相続時精算課税制度のデメリット2025年版と落とし穴

相続時精算課税制度のデメリット2025年版と落とし穴

相続時精算課税制度のデメリット2025年に注意すべき落とし穴

土地を生前贈与すると、評価額を80%減らせる特例が永久に使えなくなります。


📋 この記事の3ポイントまとめ
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一度選ぶと戻れない

相続時精算課税を選択すると、同じ贈与者からの贈与について暦年課税に二度と変更できません。年110万円の非課税枠(暦年課税)とは別の制度として一生管理が必要になります。

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不動産は要注意

土地を生前贈与すると小規模宅地等の特例(最大80%評価減)が使えなくなるうえ、登録免許税・不動産取得税が相続時の最大10倍以上になるケースがあります。

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孫への贈与は2割増し

孫(法定相続人でない場合)に精算課税で贈与すると、相続時の精算で相続税額が2割加算されます。節税どころか増税になるリスクがあります。


相続時精算課税制度の基本と2025年時点での位置づけ


相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母や祖父母から18歳以上の子・孫へ贈与を行う際に、累計2,500万円までの贈与税を非課税とし、贈与者が亡くなったタイミングで相続税として精算する仕組みです。


2024年1月1日の税制改正で、この制度に年間110万円の基礎控除が新設されました。それ以前は「課税のタイミングを後ろにずらすだけ」という印象が強く、積極的に利用する人はそれほど多くありませんでした。改正後は節税手段として注目度が上がっています。


実際、国税庁が公表した「令和6年分の贈与税確定申告状況等について」によると、2024年に相続時精算課税を適用して贈与税を申告した人数は前年比で約1.6倍に急増しています。注目が高まっている制度です。


ただし、利用者が増えたからこそ、制度のデメリットを理解しないまま選択してしまうケースも増えてきました。2025年の現時点で押さえるべきポイントを整理しておく必要があります。


制度の大枠を確認しておきましょう。贈与者ごとに選択するため、たとえば「父からの贈与には相続時精算課税、母からの贈与には暦年課税」という組み合わせは可能です。ただし一度、父について相続時精算課税を選択したら、その父からの贈与については生涯、暦年課税に戻すことはできません。


2025年現在も制度の骨格は2024年改正後のまま継続されており、年110万円基礎控除+累計2,500万円特別控除という構成です。暦年課税との比較、不動産贈与に関わる税の扱い、孫への贈与時のルール、これらのデメリットを正確に把握したうえで選択することが不可欠です。


参考リンク(相続時精算課税の制度概要・国税庁公式)。
国税庁「相続時精算課税の選択」


相続時精算課税制度のデメリット①:暦年課税へ戻せず年間110万円の累積効果を失う

相続時精算課税制度の最大のデメリットと多くの専門家が指摘するのが、一度選択すると同じ贈与者について暦年課税に変更できない点です。


暦年課税には年間110万円の非課税枠があり、これを毎年使い続けることで財産を着実に移転できます。たとえば20年間、毎年110万円を贈与すれば、合計2,200万円を贈与税ゼロで子に移転することが可能です。計算はシンプルです。


一方、相続時精算課税に切り替えた場合、この「20年×110万円」という暦年課税ならではの長期戦略が使えなくなります。基礎控除として年110万円の非課税は存在しますが、制度の特性上、運用の柔軟性に差があります。


特に注意が必要なのは、財産が多く長期間にわたって贈与を続ける場合です。たとえば毎年200万円を10年超贈与する計画であれば、暦年課税のほうが贈与税の税率を10〜15%に抑えられるケースがあります。相続時精算課税で2,500万円を超えた部分には一律20%の贈与税がかかるため、条件によっては税負担が増えます。


