労災保険率の計算方法と賃金総額・業種別料率の全知識

労災保険率の計算方法と賃金総額・業種別料率の全知識

労災保険率の計算方法と業種別料率・賃金総額を徹底解説

労災保険料は全額事業主が負担するのに、通勤手当の非課税分まで賃金総額に含まれ保険料が増えます。


この記事でわかること
💡
労災保険料の基本の計算式

「賃金総額 × 労災保険率」のシンプルな式だが、賃金総額に含まれるもの・含まれないものの把握が正確な計算の鍵になる。

📊
業種別の保険料率(令和6~7年度)

業種によって2.5/1,000~88/1,000まで大きく異なる。危険度が高い建設業・鉱業では保険料が大幅に跳ね上がる。

⚠️
メリット制・特別加入など知っておきたい応用知識

災害の少ない事業所は保険料が最大40%割引になるメリット制や、個人事業主が使える特別加入制度など、損をしないための制度を解説。


労災保険率とは何か:計算方法の基本を理解する


労災保険料は、「賃金総額 × 労災保険率」というシンプルな式で計算されます。ただし、この式を正しく使いこなすには、「賃金総額に何が含まれるか」と「自社の業種に適用される保険率はいくらか」の2点を正確に把握することが不可欠です。


労災保険とは、業務中や通勤中に発生した事故・疾病・障害・死亡に対して、労働者または遺族に給付を行う公的保険制度です。注意したいのは、この保険料は全額が事業主負担である点です。健康保険や厚生年金とは異なり、従業員の給与から天引きすることは認められていません。


つまり基本が事業主の費用負担ということですね。


労災保険は雇用保険とあわせて「労働保険」と総称され、正社員・パート・アルバイト・派遣労働者・日雇い労働者など、雇用形態を問わず全ての労働者が対象となります。逆に言えば、従業員を1人でも雇用している事業所は、原則として必ず加入しなければなりません。法人役員は労災保険の対象外ですが、後述する「特別加入制度」を利用することで保護を受けることが可能です。


保険料の申告・納付は、4月1日から翌年3月31日を1年度として、毎年6月1日から7月10日の間に行います。この手続きを「年度更新」と呼び、前年度の確定保険料を精算しながら、当年度の概算保険料を同時に納付する仕組みです。




























項目 内容
計算式 賃金総額 × 労災保険率
保険料負担 全額事業主負担(従業員負担なし)
対象労働者 雇用形態問わず全労働者(法人役員は原則対象外)
申告・納付期間 毎年6月1日〜7月10日
保険料率の改定 原則3年ごと(直近は令和6年度に改定)


計算式自体はシンプルです。しかし、算出の精度を左右するのは、賃金総額の正確な把握と業種別料率の正しい適用という2つの細部にあります。次のセクションでは、賃金総額に何を含めるべきかを整理していきます。


参考:労働保険料の計算方法に関する公式情報(大阪労働局)
https://jsite.mhlw.go.jp/osaka-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudou_hoken/hourei_seido/keisan.html


労災保険率の計算で使う賃金総額:含まれるもの・含まれないもの

労災保険料の計算で最も間違いが起きやすいのが、この「賃金総額」の範囲です。基本給や賞与はもちろん含まれますが、通勤手当(非課税分を含む) も賃金総額に算入しなければなりません。社会保険料の標準報酬月額算定では通勤手当を含める一方で、所得税は非課税部分を除外するため、混乱しやすいポイントです。


賃金総額が原則です。


賃金総額に含まれる主な項目は次の通りです。



  • 基本給・賞与・各種手当(残業手当・休日手当・扶養手当・住宅手当・単身赴任手当など)

  • 通勤手当(所得税の非課税分を含む)・定期券・回数券などの現物支給

  • 前払い退職金(在職中に退職金相当額を給与に上乗せして支払うもの)

  • 従業員負担分を事業主が肩代わりした雇用保険料・社会保険料


一方、以下のものは賃金総額に含まれません。



  • 役員報酬・出張旅費・宿泊費

  • 退職時に支払われる退職金・結婚祝金・死亡弔慰金・私傷病見舞金

  • 休業補償費・傷病手当金・会社が全額負担する生命保険の掛金


これは意外ですね。「退職金は賃金では?」と感じる方もいるでしょうが、労災保険の賃金概念においては「継続的な労務の対償」に限定されており、退職時の一時金は除外されています。ただし、在職中に前払いで支給される前払い退職金は含まれるため、支払いのタイミングが判断の分岐点になります。


パート・アルバイトの賃金も忘れてはなりません。彼らも労災保険の適用対象労働者である以上、時給・日給問わず支払った賃金はすべて賃金総額に算入します。集計から漏れると申告額が少なくなり、後から追徴を受けるリスクがあります。


派遣社員については派遣元が保険料を負担しますが、保険率の適用は「派遣先での主たる作業内容」に基づいて判定されます。複数の派遣先・業種にまたがる場合は、主たる作業実態から業種を決定する必要があります。


出向社員の場合、出向先の事業所が労災保険を適用し保険料を負担します。出向元が給与を支払って出向先に出向料を請求している場合でも、実際の賃金額を正確に把握して保険料を計算することが求められます。


