

給与所得控除は、年末調整で自動適用されるから申告不要だと思っていませんか? 実は年収450万円の会社員でも、確定申告すれば追加で数十万円を控除でき、税金が戻る可能性があります。
給与所得控除とは、簡単にいえば「会社員のための自動みなし経費控除」です。個人事業主やフリーランスは、パソコン代・交通費・打ち合わせ費用などを経費として収入から差し引き、残った金額(所得)に税金がかかります。
しかし会社員は、たとえスーツや仕事用の書籍を自腹で購入しても、その費用を経費として申告できません。この不公平を解消するために設けられているのが、給与所得控除という仕組みです。つまり「経費をいちいち申告しなくても、年収に応じた一定額を自動で差し引きますよ」という制度です。
給与所得控除が差し引かれた後の金額を「給与所得」と呼び、これがそのまま課税の対象になるわけではありません。さらにここから基礎控除や医療費控除などの「所得控除」を引いた金額(課税所得)に税率をかけて、初めて納める所得税が決まります。
所得税計算の流れをまとめると、次のようになります。
| ステップ | 計算式 |
|---|---|
| ① | 給与収入(年収)− 給与所得控除 = 給与所得 |
| ② | 給与所得 − 所得控除(基礎控除・医療費控除など)= 課税所得 |
| ③ | 課税所得 × 税率 = 所得税額 |
「給与所得控除後の金額」という言葉は、年末に受け取る源泉徴収票にも記載されています。源泉徴収票の「支払金額(年収)」から給与所得控除が引かれた数字がそこに書かれているので、ぜひ一度確認してみてください。
会社員全員が対象です。正社員だけでなく、パートやアルバイトにも自動的に適用されます。
参考:給与所得控除の根拠法令・控除額の公式情報はこちら
国税庁タックスアンサー No.1410 給与所得控除(給与所得控除額の速算表・計算方法を公式掲載)
給与所得控除の金額は、年収が高くなるほど控除額も大きくなる「段階式」です。ただし年収850万円を超えると195万円で頭打ちになります。これが基本です。
令和7年(2025年)分から適用される控除額は、以下の速算表のとおりです。
| 給与収入(年収) | 給与所得控除額 |
|---|---|
| 190万円以下 | 65万円(一律) |
| 190万円超〜360万円以下 | 収入 × 30% + 8万円 |
| 360万円超〜660万円以下 | 収入 × 20% + 44万円 |
| 660万円超〜850万円以下 | 収入 × 10% + 110万円 |
| 850万円超 | 195万円(上限) |
上記の表を使って、年収別に具体的な数字を確認してみましょう。
📌 年収300万円の場合
300万円 × 30% + 8万円 = 98万円 が給与所得控除となります。給与所得は「300万円 − 98万円 = 202万円」です。年収300万円のうち約3分の1が控除されるイメージです。
📌 年収500万円の場合
500万円 × 20% + 44万円 = 144万円 が給与所得控除となります。給与所得は「500万円 − 144万円 = 356万円」です。
📌 年収700万円の場合
700万円 × 10% + 110万円 = 180万円 が給与所得控除となります。給与所得は「700万円 − 180万円 = 520万円」です。
年収が上がっても控除額の伸び率は鈍化していきます。これが原則です。つまり年収が高くなるほど、控除による恩恵の「割合」は小さくなるという逆進性があります。
特に年収850万円を超えると控除額は195万円で完全に固定されます。これ以上は1円も控除額が増えないため、実質的に高収入者ほど税負担が重くなる構造といえます。痛いですね。
なお、令和6年(2024年)分以前は最低保障額が55万円でしたが、令和7年(2025年)分からは65万円に引き上げられました。年収190万円以下のすべての給与所得者が対象で、約10万円分の課税所得が減るため、手取りが少し増える計算になります。
参考:令和7年度税制改正の詳細(控除額変更の正式解説)
SMBC日興証券「2025年度の税制改正の内容」(給与所得控除・基礎控除の改正ポイントをまとめた解説ページ)
「給与所得控除」と「所得控除」という言葉は非常に似ていますが、まったく別の概念です。この2つを混同している人は、かなりの数に上るといわれています。意外ですね。
簡単に整理すると、次のような違いがあります。
| 項目 | 給与所得控除 | 所得控除 |
|---|---|---|
| 目的 | 給与所得の算出(みなし経費) | 個人の事情に応じた税負担の軽減 |
