

法人事業概況説明書を未提出でも、罰金はゼロ円です。しかし、その1枚が融資審査で「粉飾疑い」の烙印を押される引き金になります。
法人事業概況説明書とは、法人の事業内容・支店数・従業員数・月別売上などを記載し、法人税確定申告書に添付して税務署へ提出する書類です。通称「概要書」とも呼ばれています。かつては税務署のお願いベースで提出が求められていた書類ですが、2006年(平成18年)の税制改正によって、法人税法施行規則第35条の第5号に「事業等の概況に関する書類」として明記され、法的に提出が義務付けられました。
表面(項目1〜11)と裏面(項目12〜19)の合計19項目で構成されており、書式は1枚(両面印刷)になっています。PDF形式で国税庁のウェブサイトからダウンロードも可能です。
金融に携わる方が意外と見落としがちなのは、この書類が「税務署に出す義務書類」にとどまらないという点です。貸借対照表・損益計算書といった財務諸表が1年間の結果を数字で示すのに対し、法人事業概況説明書は「なぜその数字になったか」「事業の実態はどうか」という定性情報を補完する役割を持っています。
記載する内容は決算期末時点の状況にもとづきます。これが基本です。
国税庁公式「法人事業概況説明書の書き方」PDF(各項目の記載要領が詳しく載っています)
書き方で迷う項目は、大きく「表面」と「裏面」に分かれます。表面(No.1〜11)は主に会社の基本情報・体制を、裏面(No.12〜19)は事業形態・月別数値・設備状況などを記載します。
まず、よく間違えやすい箇所を整理しましょう。
📋 表面の主要項目と記入時の注意点
| No. | 項目名 | 記入ポイント |
|-----|--------|--------------|
| 2 | 支店・子会社の状況 | 海外子会社は出資割合50%超のみカウント |
| 4 | 期末従業員等の状況 | 役員以外の空欄に「工員」「事務員」など職種を記載 |
| 5 | PC利用状況 | タブレット・ワークステーションもPC台数に含む |
| 10 | 主要科目 | 金額は千円単位(123,456,789円→123,456と記載) |
| 11 | 代表者報酬等の金額 | 千円単位で記載 |
金額の単位に注意が必要です。「主要科目(No.10)」は千円単位ですが、「海外取引状況(No.3)」は百万円単位という違いがあります。これはケアレスミスが起きやすい箇所です。
💡 記入が不要な場合もある
一見、すべての欄を埋めなければならないと思いがちですが、実はそうではありません。たとえば海外取引がなければNo.3は空欄でよく、株主の異動がなければNo.7も空欄でかまいません。該当する取引や状況がない項目は空欄のままでOKです。これは使えそうですね。
ただし、「月別の売上高等の状況(No.18)」と「主要科目(No.10)」だけは決算内容を記載する欄のため、決算期末が過ぎてからでないと正確な数字が書けません。他の項目は事前に記入を進めておけます。決算期末前後の書き方の段取りが条件です。
マネーフォワードクラウド「法人事業概況説明書の提出は義務!記載内容と書き方を解説」(各項目の注意事項が表でわかりやすく整理されています)
裏面(No.12〜19)は特にミスが起きやすい箇所です。なかでも「月別の売上高等の状況(No.18)」と「人件費」の欄は、補助金・給付金の申請にも直接使われるため、正確な記入が非常に重要です。
まず月別売上高(No.18)の記入ルールです。複数の収入がある場合は主な2つについて記載します。源泉徴収税額の単位(千円)に注意が必要です。また、従業員数は「その月に俸給・給与・賞与を実際に支払った人数」を記入します。月によって人数が変動する場合は、その月の実態に合わせて記入します。
次に重要なのが人件費欄の範囲です。法人事業概況説明書における人件費欄には「俸給・給与・賞与の支給総額(役員への支払いを含む)」を記載します。一方で、以下のものは含めてはいけません。
- ❌ 退職金
- ❌ 福利厚生費
- ❌ 法定福利費(社会保険料の会社負担分など)
これは意外なポイントです。普段の経理で「人件費」として処理している項目の中には退職金や法定福利費が含まれることも多いですが、法人事業概況説明書の人件費欄には入れない、というのが原則です。
なぜこれが重要かというと、ものづくり補助金や事業再構築補助金などの申請において「給与支給総額」を法人事業概況説明書の人件費欄の合計をもとに算出するケースがあるためです。ここに退職金などを混入させてしまうと、申請書の数字が実態と乖離し、審査に影響します。
📌 補助金に関わる人件費の範囲(比較)
| 項目 | 法人事業概況説明書 人件費欄 | ものづくり補助金の「人件費」 |
|------|---------------------------|------------------------------|
| 給与・賞与 | ✅ 含む | ✅ 含む |
| 役員報酬 | ✅ 含む | ✅ 含む(兼務役員の業務相当分) |
| 退職金 | ❌ 含まない | ✅ 含む |
| 法定福利費 | ❌ 含まない | ✅ 含む |
| 福利厚生費 | ❌ 含まない | ✅ 含む |
つまり、補助金申請時には「概況説明書の人件費欄の数字=給与支給総額」と理解したうえで活用することが条件です。
事業再構築補助金公式FAQ「Q20:給与総支給額は法人事業概況説明書裏面の人件費の欄の合計額か」(補助金申請との関係が公式に解説されています)
金融業界に携わる方や経営者に特に知っておいてほしいポイントがあります。それは、法人事業概況説明書が「税務署だけが見る書類ではない」という事実です。
銀行は融資審査において「税務申告書一式」を求めます。その「一式」の中に法人事業概況説明書も含まれています。つまり、銀行も必ずこの書類を見ているということです。
