工事完成基準廃止はいつから?新収益認識基準への完全移行ガイド

工事完成基準廃止はいつから?新収益認識基準への完全移行ガイド

工事完成基準廃止はいつから?新収益認識基準との違いと実務への影響

工事完成基準が「廃止された」のに、中小企業では今も工事完成基準のまま決算書を作っても法律違反にならない。


📋 この記事の3つのポイント
📅
廃止のタイミング

工事完成基準・工事進行基準は2021年4月1日以降に始まる事業年度から廃止。大会社・上場企業には新収益認識基準が強制適用された。

🏢
中小企業は例外あり

資本金5億円未満・負債200億円未満の中小企業には新収益認識基準の強制適用はなく、従来の工事完成基準の継続使用が認められている。

💡
税務と会計は別ルール

会計基準が廃止された後も、法人税法上は工事進行基準・工事完成基準の文言が残存。税務申告と会計処理が乖離するケースに要注意。


工事完成基準とは何か?工事進行基準との基本的な違い

工事完成基準とは、工事や開発が完了し、発注者への引き渡しが完了した時点で、売上(工事収益)と原価(工事原価)を一括して計上する会計方法のことです。たとえば総工費5億円の建物工事を2年かけて施工した場合でも、引き渡した年の決算にのみ売上5億円・原価4億円が計上されます。それまでの2年間は、決算書の損益計算書には何も計上されません。


これが工事完成基準の基本的な仕組みです。


一方の工事進行基準は、毎年の決算時点における工事進捗率に応じて、収益と費用を分割計上していく方法です。前述と同じ2年工事の例で言うと、1年目に進捗率25%分の売上・原価を計上し、2年目に残り75%分を計上するイメージになります。これにより、工事が進んでいる間も損益計算書に実態が反映されやすくなります。


両基準の違いは、ひと言で言えば「いつ売上・費用を計上するか」というタイミングの違いです。工事完成基準は会計上の確実性が高い半面、工事途中の赤字が見えにくいというデメリットがありました。工事進行基準はタイムリーな損益把握ができる半面、事務作業が煩雑になりやすいデメリットがありました。


どちらの基準も、建設業・造船・大型機械製造・受注ソフトウェア開発などの請負契約全般に適用されるものでした。企業単位ではなく、案件(工事)ごとに選択できる点も重要な特徴です。


これが基本です。


工事完成基準が廃止されたのはいつから?2021年4月の会計改革を理解する

工事完成基準および工事進行基準が廃止されたのは、2021年4月1日以降に開始する事業年度からです。3月決算の企業であれば2022年3月期(2021年4月〜2022年3月)から、9月決算であれば2021年10月から適用が始まった計算になります。


廃止の背景にあるのは、国際会計基準(IFRS)との統一化を目指した世界的な潮流です。日本では企業会計基準委員会(ASBJ)が、IFRSと米国会計基準(US-GAAP)が共同開発した「IFRS第15号」をベースに、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、新収益認識基準)を策定しました。この新基準の導入に伴い、それまで建設業界で長く使われてきた「工事契約に関する会計基準」が廃止されることになりました。


廃止前の旧工事契約基準は2009年4月から適用されていたため、実質的に約12年で役目を終えたことになります。


意外ですね。


しかしながら、廃止=完全消滅ではありません。新収益認識基準の中に、工事進行基準に相当する概念が引き継がれており、「履行義務が一定期間にわたって充足される」ケースでは、従来の工事進行基準と非常に近い処理が行われます。


強制適用の対象となったのは、主に下記の企業です。


  • 会社法上の大会社(資本金5億円以上、または負債200億円以上)
  • 上場企業・上場準備中の企業(子会社・関連会社を含む)


逆に言えば、これらに該当しない中小・非上場企業には強制適用がなく、従来の工事完成基準を引き続き使い続けることが認められています。大きな変化がある一方で、多くの中小建設会社の実務は大きく変わっていない部分もあります。


参考:新収益認識基準の詳細と適用範囲についての公式情報は企業会計基準委員会のサイトで確認できます。


企業会計基準委員会「収益認識に関する会計基準」


新収益認識基準の5ステップ:工事完成基準との本質的な違いとは

新収益認識基準は、すべての収益を「5つのステップ」に沿って認識することを求めています。このステップが、旧来の工事完成基準・進行基準とは根本的に異なるアプローチです。


  1. 顧客との契約を識別する:契約の存在・当事者・支払条件・商業的実質などを確認
  2. 契約における履行義務を識別する:契約の中に含まれる「約束」を個別に特定する
  3. 取引価格を算定する:変動対価・重大な金融要素なども考慮した実質的な金額を算出
  4. 取引価格を各履行義務に配分する:独立販売価格に基づいて按分
  5. 履行義務の充足時に収益を認識する:一時点充足か一定期間充足かを判定