賃金総額に含まれるかどうかは実務上の判断が必要なケースも多いため、不明な場合は所轄の労働基準監督署か社会保険労務士に確認することを検討してください。


参考:厚生労働省公式 賃金総額の範囲(大阪労働局)
https://jsite.mhlw.go.jp/osaka-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudou_hoken/hourei_seido/kosin/keizoku/kakunin.html


業種別の労災保険料率一覧と計算方法のシミュレーション

労災保険料率は、業種ごとのリスク(過去3年間の災害発生状況)に基づいて設定されており、最低2.5/1,000(金融業・保険業・不動産業など)から最高88/1,000(金属鉱業・石炭鉱業など)まで、実に35倍以上の開きがあります。東京ドームの外野席(1席)と、1塁側全席を埋めるくらいの差と言えばイメージしやすいかもしれません。


令和6年度の改定で業種平均の労災保険料率は4.5/1,000から4.4/1,000へ引き下げられました。令和7年度はこの率を継続して使用します。


代表的な業種の保険料率は以下の通りです。












































業種の種類 労災保険料率 具体的な業種例
金融業・保険業・不動産業 2.5/1,000 銀行、生命保険、不動産仲介など
卸売業・小売業・飲食・宿泊 3/1,000 問屋、スーパー、飲食店など
ビルメンテナンス業 5.5/1,000 清掃・設備管理など
食品製造業 5.5/1,000 食品加工・製造など
建築事業 9.5/1,000 住宅・ビル建築など
舗装工事業 9/1,000 道路舗装など
水力発電施設・ずい道等新設事業 34/1,000 ダム建設・トンネル工事など


つまり業種によって保険料は大きく異なります。


では具体的な計算例を見てみましょう。金融に関わる職種として、不動産業のケースを例に挙げます。


📌 不動産業の計算例
年間の賃金総額が5,000万円の事業所の場合。
5,000万円 × 2.5/1,000 = 125,000円(年間保険料)


📌 卸売業の計算例
年間の賃金総額が8,900万円(従業員20人・平均年収445万円)の場合。
8,900万円 × 3/1,000 = 267,000円(年間保険料)


📌 建築業の計算例
年間の賃金総額が1億5,960万円(従業員30人・平均年収532万円)の場合。
1億5,960万円 × 9.5/1,000 = 1,516,200円(年間保険料)


不動産業と建築業では保険料率だけで約4倍差があり、賃金総額の規模次第では年間で100万円以上の差になることも珍しくありません。業種の判定を誤ると保険料の過不足につながるため、複数業種を展開する事業所は特に注意が必要です。


計算の際、1円未満の端数は切り捨てで処理します。また労災保険料と雇用保険料を別々に計算して端数処理するのではなく、合計保険料率を賃金総額にかけた後に端数処理することが正しい手順です。


参考:令和6・7年度の労災保険料率表(厚生労働省公式PDF)
https://www.mhlw.go.jp/content/rousaihokenritu_r05.pdf


建設業だけに適用される特例計算:請負金額と労務費率で保険料を算出する

建設業の労災保険料計算には、他の業種にはない特例があります。建設現場では多数の下請け業者が関わり、実際に誰にいくらの賃金を支払ったかを元請けが正確に把握することが構造上困難なケースがあります。この問題を解決するために設けられたのが「賃金総額算定の特例」です。


特例が条件です。


この特例では、実際の賃金総額の代わりに、「請負金額(消費税除く)× 労務費率」で賃金総額を算定してよいとされています。さらにその賃金総額に労災保険率をかけて保険料を算出します。式にすると以下のようになります。


> 🏗️ 建設業の特例計算式
> 労災保険料 = 請負金額(税抜き)× 労務費率 × 労災保険率


代表的な業種の労務費率(令和6年度以降)は以下の通りです。





























建設事業の種類 労務費率 労災保険率
建築事業(住宅・ビル建築など) 21% 9.5/1,000
道路新設事業 21% 11/1,000
舗装工事業 17% 9/1,000
水力発電施設・ずい道等新設事業 19% 34/1,000


📌 建築事業の特例計算例
請負金額が1億円(税抜き)の建築工事の場合。
1億円 × 21% × 9.5/1,000 = 199,500円(労災保険料)


実際の賃金が把握できる場合は通常計算を使うことも可能ですが、実務上は多くの建設業者がこの特例方式を採用しています。建設業の労災保険は元請け事業主がすべての下請けを含む現場全体の保険を負担する仕組みになっており、これが他業種との大きな違いです。


建設業の場合、工事の規模や期間によって「一括有期事業」と「単独有期事業」に分類され、それぞれ申告・納付の方法も異なります。一括有期事業は複数の小規模工事を一括して管理・申告できる仕組みで、多くの建設事業者に活用されています。


参考:厚生労働省「請負による建設の事業における労務費率を用いた計算の特例」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudouhokenpoint/dl/kensetsurousai.pdf


