

標準報酬月額を1円でも間違えれば1年分の保険料が狂います。
社会保険制度は、従業員の生活を守るために国が整備した公的保障の仕組みです。具体的には「健康保険」「厚生年金保険」「介護保険」「雇用保険」「労災保険」の5つで構成されています。税務担当者にとって、これらの保険料計算や届出業務は給与計算と密接に関わる重要な実務です。
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この5つのうち、健康保険・厚生年金・介護保険を「狭義の社会保険」、雇用保険・労災保険を「労働保険」と呼び分けることもあります。
つまり広義では5つ全体が社会保険です。
各保険には加入条件や保険料負担の仕組みが異なるため、正確な理解が求められます。
健康保険は、業務外の病気やケガに対して医療費の7割(現役世代)を保障する制度です。会社員が加入する協会けんぽや組合健保が代表的で、自営業者向けの国民健康保険とは別の制度となっています。保険料は標準報酬月額に保険料率を掛けて算出し、労使折半で負担します。
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標準報酬月額は4月から6月の給与平均をもとに決定され、9月から翌年8月まで使用されます。この期間の残業代や手当を意図的に「仮払金」として処理し、7月に一括支給することで標準報酬月額を低く抑える手法は、健康保険法違反として罰則や追徴金の対象となります。法違反が発覚すれば会社の信用失墜にもつながるため、絶対に避けるべきです。
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税務担当者として押さえるべきは、健康保険料の控除タイミングです。健康保険料は前月分を当月給与から控除する仕組みで、この1ヶ月のズレを誤解して徴収ミスを起こすケースが多発しています。入社月や退職月の保険料徴収は特に注意が必要で、資格取得月は保険料が発生しますが、資格喪失月(退職日の翌日が属する月)は発生しません。つまり月末退職なら翌月1日喪失となり、退職月分も徴収が必要です。
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健康保険の被保険者資格は75歳で喪失し、後期高齢者医療制度に移行します。75歳以上の従業員は健康保険の適用対象外となるため、給与計算システムへの反映を忘れないようにしましょう。
厚生年金保険は、老齢・障害・死亡時に年金給付を行う制度で、70歳未満の従業員が加入対象です。国民年金(基礎年金)に上乗せされる2階部分として機能し、保険料は標準報酬月額に保険料率18.3%(令和5年度以降)を掛けて算出し、労使折半で負担します。
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標準報酬月額の算定基礎となる4~6月の給与には、基本給だけでなく残業代や通勤手当などの各種手当も含まれます。計算ミスがあると1年間にわたって誤った保険料を徴収し続けることになるため、年金事務所への「被保険者報酬月額算定基礎届」の提出前に必ず複数人でチェックしましょう。
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給与が大きく変動した場合は随時改定(月額変更届)の対象となります。固定的賃金の変動により、変動月から3ヶ月間の平均報酬が2等級以上変わった場合、4ヶ月目から標準報酬月額が改定されます。この随時改定後に給与計算システムへの反映漏れがないか確認が必須です。
厚生年金の適用除外者も押さえておきましょう。2ヶ月以内の短期雇用者(ただし実際に2ヶ月超えた時点で加入対象)、季節的業務で4ヶ月以内の雇用者、臨時的事業で6ヶ月以内の雇用者などが該当します。これらの条件を満たさない従業員を誤って適用除外扱いすると、後で2年分の保険料をまとめて納付する事態になりかねません。
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介護保険は、要介護・要支援と認定された際に介護サービス費用の一部を補助する制度です。40歳以上65歳未満の健康保険加入者が第2号被保険者として保険料負担の対象となり、健康保険料と合わせて徴収されます。
