返品調整引当金廃止はいつからで何が変わるか

返品調整引当金廃止はいつからで何が変わるか

返品調整引当金の廃止はいつから、何がどう変わるのか

収益認識会計基準が導入されたことで廃止が決まった返品調整引当金。しかし「廃止=すぐゼロ」ではなく、2030年3月31日まで段階的に縮小される10年間の経過措置が続いており、今この瞬間も中小企業の税負担をじわじわ増やし続けています。


📋 この記事の3ポイントまとめ
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廃止決定はいつから?

平成30年度(2018年度)税制改正で廃止が決定。2021年4月1日以降開始事業年度から繰入限度額が毎年1/10ずつ縮小し、2030年4月1日以降は損金算入が完全に不可となります。

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影響を受ける業種は?

出版業・取次業・医薬品/農薬/化粧品/既製服/レコードの製造業および卸売業が対象。収益認識基準を適用しない中小企業も、税法改正の影響は等しく受けます。

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廃止後の代替処理は?

返品調整引当金の代わりに「返金負債」と「返品資産」という新勘定科目で処理します。さらに税務と会計がズレるため、別表四での申告調整が必要になります。


返品調整引当金とは何か:廃止前の基本的な仕組みを理解する

返品調整引当金とは、出版業や医薬品メーカーなど特定業種が、将来の返品リスクに備えてあらかじめ計上できた引当金です。つまり「まだ返品されていないのに、先に損失を費用として認識できる」という特別な制度でした。


なぜこのような制度が存在したのかというと、出版業や化粧品・医薬品業界では「返品権付き販売」という取引慣行が根強く残っていたからです。書店に本を卸した出版社は、売れ残った本を定価で買い戻すことが商習慣として確立していました。そのため、当期に売り上げた額の一部は翌期以降に返品される可能性が高く、先に費用として手当てしておくことで、より実態に即した損益計算が可能になっていたのです。


具体的に計上できた業種は以下の4つに限定されていました。



  • 📚 出版業・出版に係る取次業

  • 💊 医薬品(医薬部外品含む)・農薬・化粧品・既製服・レコード類の製造業

  • 🏭 上記物品の卸売業


大事な点は、対象業種であっても「棚卸資産の大部分(目安:70〜80%以上)について、無条件で販売価格どおりに買い戻す特約」がなければ計上できなかったことです。特約は文書でなくても、業界の商慣習として認められれば適用可能でした。


これが条件です。


繰入限度額の計算方法は「売掛金基準」と「販売高基準」の2種類あり、事業年度ごと・事業の種類ごとに選択できました。売掛金基準は「期末売掛金等×返品率×売買利益率」、販売高基準は「期末以前2か月間の売上高×返品率×売買利益率」で計算します。会社の資金繰り状況や取引形態に応じて使い分けられた点が、この制度の柔軟なところでした。


返品調整引当金の廃止はいつから:平成30年度税制改正の経緯

返品調整引当金の廃止はいつから決まったのか。正確には、平成30年(2018年)3月30日に「収益認識に関する会計基準」が公表されたことが直接のきっかけです。


この会計基準は、日本が国際会計基準(IFRS)との整合性を図るために新たに策定したものです。この基準では「返品が見込まれる金額は、最初から収益として認識しない」というルールが採用されました。その結果、引当金として別途計上する返品調整引当金の存在意義がなくなり、会計上は廃止となったのです。


実は少し意外なことがあります。財務省の解説によれば、返品調整引当金は平成8年(1996年)の段階でも「本来は廃止すべき」と議論されていた経緯があります。それが20年以上にわたって生き残ってきたのは、業界の実態や税務的配慮があったからです。新会計基準の導入はその廃止のための「最後の後押し」になった、とも言えます。


税法改正の正式な施行スケジュールをまとめると次のとおりです。




















時期 内容
2018年(平成30年)3月 収益認識会計基準の公表・税制改正決定
2021年4月1日以降開始事業年度 経過措置期間スタート。繰入限度額が毎年1/10ずつ縮小
2030年4月1日以降開始事業年度 損金算入が完全に不可となる(完全廃止)


廃止が決定されたのは2018年ですが、段階的縮小が始まったのは2021年から。つまり「廃止はいつから?」という問いに対しては、「決定は2018年・実質的な影響開始は2021年・完全廃止は2030年」という3段階で理解するのが正確です。


