事前確定届出給与とは賞与を損金にする節税の要点

事前確定届出給与とは賞与を損金にする節税の要点

事前確定届出給与とは賞与を損金算入する仕組みと注意点

1円でも支給額がずれると、賞与の全額が経費になりません。


この記事の3つのポイント
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事前確定届出給与の基本

役員賞与を損金算入するには、支給日・金額を事前に税務署へ届け出る必要があります。届出通りに実行することが絶対条件です。

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見落としがちな3つのリスク

期限は「株主総会決議から1ヶ月以内」かつ「期首から4ヶ月以内」の早い方。1日の遅れでも損金不算入になる厳格な制度です。

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社会保険料削減との関係

健康保険は年間573万円超、厚生年金は月間150万円超の賞与には保険料がかかりません。ただし落とし穴も多く、慎重な判断が必要です。


事前確定届出給与とは何か:役員賞与が経費になる唯一の方法

通常、役員に支給する賞与は法人の経費(損金)として認められません。税法上、役員賞与は「利益処分」とみなされているためです。つまり、法人税を支払った後の残余利益から支払うものと位置づけられており、会社の負担を増やすだけで節税にはつながりません。


しかし、その唯一の例外が「事前確定届出給与」です。これは法人税法第34条に根拠を持つ制度で、役員への賞与について、支給日と支給金額を事前に確定させ、税務署に届出書を提出した上で、届出通りに支給した場合に限り損金算入が認められます。


制度が抜本的に変わったのは2006年(平成18年)の税制改正です。それ以前は役員賞与の損金算入は認められていませんでしたが、改正によって事前確定届出給与という枠組みが設けられました。現在では役員報酬の損金算入が認められる形態は、①定期同額給与、②事前確定届出給与、③業績連動給与の3種類とされています。


つまり役員賞与です。


事前確定届出給与は、この3つの中で「ボーナス」形式の支払いに対応する制度であり、役員に対しても年に1〜2回まとまった賞与を支給しながら、その全額を経費として落とせる非常に重要な仕組みです。中小企業の経営者にとっては、定期同額給与と並んで最もよく活用される節税手段の一つといえます。


種類 概要 主な特徴
定期同額給与 毎月同額を支払う役員報酬 事前届出不要・変更は年1回
事前確定届出給与 事前に届け出た日時・金額の賞与 届出必須・届出通りに支給が条件
業績連動給与 会社業績に連動して支払う給与 上場企業向けが主・要件が厳格


定期同額給与との最大の違いは「届出の要否」です。定期同額給与は原則として届出なしで損金算入できますが、事前確定届出給与は届出書の提出が絶対条件です。事前届出が必須という点を覚えておけばOKです。


事前確定届出給与の賞与における手続きと届出期限の仕組み

事前確定届出給与を活用するには、正しい手順を踏むことが欠かせません。手順は大きく3つのステップで構成されています。


まず第1ステップとして、主総会または取締役会において「誰に・いつ・いくら支給するか」を決議し、議事録を正式に作成します。この決議が出発点になります。第2ステップでは、その決議内容に基づいて「事前確定届出給与に関する届出書」を管轄の税務署に提出します。第3ステップとして、届出書に記載した支給日と支給金額のとおりに、正確に賞与を支払います。


届出書の提出期限が原則です。


  • 株主総会等の決議をした日から1ヶ月を経過する日
  • その会計期間開始の日から4ヶ月を経過する日


この2つのうち、いずれか早い日が提出期限となります。たとえば3月決算法人の場合、会計期間の開始が4月1日なので4ヶ月後の7月31日が一つの基準日となります。株主総会が6月末に開催された場合、決議から1ヶ月後の7月末と、4ヶ月経過の7月末がほぼ重なるため、実質的に定時株主総会後すぐに提出する意識が必要です。


新設法人については例外です。設立後2ヶ月以内が提出期限とされており、通常法人より短い期限が設定されています。設立直後に手続きが重なるため、特に注意が必要です。


届出書の提出先は、納税地の所轄税務署です。e-Taxを利用したオンライン提出にも対応しており、紙の書類を持参または郵送する方法でも受け付けています。届出書様式は国税庁のウェブサイトからダウンロード可能です。


参考:国税庁が公式に公開している届出書の様式と記載要領です。


国税庁「C1-23 事前確定届出給与に関する届出」


届出書には、支給対象の役員ごとに支給予定日と支給予定額を記載します。複数回支給する場合は、それぞれの日付と金額をすべて記入する必要があります。また、事前確定届出給与以外の給与(定期同額給与など)についても合わせて記載欄があります。


事前確定届出給与の賞与で損金不算入になる3つの典型パターン

事前確定届出給与は非常に厳格な制度です。少しでも届出内容と実態がずれた瞬間に、賞与の全額が損金不算入になります。これが最大のリスクです。


パターン①:支給日が1日でもずれた場合


届出書に「7月10日支給」と記載したにもかかわらず、資金繰りの都合で7月12日に振り込んだ場合、その賞与は全額損金不算入です。たとえ2日のずれであっても例外は認められません。ただし、支給日が土日・祝日に当たる場合は、前後の銀行営業日での支給が例外的に認められます。


パターン②:支給額が1円でも異なった場合


届出書に「100万円支給」と記載していたが、資金繰りの悪化で50万円しか支払えなかった場合、50万円だけ損金になると思いがちです。しかし実際には「50万円全額が損金不算入」になります。一部支給は「届出通りの支給ではない」とみなされるためです。