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介護保険料の徴収開始は、40歳到達月(誕生日の前日が属する月)からです。例えば4月2日生まれなら4月1日に40歳となり4月分から徴収、4月1日生まれなら3月31日に40歳となり3月分から徴収となります。この誕生日の前日ルールを見落とすと、徴収開始が1ヶ月ずれてしまいます。
65歳到達月(誕生日の前日が属する月)からは第1号被保険者に切り替わり、給与からの介護保険料徴収は終了します。代わりに市町村から年金天引きや納付書での徴収に変わるため、従業員への事前説明も重要です。
参考)【国試対策】社会保障制度の5つの柱|okan59
税務担当者が注意すべきは、40歳と65歳の誕生月が近い従業員の給与計算です。給与計算システムに生年月日を正確に登録し、自動で介護保険料の加算・除外が行われる設定にしておくと、手作業でのチェック漏れを防げます。定時決定や随時改定のタイミングで、介護保険料該当者の抽出ミスがないかも確認しましょう。
雇用保険は、失業時の基本手当、育児休業給付、介護休業給付、教育訓練給付などを提供する制度です。週20時間以上勤務し、31日以上の雇用見込みがあり、学生でない従業員が加入対象となります。
参考)パートの社会保険の加入条件は?【2025年】従業員51名以上…
雇用保険料は健康保険や厚生年金と異なり、標準報酬月額ではなく毎月の賃金総額に保険料率を掛けて算出します。この点を勘違いして毎月同じ金額で徴収してしまうミスが頻発しています。残業代が増えた月は雇用保険料も増え、欠勤で給与が減った月は保険料も減る仕組みです。
保険料率は毎年4月に見直される可能性があるため、厚生労働省の発表を確認し、給与計算システムの料率設定を更新する必要があります。一般の事業では令和6年度の労働者負担率が0.6%、事業主負担率が0.95%でしたが、年度によって変動します。この更新を忘れると1年間にわたって誤った保険料を徴収することになります。
2024年10月からは、週20時間以上勤務などの条件を満たすパート・アルバイトも、従業員数51人以上の企業では社会保険加入が義務化されました。月額賃金88,000円以上(年収106万円以上)という基準も重要で、この「106万円の壁」を超えるかどうかで社会保険加入義務が発生します。扶養内で働きたい従業員との調整が必要になるケースもあります。
参考)https://www.freee.co.jp/kb/kb-payroll/how-to-enroll-in-social-insurance-system/
労災保険(労働者災害補償保険)は、業務中や通勤途中の事故によるケガ、病気、死亡、後遺症に対して給付を行う制度です。雇用されて働くすべての人が対象で、雇用形態や労働時間に関わらず加入となります。
労災保険の最大の特徴は、保険料を事業主が全額負担する点です。従業員からの保険料徴収は一切行わないため、給与計算での控除は不要です。これは労働災害の責任が事業主にあるという考え方に基づいています。
参考)社会保険とは?種類・保障内容・加入義務・企業が行うべき手続き…
労災保険料率は業種によって異なり、危険度の高い建設業や製造業では高く、事務職中心の業種では低く設定されています。年度更新の際に前年度の賃金総額を確定させ、その年度の保険料を概算で納付する仕組みです。この年度更新を怠ると追徴金が課される可能性があります。
税務担当者が把握すべきは、労災保険と健康保険の適用範囲の違いです。健康保険は業務外の傷病が対象で、業務中や通勤中の事故は労災保険の対象となります。従業員が業務中にケガをした際に健康保険証を使ってしまうと、後で労災保険への切り替え手続きが必要になり煩雑です。
従業員への周知が重要になります。
厚生労働省の労災保険制度ガイドには、業務災害の認定基準や給付内容の詳細が掲載されています。
2022年10月から段階的に進められている社会保険の適用拡大により、パート・アルバイトの加入対象が広がっています。2024年10月からは従業員数51人以上の企業が対象となり、2026年10月には51人以上の企業まで拡大予定です。
具体的な加入条件は、週20時間以上勤務、2ヶ月以上の雇用見込み、月額賃金88,000円以上、学生でないという4つの要件をすべて満たす場合です。この月額88,000円には通勤手当などは含まれず、基本給と諸手当が対象となります。
税務担当者として注意すべきは、従業員数のカウント方法です。正社員とフルタイム労働者の人数に、週労働時間が正社員の4分の3以上のパート・アルバイトを加えた人数で判定します。この人数が51人以上なら、上記4要件を満たすパート・アルバイト全員が社会保険加入対象です。
