

研究費を使っても、兼務社員の人件費はほぼ控除されずに終わります。
試験研究費税額控除は、一般に「研究開発税制」とも呼ばれる制度で、企業が試験研究に要した費用の一定割合を法人税額から直接差し引くことができる、非常に強力な税制優遇措置です。法人税額の「控除」である点が重要で、単なる損金算入(課税所得の圧縮)ではなく、計算後の税額そのものをダイレクトに削減できます。
根拠法令は租税特別措置法第42条の4で、青色申告書を提出する法人(人格のない社団等を含む)が対象です。適用される制度は以下の3つから構成されています。
| 制度名 | 対象 | 控除率 | 控除上限(原則) |
|---|---|---|---|
| 一般型 | すべての青色申告法人 | 1%〜14% | 法人税額の25% |
| 中小企業型 | 中小企業者等 | 12%〜17% | 法人税額の25% |
| オープンイノベーション型 | すべての青色申告法人 | 20%〜30% | 法人税額の10%(別枠) |
一般型と中小企業型は重複して適用できません。これが基本です。一方で、一般型またはオープンイノベーション型と中小企業型の組み合わせは、同一の試験研究費を二重計上しない限り可能です。
なお、個人事業主の場合は所得税法の枠組みで同様の制度(所得税額の特別控除)が存在しており、青色申告を行っていれば適用できます。
国税庁の公式解説はこちらが参考になります。制度の要件や計算式が詳しく記載されています。
No.5442 一般試験研究費の額に係る税額控除制度 – 国税庁
まず押さえるべき要件が「青色申告法人であること」です。白色申告の法人はこの制度を利用できません。これが条件です。
ただし、中小企業者等以外の大法人(資本金1億円超などが該当)は、それだけでは不十分です。平成30年度(2018年度)税制改正で導入された「特定税額控除規定の不適用措置」により、次の3つの要件のうち少なくとも1つを満たす必要があります。
3つのいずれか1つでも満たせれば利用可能です。痛いところは、前期より業績が好調で、賃上げも設備投資も行っていない場合、試験研究費がいくらあっても税額控除がゼロになる点です。
業績が上昇している成長企業ほど、この不適用措置に引っかかりやすいという逆転現象が起きています。意外ですね。自社が対象になるかどうかを事前に確認することが、節税プランニングの出発点になります。
制度の名称から「研究開発に関わるすべての費用が対象」と誤解されがちですが、実際の対象範囲は税法上の定義に基づいており、かなり限定されています。つまり、会計上の「研究開発費」と税法上の「試験研究費」は別物です。
対象となる費用の主な区分は以下の通りです。
ここで特に重要なのが人件費の「専ら要件」です。国税庁の通達によれば、「専ら従事する」とは研究業務に100%専属で従事している者、または研究プロジェクトの全期間を通じて担当業務に専従している者を指します。
営業や管理業務と研究を兼務している社員の人件費は、原則として控除対象になりません。ただし中小企業については、以下の4つの要件をすべて満たす場合に限り、担当期間中の人件費を按分計算して含めることができます。
この4要件を満たすための記録・管理が不十分なまま申告した場合、税務調査で指摘される可能性があります。これは有料の問題です。従事日報や業務記録の整備が、控除額を守る最大の防衛手段になります。
人件費の「専ら」要件に関する国税庁の詳細な見解はこちらで確認できます。
試験研究費税額控除制度における人件費に係る「専ら」要件の税務上の取扱いについて – 国税庁
控除額の計算は「控除限度額(試験研究費の額×控除率)」と「控除上限(法人税額×上限率)」を比較し、小さい方が実際の控除額となります。これが原則です。
一般型の控除率は、増減試験研究費割合(過去3年の平均と比べた今期の増減比率)と試験研究費割合(売上に占める試験研究費の比率)によって決まります。
増減試験研究費割合が12%以下・試験研究費割合が10%以下の標準的なケースでは、次の計算式になります。
