

資本金が1億円を超えると、貸倒引当金を設定しても税務上の損金算入が一切認められません。
「貸倒引当金」とは、将来の貸倒れ損失に備えて期末時点で見積もり計上しておく引当金のことです。英語では Allowance for doubtful accounts と呼ばれます。
企業会計の大原則は「適正な期間損益計算」です。たとえば、X1年度に売上を計上した取引先がX3年度に倒産した場合、貸倒損失を全額X3年度に計上すると、X1年度の利益が過大・X3年度の損失が過大になり、実態を正しく反映できません。そのため、売上が発生したX1年度に将来の損失を見積もり、あらかじめ費用として計上しておく——それが貸倒引当金の本質的な役割です。
貸倒引当金の対象になる主な債権は、売掛金・受取手形・貸付金・未収金などです。一方、敷金・保証金・前払金・仮払金・預け金などは対象外です。この区別は実務でもミスが起きやすいポイントです。
| 対象となる債権(例) | 対象外となる債権(例) |
|---|---|
| 売掛金 | 敷金・保証金 |
| 受取手形 | 前払金・前渡金 |
| 貸付金 | 仮払金・立替金 |
| 未収金 | 未収配当金・未収利子 |
「対象外かどうか」が基本です。
貸倒引当金は貸借対照表上、「資産の控除科目(評価勘定)」として計上されます。売掛金などの資産から差し引く形で表示されるため、マイナスで出てきますが、これは性質上の仕様です。貸倒引当金がマイナスに見えても、計上ミスではありません。
参考:国税庁「一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の対象となる金銭債権の範囲」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5500.htm
貸倒引当金の処理では、主に次の3つの勘定科目が登場します。それぞれを混同しないことが実務の第一歩です。
3つの科目が正確です。
具体的な設定時の仕訳はシンプルです。たとえば売掛金1,000万円に対して貸倒引当金を1%(10万円)見積もった場合、次のようになります。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 貸倒引当金繰入 | 100,000円 | 貸倒引当金 | 100,000円 |
この仕訳1本で「費用を計上し、引当金残高を増やす」という2つのことが同時に行われます。翌期に実際に貸倒れが発生したとき、この引当金残高を取り崩して損失と相殺する仕組みです。なお、「貸倒引当金繰入」を「販売費及び一般管理費」に計上するか「営業外費用」に計上するかは、債権の性質によって異なります。売掛金など営業債権に係るものは販売費・一般管理費、貸付金など営業外債権に係るものは営業外費用が原則です。これは意外と見落とされがちな点です。
参考:マネーフォワード クラウド会計「貸倒引当金とは?仕訳処理や計算方法をわかりやすく解説」
https://biz.moneyforward.com/accounting/basic/44259/
期末に引当金を見直すとき、仕訳の方法には「洗替法」と「差額補充法」の2種類があります。
洗替法(法人税法上の原則)は、前期の貸倒引当金残高をいったん全額戻し入れ(貸倒引当金戻入を計上)、当期に新たな見積額を丸ごと繰り入れる方法です。前期残高50,000円・当期見積額150,000円の場合の仕訳は次のとおりです。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 貸倒引当金 | 50,000円 | 貸倒引当金戻入 | 50,000円 |
| 貸倒引当金繰入 | 150,000円 | 貸倒引当金 | 150,000円 |
差額補充法(税務上も容認)は、前期残高と当期見積額の差額だけを追加繰入れする方法です。同じ数字で計算すると差額は100,000円(=150,000円−50,000円)で、仕訳は1行で済みます。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 貸倒引当金繰入 | 100,000円 | 貸倒引当金 | 100,000円 |
どちらを選んでも貸借対照表の引当金残高・最終的な当期純利益・法人税額は同じです。差額補充法が有利です。
