
ガソリン税は正式には「揮発油税」と「地方揮発油税」の総称で、現在ガソリン1リットルあたり合計53.8円が課税されています。この税金は大きく分けて2つの部分から構成されています。
本則税率はガソリンに対する基本的な税率として設定されているもので、この部分は法律で定められた恒久的な税率です。一方、暫定税率は本来一時的な措置として導入されたものでありながら、長期間にわたって継続されてきました。
ガソリン税はもともと道路整備のための特定財源として設けられていましたが、2009年に一般財源化され、使途が限定されなくなりました。しかし、税率自体は変更されず、現在も同じ水準が維持されています。
実際のガソリン価格に占める税金の割合は非常に高く、例えばガソリン1リットル170円の場合、その内訳は以下のようになります。
つまり、ガソリン価格の約40%が税金で占められているのです。
ガソリン税の暫定税率は1974年に導入されました。当時は「道路整備の財源が不足している」という理由で、一時的な措置として税率の上乗せが始まりました。名称に「暫定」とあるように、本来は一時的なものであるはずでした。
しかし、道路財源の確保を理由に、この暫定税率は50年近くにわたって継続されてきました。1974年の導入以降、何度か税率の見直しはあったものの、基本的な構造は変わらず、「暫定」という名前のまま半世紀近く続いているのです。
2009年には、ガソリン税など道路整備のための特定財源とされていた税収が一般財源化されました。これにより、ガソリン税の収入は道路整備だけでなく、あらゆる政府支出に使えるようになりました。この時点で「暫定税率」という名称は「当分の間税率」に変更されましたが、税率自体は変わらず、同じ水準が維持されました。
この継続の背景には、厳しい財政事情や地球温暖化対策への意識の高まりがあったとされています。しかし、本来一時的であるはずの措置が半世紀近く続いていることに対して、多くの批判も存在してきました。
ガソリン価格の高騰に対応するための制度として「トリガー条項」があります。これは2010年度の税制改正で創設された仕組みで、ガソリン価格が一定期間高騰した場合に、ガソリン税の一部を一時的に引き下げる制度です。
具体的には、レギュラーガソリン1リットルあたりの全国平均小売価格が3カ月連続で160円を超えた場合に、暫定税率分(25.1円/L)の課税を停止するというものです。また、軽油についても同様に上乗せ分17.1円/Lを減税する仕組みになっています。
トリガー条項が発動された場合、ガソリン価格は大幅に下がることが期待されます。そして、価格が落ち着いて3カ月連続で130円/Lを下回った場合には、再び暫定税率分の課税が再開される仕組みです。
しかし、このトリガー条項は2011年に東日本大震災の復興財源確保などの観点から凍結され、現在に至るまで一度も発動されたことがありません。その代わりに、政府は2022年以降、「燃料油価格激変緩和補助金」という形で、石油元売り会社に補助金を支給し、ガソリン価格の上昇を抑制する対策を講じています。
トリガー条項の凍結解除については、以下のような課題が指摘されています。
2024年12月11日、自民・公明・国民民主の3党が、ガソリン税に上乗せされている暫定税率の廃止に合意しました。しかし、具体的な実施時期については明示されていません。
与党の税制改正大綱には「いわゆるガソリンの暫定税率は廃止する。具体的な実施方法等については引き続き関係者間で誠実に協議を進める」という文言が盛り込まれました。これにより、暫定税率廃止の方向性は決まったものの、具体的な時期や方法については2025年の議論の中で詳細な検討が行われる見通しです。
現時点では、2026年4月が暫定税率廃止の時期として有力と考えられています。石破首相は、国民民主党と合意したガソリンの暫定税率廃止を履行する考えを示していますが、財源確保が実施の条件であることを強調しています。暫定税率を廃止すれば、年間約1.5兆円の税収減となるため、その代替財源の確保や地方の減収分の手当てが課題となっています。
