
所得控除とは、所得税を計算する際に一定の金額を所得から差し引くことができる制度です。この制度は、納税者一人ひとりの経済状況や家族構成などの個人的な事情を考慮し、より公平な課税を実現するために設けられています。所得控除を適用することで課税所得が減少し、結果的に納税額を抑えることができます。
所得税額の計算方法は以下の式で表されます。
所得税額 = (収入 - 給与所得控除 - 各種の所得控除) × 税率
会社員の場合、収入から給与所得控除と各種所得控除を差し引いた金額が課税所得となり、これに税率をかけて所得税額が算出されます。つまり、適用できる所得控除が多ければ多いほど、税負担を軽減できるということです。
基礎控除は、所得のある人なら誰でも適用できる基本的な控除です。納税者本人の合計所得金額に応じて控除額が決まります。令和6年4月現在の基礎控除額は以下のとおりです。
納税者本人の合計所得金額 | 控除額 |
---|---|
2,400万円以下 | 48万円 |
2,400万円超2,450万円以下 | 32万円 |
2,450万円超2,500万円以下 | 16万円 |
2,500万円超 | 0円 |
基礎控除は給与所得者、フリーランス、年金受給者など、収入を得ているすべての人が対象となります。所得が2,400万円以下であれば、48万円が所得から控除されるため、多くの納税者にとって重要な控除制度といえます。
基礎控除は確定申告や年末調整で自動的に適用されるため、特別な手続きは必要ありません。ただし、確定申告を行う場合は、申告書の所得控除欄に記入する必要があります。
配偶者に関する控除には、「配偶者控除」と「配偶者特別控除」の2種類があります。これらは配偶者の所得額によって適用される控除が異なります。
配偶者控除は、生計を一にする配偶者の所得額が48万円以下(給与収入のみの場合は103万円以下)の場合に適用できます。ただし、納税者本人の合計所得金額が1,000万円以下でなければなりません。控除額は、納税者本人の所得金額や配偶者の年齢によって異なります。
納税者本人の合計所得金額 | 控除額(配偶者が70歳未満) | 控除額(配偶者が70歳以上) |
---|---|---|
900万円以下 | 38万円 | 48万円 |
900万円超950万円以下 | 26万円 | 32万円 |
950万円超1,000万円以下 | 13万円 | 16万円 |
1,000万円超 | 0円 | 0円 |
一方、配偶者特別控除は、配偶者の所得が48万円超133万円以下(給与収入のみの場合は103万円超201万6,000円未満)の場合に適用できます。こちらも納税者本人の合計所得金額が1,000万円以下という条件があります。
配偶者特別控除の控除額は、配偶者の所得金額に応じて段階的に減少します。例えば、納税者本人の所得が900万円以下で、配偶者の所得が48万円超95万円以下なら38万円、配偶者の所得が95万円超100万円以下なら36万円が控除されます。
これらの控除を活用するには、年末調整または確定申告で申告する必要があります。特に、配偶者の収入が変動する場合は、どちらの控除が適用されるか確認しておくことが重要です。
医療費控除は、1年間(1月1日から12月31日まで)に支払った医療費が一定額を超えた場合に適用できる控除です。医療費控除には、通常の医療費控除とセルフメディケーション税制(医療費控除の特例)の2種類があり、どちらか有利な方を選択できます。
通常の医療費控除の控除額は、以下の計算式で求められます。
控除額 = 支払った医療費 - 保険金などで補填される金額 - 10万円(または総所得金額等が200万円未満の場合は総所得金額等の5%)
控除の上限額は200万円です。対象となる医療費には、病院や診療所での診療費、治療費、薬局で購入した医薬品代、通院のための交通費などが含まれます。
セルフメディケーション税制は、健康診断や予防接種などの健康の保持増進及び疾病の予防への取組を行っている人が、スイッチOTC医薬品(医師の処方箋なしで購入できる医薬品)を購入した場合に適用できる制度です。
控除額は、対象となる医薬品の購入費 - 1万2,000円で計算され、上限は8万8,000円です。
医療費控除を受けるには確定申告が必要で、年末調整では対応できません。申告の際には、医療費の領収書や明細書を保管しておく必要があります。なお、令和元年分以降の確定申告では、医療費の領収書の提出は不要となり、代わりに「医療費控除の明細書」の添付が必要になりました。
社会保険料控除と生命保険料控除は、多くの人が利用できる重要な控除です。これらの控除を正しく理解し、適用することで税負担を効果的に軽減できます。
社会保険料控除は、自分や生計を一にする家族・親族の社会保険料を支払った場合に適用できます。控除額は、その年に支払った社会保険料の全額です。対象となる社会保険料には、健康保険料、厚生年金保険料、国民年金保険料、雇用保険料、介護保険料などがあります。
社会保険料控除の特徴は、支払った金額がそのまま控除されることと、上限がないことです。例えば、年間60万円の社会保険料を支払った場合、60万円がそのまま所得から控除されます。
生命保険料控除は、民間の保険会社などに生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料を支払った場合に適用できます。控除額は保険の種類ごとに計算され、合計で最大12万円まで控除できます。
