退職所得の分離課税で得する控除と計算方法を完全解説

退職所得の分離課税で得する控除と計算方法を完全解説

退職所得の分離課税を正しく理解して税負担を最小化する方法

申告書を出し忘れると、退職金の20.42%が丸ごと税金で消えます。


この記事の3つのポイント
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退職所得は「1/2課税+控除」で大きく優遇される

退職所得は他の所得と合算せず、控除後の金額をさらに1/2にして課税されます。勤続30年なら控除額だけで1,500万円になるケースも。

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申告書を出さないと一律20.42%が源泉徴収される

「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出しないと、控除ゼロで退職金総額に20.42%が課税されます。手続き1枚で数十万円の差が生まれます。

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2026年からiDeCoと退職金の「5年ルール」が10年に延長

iDeCoの一時金と退職金を別々の控除枠で受け取るには、従来の5年から10年空ける必要があります。受取タイミングの戦略が以前より重要になりました。


退職所得の分離課税とは:仕組みと他の所得との違い


退職所得の分離課税とは、退職金などの所得を給与や事業収入といった他の所得と合算せず、切り離して(=分離して)独自のルールで税額を計算する仕組みです。


日本の所得税は原則として「総合課税」、つまりすべての所得を足し合わせて累進税率を適用します。これは収入が多いほど高い税率がかかる仕組みです。しかし退職金は長年の労働の結果が一度に支払われるという性質があるため、その年だけ極端に収入が膨らんでしまいます。


その不公平を解消するために設けられたのが分離課税です。退職所得だけを「別枠」で計算することで、高い累進税率がそのまま適用されることを防いでいます。これは税制上の大きな優遇措置です。


退職所得として分離課税の対象になるものは、会社からの退職一時金だけではありません。以下のものも含まれます。


  • 確定拠出年金(企業型DC・iDeCo)の一時金受け取り
  • 確定給付企業年金からの退職一時金
  • 中小企業退職金共済・特定退職金共済からの一時金
  • 小規模企業共済からの一時金
  • 解雇予告手当労働基準法第20条に基づくもの)


iDeCoや企業年金も含まれる点は意外と見落とされがちです。これらも「退職所得」として優遇されます。


分離課税の中でも、退職所得は「源泉分離課税」に分類されます。つまり、会社が支払い時点で所得税と住民税を計算・差し引いて納税するため、受け取る側は原則として確定申告が不要という点も重要な特徴です。


退職所得の分離課税における控除額の計算方法と具体例

退職所得の税金計算では、まず「退職所得控除」という大きな控除を適用してから、さらにその残りを半分にして課税対象を求めます。この「控除+1/2」の二重の恩恵が、退職所得課税の最大の優遇ポイントです。


計算式は以下のとおりです。


退職所得の金額 =(収入金額 − 退職所得控除額)× 1/2


退職所得控除額は勤続年数によって変わります。


勤続年数 退職所得控除額
20年以下 40万円 × 勤続年数(最低80万円)
20年超 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)


勤続年数が長いほど控除額が大きくなる仕組みです。長期雇用を促進する意図が反映されています。


具体例で確認してみましょう。勤続30年の会社員が退職金1,800万円を受け取った場合、退職所得控除額は 800万円 + 70万円 × 10年 = 1,500万円 です。課税対象となる退職所得は(1,800万円 − 1,500万円)× 1/2 = 150万円 となります。


退職金1,800万円に対して課税対象がわずか150万円というのは、一般の給与所得と比べると圧倒的な優遇です。これは大きなメリットですね。


一方で、勤続年数が短い場合は注意が必要です。たとえば勤続10年なら控除額は 40万円 × 10年 = 400万円 となります。退職金500万円を受け取ったとすれば、(500万円 − 400万円)× 1/2 = 50万円 が課税対象です。


なお、勤続年数の端数は切り上げ計算が原則です。11年2ヶ月勤めた場合は「12年」として計算されます。1日でも超えたら1年単位で切り上がるため、退職のタイミングは注意が必要です。


参考:国税庁が公開する退職所得控除の計算方法や速算表はこちらで確認できます。


国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」


退職所得の分離課税で申告書を出さないと20.42%が課税される落とし穴

退職所得の分離課税の優遇を受けるには、ひとつ絶対に忘れてはいけない手続きがあります。それが「退職所得の受給に関する申告書」の提出です。


この申告書を退職金の支払者(会社)に提出することで、はじめて退職所得控除が適用されます。提出しないままでいると、どうなるのでしょうか?


