

試算表に「黒字」と出ていても、手元の現金がゼロになって会社は潰れます。
試算表の損益計算書(P/L)部分には、5種類の利益が上から順番に並んでいます。これらは単なる「数字の羅列」ではなく、それぞれまったく異なる意味を持つ情報です。上から下へ読み下ろすことで、会社の稼ぐ力の「質」が段階的に見えてきます。
まず最初に登場するのが売上総利益(粗利)です。計算式は「売上高−売上原価」で、商品やサービスそのものの収益力を示します。情報通信業では平均47.3%、卸売業では平均15.0%と、業種によって粗利率は大きく異なります(弥生調べ)。粗利率が同業他社と比べて低い場合は、仕入れコストや製造原価の見直しが必要なサインです。
次に登場するのが営業利益です。「売上総利益−販売費及び一般管理費(販管費)」で計算され、本業で稼いだ純粋な利益を示します。人件費・家賃・広告費などの固定的なコストを差し引いた後の数字です。全業種の中央値はおよそ5.7%とされており(ザイマニ調べ)、11〜20%なら優良、10%が標準、0〜9%なら要改善の目安といわれています。
3番目が経常利益です。「営業利益+営業外収益−営業外費用」で計算されます。営業外収益には受取利息や受取配当金、営業外費用には銀行への支払利息などが含まれます。つまり本業以外の財務活動の損益まで加味した、会社の「日常的な総合力」を示す利益です。経営判断では最も重視される利益がこれです。
4番目が税引前当期純利益です。経常利益に「特別利益(資産の売却益など一時的な利益)」を加えて「特別損失(災害損失など一時的な損失)」を引いたものです。ここで注意が必要なのは、特別利益によって数字が大きく膨らむ場合があることです。
最後が当期純利益です。税引前当期純利益から法人税等を差し引いた最終的な利益で、これが貸借対照表の「利益剰余金」に積み上がっていきます。
| 利益の種類 | 計算式 | 読み取れること |
|---|---|---|
| ① 売上総利益(粗利) | 売上高 ー 売上原価 | 商品・サービスの収益力 |
| ② 営業利益 | 売上総利益 ー 販管費 | 本業の稼ぐ力 |
| ③ 経常利益 | 営業利益 ± 営業外損益 | 財務活動を含む日常的な総合力 |
| ④ 税引前当期純利益 | 経常利益 ± 特別損益 | 一時的な損益を含む全体像 |
| ⑤ 当期純利益 | 税引前当期純利益 ー 法人税等 | 最終的な手残り利益 |
5段階の利益が基本です。どの段階の利益を見るかによって、見えてくる経営課題がまったく変わります。
参考:損益計算書の5つの利益の見方と計算式について詳しく解説されています。
損益計算書の見方とは?5つの利益と分析ポイントをわかりやすく解説|AGS
試算表を見るとき、「とりあえず当期純利益が黒字ならOK」と判断していると、大事なシグナルを見落とします。重要なのは「どの利益が黒字か、どの利益が赤字か」という段階の読み方です。
たとえば、営業利益が黒字なのに経常利益が赤字になっているケースがあります。これは本業では稼げているものの、借入金の支払利息が重くのしかかっている状態を意味します。財務体質に課題があるということですね。逆に、営業利益は赤字なのに経常利益が黒字という状況は、本業での稼ぐ力が落ちており、受取利息や配当でなんとか補っているサインです。
さらに注意が必要なのが、「当期純利益は黒字でも経常利益が赤字」というパターンです。この場合、土地や設備の売却といった一時的な特別利益でかろうじて黒字になっているだけで、通常の事業活動では赤字という厳しい状態です。翌年に同じ特別利益が発生する保証はありません。
試算表で利益を見るとき、意識すべきポイントを整理するとこうなります。
利益の「段階」を読むのが基本です。金融に関心がある方なら、投資先企業の分析でも同じ視点が使えます。企業の決算書を読む際も、当期純利益だけを見るのではなく、どの段階の利益が原因で黒字・赤字になっているかを確認する習慣をつけると、分析の精度が大きく変わります。
参考:営業利益と経常利益の違い、各段階の利益から読み取れる企業の状態について解説されています。
