年金繰り下げデメリット 税務担当者が知るべき加給年金と税負担の落とし穴

年金繰り下げデメリット 税務担当者が知るべき加給年金と税負担の落とし穴

年金繰り下げのデメリット

繰り下げで年約40万円の加給年金が消える。


この記事の3つのポイント
💰
加給年金の喪失リスク

繰り下げ待機中は年約40万円の加給年金が支給停止となり、受け取れなくなる

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税金・社会保険料の増加

年金額の増加により住民税非課税世帯から外れ、医療費負担が2〜3倍になる可能性

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遺族年金は増えない

繰り下げ増額分は遺族厚生年金に反映されず、配偶者が受け取る金額は変わらない

年金繰り下げで加給年金が受け取れなくなる仕組み


老齢厚生年金を繰り下げる間、加給年金は完全に支給停止となります。加給年金は、厚生年金の加入期間が20年以上ある人が、65歳到達時点で65歳未満の配偶者または18歳未満の子どもを扶養している場合に支給される特別な年金です。


参考)“夫婦そろって”年金を繰り下げると、大損する理由…年約40万…

配偶者加給年金の年額は約40万円にも達します。つまり5年間繰り下げると、約200万円の加給年金を受け取り損ねることになります。

繰り下げで増額した年金額でこの損失を補填しようとすると、約2年10ヶ月かかる計算です。加給年金が受け取れる人は原則65歳から受給開始する方が有利ですね。

夫婦そろって年金を繰り下げる場合、妻が65歳から受け取れる振替加算も受給開始まで停止されます。加給年金の対象者がいる場合は、繰り下げではなく65歳から受給する選択肢を慎重に検討する必要があります。

マネーフォワードの加給年金と繰り下げの比較記事では、具体的な試算例が詳しく解説されています。

年金繰り下げによる税金と社会保険料の負担増

年金額が増えると、所得税住民税の負担が発生または増加します。さらに国民健康保険料後期高齢者医療保険料、介護保険料といった社会保険料も年金収入に応じて算定されるため、負担が大きくなります。


参考)【FP監修】年金の「繰り下げ受給」「繰り上げ受給」とは?メリ…


住民税非課税世帯だった人が繰り下げで年金を増やすと、課税世帯になってしまいます。例えば年金月11万円(年132万円)なら公的年金控除110万円と基礎控除43万円で所得ゼロですが、繰り下げで月15万円(年180万円)になると課税対象です。


住民税非課税世帯から外れると得られなくなる。


住民税課税世帯になると、自治体の福祉サービスや助成制度の対象外となります。国民健康保険料の軽減措置や、高額療養費制度の自己負担限度額も不利になります。

年金収入が増えることで、75歳以降の医療費窓口負担が1割から2割、場合によっては3割に上昇するリスクもあります。年収383万円以上になると3割負担となり、医療費が年10万円の人なら最大30万円に跳ね上がります。


参考)年金繰り下げ受給で「医療費3倍」も!?法改正を機に備えたい窓…


ダイヤモンド・オンラインの医療費負担に関する記事で、繰り下げによる医療費増加の詳細が確認できます。

年金繰り下げしても遺族年金は増額されない現実

老齢厚生年金を繰り下げて増額しても、本人が亡くなった後に配偶者が受け取る遺族厚生年金には増額分が反映されません。遺族厚生年金は、繰り下げ増額前の本来の年金額(65歳から受け取る場合の額)の4分の3で計算されます。


参考)年金を繰り下げて「増額受給」! でも家族への「遺族年金」は増…

つまり配偶者のために繰り下げ増額しても意味がないということです。単身者であれば自分の受給額だけを考慮すればよいですが、配偶者がいる場合は配偶者の将来収入も含めた世帯全体での損益を検討する必要があります。


繰り下げ待機中に遺族年金の受給権が発生した場合、その時点で増額率が固定されます。例えば75歳まで繰り下げ予定で待機している人の配偶者が70歳で亡くなった場合、70歳時点の増額率42%で固定され、それ以降は増額できません。