建設業において特に重要なのは、ステップ2とステップ5です。たとえば「建物の設計+施工」を一体として請け負った場合、これを1つの履行義務とみるのか、2つの別々の履行義務とみるのかによって、収益の認識タイミングが大きく変わります。旧来の工事完成基準では「引き渡し時に一括計上」だったものが、新基準では契約内容の分析を踏まえた判断が必要になります。


また、ステップ5の「一定期間にわたって充足される履行義務」と判定されると、工事の進捗度に応じた段階的な収益認識が求められます。これが実質的に旧工事進行基準の考え方を引き継ぐ部分です。つまり工事完成基準です、という単純な処理は上場企業では許されなくなったといえます。


工事完成基準の廃止が中小企業に与える影響:法人税と会計の二重構造

中小企業の経営者や経理担当者にとって、最も気になるのは「うちの会社はどうなるのか」という点でしょう。結論から言えば、資本金5億円未満かつ負債200億円未満の非上場中小企業は、新収益認識基準の強制適用対象外です。中小企業の会計に関する指針には工事進行基準の規定が残存しているため、従来通りの会計処理が適用可能です。


これが原則です。


ただし、会計と税務は別ルールである点に要注意です。法人税法では今も「工事進行基準」「工事完成基準」という文言が使われており、以下の区分が適用されます。


工事の区分 税務上の取扱い
長期大規模工事(工期1年以上・請負対価10億円以上・一定条件を満たすもの) 工事進行基準の強制適用
上記以外の一般的な工事 工事完成基準・工事進行基準のどちらか選択可


つまり、会計上は新収益認識基準に移行しても、税務申告は依然として旧来の「工事完成基準」「工事進行基準」に準拠した別途の調整が必要なケースが出てきます。会計と税務の処理が乖離すれば、申告調整の手間が増えることになります。大型工事を受注している中小建設業では、この二重構造に特に注意が必要です。


一方で、多くの中小建設業のケースでは、会計・税務ともに工事完成基準を継続し、申告調整が不要な状態を維持できます。経理担当者が1〜2名という規模の会社では、この方がシンプルで現実的です。


これは使えそうです。


参考:法人税法上の工事進行基準・工事完成基準の詳細は国税庁の税務情報で確認できます。


国税庁「請負による収益・費用の帰属時期」


工事完成基準の廃止と長期大規模工事:10億円以上の工事は別ルール

法人税法における「長期大規模工事」には、工事進行基準が強制的に適用されます。


これは会計基準の廃止後も変わっていません。


該当するかどうかは、以下の3要件をすべて満たすかどうかで判定します。


  • 工事着手日から目的物引渡期日までの期間が1年以上であること(法人税法第64条第1項)
  • 工事の請負対価が10億円以上であること(法人税法施行令第129条第1項)
  • 請負対価の2分の1以上が目的物引渡日から1年以内に支払われることが定められていること(法人税法施行令第129条第2項)


たとえば総工費12億円、工期18か月の橋梁工事を請け負った場合、この3要件を満たせば法人税法上の長期大規模工事となり、工事進行基準で税務申告しなければなりません。仮に会計上は新収益認識基準で一時点認識(引渡時一括)としていたとしても、税務上は進捗に応じた収益計上が求められます。


この点は厳しいところですね。


なお、進捗度の算定には「原価比例法」が一般的に用いられます。「決算日までの発生原価÷工事原価総額」で進捗率を出し、「請負代金総額×進捗率−前期以前の計上額」で当期売上を算出する計算式です。10億円の工事で1年目に原価を2億円投入した場合(総原価見込み8億円)、進捗率は25%となり、売上計上額は2.5億円(10億円×25%)になります。


新収益認識基準における原価回収基準:廃止後の会計実務で知っておくべき特例

新収益認識基準には、あまり知られていない重要な特例として「原価回収基準」があります。これは工事の進捗度を合理的に見積もることができない場合に適用される基準で、「収益認識に関する会計基準」第45項に規定されています。


具体的には、工事収益総額や原価総額の見積もりに高い不確実性がある工事において、まずは発生した原価の回収分だけを収益として認識する考え方です。わかりやすく言えば、原価1億円をかけた場合、見込み利益は含まず1億円の売上だけ先行計上するイメージです。


従来の工事完成基準が廃止された影響で、上場建設企業はこのような細かい判断を迫られるようになりました。大成建設などの大手ゼネコンでは、原則として進捗に応じた収益認識(進行基準に相当)を採用しつつも、一部工事では原価回収基準や一時点認識を使い分けているケースがあります。