損益計算書の見方とは?5つの利益を読み解き、会社の隠れた課題と成長のヒントを掴む|invoy
試算表に表示されている利益は、あくまでも「暫定値」です。決算時に調整が入ることで、試算表上は黒字だったのに決算では赤字、あるいはその逆が起きることは珍しくありません。意外ですね。
落とし穴① 在庫(棚卸資産)の未確認
月次で在庫の実地確認(棚卸し)を行っていない場合、商品や材料を仕入れた時点でそのまま全額が「仕入費用」として計上されます。実際には売れずに在庫として残っているにもかかわらずです。その結果、試算表では赤字が続いていたのに、決算で棚卸しを反映したとたんに黒字に転換する、というパターンが起きます。特に仕入原価が上昇している時期は、安いうちに多めに仕入れる動きが出るため、この乖離が大きくなりやすいです。在庫が増えていると感じた月は、試算表の利益に「在庫増加分」が反映されていないことを頭に入れておきましょう。
落とし穴② 仮払金・前受金の処理漏れ
仮払金とは「支払いはしたが、まだ費用として確定していないもの」です。たとえば出張前の概算払いや、取引先への手付金などが該当します。これが試算表に残ったままだと、実際には費用が発生しているのに経費として計上されておらず、利益が実態より大きく見えている状態になります。
逆に前受金は「代金を先にもらったが、まだ売上として計上していないもの」です。前受金が大きく残っていると、売上を計上した瞬間に利益が一気に膨らむ可能性があります。ドカンと利益がでる可能性があります。
落とし穴③ 減価償却費の未計上
減価償却費は現金の支出を伴わない費用であるため、見落とされやすい項目のひとつです。試算表で毎月計上していないと、決算時にまとめて費用計上することになり、「試算表では黒字→決算で赤字に転落」という事態が起きます。これは取り返しがつきません。減価償却費は年間の額があらかじめわかるものですから、12で割って毎月均等に計上するのが原則です。
参考:試算表の利益が実態と乖離するケースと、減価償却・仮払金・在庫の処理方法について詳しく解説されています。
試算表から「利益の額」を確認するだけでは不十分です。数字は単体で見ても意味が薄く、「率」に変換して比較することで初めて経営判断や投資判断に使える情報になります。
経常利益率の計算と目安
経常利益率は「経常利益 ÷ 売上高 × 100」で計算します。全業種を通じた一般的な目安として、10%以上なら優良、3〜5%前後が中小企業の平均的な水準といわれています。ただし業種によって大きく異なるため、同業他社の数値と比較することが重要です。
経常利益率が高いほど優良です。たとえば売上が前月より増えているのに経常利益率が下がっているとすれば、販管費や支払利息が増加している可能性があります。売上の「量」と利益の「率」の両方を毎月確認するのが基本です。
経営安全率という視点
一方、経常利益率よりもさらに有益な指標が「経営安全率」です。計算式は「経常利益 ÷ 粗利益(限界利益)× 100」です。これは「稼いだ粗利のうち、何%が最終的な利益として残っているか」を示す指標で、言い換えると「販売数量があと何%減ったら赤字になるか」の余裕度を表しています。
たとえば経営安全率が15%なら、今の売上から15%売れなくなって初めて赤字になるという意味です。逆に経営安全率が5%以下であれば、少しの売上減少でも一気に赤字転落するリスクがある、ということです。目標は10%以上、理想は20%以上とされています(古田土会計グループ)。
毎月の推移で比較する
試算表の利益を活かすもうひとつの方法が、月次の推移表を作ることです。売上高・粗利・経常利益・経常利益率を横並びで12か月分見られるようにすると、季節変動やコスト増加のタイミングが視覚的に把握できます。単月の試算表を単体で見るだけでは気づけない傾向が、推移表にすることで浮かび上がってきます。
これらの指標を定点観測するのが原則です。会計ソフト(freee・マネーフォワード・弥生会計など)を使えば、月次試算表から自動的にこれらの指標を計算・グラフ化できる機能があります。まず確認してみましょう。