適用拡大により新たに加入対象となった従業員には、社会保険加入のメリットとして、厚生年金による将来の年金額増加、傷病手当金や出産手当金の受給資格取得などを説明しましょう。一方で手取り収入が減少するデメリットもあるため、丁寧なコミュニケーションが必要です。
参考)マネイロ
システム面では、給与計算ソフトに加入条件判定機能があるか確認し、自動で社会保険加入対象者を抽出できる設定にしておくと効率的です。年金事務所への資格取得届の提出期限は事実発生から5日以内と短いため、迅速な対応が求められます。
日本年金機構の適用拡大特設サイトでは、対象判定の詳細フローチャートと届出様式がダウンロードできます。
社会保険料の徴収ミスは、従業員とのトラブルや追加納付のリスクを生みます。税務担当者が日常業務で実践すべきチェックポイントを整理しましょう。
まず定時決定(算定基礎届)のタイミングでは、4~6月の給与を正確に集計し、標準報酬月額を算出します。この計算結果が給与計算システムに正しく反映されているか、9月支給の給与で必ず確認してください。従業員からの徴収額の2倍が年金事務所からの保険料納入告知書の金額と一致するかもチェックポイントです。
随時改定が発生した場合も、給与計算システムへの反映漏れが頻発します。昇給や降給があった従業員については、変動後3ヶ月の平均を計算し、2等級以上の変動があれば月額変更届を提出し、4ヶ月目から新しい標準報酬月額に切り替わっているか確認が必須です。
健康保険・厚生年金は前月分を当月給与から控除するのに対し、雇用保険は当月分を当月給与から控除します。この控除タイミングの違いを理解し、入社月・退職月の保険料徴収を正確に行いましょう。特に月末退職者は退職月分の保険料も発生するため、最終給与から2ヶ月分控除する必要があります。
年齢到達による介護保険料の加算・除外も見落としがちです。40歳と65歳の誕生月を迎える従業員のリストを毎月作成し、給与計算前に該当者がいないか確認する習慣をつけましょう。給与計算システムに生年月日を正確に登録しておけば、自動判定が可能です。
雇用保険料は毎月の賃金総額に料率を掛けるため、残業代や欠勤控除により毎月変動します。固定額で処理していないか、給与明細の雇用保険料欄を定期的にサンプルチェックしてください。
日本年金機構の届書作成プログラムを使えば、標準報酬月額の自動計算とエラーチェックが可能です。
社会保険の実務では、一見些細に見える判断ミスが大きなトラブルに発展することがあります。税務担当者が特に注意すべき落とし穴を紹介します。
第一に、2ヶ月以内の短期雇用者を安易に適用除外扱いしないことです。当初2ヶ月以内の契約でも、実際に雇用期間が延長され2ヶ月を超えた時点で、遡って加入義務が発生します。契約更新時に社会保険加入手続きを忘れると、後で数ヶ月分の保険料をまとめて徴収・納付する事態になります。
第二に、社会保険料適正化サービスなどの甘い誘いに乗らないことです。4~6月の残業代を「仮払金」として処理し標準報酬月額を下げる手法は、健康保険法・厚生年金保険法違反として6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。コンサル会社は責任を取らず、すべてのリスクは企業側が負います。
参考)社会保険義務違反の罰則とは?人事労務担当者必見の加入条件と対…
第三に、賞与からの社会保険料控除を忘れないことです。賞与にも健康保険料・厚生年金保険料・介護保険料・雇用保険料が発生し、賞与額に保険料率を掛けて算出します。ただし厚生年金は年度累計573万円が上限、健康保険は1回あたり573万円が上限です。
この上限計算を誤ると過大徴収になります。
第四に、産前産後休業や育児休業中の社会保険料免除申請を確実に行うことです。申請すれば事業主負担分も免除されますが、年金事務所への届出を忘れると免除されません。従業員とのトラブル防止のため、休業開始時に必ず申請しましょう。
第五に、外国人従業員の社会保険加入判定です。就労ビザがあり日本国内で勤務する外国人は、日本人と同じ条件で社会保険加入義務があります。
国籍による除外はありません。
一方、本国との社会保障協定がある国の場合は二重加入を避ける特例があるため、個別確認が必要です。
これらの落とし穴を避けるには、判断に迷った時点で年金事務所やハローワークに問い合わせることです。自己判断で処理を進めると、後で大きな修正作業が発生します。