と同居していた自宅を引き続き確保したい場合、相続放棄では居住権を失ってしまいます。限定承認の「先買権」を活用すれば、鑑定人が定めた評価額を支払うことで競売前に優先的に取得できる可能性があります。


3つ目は、被相続人に大きな生命保険がかかっており、受取人が相続人自身の場合です。生命保険金は受取人が相続人であれば、相続財産ではなく受取人固有の財産として扱われます(みなし相続財産として相続税は課されますが)。そのため限定承認を選んでも保険金全額を受け取れるうえ、借金をプラス財産の範囲内に抑えることができます。


手続きの流れは以下の通りです。



  • 📌 ステップ①:相続人全員と連絡を取り、合意を形成する。1人でも反対すれば手続きは進められない。

  • 📌 ステップ②:相続財産と債務の調査を行い、財産目録を作成する。

  • 📌 ステップ③:相続開始を知った日から3ヶ月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述書・財産目録などを提出する。申述費用は相続人1人につき収入印紙800円。

  • 📌 ステップ④:裁判所から受理通知書が届いた後、清算手続きを開始する。相続人が複数の場合は相続財産管理人が選任される。

  • 📌 ステップ⑤:官報に公告を行い(申述受理から5〜10日以内)、債権者に配達証明付き内容証明で通知する。弁済請求の申し出期限は2ヶ月間。

  • 📌 ステップ⑥:相続財産を競売で換金し、債権者に弁済する。残余があれば相続人が受け取る。


これらの流れを踏まえると、限定承認は完了まで通常1年前後を要することが多く、関係する家庭裁判所の手続きや官報公告など、専門知識がないと独力では難しい内容です。


参考:限定承認の申述書式や必要書類の記入例が確認できます。


相続の限定承認の申述|裁判所(公式)


「単純承認か限定承認か」を判断する独自の視点:財産の"見えないリスク"を評価する

単純承認か限定承認か、さらに相続放棄かの選択は、単に「プラスが多いかマイナスが多いか」だけで判断するのは不十分です。多くの記事では目に見えている財産の比較が中心ですが、実務上は「見えていないリスク」の大きさが判断を左右します。


意外ですね。


見えないリスクとして代表的なのが、連帯保証人としての地位です。被相続人が他人の借金の連帯保証人になっていた場合、その連帯保証債務も相続の対象になります。金融機関や公正証書を確認しない限り発覚しないケースも多く、相続後に突然数百万円単位の請求が来るケースも実際に起きています。また、限定承認の申述後も、連帯保証人の地位は引き継がれることには注意が必要です。


もう1つ見落とされがちなのが「税金の未払い」です。被相続人が固定資産税住民税・所得税などを未納のまま亡くなった場合、それらも相続財産のマイナスに含まれます。相続税の申告と合わせて、被相続人の過去の税務申告状況も確認しておくべきです。


こうした「見えないリスク」がある場合に参考になるのが、財産調査の専門的なアプローチです。



  • 🔍 信用情報機関の照会:CIC・JICC・KSCなどの信用情報機関では、本人または相続人が死亡者の信用情報を照会することができます。消費者金融やクレジットカードの借入状況が一覧で確認でき、想定外の債務が発覚するケースもあります。

  • 🏦 金融機関への残高照会:被相続人名義の通帳や口座が複数行に存在する可能性があります。相続開始後に各金融機関に残高証明書を請求することで、預金と借入金の両方を確認できます。

  • 📋 登記情報の確認:不動産の登記情報を法務局または登記情報提供サービスで確認すると、抵当権や根抵当権の設定状況から担保としての借入がわかります。


こうした調査を3ヶ月の熟慮期間内に終えられない場合は、家庭裁判所に「熟慮期間の延長」を申立てることも可能です。複雑な財産状況や相続人の海外居住などを理由に、一定期間の延長が認められる可能性があります。


3ヶ月で判断が原則です。


財産調査を専門家に依頼する場合、弁護士や司法書士に相談することが現実的です。特に限定承認を検討している場合は、みなし譲渡所得税の試算や準確定申告(相続開始から4ヶ月以内)の対応まで含めて、税理士との連携が欠かせません。限定承認は手続きの複雑さゆえ、専門家に依頼するコストを払ってでも選択する価値があるかを慎重に判断しましょう。


参考:信用情報機関(CIC)では相続人による死亡者の情報開示請求が可能です。


信用情報の開示申込み|CIC(公式)


単純承認・限定承認・相続放棄の選び方:ケース別チェック

3つの選択肢のうちどれを選ぶべきかは、相続財産の状況や家庭の事情によって変わります。ここでは実際の状況を想定したケース別の判断基準をまとめます。


まず、プラスの財産がマイナスの財産を明らかに上回っている場合は、単純承認が最もシンプルです。手続き不要で自動成立するため、3ヶ月以内に何もしなければ相続が完了します。ただし、法定単純承認に該当する行動(預金解約・形見分けの処分)は避けた上での話です。


次に、借金がプラス財産を明確に超えており、残したい財産もない場合は、相続放棄が現実的です。相続放棄は個人単位で申述でき、手続きも比較的シンプルです。ただし、相続放棄すると借金は次の相続順位の方へ移転します。子が全員放棄すると、親や兄弟姉妹に請求が回ることになるため、関係者への事前連絡が重要です。


限定承認が適しているのは以下のケースです。



  • 💡 被相続人の財産の全貌が把握できておらず、借金があるかどうか不明な場合

  • 💡 配偶者が居住中の自宅など、どうしても手放したくない特定の財産がある場合

  • 💡 借金がプラス財産を超えているが、被相続人名義の生命保険(受取人が相続人)がある場合

  • 💡 家業・事業を承継するため、プラス・マイナス両方の財産を一定範囲で引き継ぐ必要がある場合


ここで注意が必要なのが「限定承認は相続放棄の代替案ではない」という点です。相続放棄と限定承認は、目的と効果がまったく異なる制度です。「なんとなくリスクが減りそうだから」という理由で限定承認を選ぶと、みなし譲渡所得税の発生・手続きの長期化・費用負担など、想定外のデメリットに直面します。


つまり目的から選ぶのが基本です。


また「一人の相続人が相続放棄をすれば、自動的に限定承認になる」という誤解も見られます。実際には、相続放棄をした人はそもそも相続人でなくなるため、残った相続人で限定承認を選ぶことは可能ですが、改めて全員での合意と申述が必要です。


なお、単純承認・限定承認・相続放棄はいずれも一度選択すると原則として取り消せません。例外として、詐欺や脅迫による場合、または意思能力がなかった場合(認知症・未成年など)は民法第919条により取り消しの申立てが可能ですが、申立ては取り消せるときから6ヶ月以内、または単純承認から10年以内という制限があります。


3つの選択肢の違いを整理したら、専門家(弁護士・司法書士・税理士)への早期相談が、最善の選択につながります。熟慮期間の3ヶ月は意外と短く、財産調査・相続人との連絡・書類準備を並行して行う必要があります。相続が発生したら、まず専門家への相談を最初のアクションにすることをおすすめします。


参考:三菱UFJ銀行の相続コラムで、限定承認が有効なケースをわかりやすく解説しています。


相続の限定承認のメリット・デメリット、有効な3つのケースとは?|三菱UFJ銀行




単純承認・相続放棄・限定承認の選択のポイントと活用法