

在職中も私学共済の年金を受け取ると、気づいたら月額数万円が永久に消えていることがあります。
私立学校の教職員が将来受け取れる年金は、大きく3層に分かれています。まずこの全体像を把握しておくことが、将来設計の出発点になります。
第1層は国民年金(老齢基礎年金)です。日本国内に住む20歳以上60歳未満の全員が対象で、40年間フルで加入した場合の2025年度の満額は年約83万1,700円、月換算で約6万9,300円になります。
第2層は老齢厚生年金です。私立学校の教職員は「第4号厚生年金被保険者」として私学共済(日本私立学校振興・共済事業団)に加入します。ここが年金月額の大半を左右する部分です。一般の会社員も同じ厚生年金保険に加入しますが、私学の場合は私学事業団が窓口になります。
第3層は退職等年金給付です。2015年10月の被用者年金一元化に伴って新設された、積立方式・キャッシュバランス方式の制度で、終身退職年金と有期退職年金の2種類があります。これは一般企業には存在しない、私学共済ならではの上乗せ給付です。
つまり、私学共済加入者は老齢基礎年金+老齢厚生年金+退職等年金給付の3本立てを受け取れる点が大きな特徴です。一般の会社員と比べると、3階部分の退職等年金給付が加わる分、月額ベースでやや有利になる構造になっています。
参考:私学共済事業が公式解説している年金制度の概要ページです。
老齢厚生年金の月額の中核となるのが「報酬比例部分」です。ここが最も重要な計算箇所なので、具体的な数字を交えて理解しておきましょう。
報酬比例部分は、平成15年3月以前の期間と平成15年4月以降の期間で計算式が異なります。わかりやすく示すと、おおよそ以下のようなイメージになります。
| 対象期間 | 使う数値 | 乗率(本来水準) |
|---|---|---|
| 平成15年3月以前 | 平均標準報酬月額 | 0.7125/1000 |
| 平成15年4月以降 | 平均標準報酬額(賞与含む) | 0.5481/1000 |
具体的にシミュレーションしてみましょう。
例えば、平均標準報酬月額が30万円で、平成15年4月以降に30年(360ヶ月)加入したケース(昭和36年4月2日以後生まれの方で乗率1.000の場合)を試算します。
$$\text{報酬比例部分(年額)} = 300,000 \times 0.5481 \div 1000 \times 360 \approx 591,948 \text{円}$$
月額に換算すると、約4万9,300円になります。これが老齢厚生年金(報酬比例部分)の月額の目安です。ここに経過的加算額や加給年金額が加算されます。また退職等年金給付の月額も別途上乗せされる構造です。
一つだけ覚えておけばOKです。標準報酬月額が高いほど、加入月数が多いほど、年金月額は増えるということです。
なお、私学共済の標準報酬月額の等級は1等級(5万8,000円)から32等級(65万円)まで設定されています。一般の厚生年金より上限が高い設定があった時期もありますが、2015年の一元化以降は基本的に同一の基準に統一されています。
参考:私学共済の標準報酬月額の等級表が確認できる公式ページです。
多くの方が見落としがちなのが「在職老齢年金」のルールです。これを知らないまま働き続けると、受け取れるはずの年金月額が永久に戻らない形で消えます。厳しいところですね。
仕組みはこうです。 65歳以降も私学共済の被保険者(第4号厚生年金被保険者)として在職している間は、「年金(基本月額)+賃金(総報酬月額相当額)」の合計が月51万円(令和7年度時点)を超えると、超えた額の2分の1が支給停止されます。
$$\text{支給停止額(月額)} = \frac{(総報酬月額相当額 + 基本月額 - 510,000)}{2}$$
具体例で見てみましょう。仮に年金の基本月額が12万円、賞与を含む月換算の賃金が42万円とすると、合計は54万円です。51万円を3万円上回るため、支給停止額は月1万5,000円になります。これが退職するまで毎月止まり続けます。
痛いですね。しかも、在職中に停止された分は後で取り戻すことができません。「老齢厚生年金の繰下げ」と勘違いして「後でまとめてもらえる」と思っている方も多いのですが、在職停止分は消滅します。
ただし、朗報もあります。令和8年(2026年)4月から、この基準額が月65万円に引き上げられます。これにより、これまで年金が止まっていた多くの方が、在職中でも年金を受け取れるようになります。
なお、一般企業に再就職した後に私学共済加入者でなくなった場合は、停止の基準が異なる点も覚えておきましょう。厚生年金保険の第1号被保険者として勤務する場合、基準額の適用ルールが変わります。
参考:私学共済公式の在職支給停止の計算方法と要件が詳しく載っています。
私学共済の独自給付である「退職等年金給付」は、一般会社員にはない3階部分です。これも年金月額に直接影響するため、仕組みをしっかり押さえておきましょう。
計算の流れを整理すると次のようになります。