保険の種類 | 控除額の上限 |
---|---|
一般生命保険料 | 4万円 |
介護医療保険料 | 4万円 |
個人年金保険料 | 4万円 |
生命保険料控除の計算方法は、支払った保険料の金額によって異なります。例えば、一般生命保険料の場合。
これらの控除は年末調整または確定申告で申告できます。会社員の場合、勤務先から配布される「保険料控除申告書」に必要事項を記入し、保険会社から送付される「控除証明書」を添付して提出します。
給与所得控除は、給与所得者の必要経費を概算的に控除するための制度です。給与等の収入金額に応じて控除額が決まり、所得税の計算において重要な役割を果たします。
令和6年4月現在の給与所得控除額は以下のとおりです。
給与等の収入金額 | 給与所得控除額 |
---|---|
1,625,000円まで | 550,000円(最低保障額) |
1,625,001円~1,800,000円 | 収入金額×40%-100,000円 |
1,800,001円~3,600,000円 | 収入金額×30%+80,000円 |
3,600,001円~6,600,000円 | 収入金額×20%+440,000円 |
6,600,001円~8,500,000円 | 収入金額×10%+1,100,000円 |
8,500,001円以上 | 1,950,000円(上限) |
給与所得控除は自動的に適用されるため、給与所得者が特別な手続きを行う必要はありません。ただし、給与所得以外の所得がある場合や、適用したい所得控除がある場合は確定申告が必要になることがあります。
確定申告と所得控除の関係については、以下のポイントを押さえておくことが重要です。
確定申告を行う際は、適用できる所得控除を漏れなく申告することが重要です。特に、医療費控除や寄附金控除などは自分で申告しなければ適用されないため、該当する場合は忘れずに申告しましょう。
扶養控除と障害者控除は、家族構成や健康状態に応じて適用できる重要な控除です。これらの控除を正しく理解し活用することで、税負担を効果的に軽減できます。
扶養控除は、納税者が扶養する親族がいる場合に適用できる控除です。控除額は扶養親族の年齢や同居の有無によって異なります。
扶養親族の区分 | 控除額 |
---|---|
一般の控除対象扶養親族(16歳以上19歳未満、23歳以上70歳未満) | 38万円 |
特定扶養親族(19歳以上23歳未満) | 63万円 |
老人扶養親族(70歳以上)で同居していない | 48万円 |
老人扶養親族(70歳以上)で同居している | 58万円 |
扶養控除を受けるには、扶養親族の合計所得金額が48万円以下(給与収入のみの場合は103万円以下)である必要があります。大学生の子どもや高齢の親を扶養している場合は、この控除を活用することで税負担を軽減できます。
障害者控除は、納税者本人や生計を一にする配偶者または扶養親族が障害者に該当する場合に適用できます。控除額は障害の程度や同居の有無によって異なります。
障害者の区分 | 控除額 |
---|---|
一般の障害者 | 27万円 |
特別障害者 | 40万円 |
特別障害者が同居している | 75万円 |
障害者控除を受けるには、障害者手帳や療育手帳、精神障害者保健福祉手帳などの公的な証明書が必要です。また、65歳以上で要介護認定を受けている場合も、市区町村が発行する「障害者控除対象者認定書」により障害者控除を受けられることがあります。
これらの控除を最大限に活用するためのポイントは以下のとおりです。
これらの控除は年末調整または確定申告で申告できます。適用条件を満たしているにもかかわらず控除を受けていない場合は、過去5年分まで遡って更正の請求を行うことも可能です。
雑損控除とふるさと納税(寄附金控除)は、特定の状況や行動によって適用できる控除です。これらを戦略的に活用することで、税負担を効果的に軽減できます。
雑損控除は、災害や盗難、横領によって資産に損害を受けた場合に適用できる控除です。控除額は以下の2つの計算方法のうち、多い方の金額となります。
雑損控除は、災害等が発生した年の所得税から控除されますが、控除しきれない金額がある場合は、翌年以後3年間繰り越すことができます。これにより、大きな損失を複数年にわたって控除することが可能です。
雑損控除を申告する際は、損害額を証明する書類(罹災証明書、盗難届の受理証明書など)や修繕費の領収書などを保管しておく必要があります。
**ふるさと納税(寄附金控除)**は、自治体に寄附をすることで税金の控除を受けられる制度です。控除額は以下の計算式で求められます。
控除額 = (特定寄附金の合計額 - 2,000円)
ただし、控除額には上限があり、所得税と住民税を合わせた控除額は、原則として年間所得の約20%が上限となります。
ふるさと納税を戦略的に活用するポイントは以下のとおりです。
雑損控除とふるさと納税はどちらも確定申告が必要です。特にふるさと納税は、計画的に活用することで、税負担の軽減と返礼品の獲得という二重のメリットを得ることができます。
所得控除を最大限に活用するためには、自分の状況に合った控除を把握し、必要な手続きを適切に行うことが重要です。特に、確定申告が必要な控除については、申告期限や必要書類を事前に確認しておきましょう。