銀行が特に注目している箇所は主に5つあります。
- 🔍 期末従業員数:1人あたり売上高・1人あたり人件費・1人あたり利益を計算し、生産性を評価する
- 🔍 主要科目:貸借対照表・損益計算書との数字の一致を確認し、粉飾決算の有無を検証する
- 🔍 決済日等の状況:締切日・決済日と売掛金残高のバランスを見て、不良債権・架空債権の有無を確認する
- 🔍 月別売上高:売上のミョーな集中(決算月の売上が突出している場合は売上先取りを疑われる)
- 🔍 当期の営業成績の概要(No.19):赤字・特別損失がある場合にその理由が説明されているかを確認する
たとえば、特別損失が1,000万円計上されている会社が最終利益300万円の赤字だったとします。No.19に何も書かれていなければ、銀行には「赤字300万円の会社」として評価されます。一方、「〇〇設備の除去損1,000万円を計上したため最終赤字だが、本業の営業利益は700万円の黒字」と記載があれば、評価は大きく変わります。これは知ってると得する情報です。
また、法人事業概況説明書が「抜けている」状態で税務申告書一式を銀行に提出すると、「なぜないのか」という疑念を持たれます。あるべき書類がないことは、銀行から見て「隠しごとがある」と映りやすく、融資審査でマイナスになる場合があります。
モロトメジョー税理士事務所「銀行も見ている事業概況説明書、会社が抱える3つの問題点」(融資担当者目線での注意点が実例とともに解説されています)
ここからは、検索上位の記事ではほとんど触れられていない視点をお伝えします。法人事業概況説明書は「義務だから出す書類」としてだけ捉えるのはもったいないです。この書類に含まれる情報は、自社の経営分析や金融機関への説明資料として積極的に活用できます。
月別売上高データで資金繰りを先読みする
月別売上高(No.18)と月別仕入高・外注費・人件費を3年分並べると、季節変動(繁閑のサイクル)と資金需要のタイミングが見えてきます。中小企業診断士や財務コンサルタントはこの数字を使い、「いつ・いくらの運転資金が必要になるか」を銀行に対して説明します。たとえば「毎期3月に仕入が集中するため、4〜5月にかけて○○百万円の資金需要が発生する」という根拠のある説明が可能になります。銀行員も同じ手順でこの資金需要を類推しています。
従業員数と売上高で1人あたりの生産性を可視化する
期末従業員数(No.4)と売上高・利益を組み合わせると、「1人あたり売上高」や「1人あたり営業利益」が算出できます。これを前期・前々期と比較することで生産性の推移が把握できます。損益計算書の数字だけでは見えない情報です。
当期営業成績概要(No.19)を経営者の「声」として活用する
この欄はほとんどの中小企業で空欄になっています。厳しいところですね。しかし、ここに「前期比で売上が○%増加した理由」「利益率が下がった背景」「来期の経営方針」を簡潔に記載することで、金融機関への定性的な説明資料になります。赤字決算でも、ここに「設備投資による一時的な落ち込みであり、来期は○○の回収が見込まれる」と書けば、返済能力の評価が変わることがあります。
出資関係図の添付が必要なケース
完全支配関係(一の者が発行済株式の全部を直接または間接に保有している関係)にある他の法人が存在する場合は、法人事業概況説明書に「出資関係図」を添付する必要があります。グループ企業が増えてきた段階で確認が必要なポイントです。系統図の作成が複雑になる場合は、系統図とは別に「グループ一覧」を作成することも認められています。
ウィルリンクス中小企業診断士事務所「決算書以外に財務コンサルや銀行員が見ている法人事業概況説明書」(概況書を経営分析に活かす視点が詳しく解説されています)
法人事業概況説明書の提出期限は、法人税確定申告書と同じタイミングです。たとえば3月末決算で申告期限の延長をしていない会社の場合、5月末が提出期限になります。提出の方法は主に2つあります。
e-Taxによる電子提出(推奨)
現在、多くの法人はe-Taxで電子申告をしています。法人事業概況説明書も添付書類として電子送信できます。弥生会計・マネーフォワードクラウド・freeeなど主要会計ソフトはいずれも法人事業概況説明書の自動作成機能を搭載しており、貸借対照表や損益計算書のデータと連携して「主要科目(No.10)」や「月別売上高(No.18)」などが自動入力されます。
ただし、自動入力に頼りきりにするのは注意が必要です。たとえば「期末従業員数(No.4)」は会計データから自動では拾いにくく、事実と異なる数字が記載されることがあります。銀行は従業員数から生産性計算をしているため、ここが間違っていると評価がずれます。会計ソフトで作成した後は、必ず自社でチェックする作業が条件です。
書面での提出(紙)
書面での提出も可能です。提出する際は、他の申告書類とホチキス止めなどはせず、確定申告書に挟んだ状態で提出します。出資関係図がある場合は、e-Taxではイメージデータ(PDFなど)で提出することができます。
💰 税理士に依頼する場合の費用感
税理士に法人税申告一式を依頼する場合、法人事業概況説明書は申告書作成の一部として含まれるのが一般的です。単体での報酬が発生することはほぼありません。ただし、税理士に任せきりにすることで「締切日・決済日の情報が古いまま」「従業員数が実態と違う」といった問題が起きることがあります。これは融資評価に直接影響するため、作成後の最終確認は経営者や経理担当者自身が行うことを強くおすすめします。
弥生「法人事業概況説明書とは?書き方と提出方法を解説」(会計ソフトを活用した作成方法と提出手順が網羅されています)

新版 記載例でわかる 法人税申告書 プロの読み方・作り方 (別表/勘定科目内訳明細書/法人事業概況説明書のチェックポイント)