

課税事業者選択届出書を提出すると、売上がゼロでも2年間は消費税を払い続けます。
「消費税課税事業者選択届出書」とは、本来は消費税を納める義務がない免税事業者が、自ら望んで課税事業者となるために税務署へ提出する書類です。通常、前々年度(基準期間)の課税売上高が1,000万円以下の事業者は自動的に免税事業者となりますが、この届出書を提出することで、その壁を超えて課税事業者の地位を選択できます。
提出先は、事業所の納税地を所轄する税務署長です。提出方法は、税務署への持ち込み・郵送・e-Tax(電子申告)の3種類があります。
届出書を提出する主な理由としては、次のようなケースが考えられます。
ただし、提出するだけで終わりではありません。一度提出すると原則として2年間は免税事業者に戻れないという「2年縛り」が発生します。つまり2年縛りに注意すれば大丈夫です。
提出のタイミングも厳格に定められており、原則として「課税事業者になろうとする課税期間の初日の前日」までに提出しなければなりません。例えば、個人事業主が翌年1月1日から課税事業者になりたい場合は、前年の12月31日までに提出する必要があります。提出が1日でも遅れると、その課税期間には適用されず次の期間からの扱いになります。
国税庁の届出様式は公式サイトからダウンロードできます。記載事項としては、納税地・氏名または名称・課税事業者となる課税期間・提出理由などが必要です。
国税庁による消費税課税事業者選択届出書の様式・手続き案内。
国税庁|消費税課税事業者選択届出手続(国内事業者用)
多くの個人事業主やフリーランスが混同しがちなのが、「消費税課税事業者選択届出書」と「適格請求書発行事業者の登録申請書(インボイス登録申請書)」の違いです。これは重要な違いです。
| 項目 | 消費税課税事業者選択届出書 | 適格請求書発行事業者の登録申請書 |
|---|---|---|
| 目的 | 免税事業者が課税事業者になるための届出 | インボイス(適格請求書)を発行するための登録 |
| 提出先 | 所轄の税務署 | 所轄の税務署(国税庁に登録) |
| 効果 | 課税事業者の地位を取得する | インボイス発行事業者として国税庁に登録される |
| 2年縛り | あり(原則2年間は免税に戻れない) | あり(2023年10月1日を含む課税期間を除く) |
| インボイス開始後の免税事業者への必要性 | 2029年9月末まで原則不要(経過措置あり) | インボイスを発行するために必須 |
最も大切なポイントは、2029年9月30日までの経過措置期間中であれば、免税事業者がインボイス発行事業者になるために必要なのは「登録申請書のみ」であって、「課税事業者選択届出書」は原則不要という点です。
つまりこういうことです。登録申請書を提出すれば、その登録日から自動的に課税事業者として扱われる仕組みになっているため、わざわざ課税事業者選択届出書を別途出す必要がないのです。
この点を知らずに両方提出してしまうと、後述する「2割特例」の適用が受けられなくなる可能性があります。特に、インボイス開始前から課税事業者選択届出書を出していた事業者は注意が必要です。
政府広報オンラインによるインボイス制度の公式解説。
インボイス制度の導入と同時に設けられた「2割特例」は、免税事業者からインボイス発行事業者として課税事業者になった方に対し、2023年10月1日から2026年9月30日を含む課税期間について消費税の納税額を「売上税額の20%」に抑えることができる経過措置です。
たとえば、飲食店を営む個人事業主が年間売上800万円(消費税分80万円)の場合、2割特例を使えば納税額は「80万円×20%=16万円」で済みます。原則課税なら最大60万円、簡易課税でも32万円になることを考えると、2割特例はかなりお得な制度です。
しかし、この2割特例が使えないケースがあります。それは、「消費税課税事業者選択届出書を自分の意思で提出して課税事業者になった」場合です。
2割特例の趣旨は「本来は免税事業者だった人が、インボイス制度を機に課税事業者になった場合の負担を和らげること」にあります。したがって、インボイス制度開始前に自発的に届出書を提出して課税事業者になっていた場合は、2割特例の対象外となります。これは痛いですね。
ただし、例外もあります。インボイス制度開始(2023年10月1日)後に初めて課税事業者選択届出書を提出した場合は、2割特例が使えるケースもあると国税庁のQ&Aで示されています。この辺りは判断が複雑なため、税理士への相談が条件です。
国税庁インボイスQ&Aの詳細はこちら。
国税庁|インボイス制度に関するQ&A目次一覧
課税事業者選択届出書を提出した後に訪れる最大の落とし穴が、いわゆる「2年縛り」と「3年縛り」です。基本は2年縛りが原則です。
まず「2年縛り」について整理します。課税事業者選択届出書を提出して課税事業者になった場合、その後2年間は「消費税課税事業者選択不適用届出書」を提出しても免税事業者に戻ることはできません。具体的には、「課税事業者となった課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の末日」まで縛りが続きます。
例えば個人事業主が2024年1月1日から課税事業者を選択した場合、2025年12月31日まで(つまり2025年分の申告まで)の間、免税事業者に戻れません。売上が大幅に減少しても、です。
さらに注意が必要なのが「3年縛り」です。課税事業者選択届出書の提出によって課税事業者となっている期間中に、税抜き価格で100万円以上の「調整対象固定資産」(建物・機械・車両・備品など)を取得した場合、縛りが3年に延長されます。
3年縛りの期間中は、免税事業者への変更だけでなく「簡易課税制度」への切り替えも禁止されます。つまり計算が複雑な原則課税方式を3年間継続しなければなりません。経理負担が大きく増える可能性がある点を念頭に置いてください。
調整対象固定資産と3年縛りの詳しい解説。
国税庁|調整対象固定資産を取得した場合の納税義務の特例(PDF)
では、実際にどのような事業者が課税事業者選択届出書を提出すべきで、どのような事業者は提出を避けたほうがよいのでしょうか。個人事業主やフリーランスの立場から整理します。
まず、提出を積極的に検討すべきケースです。
一方、慎重に判断すべきケースもあります。
これが基本です。とくにBtoC中心の事業者(ハンドメイド販売・一般消費者向けサービスなど)については、インボイスを発行しなくても取引上大きな問題が生じないケースが多いため、安易に届出書を提出することはおすすめできません。
また、一度インボイス登録申請書だけを提出した場合でも、インボイス登録の取り消し(「適格請求書発行事業者の登録の取り消しを求める旨の届出書」の提出)は可能です。ただし取り消し後も2年縛りが残る場合があるため、タイミングの見極めが重要です。
課税事業者になるかどうかを正確に判断するには、現在の売上規模・取引先の属性・今後の事業計画の3軸で考えることが必要です。判断が難しい場合には、税務署の無料相談や税理士への相談を一度してみることを勧めます。
弥生株式会社による個人事業主向けの詳細解説。
弥生|消費税課税事業者選択届出書とは?提出期限やインボイス制度との関係を解説