

FIFOを正しく使うと、インフレ局面で実際より利益が大きく見え、余分な税金を払う羽目になります。
先入先出法(FIFO)とは、棚卸資産の評価方法のひとつで、「先に仕入れた商品から先に払い出した」と仮定して在庫を評価する方法です。英語の「First In, First Out」の頭文字をとってFIFO(ファースト・イン・ファースト・アウト)とも呼ばれます。
実際の倉庫でも、食品や医薬品など消費期限のある商品は古いものから先に出荷するのが鉄則です。先入先出法はこの現実の物の流れと会計上の処理を一致させることができるため、多くの業種で標準的に採用されている評価方法です。
具体的なイメージとしては、コンビニのドリンク棚を思い浮かべるとわかりやすいでしょう。補充する際は新しいものを棚の奥に押し込み、古いものを手前に移動させます。先入先出法の考え方はまさにこれと同じです。
帳簿上では、同じ商品でも仕入れ時期によって単価が異なる場合があります。先入先出法では「古い単価のものから順に出ていった」という前提で計算するため、期末に残る在庫は直近に仕入れた新しい単価のものとして評価されます。これが原則です。
先入先出法の位置づけとしては、日本の企業会計基準および法人税法において認められた棚卸資産の評価方法のひとつです。後述しますが、かつて認められていた「後入先出法(LIFO)」は2010年4月以降の事業年度から廃止されており、現在は先入先出法・移動平均法・総平均法・個別法・売価還元法・最終仕入原価法などが利用可能です。
| 評価方法 | 概要 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 先入先出法(FIFO) | 古い在庫から順に払い出したと仮定 | 現実の流れと一致しやすい。期末在庫が時価に近い |
| 移動平均法 | 仕入れのたびに平均単価を算出 | 期中でも評価可能。単価変動の影響が分散される |
| 総平均法 | 一定期間の平均原価で評価 | 計算がシンプル。価格変動の影響を吸収しやすい |
| 最終仕入原価法 | 最後に仕入れた単価で全在庫を評価 | 最も簡便。届出なしで適用される原則的な方法 |
| 個別法 | 商品ごとに個別管理・評価 | 宝石・不動産など高額・特殊商品向き |
先入先出法が基本です。ただし、何も届け出なければ「最終仕入原価法」が自動適用される点に注意が必要です。
参考:棚卸資産の評価方法の届出について(国税庁)
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/annai/1554_28.htm
先入先出法の計算方法は、理論よりも実際の数字を見るとすっきり理解できます。ここでは商品有高帳を用いた具体例で確認しましょう。
ある企業が3月に次のような仕入れ・払い出しをしたとします。
| 日付 | 取引 | 数量 | 単価 | 金額 |
|---|---|---|---|---|
| 3/1 | 仕入れ | 40個 | 90円 | 3,600円 |
| 3/5 | 仕入れ | 80個 | 120円 | 9,600円 |
| 3/10 | 払い出し(売上) | 100個 | — | |
| 3/20 | 仕入れ | 40個 | 80円 | 3,200円 |
| 3/25 | 払い出し(売上) | 40個 | — |
先入先出法では、3/10の払い出し100個について「古いものから順に出た」と仮定します。つまり、3/1仕入れ分40個(90円×40=3,600円)を先に出し、次に3/5仕入れ分60個(120円×60=7,200円)を出したことになります。この時点での売上原価は3,600+7,200=10,800円です。
続く3/25の払い出し40個は、残っていた3/5仕入れ分20個(120円×20=2,400円)と3/20仕入れ分20個(80円×20=1,600円)から構成されます。つまり4,000円です。
結果的に、売上原価の合計は14,800円、期末棚卸高(残り20個)は3/20仕入れ分の残り20個×80円=1,600円となります。これが先入先出法の計算の流れです。
