退職所得の申告と確定申告の必要性を徹底解説

退職所得の申告と確定申告の必要性を徹底解説

退職所得の申告と確定申告の関係を正しく理解する

申告書を1枚出し忘れるだけで、退職金2,000万円から408万円も多く税金が引かれます。


この記事の3ポイント要約
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退職所得の申告書を提出すれば確定申告は原則不要

「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先に提出すると、会社側が退職所得控除・1/2課税を適用した正しい税額で源泉徴収してくれます。自分で確定申告する手間が省けます。

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申告書を出さないと一律20.42%の源泉徴収になる

申告書を未提出のまま退職金を受け取ると、退職所得控除が適用されず退職金の全額に対して20.42%が課税されます。本来ゼロになるはずの税金が数百万円になるケースも。

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iDeCo受け取りには2026年から「10年ルール」が適用

2026年1月以降、iDeCoの一時金を受け取ってから退職金を受け取るまで10年以上空けないと、退職所得控除が大幅に削減されます。受け取り順序・タイミングの事前確認が必須です。


退職所得の申告書とは何か|確定申告との違いを整理する

「退職所得の受給に関する申告書」と「確定申告」は、名前が似ているだけに混同されがちです。しかし、この2つはまったく別の手続きです。


「退職所得の受給に関する申告書」は、退職金を受け取る前に勤務先へ提出する社内手続きの書類です。この書類を提出することで、会社は退職所得控除や1/2課税を適用した正確な所得税額を計算し、退職金から天引き(源泉徴収)した上で納税まで代行してくれます。つまり、申告書を出していれば、税の手続きは退職金受取の時点で完結します。


一方の「確定申告」は、翌年2月16日〜3月15日の期間中に税務署へ自分で行う申告手続きです。退職所得については申告書を提出していれば「申告不要制度」が適用されるため、原則として確定申告は不要です。


つまり、申告書が基本です。確定申告は例外的な状況のときだけ必要になります。


では、申告書を提出しなかった場合はどうなるのでしょうか? 退職金の全額に対して一律20.42%(所得税・復興特別所得税)が源泉徴収されます。退職所得控除も1/2課税も適用されません。例えば退職金が2,000万円なら、控除が一切使えず408万4,000円もの税金が引かれてしまいます。その後、確定申告をして正しい税額を計算し直すことで、過剰に徴収された税額が還付される仕組みです。


以下の国税庁のページで、退職所得の申告手続きの概要が確認できます。


退職所得の受給に関する申告手続きについての国税庁の公式案内(申告書の提出義務・未提出時の徴収税率などを網羅)
国税庁:退職所得の受給に関する申告(退職所得申告)


退職所得の申告書を出したのに確定申告が必要になるケース

申告書を提出していれば確定申告は原則不要ですが、例外があります。これが原則と混同されやすいポイントです。


① 同じ年に2か所以上から退職金を受け取った場合


転職などで同一年中に複数の会社から退職金が支払われた場合、それぞれの会社が個別に税額を計算してしまうため、合算した正しい税額と一致しないことがあります。この場合は、すべての退職金を合算して確定申告が必要です。2社目に1社目の「退職所得の源泉徴収票」を提出すれば合算計算できる場合もありますが、手続きが漏れると申告義務が発生します。


医療費控除ふるさと納税などを申告する場合


退職した年に、医療費控除(年間10万円以上の医療費自己負担)やふるさと納税の寄附金控除を適用したいときは、確定申告が必要になります。この場合、給与所得だけでなく退職所得の金額も申告書に記載しなければなりません。確定申告が不要=記載不要、ではないことに注意が必要です。


③ 年の途中で退職して年末調整を受けなかった場合


年の途中で退職し、その年中に再就職しなかった場合、給与所得に対する年末調整が行われません。給与から毎月天引きされていた所得税は概算計算なので、実際は払いすぎているケースが大半です。特に1〜6月の早い時期に退職した方ほど差額が大きくなります。この場合は確定申告(還付申告)をすることで、払いすぎた税金が戻ってきます。


退職所得の詳細な税務上の取り扱いについての国税庁の公式解説(計算式・控除額・源泉徴収の仕組みを網羅)
国税庁 No.1420:退職金を受け取ったとき(退職所得)


退職所得の申告書未提出で確定申告が必要になるときの税額の計算方法

申告書を出さなかった場合、確定申告で正しい税額を計算して精算します。まず退職所得の計算方法を理解しておきましょう。


退職所得控除額の計算(勤続年数に応じて変わる)


| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × 勤続年数(最低80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 × (勤続年数 − 20年) |


ここで注意したいのが、勤続年数の端数は切り捨てではなく「1年に切り上げ」になる点です。勤続10年2か月なら、11年として計算します。たった2か月の差が控除額に40万円の差を生むこともあります。


