過大支払利子税制と調整所得金額の仕組みと注意点

過大支払利子税制と調整所得金額の仕組みと注意点

過大支払利子税制と調整所得金額の計算・損金不算入を徹底解説

利子を多く払うほど節税できると思っていたら、調整所得の20%超は全額損金に認められません。


この記事の3つのポイント
📌
調整所得金額の20%が損金算入の上限

対象純支払利子等の額が調整所得金額の20%を超えると、その超過分は損金に算入できません。2019年改正前は50%が基準でした。

⚠️
調整所得金額には受取配当が含まれない

2019年改正後、受取配当等の益金不算入額は調整所得金額の計算から除外されます。持株会社など配当収入に依存する法人は限度額が大幅に縮小するため要注意です。

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超過利子額は最長10年間繰り越せる

損金不算入となった超過利子額は翌事業年度以降に繰り越せます。令和4年4月〜令和7年3月開始事業年度分は繰越期間が10年に延長されています。


過大支払利子税制とは何か:制度の目的と調整所得金額の位置づけ


過大支払利子税制とは、企業が支払う利子の一定額を超える部分について、税務上の損金(経費)として認めない制度です。正式には「租税特別措置法第66条の5の2」に規定されており、2013年(平成25年)4月1日以後に開始する事業年度から適用されています。


この制度が生まれた背景には、グローバル企業による利益移転の問題があります。たとえば、税率の高い国に置いた子会社Aが第三者(外国の金融機関など)から多額の借入を行い、その資金を税率の低い国のグループ企業Bに出資する、という構造を考えてみてください。子会社Aは支払利子を損金算入して法人税負担を圧縮でき、同時に企業Bでは低税率の恩恵を受けられます。グループ全体として、高税率国から低税率国へ課税ベースを流出させる構造が成立してしまうのです。


つまり租税回避の防止が主目的です。


この制度の判定の核心に位置するのが「調整所得金額」という概念です。調整所得金額は、単純な課税所得とは異なり、対象純支払利子等の額・減価償却費・貸倒損失・匿名組合契約等に係る分配金を課税所得に加算し、一定の控除を行うことで算出します。2019年度の税制改正以降は、受取配当等の益金不算入額および外国子会社配当等の益金不算入額は、この調整所得金額の計算に含めない取り扱いになっています。


調整所得金額の計算式をまとめると、次のようになります。










加算項目 内容
課税所得 基本となる当期の所得金額
対象純支払利子等の額 対象支払利子等から受取利子等を差し引いた額
減価償却費 損金算入された減価償却費
貸倒損失 損金算入された貸倒損失
匿名組合分配金 損金算入された匿名組合契約等の分配金


なお、調整所得金額がマイナスになる場合は、その事業年度の調整所得金額はゼロとして取り扱います。赤字の事業年度であれば損金算入限度額もゼロになるため、理論上はすべての対象純支払利子等が損金不算入になり得ます。これは見落とされがちな重要なポイントです。


財務省による制度の公式な解説は、以下のリンクで確認できます。調整所得金額の定義や制度全体の構造を正確に把握したい場合は参照することをおすすめします。


財務省「過大支払利子税制の概要」— 制度の法的根拠・仕組み・計算の流れが図解付きで整理されています。


https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/335.htm


過大支払利子税制における調整所得金額の計算手順と具体例

制度の理解には、実際の数字を使って計算の流れを追うのが最も効果的です。ここでは具体的な数値例を使って、損金不算入額がどのように決まるかを見ていきます。


まず、「対象純支払利子等の額」の算出から始まります。これは「対象支払利子等の合計額」から「控除対象受取利子等の合計額」を差し引いた残額です。受け取った側が日本の課税所得に含める利子(国内金融機関への利子など)は、この計算から除かれます。


次に調整所得金額を算出します。以下の数値例で確認しましょう。











項目 金額
課税所得 5億円
対象純支払利子等の額 2億円
減価償却費 1億円
調整所得金額(合計) 8億円
損金算入限度額(20%) 1億6,000万円
損金不算入額(超過部分) 4,000万円