石破首相は「(暫定税率は)廃止することは決まっている。それでは代替の財源は何に求めるのか、地方の減収分をどのようにして手当てをするのかについて結論が出ないままに、いつ廃止するということは私どもとして申し上げることはできない」と述べています。また、ガソリン税の暫定税率の廃止を決める時期については、「今年12月をめどとするのは一つの見識」との考えを示しています。
日本のガソリン税は国際的に見るとどのような位置づけなのでしょうか。欧州諸国と比較すると、日本の揮発油税率は概して低い水準にあります。また、日本のガソリン税の特徴として、総額に対して課される「従価税」ではなく、量に課税される「従量税」であるという点が挙げられます。
従量税方式では、ガソリン本体の価格が上昇する際には、ガソリンの購入金額に占める税金の比率が相対的に低下します。これにより、消費者にとっては価格上昇の痛みが緩和される面があります。一方、欧州の多くの国々では従価税方式を採用しており、ガソリン価格が上昇すると税金も比例して増加する仕組みになっています。
また、日本のガソリン税には「二重課税」の問題も指摘されています。ガソリンに課される消費税は、「ガソリン本体に加えて、ガソリン税や石油税の合計」から算出されるため、税に税を課している「Tax on Tax」状態になっています。これについては、消費税はガソリン本体価格にのみ課すべきだという意見も根強くあります。
日本のガソリン税制度の特殊性として、以下の点が挙げられます。
これらの特徴は、日本のガソリン税制度が複雑で特殊な構造を持っていることを示しています。
暫定税率が廃止された場合、私たちの生活にどのような影響があるのでしょうか。最も直接的な影響は、ガソリン価格の低下です。暫定税率分の25.1円/Lが廃止されれば、理論上はその分だけガソリン価格が下がることになります。
例えば、現在170円/Lのガソリンが、暫定税率廃止により145円/L程度まで下がる可能性があります。これにより、自家用車を利用する家庭では、月間のガソリン代が大幅に削減されることが期待されます。特に地方在住で車の利用頻度が高い家庭ほど、恩恵が大きくなるでしょう。
具体的な家計への影響を試算してみましょう。
これは単純に暫定税率分の減税効果だけを計算したものですが、実際には消費税の減少分も加わるため、さらに大きな節約効果が期待できます。
一方、マクロ経済的には、ガソリン価格の低下により消費者の可処分所得が増加し、消費活動が活性化する可能性があります。特に、物流コストの低下により、様々な商品やサービスの価格が下がる可能性もあります。
しかし、課題もあります。暫定税率の廃止により、国と地方合わせて年間約1.5兆円の税収減となります。この減収分をどのように補填するかが大きな課題です。また、ガソリン価格の低下により、環境面での懸念も指摘されています。ガソリン価格が下がることで、化石燃料の消費が増加し、CO2排出量が増える可能性があるためです。
さらに、ガソリン税の減税が電気自動車(EV)などの次世代自動車の普及にブレーキをかける可能性も指摘されています。ガソリン価格が下がれば、EVへの乗り換えインセンティブが低下する可能性があるためです。
ガソリン価格高騰への対策として、政府は2022年1月から「燃料油価格激変緩和補助金」を実施しています。これは、原油価格の高騰によるガソリン価格の上昇を抑制するため、石油元売り会社に補助金を支給する制度です。
当初は1リットルあたり5円の補助から始まりましたが、その後段階的に引き上げられ、最大で1リットルあたり35円の補助金が支給されるようになりました。さらに、一定の基準を超える価格上昇分については、その半額を追加で補助する仕組みも導入されています。
この補助金制度には、以下のような問題点が指摘されています。
多くの専門家からは、「補助金よりも、ガソリンの減税のほうが効果ははるかに大きい」という意見が出ています。減税であれば、消費者に直接的かつ明確な形で恩恵が及ぶためです。また、トリガー条項の発動による税収減よりも、現在の補助金への財政負担のほうが大きくなっているという指摘もあります。
消費者の立場からすれば、「即効性」と「透明性」のある対策が望ましいと言えるでしょう。暫定税率の廃止は、そうした観点からも支持を集めています。
トリガー条項の詳細については第一生命経済研究所のレポートが参考になります
ガソリン税の内訳と暫定税率の詳細については神奈川県石油業協同組合のサイトが参考になります