取り返しがつかない選択です。「とりあえず申告しておこう」というつもりで相続時精算課税選択届出書を提出してしまい、後悔するケースが実際に起きています。


制度の選択は贈与者ごとに行い、利用を開始したい年の翌年2月1日から3月15日までに「相続時精算課税選択届出書」を税務署に提出します。書類の提出期限は厳守です。


どちらが有利かを判断するには、贈与できる期間、贈与者の余命(失礼ながら重要な変数です)、財産総額、相続税の基礎控除、複数の相続人の構成などを踏まえて試算する必要があります。個人での判断が難しい場合は、相続専門の税理士への相談が現実的な選択肢になります。


相続時精算課税制度のデメリット②:不動産贈与で税コストが相続の10倍超になるケース

「2,500万円まで非課税なら不動産を贈与しよう」と考える方は多いです。ここに大きな落とし穴があります。


相続時精算課税制度を使って不動産を贈与すると、登録免許税と不動産取得税の両方が相続の場合よりも大幅に高くなります。数字で見ると次のとおりです。


税の種類 相続による取得 贈与による取得
登録免許税 固定資産税評価額の0.4% 固定資産税評価額の2%
不動産取得税 非課税 固定資産税評価額の3%


固定資産税評価額が5,000万円の住宅を例にとると、相続による取得なら登録免許税のみ20万円(5,000万円×0.4%)で済みます。一方、相続時精算課税制度を使って贈与した場合、登録免許税100万円(5,000万円×2%)+不動産取得税150万円(5,000万円×3%)=合計250万円になります。


相続の10倍以上の税負担です。これは贈与が完了した時点で支払いが発生するもので、後から取り消せません。


さらに「小規模宅地等の特例」も失われます。この特例は、被相続人が住んでいた土地(特定居住用宅地等)であれば、330㎡を上限に評価額を最大80%減額できる非常に強力な制度です。相続税評価額が3,000万円の土地なら、特例適用後は600万円として相続税を計算できます。


ところが小規模宅地等の特例は「相続または遺贈により取得した場合」にしか適用できません。相続時精算課税制度を使って「贈与」してしまうと、この特例の適用資格を永久に失います。つまり、登録免許税・不動産取得税の増大に加えて、将来発生するはずだった大きな節税機会も同時に失うことになります。


不動産を子・孫に移転したい場合は、相続で取得させるか生前贈与するかを慎重に比較することが不可欠です。一般的には、特定居住用の土地については相続による取得のほうが有利なケースが多いとされています。


参考リンク(小規模宅地等の特例の詳細・国税庁)。
国税庁「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」


相続時精算課税制度のデメリット③:孫への贈与は相続税が2割加算される

祖父母から孫への資産移転は「一代飛ばし」として節税効果が高いように見えます。しかし実際には、相続税法上の2割加算ルールによって思わぬ税負担が発生します。


相続税法では、被相続人の配偶者および一親等の血族(子・父母)以外が財産を取得した場合、相続税額にその20%が加算されるルールがあります。孫は「二親等」のため、代襲相続人でない限り2割加算の対象になります。


これは贈与税の話ではなく、相続時の精算時に適用される話です。相続時精算課税制度を使って孫に生前贈与した場合、年110万円を超える部分は贈与者が死亡した際に相続財産に加算されて相続税として精算されますが、そのときの相続税額が20%増しになります。


たとえば本来の相続税額が500万円であれば、2割加算後は600万円になります。差額は100万円です。節税のつもりが100万円の増税になったということです。


ただし例外があります。被相続人の子がすでに亡くなっていて、孫が代襲相続をするケースでは2割加算は適用されません。代襲相続人となった孫は一親等の血族と同様に扱われるためです。


孫への贈与で2割加算を避けたい場合は、孫を養子縁組して「子」の立場にするという手法もあります。ただし孫を養子にした場合も、孫であることに変わりないため相続税法上は2割加算の対象になります。養子縁組の節税効果については誤解が広まっているため注意が必要です。