この例では、対象純支払利子等の額2億円のうち、損金算入限度額1億6,000万円を超えた4,000万円が、その事業年度の損金に算入できない金額となります。東京ドーム建設費に例えるなら、総工費550億円規模の資金調達を行う大型プロジェクトでは、この4,000万円クラスの損金不算入は十分に起こりえます。


ここで注意すべき点があります。損金算入限度額が縮小するケースとして、持会社のような「子会社からの配当収入を主な収益源とする法人」の場合、受取配当等の益金不算入額が調整所得金額に含められないため、調整所得金額そのものが想定より小さくなりやすいです。


これは使えそうな知識ですね。


実際の会社ではどのような影響が出るかというと、たとえば外国子会社から年間10億円の配当を受け取り、その95%相当額が益金不算入となっている持株会社を考えてください。2019年改正前であれば、この9億5,000万円が調整所得に含まれて損金算入限度額も大きく確保できました。しかし改正後は、それが除外されるため限度額が縮小し、結果として損金に算入できない利子額が増加します。このような計算の変化は、財務モデルを設計する段階で必ず織り込んでおく必要があります。


辻・本郷税理士法人による解説では、調整所得金額の構成項目や適用除外要件が実務目線で整理されています。


https://www.ht-tax.or.jp/topics/kadaishiharai-rishi/


過大支払利子税制の適用除外基準:2,000万円基準とグループ合算基準

過大支払利子税制は、すべての法人に無条件で適用されるわけではありません。一定の条件を満たす法人については適用が免除されます。適用除外には大きく2つのルートがあります。


1つ目は「少額基準」です。その事業年度における対象純支払利子等の額が2,000万円以下の場合、制度の適用はありません。中小規模の企業にとっては、現実的にこの基準で除外されるケースも多いです。2,000万円という数字は、大まかに言えば借入金利1%の場合、残高20億円の借入に相当する利子水準です。


2つ目は「グループ単位での合算基準」です。内国法人と持株割合50%超の特定支配関係にある他の内国法人の全体合計でみた「対象純支払利子等の額」から「対象純受取利子等の額」を差し引いた金額が、調整所得金額の合計額の20%以下であれば、制度の適用が免除されます。単体では基準を超えていても、グループ全体での合算計算によって適用除外になる可能性があるということです。


グループ全体での管理が条件です。


ここで絶対に見落としてはいけない重要な手続きがあります。適用除外の要件を満たしていても、申告書に「別表17(2)」等を添付しなければ、除外の扱いは認められません。法令上は「適用しない」と規定されているため、納税者が任意に選択できる「できる規定」とは異なり、要件を満たした場合は自動的に除外になると思われがちです。しかし別表の添付が欠けていると、たとえ除外条件を満たしていても税務上の処理が認められないリスクがあります。



  • ✅ 対象純支払利子等の額が2,000万円以下 → 少額基準で適用除外

  • ✅ グループ合算の純支払利子等が調整所得合計の20%以下 → グループ基準で適用除外

  • ⚠️ いずれの場合も「別表17(2)」等の申告書への添付が必須


別表の添付は必須です。


国税庁が公表している令和元年度の法人税関係法令改正の概要では、適用除外の具体的な計算方法や記載例が示されています。申告実務の参考として活用できます。


国税庁「令和元年度 法人税関係法令の改正の概要(国際課税関連)」— 改正内容の詳細と適用時の記載手順が確認できます。


https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hojin/kaisei_gaiyo2019/01.htm


2019年改正で調整所得金額の基準は50%から20%に厳格化:BEPS対応の実態

制度発足当初(2013年〜)は、損金算入限度額の基準となる割合は「調整所得金額の50%」でした。しかし2019年度(令和元年度)の税制改正により、この割合は大幅に引き下げられ、現在は「調整所得金額の20%」となっています。


厳しいところですね。


この変更は、OECD(経済協力開発機構)が推進するBEPS(Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食・利益移転)プロジェクトのAction 4に基づくものです。BEPSでは、利子の損金算入制限の基準として調整所得(EBITDA相当)の10〜30%の範囲が推奨されており、日本はこれを受けて50%から20%へと引き下げました。