パターン③:届出を出し忘れた場合


「賞与を支払う前に届出を出せばいい」という感覚で忘れてしまうケースが散見されます。期限後提出となった場合は、賞与を支給しても全額損金不算入です。期限を1日でも超えてしまえば「届出書未提出」と同じ扱いになります。


厳しいところですね。


なお、支給しないことにした場合にも注意が必要です。届出を出したが結果的に賞与を全額支給しなかったという場合、会計上に未払金が計上されてしまい、それを消すために「債務免除益」が発生し、法人税の課税対象になるリスクがあります。これを防ぐには、支給日前に取締役会等で「全額不支給の決議」を正式に行い、社長が受給を辞退する旨を書面で残す必要があります。


  • ❌ 支給日が1日でもずれる → 全額損金不算入
  • ❌ 金額が1円でも違う → 全額損金不算入
  • ❌ 届出を期限後に提出 → 全額損金不算入
  • ❌ 届出したのに賞与0で放置 → 債務免除益が発生し法人税課税


事前確定届出給与の賞与と社会保険料削減スキームの落とし穴

事前確定届出給与を活用した節税手法として、近年「社会保険料削減スキーム」が注目されています。仕組みはシンプルで、毎月の役員報酬(定期同額給与)を5〜8万円程度に抑え、その代わりに年1回の事前確定届出給与として1,000万円超の賞与を支給するというものです。


なぜ社会保険料が削減できるかというと、社会保険料の計算には賞与に上限があるからです。健康保険料は年間累計573万円を超える賞与部分には保険料がかからず、厚生年金保険料は月間150万円を超える賞与部分には保険料が課されません。これが削減の理屈です。


これは使えそうです。


しかし、このスキームには重大な落とし穴が6つあります。まず①として、支給タイミングや金額が1円・1日でもずれると全額が経費アウトになるリスクがあります。②として、一度に大きなキャッシュが出ていくため資金繰りが圧迫されます。③として、役員退職金の計算基礎が「最終報酬月額×在任年数×功績倍率(代表取締役は概ね3.0倍)」で求められるため、月給を5万円に下げ続けると「5万円×年数×3倍」という計算になり、退職時にほぼ退職金が取れなくなります。


さらに④として将来受け取る年金額が減少し、⑤として病気・けがで休業した際の傷病手当金が月給の約3分の2から計算されるため、月給が5万円では給付額が極めて少額になります。⑥として、月給だけでは生活できないため会社からの貸付金(役員貸付金)が膨らみ、返済されないまま放置されると税務当局から役員賞与と見なされ、所得税住民税が課税されるリスクがあります。


2024年11月の厚生労働省・社会保障審議会では、このような社会保険料削減スキームの問題点が公式に指摘されており、今後の法改正によってスキーム自体が封じられる可能性も出てきています。スキームが「賞与1,000万円超を安定的に取れる一部の経営者向け」であることを理解した上で、慎重に判断することが必要です。


参考:厚生労働省が公式に問題提起した資料です。社会保険料削減スキームに関する審議の内容が確認できます。


厚生労働省「被用者保険の適用拡大及びいわゆる「年収の壁」への対応について」


事前確定届出給与の賞与と定期同額給与の最適な組み合わせ戦略

事前確定届出給与は単独で活用するよりも、定期同額給与と組み合わせることで節税効果を最大化できます。これが原則です。


基本的な考え方は次の通りです。定期同額給与で毎月一定額の生活費を確保しながら、利益が出た期末に事前確定届出給与として賞与を支給することで、法人の課税所得を圧縮するというアプローチです。たとえば月額50万円の定期同額給与(年600万円)を基礎として、期末に事前確定届出給与として300万円の賞与を支給すれば、合計900万円を損金として計上できます。


この場合のポイントは3つです。


  • 🗓️ 株主総会(定時)のタイミングで翌年の賞与支給日と金額を決議・届出する
  • 📅 届出書の提出期限(株主総会決議から1ヶ月以内かつ期首から4ヶ月以内)を必ず守る
  • 💴 支給日と金額は届出通りに厳守し、必要であれば事前に資金を準備しておく


役員退職金との関係でいえば、定期同額給与を一定水準に保つことが将来の退職金計算において非常に重要です。功績倍率法による退職金の計算では「最終報酬月額」が基準になるため、月額報酬を大幅に下げることは長期的な損失につながります。たとえば月額50万円を10年間維持した役員が退任した場合、「50万円×10年×3倍=1,500万円」の退職金を損金として計上できますが、月額5万円に下げていれば「5万円×10年×3倍=150万円」にしかなりません。差額はなんと1,350万円です。


退職金は退職所得として課税されるため、給与所得より大幅に税負担が低く、節税効果の高い出口戦略として機能します。事前確定届出給与で短期的な節税を狙うあまり、長期的な退職金の節税機会を失わないよう、トータルで設計することが求められます。


税理士への相談を検討する際は、事前確定届出給与の届出書作成・期限管理・議事録の整備をまとめてサポートしてもらえる顧問契約が有効です。届出書の作成自体は難しくありませんが、スケジュール管理と資金準備の両面で抜け漏れが起きやすいため、専門家との連携が安心です。


参考:みずほ銀行が公表している、実務的な届出手順と提出期限のわかりやすい解説記事です。


みずほ銀行「事前確定届出給与の届出期限は?手順や記載方法も解説」