結論は明確です。孫への相続時精算課税の活用は、節税効果よりも2割加算によるコスト増加が上回るケースが多いと認識しておくべきでしょう。


参考リンク(相続税の2割加算の詳細・国税庁)。
国税庁「No.4157 相続税額の2割加算」


相続時精算課税制度のデメリット④:贈与後に財産が値下がりすると相続税計算で損をする

相続時精算課税制度を利用した場合、将来の相続税計算に使う贈与財産の評価額は「贈与した時点の価額」で固定されます。これはメリットにも、そして深刻なデメリットにもなります。


値上がりした場合はメリットです。たとえば贈与時に評価額1,500万円だった株式が、相続時に3,000万円になっていた場合、相続税の計算には1,500万円が使われます。差額の1,500万円分は事実上、非課税で子の財産になります。


問題は値下がりした場合です。贈与時に2,000万円だった住宅が、相続時に1,200万円に下がっていても、相続税計算には贈与時の2,000万円が使われます。実際の価値は1,200万円なのに、2,000万円として課税されるということです。この差額800万円分は「余分に払った税金」とも言えます。


住宅(家屋)は特に注意が必要な財産カテゴリです。土地とは異なり、建物は時間の経過とともに経年劣化して価値が下がることが一般的です。相続時精算課税制度で家屋を贈与すると、将来ほぼ確実に「値下がりした家屋の評価で損をする」という状況になりやすいです。


これが致命的になるのはどういう場面でしょうか? 贈与から相続発生まで長い年月が経過している場合、特に贈与者が若く長寿である場合、価値の下落幅が大きくなりやすいです。


値下がりリスクが高い財産の代表例は次のとおりです。


  • 建物・マンション(経年劣化による価値下落)
  • 個別株式(企業業績や市況次第)
  • 地方の土地(人口減少・過疎化が進む地域)


一方、値上がりが期待できる場合に相続時精算課税は効果的です。将来的に価値が増す可能性が高い都市部の不動産や、成長が見込まれる非上場会社の自社株などが代表例です。


判断は財産の種類と将来予測によって変わります。どちらのシナリオが現実的かを冷静に見極めることが肝心です。


相続時精算課税制度のデメリット⑤:物納不可・相続税の現金納付が困難になるリスク

相続時精算課税制度は「贈与時には税を払わなくてよい」という仕組みですが、贈与者が亡くなった際に相続税として精算する段階で予想外の事態が起きることがあります。


相続税は原則として現金での一括納付が求められます。しかし相続時精算課税制度を使って財産を受け取っている場合、すでに贈与された財産を手元で使い切っていたり、不動産として保有していたりすると、相続税を支払う現金が足りなくなることがあります。


現金が不足した際の救済措置として「物納制度」があります。物納とは、相続した不動産や株式などを現物で税金として納める制度です。延納(分割払い)を利用してもなお現金が用意できない場合に認められます。


しかしここに落とし穴があります。物納できる財産の条件は「相続によって取得したこと」です。相続時精算課税制度で贈与された財産は、あくまでも「贈与で取得した財産」です。そのため物納の対象にはなりません。


これは意外と見落とされているデメリットです。「いざとなれば土地を物納に充てれば良い」と考えていた場合、精算課税で贈与された土地は物納に使えないという事実は、計画を大きく崩します。


また、贈与を受けてから相続が発生するまでの間に、その財産の一部をすでに売却・消費しているケースでは相続税の支払い財源をどう確保するかという問題も生じます。これは特に現金以外の財産(不動産・株式・高価な動産など)を贈与された場合に顕在化しやすい問題です。


あらかじめ相続税額をシミュレーションしておくことが条件です。贈与後に「どれくらいの相続税がかかるか」を想定しておかないと、相続発生時に現金不足に陥るリスクが高まります。FP(ファイナンシャルプランナー)や税理士に依頼して事前に試算しておくと、こうしたリスクを管理しやすくなります。


参考リンク(相続税の物納・延納の詳細・国税庁)。
国税庁「延納と物納」




設例でわかる相続時精算課税制度 2訂版