仕入れのたびに単価が変動する環境では、先入先出法では「いつ仕入れたか」の記録をしっかり管理する必要があります。実務では販売管理システムや在庫管理ソフトを活用するのが一般的です。これは使えそうです。
移動平均法と比較すると、先入先出法は期末在庫を「直近の仕入単価」に近い価格で評価します。一方、移動平均法は仕入れのたびに全在庫の平均単価を再計算するため、単価の変動が分散される特徴があります。どちらが正解というわけではなく、自社の商品特性や管理体制に合った方法を選ぶことが大切です。
参考:先入先出法の計算例と商品有高帳の記入方法(マネーフォワード クラウド会計)
https://biz.moneyforward.com/accounting/basic/48514/
先入先出法のメリットはいくつかあります。最も大きいのは、現実の物の流れと会計上の処理が一致しやすい点です。食品・医薬品・化粧品など、賞味期限や使用期限のある商品を扱う業種では、実際にも古い在庫から出庫するため、帳簿上の在庫と実際の在庫の間にズレが生じにくくなります。
また、期末の棚卸資産が「直近の仕入単価」に近い形で貸借対照表に反映されるため、資産の時価評価という観点でも信頼性が高くなります。財務諸表の透明性を重視する上場企業やIFRS(国際財務報告基準)への対応が求められる企業にとって、先入先出法は相性のよい評価方法です。
一方でデメリットもあります。仕入れ単価が頻繁に変動する商品を多く扱う場合、仕入れロットごとに単価を個別管理しなければならないため、帳簿の記録が煩雑になります。商品種類が多い企業ほど管理コストが増加します。厳しいところですね。
さらに、インフレ局面でのデメリットも見逃せません。物価が上昇しているとき、先入先出法では「昔の安い単価のものが先に出た」として計算するため、「現在の高い販売価格-過去の安い仕入原価=見た目の利益が大きくなる」という現象が起きます。実際に手元に残るキャッシュ以上の利益が計上され、それに対して法人税が課される可能性があります。これはデメリットの中でも特に金融・経営の視点から重要です。
インフレ環境下での税負担増加リスクについては、次のセクションで詳しく解説します。
参考:先入先出法のメリット・デメリット解説(グロービス経営大学院MBA用語集)
https://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-12346.html
金融・経営に興味がある方にとって、ここは特に注意が必要なポイントです。先入先出法はインフレ(物価上昇)が続く局面では、税負担が想定以上に増える可能性があります。
仕組みを数字で確認してみましょう。あさぎり会計事務所の事例を参考に、次のケースを見てください。
| 項目 | 物価変動なし | インフレ発生時(最終仕入原価法) |
|---|---|---|
| 売上高 | 2,000円(10個×200円) | |
| 期首棚卸高 | 1,100円(10個×110円) | |
| 仕入高 | 1,100円(10個×110円) | 1,140円(9個×110円+1個×150円) |
| 期末棚卸高 | 1,100円(10個×110円) | 1,500円(10個×150円で評価) |
| 売上原価 | 1,100円 | 740円 |
| 売上利益 | 900円 | 1,260円(360円増加!) |
これは最終仕入原価法の例ですが、先入先出法でも同じ方向の影響が出ます。インフレ局面では「安く仕入れた古い在庫が原価に当たる」と計算されるため、売上原価が低く計算され、見かけ上の利益が膨らむ構造があります。
つまり、実際の資金繰りは苦しくなっているのに、税務上の利益は増えて法人税を多く払わされるという事態が起きます。痛いですね。
こうした問題への対策として、移動平均法への変更を検討する価値があります。移動平均法では仕入れのたびに在庫全体の平均単価を更新するため、価格変動の影響が均等に分散されます。インフレ時の極端な利益過大計上を抑える効果が期待できます。
ただし、評価方法の変更には手続きが必要です。先入先出法から別の方法へ切り替えるには、「棚卸資産の評価方法の変更承認申請書」を変更しようとする事業年度開始の前日までに税務署長に提出し、承認を受ける必要があります。申請を忘れると変更が認められないため、早め早めの対応が条件です。