配偶者がいる人は慎重な判断が必要ですね。自分だけでなく配偶者の生活保障も視野に入れた計画を立てることが重要です。


年金繰り下げ中の在職老齢年金による減額の影響

65歳以降も働きながら年金を繰り下げる場合、在職老齢年金制度による支給停止を回避することはできません。繰り下げ待機中も在職老齢年金の計算は行われ、支給停止された後の年金額が繰り下げ増額の対象となります。


参考)在職老齢年金は繰上げ受給・繰下げ受給ができますか?|ねんきん…

在職老齢年金制度では、年金月額と総報酬月額相当額の合計が50万円(2026年度基準)を超えると、超過分の2分の1が支給停止されます。つまり高収入で働き続けている人は、繰り下げても増額幅が小さくなるのです。


支給停止額が大きいと損します。例えば本来の老齢厚生年金が月10万円でも、在職老齢年金で月3万円が支給停止されている場合、実際に増額対象となるのは月7万円のみです。

繰り下げで年金カットを回避しようとする人は多いですが、実際には回避できません。65歳以降も高収入で働く予定の人は、繰り下げのメリットが大幅に減少することを認識しておく必要があります。


従業員が在職中に繰り下げを検討している場合は、給与水準と年金額の関係を試算するよう助言することが税務担当者の役割となります。


年金繰り下げの損益分岐点と長生きリスク

年金繰り下げの最大のリスクは、早期に亡くなった場合に総受給額が少なくなることです。繰り下げによる増額で得をするには、一定の年齢まで生きる必要があります。


参考)年金繰り下げ受給のメリット・デメリットは?損益分岐点から計算…


損益分岐点の計算が基本です。例えば70歳まで5年間繰り下げた場合、年金額は42%増額されますが、65歳から69歳までの5年間は年金を受け取れません。年金額が年200万円の場合、この5年間で1000万円を受け取り損ねます。


参考)「年金は繰り下げたほうが得」は本当か…お金のプロが「60歳で…

42%増額後の年金は年284万円となり、年84万円の増額です。1000万円の損失を84万円の増額で取り戻すには約12年かかるため、損益分岐点は82歳頃となります。


参考)マネイロ

税金や社会保険料の増加を考慮すると、実際の損益分岐点はさらに後ろにずれます。手取りベースで計算すると、損益分岐点が85歳を超えるケースも珍しくありません。

平均寿命まで生きられるとは限らないですね。従業員の健康状態や家族の長寿傾向なども含めて、個別の状況に応じた判断が求められます。


税務担当者が従業員に伝えるべき年金繰り下げのチェックポイント

従業員から年金繰り下げについて相談を受けた際、税務担当者が確認すべきポイントがあります。まず配偶者の有無と年齢を確認し、加給年金の対象になるかチェックしてください。


次に65歳以降の就労予定と予想年収を聞き取ります。在職老齢年金による支給停止の可能性があれば、繰り下げのメリットが減少することを説明する必要があります。


住民税非課税世帯に該当しているか確認も必須です。繰り下げで課税世帯になると、医療費負担や保険料が跳ね上がるため、増額分が相殺される可能性があります。


健康状態と家族の長寿傾向も重要な要素です。損益分岐点を超えて生きられる見込みがあるかどうかを、率直に考えてもらう必要があります。


日本年金機構の年金見込額試算サービスで具体的な金額をシミュレーションしましょう。
日本年金機構の繰り下げ受給ページには制度の詳細が掲載されています。


税務担当者は、年金繰り下げの一般的なメリットだけでなく、個別事情によるデメリットも含めて多角的に情報提供することが求められます。特に加給年金、税負担、遺族年金の3点は必ず確認してください。


これらの情報を整理し、従業員が自身の状況に合った最適な判断ができるようサポートすることが、税務担当者の専門性を発揮する場面といえます。




結局、年金は何歳でもらうのが一番トクなのか (青春新書インテリジェンス PI 653)