$$\text{控除率} = 11.5\% - (12\% - \text{増減試験研究費割合}) \times 0.25$$
下限は1%、上限は14%で、試験研究費割合が10%超の場合はさらに割増措置が加算されます。
中小企業型の控除率は原則12%で、上乗せ措置を加味すると最大17%まで引き上げられます。一般型より確実に高い控除率が設定されており、中小企業にとっては有利な制度です。これは使えそうです。
控除上限については下表を参考にしてください。
| 条件 | 控除上限 |
|---|---|
| 原則 | 法人税額の25% |
| 増減試験研究費割合が4%超 | 最大30%まで上乗せ |
| 試験研究費割合が10%超 | 最大35%まで上乗せ |
| 設立10年以内等のベンチャー企業 | さらに15%上乗せ(最大40%等) |
ここで注意が必要なのは、控除上限を超えた部分は翌事業年度以降への繰越ができない点です。たとえば、法人税額が2,000万円の会社が1億円の試験研究費を使い、控除率10%なら税額控除は1,000万円の計算になります。しかし控除上限(25%)は500万円のため、実際の控除は500万円にとどまり、残り500万円は消滅します。緊急性のない研究を翌期にずらすだけで、この取りこぼしを防ぐことが可能です。計画的な研究スケジュールが節税効果を最大化します。
経済産業省による研究開発税制の概要資料はこちらです。控除率の図解が豊富に掲載されています。
研究開発税制の概要と令和5・6年度の税制改正について(PDF)– 経済産業省
一般型・中小企業型よりも高い控除率(20%・25%・30%)が設定されているのが「オープンイノベーション型」です。対象は、自社単独ではなく第三者との共同研究・委託研究に要した費用に限られます。
控除率の区分は以下の通りです。
控除上限は法人税額の10%で、一般型・中小企業型とは別枠で計算されます。つまり、一般型の上限25%を使い切っていても、オープンイノベーション型でさらに最大10%分の控除を上乗せできます。
この制度を利用するには、税理士等の第三者による確認書と、共同研究先(大学・研究機関等)による確認を経た書類を確定申告書に添付する必要があります。契約書・協定書に必要な記載事項が揃っているかどうかの確認も必須です。
書類要件の詳細が整理されたガイドラインが経済産業省から公開されています。申告実務を進める前に一読することをお勧めします。
特別試験研究費税額控除制度 ガイドライン〔令和5年度〕(PDF)– 経済産業省
また、オープンイノベーション型には中小企業者等でない法人の場合、費用の総見込額が50万円以下のケースでは適用対象外となるというルールもあります。金額が小さい場合は適用できないことがあります。手間と費用対効果を天秤にかけた上で判断することが重要です。
控除の取りこぼしを防ぐと同時に、誤って対象外費用を含めてしまうリスクにも注意が必要です。以下の活動・費用は、たとえ「研究開発部門」が実施していても試験研究費には含まれません。
特にソフトウエア開発を行う企業では、開発フェーズごとに費用の性質が変わるため、どの段階までが試験研究費に該当するかの判断が難しくなりがちです。
申告手続きとしては、控除の対象となる試験研究費の額と控除を受ける金額を確定申告書に記載し、計算の明細書を添付することが必要です。明細書の記載漏れや添付忘れがあると控除が認められないため注意が必要です。
また、研究開発費として損金経理(会計上の費用計上)をしていることも要件の一つです。費用を資産計上している場合は、その年度の税額控除の対象にならないケースがある点も理解しておきましょう。
企業再編(新設分割・合併等)を行った場合は、過去の試験研究費実績の引き継ぎ計算が複雑になり、分割後2ヶ月以内の届出を怠るだけで数億円規模の税額控除が不利になるケースもあります。企業再編時は必ず専門家への相談が必要です。
中小企業向けの研究開発税制の全体像は、経済産業省の中小企業庁が公開するパンフレットで図解付きで確認できます。
中小企業向け研究開発税制(中小企業技術基盤強化税制)– 中小企業庁