かつて日本でも使われていた「後入先出法(LIFO:Last In, First Out)」は、2010年4月1日以降開始する事業年度から廃止されています。意外ですね。これを知らない経営者・経理担当者は意外に多いですが、LIFO廃止はFIFOの重要性が増した大きな転換点です。
廃止の主な理由はIFRS(国際財務報告基準)との整合性確保です。国際会計基準IAS第2号では後入先出法が認められておらず、グローバルスタンダードと日本基準を近づける「コンバージェンス(収斂)」の流れの中で廃止が決定しました。現在、IFRSを採用する国・地域では先入先出法(FIFO)または加重平均法が標準的な評価方法として使われています。
後入先出法のメリットは、インフレ時に売上原価が高く計算され、利益が圧縮されるため節税効果があった点です。しかし廃止後はそのような選択ができなくなりました。これは「税負担の増加」という点でFIFO採用企業にとって影響が大きい変化でした。
現在アメリカのUS-GAAP(米国会計基準)ではLIFOが依然として認められていますが、IFRSでは認められていません。日本企業でIFRSを採用する場合はFIFOまたは加重平均法を選ぶ必要があります。これが原則です。
また、証券投資の観点からも補足しておきます。株式投資における取得単価の計算は「総平均法に準ずる方法」が法律上定められており、FIFOではありません。つまり先入先出法は在庫・棚卸資産の評価に適用されるものであり、株式の売却損益計算には自動的には使われないという点に注意が必要です。これだけ覚えておけばOKです。
参考:後入先出法廃止の背景と会計基準の変遷(野村證券 証券用語解説集)
https://www.nomura.co.jp/terms/japan/a/A02517.html
ここまでFIFOの理論と計算を解説しましたが、実務において多くの企業が見落としている落とし穴があります。それは「何も届け出なければFIFOは適用されない」という事実です。
法人税法上、棚卸資産の評価方法を届け出ていない場合は「最終仕入原価法」が原則として適用されます。これはインフレ環境下では前述のとおり利益の過大計上につながりやすい方法です。先入先出法を採用したい場合は、会社設立後最初の事業年度の法人税確定申告期限(通常は設立から2ヵ月以内に「棚卸資産の評価方法の届出書」を税務署へ提出)までに申請が必要です。
届け出を忘れた場合、途中から変更するには「棚卸資産の評価方法の変更承認申請書」を変更しようとする事業年度開始前日までに提出し、税務署長の承認を得る必要があります。承認が下りなければ変更できないため、設立時の対応が重要です。
また、独自の視点として注目したいのが「複数の在庫評価方法の使い分け」という視点です。企業会計基準では、商品・製品・原材料・仕掛品など棚卸資産の種類ごとに異なる評価方法を選択することが認められています。つまり、食品在庫にはFIFO、消耗品には最終仕入原価法という組み合わせも理論上は可能です。ただしその場合も届出が必要であり、各カテゴリに対して継続適用が求められます。変更のたびに申請が必要です。
さらに多くの投資家・金融関係者が見落としがちな点として、「FIFOは企業分析にも使える視点」であることが挙げられます。財務諸表を読む際、インフレ局面でFIFOを採用している企業の「利益」は実態より膨らんでいる可能性があります。貸借対照表の棚卸資産は時価に近い評価がされる一方、損益計算書の売上原価は過去の安い仕入原価が使われるためです。企業分析では評価方法の注記欄を確認する習慣をつけておくと、実態に近い収益力を把握できます。
棚卸資産の評価方法の届出・変更に関して詳細な確認が必要な場合は、税理士への相談が確実な一手です。国税庁が公表している「法人税の申告手続き」ページも参考になります。
参考:棚卸資産の評価方法の届出書・変更申請書の書式(国税庁)
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/annai/1554_28.htm