投資家として建設株の決算書を読む際は、各社がどの認識方法を採用しているかを有価証券報告書の「収益認識に関する会計方針」セクションで確認することをおすすめします。同じ「建設業」でも収益の計上タイミングが異なるため、単純な売上高比較が意味を持たないことがあります。


これが条件です。


工事完成基準廃止が投資家に与える影響:建設株の決算書の読み方が変わった

金融に興味を持つ投資家として、この制度改正がどういう意味を持つのかを押さえておく必要があります。結論は「建設株の売上・利益の数字の意味が以前とは変わっている」ということです。


旧工事完成基準が使われていた時代、建設会社の売上高は「引き渡した工事案件の合計」でした。しかし新収益認識基準が導入された大手上場建設会社では、「進捗に応じた段階的な売上計上」が原則となっています。これにより期ごとの業績が平準化しやすくなり、建設株特有だった「決算期に大型工事が重なると爆発的に増益」という現象が起きにくくなりました。


一方で注意点もあります。新基準では「変動対価」の見積もりが必要なケースがあり、工事完成後に請負金額が変更される可能性がある場合は、その見込額も事前に反映しなければなりません。これはある意味で将来の不確実性を財務諸表に盛り込むことを意味します。見積もりが過大だった場合、後年度に収益が取り消し(減額修正)されるリスクもあります。


また、旧基準から新基準への移行時には「会計方針の変更」として過去の財務諸表が遡及修正されます。前年比較を行う際は、基準変更前後の数値をそのまま並べると「見かけ上の増収・増益」が発生することがある点にも注意が必要です。詳細は有価証券報告書の注記を確認する習慣をつけることが大切です。


工事完成基準廃止後も残る消費税の特例:仮払消費税の計上タイミングに要注意

収益認識の変更に伴い、消費税の処理タイミングにも実務上の論点が生じます。これはあまり語られない部分ですが、経営者や経理担当者にとっては大きな影響があります。


消費税の原則的な取り扱いでは、課税売上は「目的物の引渡完了日」に認識します。しかし例外として、法人税上の工事進行基準を適用して収益を計上している場合は、「収益計上時」に課税売上を認識することも認められています(消費税法第17条)。


処理方法 課税売上の認識タイミング
原則 目的物の引渡日
例外(工事進行基準適用時) 工事進行基準で収益を計上した時点


工事完成基準を採用している場合、完成前に発生した原価は「未成工事支出金(仕掛品)」として繰り越します。この仕掛品は税込みで計上し、この時点では仮払消費税を認識しないのが正しい処理です。完成・引き渡し時点で初めて仮受消費税・仮払消費税を認識します。


誤って工事途中で仮払消費税を計上してしまうと、消費税の申告内容と実態が乖離し、税務調査での指摘リスクが生じます。処理方法は事前に税理士と方針を統一しておくことが大切です。


これは必須です。


参考:消費税の工事進行基準・工事完成基準に関する処理は、国税庁のタックスアンサーで詳しく解説されています。


国税庁「延払基準・工事進行基準を用いているとき」


工事完成基準と部分完成基準:似て非なる2つの基準の違いと実務上の落とし穴

廃止の議論の中でよく混同されるのが「工事完成基準」と「部分完成基準」です。両者は似た名前ながら、本質的には異なるルールです。


部分完成基準とは、1つの契約の中で一部引き渡しが行われた場合に、引き渡し済み部分について収益を強制計上するルールです(法人税基本通達2-1-1の4)。たとえば、100戸の建売住宅を一括契約で請け負い、1戸を引き渡すたびに工事代金を収入する旨の特約がある場合、1戸ずつ売上を計上しなければなりません。


一方、工事完成基準はあくまで「工事全体が完成して引き渡した時点」で一括計上するものです。部分完成基準はこの工事完成基準の「完成・引き渡し」の単位を細分化したものに過ぎず、「引き渡し前に収益を認識する」という工事進行基準とはまったく異なります。


つまり部分完成基準が条件です。


実務上でよく見られる誤りが「出来高請求=部分完成基準」という思い込みです。毎月の出来高で請求書を発行していても、その時点で実際の引き渡しが行われていなければ、それは売上ではなく「前受金」として処理しなければなりません。中小の建設会社では、出来高請求のたびに売上を計上している事例が散見されますが、これは正しい会計処理ではありません。


痛いですね。


工事完成基準廃止に対応するためのシステム・ツール活用と実務対策

新収益認識基準への対応や、法人税上の長期大規模工事への適切な処理を行うためには、工事管理と会計処理を連動させる仕組みが不可欠です。特に中規模以上の建設会社では、システムの整備が実務上の課題になっています。