返品調整引当金の廃止が中小企業にも影響する理由:収益認識基準との関係

「収益認識基準は大企業向けだから、うちは関係ない」と思っている中小企業の担当者は多いかもしれません。


しかしこれは大きな誤解です。


確かに収益認識会計基準の強制適用対象は上場企業・大会社が中心で、中小企業は引き続き従来の会計処理が認められています。しかし返品調整引当金の廃止は、会計基準の適用有無にかかわらず、税法の改正として全企業に適用されます。出版社・医薬品メーカー・化粧品メーカー・卸売業者であれば、規模に関係なく影響を受けるのです。


具体的な影響はお金に直結します。たとえば、ある中小出版社が従来100の繰入限度額を持っていたとすると、経過措置期間の各事業年度では次のように損金算入できる額が変わります。



  • 📉 2021年4月〜2022年3月開始の事業年度:100の9/10(90)まで損金算入可能

  • 📉 2022年4月〜2023年3月開始の事業年度:100の8/10(80)まで損金算入可能

  • 📉 …毎年1/10ずつ縮小が続く…

  • 🚫 2030年4月以降:損金算入ゼロ


損金算入できる額が減るということは、課税所得が増えるということです。税負担が増える方向に進み続けていることを、間違いなく認識しておく必要があります。なお、文化通信の記事で公認会計士の碇信一郎氏も「単年度での絶対額としては大きくはないかもしれないが、企業の税負担が増える方向であることは間違いない」と指摘しています。


参考記事:出版業界向けに返品調整引当金廃止の実務的影響を詳しく解説しています
公認会計士・碇信一郎氏に聞く 21年度から返品調整引当金廃止の適用 ― 文化通信


返品調整引当金の廃止後に使う「返金負債」と「返品資産」の仕訳処理

返品調整引当金の廃止後、返品権付き販売の会計処理はどうなるのか。新しい勘定科目を使った処理に切り替わります。


ここが実務で一番重要なポイントです。


新しいルールでは、返品が見込まれる金額は最初から収益として認識しません。売上高のうち「返品が見込まれる部分の販売価格」は「返金負債」として負債に計上し、その原価分は「返品資産」として資産に計上します。


具体例で確認します。




















条件 金額
商品の売上総額 500万円(1万個×500円)
仕入原価(総額) 200万円(1万個×200円)
返品見込み数量 1,000個(全体の10%)


この場合の仕訳は以下のようになります。



  • 🧾 売上の認識:現金預金 500万円 / 売上高 450万円・返金負債 50万円(500円×1,000個)

  • 🧾 原価の認識:仕入(売上原価) 180万円・返品資産 20万円(200円×1,000個) / 現金預金 200万円


新しい処理ではこうなります。ここで注意が必要なのは、税務と会計がズレる点です。税務上は従来どおり「売上高500万円・売上原価200万円」として計算します。そのため別表四での申告調整が必要になります。具体的には「返金負債(加算)50万円・返品資産(減算)20万円・返品調整引当金繰入額(減算)30万円」という形で調整を行います。


この会計と税務のズレは繰延税金資産の問題にも発展するため、複雑さは増しています。税務コストを正確に把握するためにも、顧問税理士との確認が必須です。


参考記事:収益認識会計基準の導入に伴う返品権付き販売の会計・税務処理を詳しく解説
返品調整引当金は法改正により廃止!仕訳方法や変更点を解説 ― マネーフォワード クラウド会計


返品調整引当金の廃止と簿記2級試験:出題範囲から削除されたのはいつか

金融や会計の勉強をしている人にとって気になるのが、試験への影響です。返品調整引当金は、かつて日商簿記2級の出題範囲に含まれていました。それが廃止されたのはいつかというと、2021年度の出題範囲改定からです。


日本商工会議所は2021年3月に出題範囲の改定を発表し、収益認識基準の導入に関わる以下の項目を2級の試験範囲から削除しました。



  • ❌ 返品調整引当金

  • ❌ 売上割戻引当金

  • ❌ 売上割引

  • 消費税の税込方式 など


もし今から日商簿記2級を受験する場合は、返品調整引当金を覚える必要はありません。ただし、2021年より前のテキストや問題集を使っている場合は注意が必要です。古い教材には返品調整引当金の仕訳が載っていますが、現在の試験には出ないため、勉強時間を割く必要はないのです。


一方で、1級や税理士試験・会計士試験を目指している人は話が違います。実務的な観点から、廃止後の処理(返金負債・返品資産・申告調整)はむしろ重要な論点として扱われます。