メリット制と特別加入:労災保険率の計算で知ると得する2つの制度

労災保険料の計算において、知っているだけで大きな差が生まれる制度が2つあります。一つは「メリット制」、もう一つは「特別加入制度」です。


🔽 メリット制とは


メリット制とは、過去3年間の労災事故の発生件数(収支率)に応じて、労災保険率を±最大40%の範囲で増減させる制度です。


収支率とは「保険給付額 ÷ 保険料額」のことで、この値が75%以下であれば保険率が引き下げられ(最大40%割引)、85%以上であれば引き上げられます(最大40%割増)。


> 📉 メリット制の計算例
> 元の労災保険料率が9/1,000の事業所が最大40%割引を受けた場合。
> 9/1,000 × (1 − 0.40) = 5.4/1,000 → 年間賃金総額が1億円なら保険料は54万円(通常は90万円)
> 👉 差額は36万円。これはかなり大きいですね。


メリット制は一定規模以上の事業所(継続事業の場合は使用する労働者数が100人以上など)に適用されます。労災の予防に取り組み、事故を減らすことが保険料の節減に直結するため、安全管理への投資が財務的にも意味を持ちます。


また安全対策を一定水準以上実施した場合は、増減幅が最大45%に拡大される「特例メリット制」も用意されています。


🔽 特別加入制度とは


一般の労災保険は「労働者」を対象とするため、経営者(法人役員)や個人事業主・フリーランスは原則として対象外です。しかし2021年の法改正以降、対象が段階的に拡大され、2024年11月からは「特定フリーランス事業(特12)」が新設されました。


特別加入の保険料計算式は以下の通りです。


> 💼 特別加入の保険料計算式
> 年間保険料 = 給付基礎日額 × 365日 × 保険料率


給付基礎日額は3,500円〜25,000円の範囲で本人が選択します。ITフリーランスが特12で加入した場合、保険料率は3/1,000。給付基礎日額を20,000円に設定すると。


20,000円 × 365 × 0.003 = 21,900円/年


月あたり約1,825円です。年間2万円前後で業務中の怪我・病気をカバーできるため、特にフリーランスや一人親方には注目度の高い制度です。


これは使えそうです。


なお、特別加入した場合の個人事業主の労災保険料は、経費として計上できません。確定申告では「社会保険料控除」の対象となりますが、「事業経費」ではない点に注意が必要です。この点を誤って申告すると、税務調査の際に修正が求められる場合があります。


参考:厚生労働省 労災保険のメリット制について(公式PDF)
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudouhokenpoint/dl/rousaimerit.pdf


参考:フリーランス・個人事業主の特別加入保険料計算(マネーフォワード
https://biz.moneyforward.com/payroll/basic/54796/


労災保険率の計算で見落としやすい4つの実務ポイント

正しい計算式を知っていても、実務では細かい落とし穴で計算が狂うことがあります。金融・管理部門の担当者が特に意識しておきたいポイントを整理します。


① 保険料率は3年に1度改定される


労災保険率は、業種ごとの過去3年分の災害データをもとに原則3年ごとに見直されます。直近の改定は令和6年度(2024年度)で、業種平均が4.5/1,000から4.4/1,000に引き下げられました。令和7年度は令和6年度と同率ですが、令和9年度に次の改定が予定されています。古い料率表を使い続けると過払い・未払いの原因になります。


② 概算保険料と確定保険料の差額精算を忘れない


労災保険料は年度の開始時点で「見込みの賃金総額」をもとに概算保険料を納付し、翌年度に実際の賃金総額が確定してから精算します。前年の概算保険料が多すぎた場合は翌年度分から差し引き、少なかった場合は追加納付が必要です。


精算を忘れると延滞金が発生します。


③ 納付期限(7月10日)を厳守する


納付期限を過ぎると、未納分に対して年14.6%(最初の2か月は軽減措置あり)の延滞金が加算されます。滞納が続くと財産差し押さえ(強制処分)の対象になることもあります。令和7年度の申告・納付期間は6月2日から7月10日です(開始日が日曜日のため1日繰り下げ)。


④ 複数事業所がある場合は事業所ごとに申告する


労災保険は会社単位ではなく、事業所(適用単位)ごとに成立させ、申告・納付も事業所ごとに行います。本社・支社・工場など複数の事業所がある場合、それぞれの業種・賃金・保険料を別々に管理しなければなりません。主たる業種の判定が複数候補で迷う場合は、各事業所の主要な業務内容に基づいて判断します。



  • ✅ 毎年、最新の労災保険率表を厚生労働省ウェブサイトで確認する

  • ✅ 概算・確定の差額精算を年度更新時に必ず行う

  • ✅ 7月10日の納付期限を社内カレンダーに登録しておく

  • ✅ 複数事業所は事業所ごとに申告内容を分けて管理する


年度更新の計算ミスを防ぎたい場合、厚生労働省が提供する「年度更新申告書計算支援ツール(Excelファイル)」を活用する方法があります。月次賃金と料率を入力するだけで申告書様式に沿った計算結果が得られるため、手計算のミスリスクを大幅に下げることができます。


参考:厚生労働省 年度更新よくある質問(公式)
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudouhoken01/situmon.html




改訂10版 林業・建設業の労災保険率適用必携