割合が50%から20%に変わると実際にどれほど影響があるのか、先の数値例で比較してみましょう。









項目 2019年改正前(50%) 2019年改正後(20%)
調整所得金額 8億円 8億円
損金算入限度額 4億円 1億6,000万円
対象純支払利子等 2億円 2億円
損金不算入額 0円(2億円 < 4億円) 4,000万円


改正前であれば損金不算入額がゼロだったケースでも、改正後は4,000万円の損金不算入が発生するという計算になります。同じ利子を支払っているにもかかわらず、制度の変更だけで税負担が増加するわけです。この変化は決して小さくありません。


さらに改正では、対象となる支払利子の範囲も拡大されました。改正前は「関連者(グループ会社等)への支払利子」が主な対象でしたが、改正後は「第三者(外国金融機関等)への支払利子」も含まれるようになりました。外部調達によって構築したファイナンス構造であっても、本制度の対象になりえます。


また通貨スワップを活用している法人にも注意が必要です。円と外貨の間で大きな金利差がある局面では、通貨スワップの支払金額が通常の為替取引より大きくなることがあります。この金額は「利子に準ずる支払」として過大支払利子税制の対象に含まれる可能性があるため、スワップを多用する企業は期中から想定計算を行っておくことが大切です。


PwC Japanによる用語解説と改正内容の整理は、実務担当者向けに制度の全体像を把握するのに適しています。


https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/glossary/kadaishiharai.html


超過利子額の繰越と過少資本税制との関係:知らないと損する実務ポイント

損金不算入となった超過利子額は、永久に損金算入の機会が失われるわけではありません。翌事業年度以降に繰り越して、一定の限度額の範囲内で損金算入できる仕組みが設けられています。これが「超過利子額の繰越損金算入」です。


繰越の仕組みは次のように機能します。翌事業年度以降に「対象純支払利子等の額」が「調整所得金額の20%」を下回る余裕が生じた場合、その余裕の範囲内で繰り越された超過利子額を損金算入できます。つまり将来の所得が回復した事業年度に、過去に損金算入できなかった利子を取り戻せる可能性があるということです。


繰越期間は原則7年間です。ただし特例として、令和4年4月1日から令和7年3月31日までの間に開始した事業年度において損金不算入とされた超過利子額については、繰越期間が10年に延長されています。デロイトトーマツの資料でも、この特例が「令和6年度税制改正大綱」において確認されています。


繰越管理の適切な実施は、将来の税負担軽減に直結します。対象事業年度がどの繰越期間に属するかを正確に把握しておくことが重要です。


次に、過少資本税制との関係についても整理しておきましょう。過少資本税制とは、法人が自己資本に比して過大な借入(関連者からの借入)を行っている場合に、一定の利子を損金不算入とする制度です。過大支払利子税制と同様に利子の損金算入を制限しますが、判断基準が異なります。



  • 📌 過少資本税制:借入金と自己資本の比率(負債対資本比率)が3:1を超えた場合に適用

  • 📌 過大支払利子税制:対象純支払利子等が調整所得金額の20%を超えた場合に適用


両制度が同時に適用になる場合、それぞれの計算で出た損金不算入額のうち金額の大きいほうのみが適用されます。双方の合計が損金不算入になるわけではないので、この点は正確に理解しておきましょう。


また、過大支払利子税制の対象となった利子が「タックス・ヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)」の対象にも重なる場合、二重課税を防ぐ調整が行われます。重複する部分については、タックス・ヘイブン対策税制による合算対象金額と一定算式による調整所得対象金額のうち少ない方が適用されます。


国際税務の観点で制度全体を把握したい方には、公認会計士・税理士が執筆した以下の解説が参考になります。損金不算入額の算定手順から留意事項まで網羅されています。


公認会計士・税理士による実務解説「過大支払利子税制とは?」— 損金不算入額の算出ステップと過少資本税制との比較が詳しく説明されています。




【法律・政省令並記】逐条解説 過大支払利子税制