参考記事:2021年度の日商簿記出題範囲改定の全体像を確認できます
2021年度の日商簿記の出題範囲の改定について ― パブロフ簿記


返品調整引当金が廃止された本当の理由:平成8年から続いた廃止論争

返品調整引当金の廃止はいつから議論されていたのか。


実は平成8年(1996年)のことです。


この年、企業会計審議会が引当金制度の在り方を見直した際、返品調整引当金は「本来廃止されるべき」という見解が示されていました。


それにもかかわらず制度が22年もの間存続し続けた背景には、出版業・医薬品業界などの強い要望と、日本特有の商慣習への配慮がありました。法人税法に「別段の定め」として規定されていたこともあり、業界に定着していたのです。


2018年の廃止を決定した財務省の解説では、廃止理由を次のように説明しています。「1996年から本来は廃止するべきと言われていたものであるから、新会計基準で返品調整引当金繰入額を計上できなくなることを契機として廃止する」という趣旨です。つまり会計基準との整合性が、20年以上続いた議論に決着をつけたわけです。


加えて、IFRSとの整合性の問題も大きかったです。国際的な会計基準では、日本のような「引当金として先に費用計上する方式」は採用されておらず、あくまで「収益から差し引く変動対価」として扱います。日本もグローバルスタンダードに合わせる必要があったのです。


参考記事:廃止の適否と改正の仕方に対する専門家の視点から詳しく論じられています
返品調整引当金を廃止する改正には疑問がある ― 公益財団法人 税制経営研究所(PDF)


返品調整引当金の廃止と「返品債権特別勘定」:廃止されなかった制度との違い

ここは意外と見落とされがちな重要ポイントです。返品調整引当金が廃止された一方で、「返品債権特別勘定」という制度は廃止されていません。


返品債権特別勘定とは、雑誌(週刊誌・旬刊誌・月刊誌などの定期刊行物)を販売する出版社が、特定の特約条件のもとで店頭売れ残り分に係る売掛金を免除する場合に設定できる制度です。これは損失の引当てではなく、売掛金の貸倒処理を認める性質のものであり、返品調整引当金とは別制度として整理されています。


国税庁法人税基本通達(9-6-4)にも、返品債権特別勘定の取扱いは引き続き規定されています。


これが原則です。


したがって、雑誌を扱う出版社は「返品調整引当金は廃止されたが、返品債権特別勘定は生きている」という二重構造を理解した上で実務を行う必要があります。


また、買戻し特約を文書で結んでいなくても、商慣習によって特約の存在が認められれば引当金の設定対象となっていたルールも、返品債権特別勘定においても同様の考え方が踏襲されています。この商慣習の扱いは、業界の慣行が法律に反映された珍しい事例です。


返品調整引当金の廃止が出版業界の「委託販売」に与える深刻な影響

返品調整引当金の廃止は、単なる会計処理の変更に留まりません。出版業界特有の「委託販売」「常備寄託」という取引形態そのものの見直しを迫るものでもあります。


出版業界で「委託販売」と呼ばれる取引は、厳密には一般的な委託販売とは異なります。再販売価格維持制度(再販制度)のもとでは書店が自由に価格設定できず、売れ残れば全額返品できるため、実態は「代理人として販売して販売マージンを得る取引」に近い形です。本来であれば、書店の会計は「販売手数料収入」として計上すべきかもしれないという議論があります。


また「常備寄託」については、本来は「預け在庫」であり消化仕入れとして「売れたときに売上計上」とすべきところが、業界慣行として「次の本が入ってきたときに初めて売上計上」するズレが生じています。収益認識基準の変更は、このような業界の慣行にも再考を促すものです。


金融や会計に関心がある投資家や分析者にとっても、出版業の企業分析では、売上高の計上タイミングが変わる可能性を頭に入れておく必要があります。収益認識基準の適用前後で数値が変化することがあるため、財務分析をする際は注記をしっかり確認することが重要です。


返品調整引当金の廃止前後の繰入限度額:計算方法と段階縮小の具体的なスケジュール

経過措置期間中の繰入限度額がどのように縮小されていくか、具体的な数字で確認します。ここが実務担当者にとって最も直接的に影響する部分です。


前提として、経過措置の起算点は「収益認識基準を適用しているかどうか」によって異なります。



  • 📌 収益認識基準を適用している企業:適用した事業年度から10年間で1/10ずつ縮小

  • 📌 収益認識基準を適用していない中小企業:2021年4月1日以後開始の事業年度から10年間(=2030年3月31日まで)で1/10ずつ縮小


たとえば3月決算の中小企業であれば、2021年4月開始の事業年度(2022年3月決算)から縮小が始まり、繰入限度額の乗じる割合は次のようになります。


















事業年度(3月決算の場合) 限度額の割合
2022年3月期 9/10
2023年3月期 8/10
2024年3月期 7/10
2025年3月期 6/10
2026年3月期 5/10
2027年3月期 4/10
2028年3月期 3/10
2029年3月期 2/10
2030年3月期 1/10
2031年3月期以降 0(完全廃止)