新収益認識基準が求める「進捗度の合理的見積もり」を行うには、各工事の発生原価・見積総原価をリアルタイムで把握できる環境が必要です。これが十分でないと、誤った進捗率を使って誤った売上を計上してしまうリスクがあります。工事管理システムと会計システムを連携させることで、こうした計上ミスを防ぐことができます。


対策として検討できる選択肢を以下に整理します。


  • 🔧 工事原価管理ソフト(例:ANDPAD原価管理、蔵衛門など):工事ごとの原価実績・予算を可視化し、進捗率の自動算出に活用できます。
  • 📊 クラウド会計ソフト(例:freee、マネーフォワード クラウド会計Plusなど):新収益認識基準対応の仕訳処理や申告調整をサポートし、税理士との連携もスムーズです。
  • 🤝 税理士・公認会計士への相談:基準選択の判断・税務調整・申告書作成は専門家への相談が最も確実です。特に新旧基準の移行期は注記の記載方法など細かい判断が多く発生します。


また、将来的に上場や大企業との取引拡大を考えている中小建設会社は、今から新収益認識基準への移行を見据えた体制づくりを始めることが重要です。移行のタイミングで会計方針を変更すると、過去の財務諸表の遡及修正が必要になることもあり、早めの準備ほどコストが少なくて済みます。


一度決めた基準は継続適用が原則です。


これだけ覚えておけばOKです。


工事完成基準廃止の背景にあるIFRS国際基準統一化の流れ:投資家が知っておきたい歴史的文脈

工事完成基準の廃止は、単なる日本国内の会計ルール変更ではなく、グローバルな会計基準統一化という大きな潮流の中に位置づけられています。この背景を理解すると、今後の会計制度がどう変わっていくかも見通しやすくなります。


2002年、国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)は「ノーウォーク合意」を締結し、会計基準の国際的な統一化に向けた共同作業を開始しました。この流れを受け、2014年にIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」が公表されます。日本では2018年に企業会計基準第29号として同等の基準が制定され、2021年4月からの強制適用に至りました。


IFRSが世界標準として広まった背景には、投資家の利便性があります。異なる国の企業の財務諸表が同じルールで作成されることで、国際的な投資判断が比較しやすくなるためです。日本企業の海外進出やIFRS任意適用の増加も、こうした流れの中にあります。


金融市場への影響という観点では、建設セクターの企業を国内外で横断的に比較したい機関投資家にとっては、工事完成基準廃止による新収益認識基準の導入は歓迎すべき変化です。


いいことですね。


一方で、個人投資家にとっては「比較可能性は上がったが、決算書が複雑になった」という側面があります。有価証券報告書の会計方針の注記を読み解くスキルが、これからの株式投資にはより重要になってきたといえるでしょう。


参考:国際的な収益認識基準の詳細については、IFRS財団の情報が参考になります。


IFRS Foundation「IFRS 15 Revenue from Contracts with Customers」(英語)


工事完成基準廃止後に建設株を分析する独自の視点:売上計上タイミングが違う企業の比較は危険

ここからは、検索上位ではあまり語られない独自の視点をお伝えします。工事完成基準廃止後の現在、建設株を比較・分析する際に陥りやすい「罠」があります。


それは、同じ建設業でも企業規模によって適用基準が異なるため、売上高や営業利益を単純に並べても「リンゴとオレンジを比べている状態」になりかねないという点です。大企業は新収益認識基準(進捗に応じた段階的計上)を採用し、中小企業は旧来の工事完成基準(引き渡し時一括計上)を継続しているケースがあります。


具体的に何が問題になるかというと、同じ10億円の工事を受注した場合、大企業では工事期間中に按分して売上が計上されますが、中小企業では完成年度に一括で売上が立ちます。どちらが「良い業績」に見えるかは、その工事が完成したかどうかに左右されます。工期が2年の工事なら、1年目は大企業のほうが売上が高く見え、2年目に中小企業が一気に追い上げるように見えることがあります。


また、会計方針を変更した直後の期は、会計方針変更の効果と通常の業績変化が混在するため、前期比の増収・増益を単純に実力として捉えることができません。IRレポートや有価証券報告書の「会計方針の変更」「遡及適用の影響額」の記載を必ず確認することが重要です。


投資判断に使う際には、単純な売上・利益の数字だけでなく、受注残高・未成工事支出金・契約資産の推移を合わせて見ることで、工事の実態に近い分析が可能になります。工事完成基準廃止という制度変更を逆手にとって、こうした深い読みができる投資家は少数派であり、それ自体が情報優位性になり得ます。


これが基本です。


十分な情報が集まりました。


記事を生成します。