つまり標準報酬月額が高いほど付与額が増え、退職等年金給付の月額も増えます。これが基本です。
注意すべき点が2つあります。まず、この制度は2015年10月以降の加入期間が対象です。それ以前の期間については「経過的職域加算額」として別途計算されます。次に、基準利率は毎年10月に見直しされます。過去には2020〜2022年の間、日本銀行の金利操作の影響で利率が0.0%に設定されていた時期もありました。この期間は利子がゼロだったため、その間に積み上がった付与額には利息が一切つきませんでした。
有期退職年金は原則20年間受け取れますが、受給権発生から6ヶ月以内に申し出ることで10年に短縮したり、一時金として受け取ったりする変更が可能です。ただし、退職年金の請求と同時に行わなければならない点に注意が必要です。申し出の期限が過ぎると、変更できなくなります。
参考:退職等年金給付の付与率・年金現価率など詳細な制度情報が掲載されています。
年金月額を増やす手段として有名な「繰下げ受給」ですが、私学共済加入者には特有の注意点があります。知らないまま手続きをすると、思った通りに増額できないことがあります。
繰下げ受給の基本は、65歳から受け取れる老齢厚生年金の開始を遅らせると、1ヶ月遅らせるごとに0.7%増額されるという仕組みです。最長75歳まで繰り下げると、増額率は最大84%になります。例えば、65歳時点で月額12万円の年金が、75歳まで繰り下げると月約22万円に増える計算です。
ただし、ここに重要な落とし穴があります。これは意外ですね。
2015年10月の一元化以降、老齢厚生年金は「一体」として請求しなければなりません。 つまり、一般企業に勤めていた期間(第1号)の年金と、私学共済在籍期間(第4号)の年金を、それぞれ別々のタイミングで繰り下げることはできません。どちらかを繰り下げるなら、もう一方も必ず同時に繰り下げる必要があります。
また、繰下げを希望している間に退職しても、自動的に年金の支給が始まるわけではありません。 退職後も繰下げを続けたい場合は、別途手続きが必要です。退職に伴う自動支給開始だと思い込んで何もしないと、繰下げが途中でキャンセルされるリスクがあります。
繰下げ受給をするかどうかの判断として、65歳で受け取り始めた場合と繰り下げた場合の損益分岐点を把握しておくことが重要です。1年繰り下げた場合の損益分岐点は、繰下げ開始から約11〜12年後です。例えば66歳で受け取り始めると、77〜78歳を超えて生きることで総受取額が上回ります。
| 繰下げ開始年齢 | 増額率 | 月額例(65歳時12万円の場合) | 損益分岐点の目安 |
|---|---|---|---|
| 65歳(標準) | ±0% | 12万円 | — |
| 68歳 | +25.2% | 約15万円 | 約79歳 |
| 70歳 | +42% | 約17万円 | 約82歳 |
| 75歳 | +84% | 約22万円 | 約87歳 |
在職老齢年金で支給停止になる可能性がある方は、どうせ止まるなら繰り下げる、という選択が合理的になる場合もあります。ただし、在職停止の停止分は繰下げ増額の計算対象外になる点には注意が必要です。
参考:繰下げのルールと在職停止との関係を私学事業団が解説したQAです。
「実際にいくら受け取れるのかわからない」という方は多いはずです。そのまま放置しておくと、定年直前になって初めて知ることになります。早めに確認しておくことが老後設計の第一歩になります。
まず確認すべきは「ねんきん定期便」です。毎年誕生月に届くこのハガキまたは封書には、これまでの加入実績に応じた年金の見込額が記載されています。50歳未満の方は「これまでの加入実績に応じた年金額」、50歳以上の方は「将来の見込み額(現在の状況が継続した場合)」が載っています。
私学共済の加入者の場合、ねんきん定期便には「私学共済厚生年金期間」の分が第4号期間として記載されます。民間企業に勤務した期間がある場合は第1号期間と合算して表示されます。つまり転職歴がある方は、機関ごとの内訳に注意して確認することが大切です。
より精度の高い試算を行いたい場合は、私学共済の年金見込額試算サービスを利用する方法があります。50歳以上の方は、加入者番号・氏名・生年月日・住所を記入した依頼状を私学事業団または各ガーデンパレス共済業務課に送付することで、試算結果を受け取れます。オンラインでも試算できるため、早めに活用しましょう。
これは使えそうです。自分の標準報酬月額の履歴を確認しながら、どの時期に月額がいくらに相当するかを可視化できます。
また、積立共済年金(私学共済が提供する任意加入の個人年金)に別途加入している場合は、その分の年金月額も別途確認できます。これは強制加入の制度ではないため、加入の有無や積立状況は個人によって大きく異なります。確定拠出年金(iDeCo)との併用や、NISAを活用した資産形成で老後の収入源を多様化する選択肢も、今後ますます重要になってくるでしょう。
参考:私学共済公式の年金見込額試算ページです。依頼方法や注意点が確認できます。