| 適用対象 | すべての給与所得者(自動適用) | 条件を満たした人(個別申告が必要なものも多い) |
| 控除のタイミング | 給与所得の計算段階 | 給与所得から課税所得を算出する段階 |
| 代表例 | なし(年収に応じて一律) | 基礎控除・配偶者控除・医療費控除・ふるさと納税など |
所得控除は現在15種類あります。代表的なものとして、すべての人に適用される「基礎控除(48万円)」、配偶者がいる場合の「配偶者控除」、一定額以上の医療費を支払った場合の「医療費控除」、ふるさと納税などに使える「寄附金控除」などがあります。
これらは給与所得控除とは違い、自動的に適用されないものも多くあります。たとえば医療費控除は年末調整では手続きできず、確定申告が必要です。申告しなければ控除はゼロのままなので、知らないと損する制度の典型例といえます。
両方を活用するのが原則です。給与所得控除で給与所得を求めた後、さらに所得控除を引いて課税所得を圧縮することが、合法的な節税の基本的な流れになります。
給与所得控除は「自動」、所得控除の中には「自力で申告」が必要なものがある——この違いを一度頭に入れておくだけで、年末調整や確定申告の理解度が大きく変わります。これは使えそうです。
参考:所得控除の種類と詳細な一覧
弥生「給与所得控除とは?基礎控除との違いや計算方法をわかりやすく解説」(所得控除15種類の解説も含む、実務向け詳細記事)
給与所得控除には「上限195万円」という壁があります。年収が850万円を超えると、それ以上収入が増えても控除額はまったく増えません。
たとえば年収1,000万円の人は「1,000万円 − 195万円 = 805万円」が給与所得となります。一方、個人事業主が同じ1,000万円の売上を得ていれば、実際にかかった必要経費を細かく積み上げて差し引くことができます。事業の内容によっては数百万円単位の経費計上も可能です。
この点において、年収の高い会社員はフリーランスや個人事業主に比べて、税制上やや不利な立場に置かれているといえます。
また、令和2年(2020年)の改正では、給与所得控除の上限がそれまでの220万円から195万円へと25万円引き下げられました。この改正は主に年収850万円超の高収入者の増税を意図したものであり、同時に基礎控除が38万円から48万円に引き上げられましたが、年収850万円超の層は差し引きで実質増税となっています。
年収850万円超の会社員が対象となる「所得金額調整控除」という制度があります。これは、23歳未満の扶養親族がいる場合や、本人が障害者・特別障害者である場合などに、給与所得からさらに一定額を差し引けるというもので、上限195万円の不利を一部補う仕組みとして令和2年に創設されました。
年収が高くなればなるほど、このような細かい制度の有無が手取りの差に直結します。年収850万円に近い方は条件確認が必要です。
参考:所得金額調整控除の仕組みと対象者
国税庁タックスアンサー No.1411 所得金額調整控除(年収850万円超の給与所得者向け追加控除の公式解説)
「給与所得控除は自動でされるから、自分では何もできない」と思っていると、大きな節税機会を見落とします。実は、給与所得控除とは別に「特定支出控除」という制度があり、仕事にかかった実費を追加で控除できる可能性があります。
特定支出控除とは、仕事上の自己負担支出が「給与所得控除額の1/2」を超えた場合に、超えた金額をさらに給与所得から差し引ける制度です。確定申告が必要です。
対象となる支出は以下の7種類です。
具体的な数字で確認します。たとえば年収500万円の会社員の場合、給与所得控除は144万円です。この半額は72万円。自己負担した仕事関連の支出の合計が72万円を超えていれば、超えた分について特定支出控除が使えます。
令和5年(2023年)分からは、会社から証明を受けなくても「キャリアコンサルタントの証明」があれば研修費・資格取得費を特定支出として申告できるようになりました。これは知らない人が多い改正点です。
ただし、この制度を使うには確定申告が必要であり、勤務先の証明書や領収書などを添付しなければなりません。特定支出控除を使いたい場合は、まず国税庁の「給与所得者の特定支出に関する明細書」を入手し、支出の実績をまとめておくのが最初のステップです。
よく勉強や資格取得に熱心な会社員ほど活用できる制度です。節税のリターンが大きい場面の一つといえます。
参考:特定支出控除の詳細と申告手続き
国税庁タックスアンサー No.1415 給与所得者の特定支出控除(対象7種類・申告方法の公式情報)