参考:試算表から算出できる経営指標(経常利益率・自己資本比率など)の解説と活用方法について詳しく書かれています。
試算表の見方とは?試算表を経営に活かすための3ステップ!|Vベスト税理士法人
「試算表では黒字なのに、なぜ現金が足りないのか?」という疑問は、経営者・投資家を問わず多くの方が感じる疑問です。実は、損益計算書上の利益と手元の現金は、構造上ほぼ一致しません。
東京商工リサーチの調査によると、2021年に倒産した企業のうち約39%が直前期の決算で黒字を計上していました。つまり、試算表の利益だけを見て「安心」と思うのは、非常に危険な判断です。
利益と現金が一致しない主な理由は以下の通りです。
損益計算書は「発生主義」で作られているため、現金のやり取りのタイミングとはズレが生じます。利益と現金は別物です。だからこそ、試算表の損益を確認するだけでなく、貸借対照表の「現預金残高」と「売掛金の動き」を同時にチェックすることが重要です。
中小企業が目指すべき現預金残高の目安として、総資産の30%以上を現預金として保有することが推奨されています(古田土会計グループ)。試算表の貸借対照表で「現預金 ÷ 総資産」を毎月計算してみましょう。
また、試算表の利益とキャッシュの動きを同時に把握したい場合は、簡易的なキャッシュフロー計算書を月次で作成することが効果的です。これは上場企業では義務付けられていますが、多くの中小企業では作成されていません。会計ソフトによっては自動作成できる機能があるため、設定してみると「利益が出ているのにお金が減る原因」が視覚的にわかるようになります。
参考:利益と現金の違い、黒字倒産が起きるメカニズムと対策について詳しく解説されています。
ここまで主に経営者目線で試算表の利益を解説してきましたが、金融や投資に関心がある方にとっても、試算表や損益計算書の読み方は非常に重要なスキルです。個別株の分析・融資審査・事業評価のいずれにおいても、損益計算書の5つの利益を正確に読む力が判断の基盤になります。
投資判断に使える3つの利益指標
まず注目すべきは、上場企業の営業利益率の推移です。1四半期ごとに公表される決算短信には損益計算書が含まれており、前年同期比で営業利益率が上昇しているかどうかが、企業の収益力改善を測る基本指標になります。売上が増えていても営業利益率が下がっているなら、コスト増加が利益を圧迫しているサインです。厳しいところですね。
次に、ROE(自己資本当期純利益率)です。計算式は「当期純利益 ÷ 自己資本 × 100」で、自己資本をどれだけ効率よく使って利益を出しているかを示します。業種によってばらつきがありますが、10〜20%以上あれば優良とされており、日本企業全体の平均ROEはかつて5〜6%程度でしたが、近年はROE重視の経営が浸透し、改善傾向にあります。
3つ目は、限界利益(貢献利益)の視点です。試算表や損益計算書には直接表示されませんが、全費用を「変動費」と「固定費」に分解し、「売上高−変動費」で計算される限界利益を把握することで、企業の収益構造がより深く分析できます。限界利益率が高い企業は、売上が増えたときに利益が大きく伸びるレバレッジ効果があります。SaaS企業やソフトウェア企業が典型例で、変動費がほぼゼロのため売上増加がほぼそのまま利益になります。これは使えそうです。
スクリーニングへの応用
株式投資のスクリーニングでは、経常利益率・営業利益率・ROEの3つを組み合わせてフィルタリングすることで、「本業で稼げていて、財務的にも健全な企業」を効率よく絞り込めます。証券会社のスクリーニングツール(SBI証券・楽天証券など)では、これらの指標を条件として設定できるため、活用してみましょう。
損益計算書の読み方は、経営だけでなく投資の世界でも核心的なスキルです。試算表の見方を学ぶことで、経営者としての判断力も、投資家としての分析力も、同時に鍛えられるということです。
参考:試算表を活用した経営判断のポイントや、試算表で確認すべき6つのポイントが詳しく解説されています。
社長のための試算表の読み方初級ガイド!試算表で見るべき6つのポイント|古田土会計