では、なぜ2つの方法が存在するのでしょうか。損益計算書の表示に違いが出るためです。洗替法は「戻入益」と「繰入額」が両方計上されるため、引当金の動きが透明に見えます。一方、差額補充法は差額しか計上されないため、損益計算書がシンプルになります。実務では、上場企業が差額補充法を選ぶケースが多い傾向にあります。当期に引当金が減少する場合(前期より見積額が減った場合)は、差額補充法でも「貸倒引当金戻入」を使って取り崩す仕訳が必要になる点を覚えておきましょう。
参考:経理プラス「貸倒引当金の繰入・戻入 仕訳方法をおさらい」
https://keiriplus.jp/tips/kashidaore-kihon/
会計と税務では、貸倒引当金の計算方法が異なります。この差異を理解しないまま処理すると、法人税申告書で「申告調整」が必要になるケースが生じます。厳しいところですね。
会計上は、債権を3区分に分けてそれぞれ合理的に見積もります。
税務上(中小法人の一括引当て)では、業種ごとに定められた「法定繰入率」が使えます。計算式は次のとおりです。
$$\text{貸倒引当金繰入限度額} = (\text{期末一括評価債権の額} - \text{実質的に債権とみられない金額}) \times \text{法定繰入率}$$
法定繰入率は業種によって異なります。
| 業種 | 法定繰入率 |
|---|---|
| 卸売業・小売業(飲食店含む) | 10/1000(1.0%) |
| 製造業 | 8/1000(0.8%) |
| 金融業・保険業 | 3/1000(0.3%) |
| 割賦販売小売業など | 7/1000(0.7%) |
| その他 | 6/1000(0.6%) |
重要な点が1つあります。会計上で計上した繰入額が税務上の「繰入限度額」を超えた場合、超過部分は損金算入できません。申告書の別表上で「損金不算入の申告加算」が必要になります。会計処理だけを完結させ、申告調整を忘れると課税誤りになるリスクがあります。また、一括評価金銭債権に含めた債権と個別評価金銭債権に含めた債権が重複しないよう、分類の段階から注意が必要です。
参考:国税庁「一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の設定」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5501.htm
貸倒引当金の税務上の扱いは、会社の規模によって大きく変わります。これが実務でもっとも見落とされやすいポイントです。
2012年度(平成24年度)の税制改正により、法人税法上の貸倒引当金の損金算入は一定の法人のみに限定されました。
注意点が1つあります。資本金1億円以下でも、「資本金5億円以上の大法人に100%支配されている中小法人」は中小特例の適用が除外されます。つまり、親会社が大企業であれば、自社の資本金が1億円以下でも損金算入できないケースがあります。中小企業と思っていても要注意です。
一方、個人事業主(青色申告者)は少し異なります。青色申告を選択している個人事業主は、年末(12月31日)時点の売掛金・事業用貸付金などの残高合計に対して、一律5.5%(金融業は3.3%)を貸倒引当金繰入として必要経費に計上できます。計算がシンプルで、売掛金が年末に100万円残っていれば5万5,000円を経費計上できる計算です。実際に資金が出ていかないため、キャッシュフローに影響を与えずに節税できる点が魅力です。
| 区分 | 税務上の損金算入 | 適用率の目安 |
|---|---|---|
| 中小法人(資本金1億円以下) | ✅ 可(法定繰入率または実績率) | 業種により0.3〜1.0% |
| 大法人(資本金1億円超) | ❌ 不可(会計上は計上義務あり) | − |
| 青色申告の個人事業主 | ✅ 可(一律5.5%、金融業3.3%) | 5.5%(金融業3.3%) |
大法人でも「貸倒損失」の損金算入は認められています。確定した損失が出た時点で「法律上の貸倒れ」「事実上の貸倒れ」「形式上の貸倒れ」の3要件のいずれかを満たせば損金に計上できます。これが唯一の救済手段です。
参考:OBC「貸倒引当金とは?計算方法、仕訳例、税務と会計の違いについて解説」
https://www.obc.co.jp/special/ipo/column/list/126