
国民健康保険税(国保税)は、国民健康保険制度を支える重要な財源です。この保険税は、医療費の負担を加入者全体で支え合う「助け合いの制度」として機能しています。国保税の計算方法を理解することで、自身の保険税額がどのように算出されているのかを把握することができます。
国保税は自治体によって税率や計算方法が異なりますが、基本的な仕組みは共通しています。この記事では、国保税の計算方法の基本から実際の計算例まで、税理士として知っておくべき情報を詳しく解説します。
国民健康保険税は、次の3つの課税区分から構成されています。
これらの3つの区分それぞれに対して、所得割、均等割、平等割という3つの要素から計算が行われます。各自治体によって、これらの税率や金額は異なりますが、計算の基本的な仕組みは同じです。
国保税の年税額は、これら3つの課税区分の合計額となります。
国保税年税額 = 基礎課税額(医療分)+ 後期高齢者支援金等課税額 + 介護納付金課税額
なお、それぞれの課税区分には課税限度額が設定されており、2024年度(令和6年度)の場合、医療分は65万円、後期高齢者支援金分は24万円、介護分は17万円となっています。
国民健康保険税の各課税区分(医療分、後期高齢者支援金分、介護分)は、次の3つの要素から計算されます。
所得割の計算は、前年の総所得金額から基礎控除額(43万円)を差し引いた「賦課のもととなる所得金額」に、各区分の所得割税率をかけて算出します。所得が43万円未満の場合は、所得割は0円となります。
例えば、ある自治体の医療分の所得割税率が7.2%の場合、前年の総所得金額が500万円の人の所得割額は次のように計算されます。
(500万円 - 43万円) × 7.2% = 457万円 × 7.2% = 328,040円
均等割は、被保険者一人あたりに定額で課税される部分です。例えば、医療分の均等割額が24,000円の場合、3人家族であれば72,000円(24,000円×3人)となります。
平等割は、一世帯あたりに定額で課税される部分です。例えば、医療分の平等割額が22,000円の場合、世帯の人数に関わらず22,000円が課税されます。
実際の国保税の計算例を見てみましょう。ここでは、次のような世帯構成を想定します。
この世帯の国保税を計算するためには、まず課税所得金額を算出します。
課税所得金額 = 給与所得276万円 - 基礎控除額43万円 = 233万円
次に、各区分ごとに所得割、均等割、平等割を計算します。ここでは、ある自治体の税率を例として使用します。
医療分の計算
後期高齢者支援金分の計算
介護分の計算(40歳以上65歳未満の2人のみ)
年間国保税額の合計
年間国保税額 = 259,200円 + 98,000円 + 77,000円 = 434,200円
このように、世帯の構成や所得状況によって国保税額は大きく変わります。自治体によって税率や均等割・平等割の金額が異なるため、正確な金額は各自治体の公式ウェブサイトや窓口で確認することをお勧めします。
多くの自治体では、国保税の試算ができるExcelファイルやウェブツールを提供しています。これらを活用することで、より正確な試算が可能です。
国民健康保険税の税率や均等割・平等割の金額は、自治体によって大きく異なります。これは、各自治体の医療費水準や被保険者の年齢構成、所得水準などの違いによるものです。
以下に、いくつかの自治体の2024年度(令和6年度)の税率を比較してみましょう。
自治体 | 医療分所得割 | 後期高齢者支援金分所得割 | 介護分所得割 |
---|---|---|---|
A市 | 7.8% | 2.1% | 1.8% |
B市 | 6.9% | 2.6% | 2.1% |
C市 | 8.1% | 2.94% | 2.6% |
D市 | 5.95% | 2.42% | 2.35% |
このように、同じ所得であっても住んでいる自治体によって国保税額が異なることがあります。特に、医療費水準の高い地域や高齢化が進んでいる地域では、税率が高くなる傾向があります。
また、国保税には課税限度額が設定されています。2024年度(令和6年度)の法定限度額は以下の通りです。
これらの限度額は、高所得者の負担が際限なく増えないようにするためのものです。所得が非常に高い場合でも、国保税の各区分はこれらの限度額を超えることはありません。
なお、これらの限度額は毎年見直されることがあり、年々引き上げられる傾向にあります。これは、医療費の増加や高齢化の進展に伴う財政需要の増加に対応するためです。
国民健康保険税には、所得の少ない世帯や特定の状況にある世帯に対して、様々な軽減措置が設けられています。税理士として、これらの制度を理解しておくことは、クライアントへの適切なアドバイスのために重要です。
1. 7割・5割・2割の軽減制度
世帯の所得が一定基準以下の場合、均等割と平等割が軽減される制度があります。2024年度(令和6年度)の基準は以下の通りです。
例えば、3人世帯の場合、総所得金額等が43万円以下なら7割軽減、43万円+(29万円×3人)=130万円以下なら5割軽減、43万円+(53.5万円×3人)=203.5万円以下なら2割軽減となります。
2. 非自発的失業者に対する軽減措置
倒産、解雇、雇い止めなどにより離職した方(特定受給資格者・特定理由離職者)については、前年の給与所得を30/100として国保税を算定する特例があります。これにより、失業後の負担を軽減することができます。
この軽減措置を受けるためには、雇用保険受給資格者証の提出など、所定の手続きが必要です。また、この特例は離職の翌日から翌年度末までの期間が対象となります。
3. 介護保険適用除外施設入所者の軽減
40歳から64歳までの方が介護保険適用除外施設(障害者支援施設など)に入所している場合、その期間中は介護分が課税されないことがあります。この場合、施設が発行する証明書などを添えて申請する必要があります。
4. 未就学児の均等割軽減
2022年度(令和4年度)から、未就学児(6歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある被保険者)の均等割額が5割軽減される制度が導入されました。これは、子育て世帯の経済的負担を軽減するための措置です。
5. 所得控除の適用
国保税の所得割を計算する際の「賦課のもととなる所得金額」は、所得税や住民税と同様に、各種所得控除(社会保険料控除、医療費控除、障害者控除など)を適用した後の金額となります。そのため、確定申告や住民税の申告を適切に行うことで、国保税の負担を軽減できる可能性があります。
これらの軽減措置は自動的に適用されるものもありますが、申請が必要なものもあります。また、自治体によって独自の軽減制度を設けている場合もあるため、詳細は各自治体の窓口に確認することをお勧めします。
厚生労働省:国民健康保険制度の概要と軽減措置についての詳細情報
国民健康保険税は、原則として年度単位(4月から翌年3月まで)で計算されますが、年度の途中で加入や脱退があった場合は、月割で計算されます。また、納付方法にもいくつかの選択肢があります。これらの仕組みを理解することで、クライアントに適切なアドバイスができるようになります。
月割課税の仕組み
国保税の賦課期日(課税の基準となる日)は、その年度の4月1日です。しかし、次のような場合には月割で計算されます。
月割計算は、加入月(または変更月)から脱退月(または変更前月)までの月数に応じて行われます。例えば、7月に国保に加入した場合、7月から翌年3月までの9ヶ月分が課税されます。
月割計算の例。
年税額 434,200円 ÷ 12ヶ月 × 9ヶ月 = 325,650円
納付方法
国保税の納付方法には、主に次の3つがあります。
納付期限は自治体によって異なりますが、一般的には毎月末日や月の特定の日が設定されています。納付期限を過ぎると延滞金が発生することがあるため、期限内の納付が重要です。
納税通知書の発送時期
国保税の納税通知書は、通常、毎年6月から7月頃に発送されます。これは、前年の所得が確定する時期(