退職所得の計算式


退職所得 =(退職金 − 退職所得控除額)× 1/2


例えば勤続30年で退職金が2,000万円の場合、計算は次のようになります。


- 退職所得控除 = 800万円 + 70万円 × (30年 − 20年)= 1,500万円
- 退職所得 = (2,000万円 − 1,500万円)× 1/2 = 250万円


課税対象はわずか250万円です。同じ金額を給与で受け取る場合の税負担と比べると、大幅に軽くなることがわかります。


この「1/2課税」には例外があります。勤続年数が5年以下の一般社員に支払われる「短期退職手当等」で、控除後の金額が300万円を超える部分については1/2課税が適用されません。つまり、転職が多い方は要注意です。


退職所得の計算を自動でシミュレーションできる国税庁のツール(数字を入れるだけで退職所得・税額が計算される)
国税庁 確定申告書等作成コーナー:退職所得の計算方法


退職所得の申告で知らないと損するiDeCoの10年ルール

2026年1月1日から、iDeCoや企業型DC(確定拠出年金)の一時金受け取りに関して、退職所得控除の「5年ルール」が「10年ルール」に改正されました。これは現在進行形で影響が出ている話です。


これまで「5年ルール」として知られていた制度では、iDeCoの一時金を先に受け取り、5年超空けてから会社の退職金を受け取れば、それぞれに対して退職所得控除を満額適用できました。ところが、2026年1月以降は間隔を「10年超」空けないと、控除が重複した期間分が削減される仕組みに変わりました。


具体的には、iDeCoの一時金を受け取った年の「前年以前9年以内」に会社の退職金を受け取っていた場合、退職金側の退職所得控除額が減額調整されます。逆に、先に会社の退職金を受け取ってからiDeCoの一時金を受け取る場合は「19年ルール」(20年を超えないと重複調整なし)のままです。


意外ですね。ルールの方向性が「先にiDeCoを受け取るか」「先に退職金を受け取るか」によって非対称になっています。


この改正により、受け取り順序やタイミングの計画が以前よりずっと重要になりました。税負担が数十万円〜数百万円単位で変わる可能性があります。60歳前後でiDeCoと退職金が重なる予定のある方は、受け取りスケジュールを早めに確認しておくことが大切です。


iDeCoと退職金の受け取りタイミングを最適化する方法については、ファイナンシャルプランナーや税理士への相談も効果的です。具体的な数字を当てはめてシミュレーションしてもらいましょう。


2026年施行の退職所得控除改正の詳細(5年ルールから10年ルールへの変更点・注意事項)
freee:【2026年施行】退職所得控除が見直し!5年ルールが10年に変更


退職所得の確定申告の手続きと必要書類の進め方

確定申告が必要になったとき、何から手をつければいいか迷いがちです。手続きの流れをまとめます。


必要書類を揃える


まず「退職所得の源泉徴収票」と「給与所得の源泉徴収票」(途中退職の場合)を用意します。いずれも退職した会社から発行されます。申告書を提出していなかった場合でも、退職所得の源泉徴収票には退職金の支払い金額・徴収税額が記載されているため、それを使って正しい税額を計算できます。


その他に必要な書類は以下のとおりです。


- 本人確認書類(マイナンバーカードなど)
- 還付金振込先の口座情報
- 各種控除証明書(生命保険料・地震保険料など、該当するもの)
- 医療費控除の明細書(年間10万円超の医療費がある場合)
- ふるさと納税の寄附金受領証(ワンストップ特例を使わない場合)


申告書を作成する


国税庁の「確定申告書等作成コーナー」にアクセスし、画面の案内に沿って数値を入力するだけで申告書が自動作成されます。税額も自動計算されるため、専門知識がなくても手続きが進められます。


提出方法を選ぶ


提出方法は3種類あります。マイナンバーカードがあればe-Tax(電子申告)でスマートフォンやパソコンから24時間対応が可能です。郵送または税務署への持参も選べます。


期限に注意が必要です。 確定申告の期限は原則として翌年2月16日〜3月15日です。ただし、払いすぎた税金を取り戻す「還付申告」は、翌年1月1日から5年以内であればいつでも提出できます。申告義務がある場合(申告書未提出・2か所以上から退職金受取など)は、必ず3月15日までに手続きを終えることが条件です。


期限を過ぎてから申告漏れに気づいた場合、税務署から「確定申告についてのお尋ね」の文書が届くことがあります。放置すると税務調査に発展し、本来の税額に加えて無申告加算税(税額の15〜30%)と延滞税が発生します。気づいた時点で速やかに対応することが原則です。


確定申告書の作成から提出まで無料でオンライン対応できる国税庁の公式ツール
国税庁:確定申告書等作成コーナー