提出がない場合、退職金の支払い総額に対して一律20.42%(所得税+復興特別所得税)が源泉徴収されます。控除も1/2計算も一切なしです。これが原則として確定申告も不要な源泉分離課税のはずが、逆に課税の不利を受けるという大きな落とし穴です。


例で考えてみましょう。退職金が1,000万円で、申告書を提出していない場合、1,000万円 × 20.42% = 204.2万円 が源泉徴収されます。これは痛いですね。


一方、申告書を提出して退職所得控除(例:勤続25年なら1,150万円)が適用されれば、控除額が退職金を上回るため税額はゼロになるケースもあります。手続き1枚の差が200万円超の違いを生むこともあります。


申告書を提出し忘れた場合は、確定申告で精算することは可能です。ただし還付申告をしなければ税金は戻ってきません。正しい税額を取り戻すためには自分で動く必要があり、手間が発生します。


住民税については退職金が支払われる際に会社側が特別徴収として差し引くため、翌年の住民税には基本的に影響しません。ただし退職した年の給与所得にかかる住民税は翌年に課税されるため、退職後の翌年の住民税の請求に驚くケースは少なくありません。退職直後の現金フローには注意が必要です。


参考:「退職所得の受給に関する申告書」の提出がない場合の源泉徴収方法は国税庁の以下ページに詳しく記載されています。


国税庁「No.2732 退職手当等に対する源泉徴収」


退職所得の分離課税とiDeCo・企業型DCの受取タイミング戦略(2026年10年ルール対応)

退職所得の分離課税において、iDeCoや企業型確定拠出年金(DC)の一時金を組み合わせる場合、受け取るタイミングが税負担を大きく左右します。これは近年もっとも重要度が増しているテーマのひとつです。


複数の退職所得がある場合、各々の勤続・加入期間が重複していると退職所得控除額が調整(減額)されます。つまり控除枠を「一つの退職所得で使い切れる」期間を十分に空けてからもう一方を受け取ることが節税の基本です。


従来は「前年以前4年以内」に受け取った退職所得があると控除枠が重複するとされていました(5年ルール)。しかし2026年1月1日以降、この期間が「前年以前9年以内」(10年ルール)に延長されました。


つまり、iDeCoの一時金を先に受け取り、その後に会社の退職金を受け取る場合、2026年以降は10年以上間隔を空けないと退職所得控除の二重適用ができなくなりました。


具体的に影響を数字で示します。DC加入12年(48〜60歳)で500万円一時金を60歳に受け取り、勤続29年で1,500万円の退職一時金を65歳に受け取るケースを考えます。


改正前(5年ルール) 改正後(10年ルール)
退職一時金の退職所得控除額 1,430万円 950万円(重複12年分480万円を差引)
課税退職所得 35万円 275万円
税負担の増加 約36万円の増税


改正後は同じ受け取り方でも約36万円の増税になるということですね。


なお、退職金を先に受け取り、iDeCoを後に受け取る場合は「前年以前19年以内」という別のルールが従来から存在します。この19年ルールは今回の改正では変更されていません。iDeCoを後から受け取るケースは、ほぼ確実に控除が調整されるという点を覚えておいてください。


iDeCoと退職金の受取戦略は、自分の退職予定年齢やiDeCo加入年数を踏まえて早めに検討することが重要です。ファイナンシャルプランナーへの相談や、各証券会社・金融機関のシミュレーションツールを活用して受取スケジュールを設計しておくと安心です。


参考:2026年からの退職所得控除の10年ルール改正の詳細はこちらで確認できます。


auのiDeCo「退職所得が増税に?令和7年度税制改正により5年ルールが10年ルールへ」


退職所得の分離課税における短期退職・役員等への例外ルールと注意点

退職所得の分離課税には、すべての人に一律の「控除+1/2」が適用されるわけではありません。勤続年数や立場によって適用ルールが大きく変わります。ここを理解しておかないと、予想外の高税率に驚くことになります。


まず「特定役員退職手当等」について説明します。法人の取締役・監査役・会計参与、国会議員、国家公務員・地方公務員などが「役員等勤続年数5年以下」で退職した場合、1/2課税が適用されません。控除後の金額がそのまま課税対象になります。役員でも長く勤めていれば適用されますが、5年以下の短期在任では優遇なしです。


次に「短期退職手当等」について確認します。役員でない一般の従業員であっても、勤続年数が5年以下の場合は注意が必要です。この場合、退職金から退職所得控除を引いた残額のうち300万円以下の部分は通常どおり1/2課税が適用されますが、300万円を超える部分には1/2課税が適用されません。


これはどういう意味でしょうか?


例として、勤続4年の会社員が退職金700万円を受け取ったケースで考えます。退職所得控除額は40万円 × 4年 = 160万円。控除後の残額は700万円 − 160万円 = 540万円 になります。


  • 300万円以下の部分:300万円 × 1/2 = 150万円(1/2課税適用)
  • 300万円超の部分:240万円(1/2課税の適用なし、そのまま課税対象)
  • 課税退職所得の合計:150万円 + 240万円 = 390万円


通常の計算(全体に1/2適用)なら540万円 × 1/2 = 270万円になるところ、短期退職では390万円が課税対象となります。この差は大きいですね。


転職や早期退職が増えている現代では、勤続5年以下で退職する方が増えています。特に転職を複数回経験している方は、退職の都度この短期退職ルールの適用有無を確認することが重要です。


また、障害を理由に退職した場合は、通常の退職所得控除額に100万円が加算されます。これは障害者向けの特例で、やや知られていない優遇ルールのひとつです。


参考:勤続5年以下の退職金への特例については国税庁の以下ページに詳細が記載されています。


国税庁「No.2740 勤続年数が5年以下の者に対する退職手当等(短期退職手当等・特定役員退職手当等)」




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