2026年3月期(現在進行中の事業年度)時点では、繰入限度額は元の5/10、すなわち半分まで縮小されています。毎年の税負担の増加は「数十万〜数百万円規模」に及ぶ企業も珍しくありません。今のうちに自社の影響額を試算しておくことが重要です。


返品調整引当金の廃止後の申告調整:別表四の書き方と会計・税務のズレ

収益認識基準を適用した企業が経過措置を利用する際の税務申告処理は、独特の「みなし規定」を使います。


実は複雑で、ここで誤りが起きやすいです。


収益認識基準を適用している企業は、返品が見込まれる金額を「返金負債」として計上し、「返品調整引当金」という勘定科目を使いません。しかし税法上は、経過措置期間中に限り「返金負債から返品資産を差し引いた額」を、損金経理によって返品調整引当金に繰り入れたものとみなすことができます。


つまり実際の会計仕訳として「返品調整引当金繰入額」を計上しなくても、別表四上の申告調整で処理できるのです。


これが「みなし規定」です。


別表四の記載例は次のようになります(繰入限度額=280、返金負債600、返品資産320の場合)。



  • 加算:売上計上もれ(返金負債)600

  • 減算:売上原価計上もれ(返品資産)320

  • 減算:返品調整引当金繰入額(みなし)280


経過措置期間終了後(2030年4月以降)は、このみなし規定も使えなくなります。損金算入できる額がゼロになるため、申告調整の内容も変わります。なお、上記のように会計と税務がズレると繰延税金資産の問題が発生します。将来減算一時差異として繰延税金資産を計上し、回収可能性を慎重に検討する必要があります。


税効果会計の観点でも影響があるのです。


参考記事:収益認識基準の適用に伴う法人税法上の取扱いについて詳しく解説
法人税基本通達関係(収益認識基準対応)― 国税庁(PDF)


返品調整引当金の廃止と似て非なる「貸倒引当金」との違い:存続する引当金との比較

混乱しやすいポイントとして、「貸倒引当金も廃止されたのでは?」という誤解があります。


これは整理しておく価値があります。


貸倒引当金は、2012年(平成23年)度税制改正で原則廃止の方向になりましたが、現在も中小企業については存続しています。大企業については原則廃止されていますが、中小企業は法人税法上の損金算入が引き続き認められています。


これが原則です。


一方で返品調整引当金は、中小企業・大企業を問わず2030年に完全廃止となります。


この違いは大きいです。























引当金の種類 大企業 中小企業
返品調整引当金 廃止(2030年完全廃止)
貸倒引当金 原則廃止 引き続き存続
退職給付引当金 会計上は存続(IFRSと差異あり) 簡便法で存続


なぜ返品調整引当金だけが中小企業にも廃止が及ぶかというと、貸倒引当金は「信用リスクへの対応」という普遍的な必要性があるのに対し、返品調整引当金は「特定業種の商慣習」に基づく特別措置だったからです。IFRSとの整合性を取る上で、特別措置を維持する理由が薄れたということです。


返品調整引当金の廃止を踏まえた独自視点:財務分析における「売上高の質」の変化

返品調整引当金の廃止が投資家や財務分析者に与える見落とされがちな影響があります。それは「売上高の質(クオリティ)が変わる」という観点です。


廃止前の処理では、企業は一旦全額を売上高に計上し、その後に引当金を費用として計上していました。つまり売上高は「グロスの数字」として開示されていました。一方、新しい収益認識基準では返品が見込まれる部分を最初から売上高に含めないため、売上高は「ネットの数字」に近くなります。


これは同じ会社でも、新旧基準の切り替え前後で売上高の数値が変わることを意味します。たとえば、返品率が20%の出版社なら売上高が実質的に20%近く小さく見える可能性があります。過去の財務諸表と単純比較すると、売上が減少したように見えてしまうのです。


企業の財務分析や株価評価を行う際には、収益認識基準の適用時期と適用による影響額を、財務諸表の「注記」で必ず確認することが重要です。特に出版・医薬品・化粧品業界の銘柄を分析する場合は、この点を見落とすと判断を誤るリスクがあります。


これは使えそうです。


また、収益認識基準の適用によって一時的に売上高が減少したように見えても、それは「架空の利益が修正された」とも解釈できます。より実態に近い数字になるため、長期的には財務情報の透明性・信頼性が高まるとも言えます。